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十二匹目 ピエトロの苦難

どうも、どうもどうも。握州でーす。

いやあの…予定は狂うと言うかなんというか…はぃぃ。戦闘パート長引きそうです。期待してないからさっさと出せって感じで生暖かく見守ってくださると元気になるのでゆっくり見ていってくださいね!ではでは。あ、あとちゃんともう一文今月中に投稿します。頑張ります。



「ああ、ああ。いいじゃないですか!」


「キヒヒヒィ。そりゃあどうも」

アーサーと同タイプの戦い方だと思ったが違うらしい。ロイスと名乗る少年は、身の丈の倍はある大剣を軽々と持ち上げるとトリッキーな動きでこちらへと攻撃を仕掛けてくる。単純な肉体強化の魔法使いなのだろう。それが逆に読み辛い動きへ変わっていく。

「ほらほらほらぁ!次行くぜ道化野郎!」


「ッ⁉︎的確に首を刎ね飛ばしにきますか…中々ですよ、貴方。よかったら騎士団(うち)に入りません?」


「俺を殺せたら入ってやるよ!」

獰猛にライスが笑う。

「じゃあ、剥製にでもして飾っておきますかね!」

大剣の柄で顎を砕こうと狙うのを躱し、ブロードソードで喉を貫こうとするのを躱される。一進一退のような戦闘はピエトロを最高に高揚させる。

ゾクゾクと背筋を登る快感が心地よい。崖の上で綱渡りをするが如く、一歩間違えれば即死。運良く致命傷。こんな戦いを求めていた。もっと!もっともっともっと!楽しみたい!殺しあいたい!

「固有技能なんざ使わずにでもこの腕!王国最強は伊達じゃねえなぁ!」


「元ですよ。今は私以上に強い者もいます」


「はぁ?マジかよ。タマンねぇなぁ!こんだけ楽しいのに更に上がいんのかよ!次はそいつに決定だな」


「おや?二番目の実力。なんて肩書きで相手を舐めるものじゃないですよ?」

しかし、戦いづらい。倒れた部下を庇い、あるいは後ろへ後退させながら戦う。ロイスはそれが分かっているのかあるいは実力を見計らっているのか、部下が近くにいる時は剣戟を緩めてくる。

「なあ、終わったか?」


「早く負傷した部下を運び終わるには貴方が攻撃して来なければいいだけじゃないですか」


「そりゃあ、無理だなぁ!楽しすぎるからなぁ!」


「とりあえずは。彼女で終わりなので」

倒れていた部下を抱えながら後方へ下がる。少し避けるのが遅かったのか頰に薄っすらと血が滲む。

「じゃあ、本気でいいか?なあ、いいよなぁ?」


「ええ、もちろん」


「ヒャハァァア!」

ブロードソードを傾けながらなんとか攻撃受け流す。固有技能は使えない。部下を巻き込んでしまう。どうにか使えないかと、そんなことを考えてる暇はなく受け流され地面に叩きつけられた大剣を軸に回し蹴りが飛んでくる。剣術も体術も中々に鋭い。冗談ではなく部下としては欲しいところだ。

「まずはぁ、一発だァ!」


「ぐっ!」


「こんなんでえよぉ…へばってんじゃあねえぞォ!」


「貴方こそ。たかが一発で…」

一歩下がり床を蹴り殴りかかる。しかし拳は簡単に避けられてしまう。それは想定内だ。足に力を込め思い切り裏拳を叩き込む。無理な体勢からの一撃だからか体の節々が悲鳴をあげる。

「っでぇ!そうこなくちゃなぁ!!」


「隙ありです!」


「っ!危ねえなぁ…真剣勝負の邪魔はしちゃあいけねえぜ?」

部下の放った魔法を軽く避けながらこちらへ攻撃を仕掛けてくる。それを見ていたせいか1テンポ遅れてしまい、受け身を取ることなく吹き飛ばされてしまう。

「っ…戦えるものは負傷者の救護と盗賊の相手を!援護は無用。むしろかえって邪魔です!」


「も、申し訳ありません!副団長!」


「休憩なんざねえんだよォ!」


「くっ…ウォォォ…りゃァァァァ!!!はぁ、はぁ!」

鼻先まで降ろされた大剣を気合の掛け声とともに弾く。剣が軽くなっているわけではなくロイスの身体能力が上がっているため剣自体の重さは変わらない。

「なあ、なあなあなあ!固有技能は使わねえのかぁ?使えば俺なんざぁ、秒で殺せんだろ?なあ?血濡れのピエロ!それとも仮面は借りもんかぁ?」


「……」


「はぁ…本気でやれよ?本気でてめえと殺りあう。わかるか?こっちは脳漿撒き散らされようが、全身から血が抜けようが殺しあう。そうやって学んだ。そうやって生きてきた。つまんねぇ意地で使わねえなら…」

