十四匹目 脱兎の如く
エピローグですよ。あれ?章の終わりのとこってそれでいいんですよね?まあ、間違ってたら逆だ阿保って思っててくださあ。次は二章だ!
イクゾー!
「どうしようかな囲まれた」
「ええ⁉︎」
「また、こいよ」だとか、「ありがとうございました」だとか「また、沢山遊ぼうね」だとか。色々と言われたが果たして次に来ることはあるのだろうかと思う。テッド達に礼を言い村を出ようとしたところでちらほらと面付きが見えてきた。
「蟹さんに頼むのは?」
「村の人間まで動けなくなったら確実に面倒なことになる」
「他になんかいないんですか?こう…籠からテレッテレー!みたいな!」
「まあ、あるにはあるが…」
「え?でしたら使ってくださいよ!そして、脱兎の如く逃げましょう!」
「勿体無いんだよな…」
期待の眼差しでこちらを見てくるがどうにもならないことは事実だ。村に戻ろうかと思うが、もう背後にも騎士団の面々はいる。
「そんなこと言わないでください。それに一泊しないでそのまま旅に出ればこんなことにならなかったのですよ!」
「泣きながら三、四回お代わりしてた癖して何言ってんだお前」
「…ごめんなさい。だって!まともなご飯食べたの6年ぶりですよ!お屋敷で貰ったのとは別に!」
「満腹と言ってチコと一緒に寝たのはどこのどいつだ」
「うっ…あの…怒ってますか」
「そう見えるか?」
実際、顔の表情などピクリとも動かなく声音も変わらない。これが長年付き合いがあればの話だが、会って数日である。よくわからない。
「そも、アベンさん感情あります?」
「あるよ。顔に出ないだけで怒ったり悲しんだりしてる」
「楽しいとかないんですか⁉︎左右からほっぺ持って…揉めば柔らかく…うわ!なにこれ⁉︎柔らかいです!」
「ひゃめろ。引っふぁるな」
「痛い!叩かないでください」
「やめろと言われてやめないお前が悪い」
馬鹿やってるうちに逃げ場もなくなって来た。やはり勿体無いが使うしかない
だんだんと自分達を中心に円が狭まって来ている。本当にどうしようか。
「正面突破はどうでしょうか?」
「スライムは強いがな。俺自体は街でゴロツキに絡まれれば余裕で負ける」
「よく今まで生きてこれましたね…」
「魔物相手なら余裕なんだがな。人間相手なら殺すか俺が殺されるか二択だ。」
「本当に打つ手なしじゃないですか!」
「確保開始だ!」
声が響き渡る。どうやら本格的にやばいらしい。勿体無いが使うしかないようだ。
「赤と青どっちがいい?」
「え?赤で」
「よしきた」
どこから取り出したのかゴーグルとマスク。いつの間にか着用していたアベンが地面になにかを叩きつけると真っ赤な煙がもうもうと辺りに立ち込め始める。
「あぁぁ!!目がぁ!痛い!」
「なんでマスクとゴーグル付けてないんだよ…」
「言ってくださいよ!赤これで青って一体何だったんですか⁉︎」
「トキシンヤモリの毒」
「神経毒じゃないですか‼︎というかマスク!マスクくだ痛い痛い痛いなんですかこれ!」
「唐辛子煙幕だ。連中近づいて来れないから森に逃げ込むぞ」
「あっ!置いてかないでください!」
「逃亡した2人は森に逃げ込んだ模様です。どうされますか?」
「追わなくて結構です。どうせまた直ぐに会いますからね」
「了解しました!」
ピエトロがため息をつく。あの男は薬の知識と逃げに関しては右に出る者がいないほどだ。
今回はまだマシな方である。下手したら殺した皮を被ってでも逃走する様な奴だ。下手に被害が出る前に引いた方が身の為だ。
「陛下に愚痴を言われるのは私ですから。ささ、皆さん帰りますよ」
なんて楽しいのだろうか。今まで檻の中で知らない人間に嬲られてきた。何度も舌を噛み切った。食事用に出たフォークを自身の胸に刺した。
何度も何度も。その度に妙に腕のいい魔道士が自分を助け、また元の生活に戻る。ぼろぼろになり擦り切れた本を数冊いつも読んでいた。
廃棄処分になる前日。男に買われた。やっと楽に慣れると思ったのに。
目障りな連中共がこちらを見ている。見てくれには多少自信があった。
何度も同じ檻に入れらた男共の慰み者にされそうになった。
いつか自身は一等奴隷だって思い始めた。辛くても死ねない。楽になれない。死にかけたら生き返らせてくれる。私はきっと特別なんだって。心の中ではわかっていても、拠り所が欲しかった。
暗い牢屋の中で何度も読んだ本の内容を思い出して何百回目だろうか。地下牢への入り口の鍵が開き、1人の男が入ってきた。
その男と出会ってからは色々なことが即座に起きてとてもじゃないが理解が追いつかなかった。
でも、この人は歯が折れるまで私を殴らない。奴隷商人に殴られた腹癒せに私の腕を折らない。暇だからと言って爪を剥がさない。主人が馬鹿で疲れたと鞭を打たない。
優しくて、冷酷で、私と同じ捨てられた人。
この人との旅がとても楽しみだ。