ちらりと後方を見る。

「やる気出るまで全員ぶっ殺してやるよ!」


「⁉︎や、やめ!」


「まぁずぅはぁぁ…ヒトリィィ!!」

床を蹴り剣を後方から振りかぶる。止めようにも既に攻撃体制のロイスに追いつくことは出来ない。目の奥にズクリと重い痛みが生まれる。集中しろ。痛みに…

鮮血が飛び散る。

「ひひひひ。そう、それだよ!それそれ!」


「ふぅ…ふぅ…」

ロイスの右肩から腕にかけてびっしりと不恰好な赤い杭や釘、小剣などが飛び出している。

「いい目ん玉じゃねえか。魔眼とは違うんだろ?視界に入れた人間の血液を操る。そりゃあ視界の中に味方がいりゃ使えねえ能力だよなぁ?傀儡の流血(ブラッドマリオネス)だっけか?かっこいい名前じゃねえか。まあァ残念だったけどなぁぁ?」


「ふ…く…だん…ちょぉ…」


「あんれぇ??俺が殺さなくてもてめえガァ?殺してんじゃねえか!!ひゃひゃひゃひゃ!なあ?ほら、見ろよこいつをよぉ?俺は右腕だけ、コイツァ…そんなに恨んでたのか?全身ズタボロじゃねえかよ?」


「ッ!…だから使いたくないんですよ」


「おいおいおいおいおーい!マァだ、残ってんゼェ?あと十数名。んで、戦ってる数人。どうしようかねぇ?」


「ふむ…血濡れと言えど気を抜けば簡単に殺せるのか…いやはや。散り際の桜ほど綺麗なものはないがな」

完全に気を取られていた…なによりも大切な部下を己の手でそのことに頭がいっぱいになり…背後からの一撃。自身の胸から手が出てきていた。見覚えのあるそれは…心臓だった。

"ブチュン"

熟れたトマトを潰したような…しかし辺りに撒き散らされた肉片はより鮮やかに。そこで初めて、心臓を握り潰された。そう理解した。

「ふむ…呆気ない。いや、実に呆気ないものだ…」


「てんめぇ!ヒイラギィ!俺の獲物だろうガァよお!東洋じゃあ一対一で殺りあうんじゃねえのかよ⁉︎邪魔しやがって」


「お前がいつまでも遊んでいるからだろうが。余計な手間をかけさせるな。あの、翁もどこぞに行ったまま戻らない。まったく…どいつもこいつも」


「ボケて徘徊癖でも付いたんじゃねえのか?案外屋敷の中歩き回ってるかもなぁ」


「己が復讐にしか興味のない団長に徘徊癖の老人、雑魚も倒せない馬鹿に裏切った女。私の周りにはどうしてこう、無能ばかり集まるのだ?」


「あ?テンメェよ、不意打ちで勝ったからってなんダァ?俺より強くなったつもりでいんのかよ?」


「弱い犬ほどよく吠えると言うな。それに私は私の仕事を済ませたのだ。お前とは違う」

胸倉を掴まれながらも平然とそう言い放つ。かなり身長差がある為かロイスがぶら下がっているようにも見れる。ヒイラギはそれを軽く払うと倒れている騎士団の元へと向かっていく。

「おい、ヒイラギ?なにしてんだてめえ?」


「異様なほど腹が減ってな。いやはや、あの薬は素晴らしいが異常に腹が空く。あの者には是非そこを直して次は調合してもらいたいものだ」


「ひっ!や、やめろ!離せ。副団長を殺しやがって!」


「ふむ…カニバリズムに目覚めるとは、な。美味そうではないか。では、いただこうか」


「…はん、なーにが副作用はありませんだ。化け物になるのは副作用じゃねえかよ?あのイカレ野郎が」

目の前で持ち上げた騎士団の1人を地面に叩きつけると腹を裂きそこに顔を突っ込み内臓を喰らっている。気付くとヒイラギの体のあちこちが肥大化していくのが目に見えてわかる。目の前の惨劇をただ見ることしか出来ない騎士団はピエトロが死んだ絶望からか、或いは目の前の理解出来ない恐怖か…それともどちらもか。もう戦うことは出来ないだろう。




『ああ、ああ。力を得たなら、それ相応の代償が必要だろ?』

その少年は感情もなく、声に張りもなく。まるで寝起きに難しい話でもされてるような。そんな気分で話しかけてくる。しかし、少年の目の前の惨劇は決して…そのような気分にはさせるものではない。それは分かっていても気の抜けるような、間の抜けたような。そんな声で記憶の中の少年は語りかけてくる。

『お前の力は壊す力。守る力じゃねえ。そこの骨野郎と違ってな?お前は戦闘において死ぬことはない。仲間の血を啜り、己が糧とし…まあ、かっこうつけないで言えば…あれだよ…あれ…お前は仲間の血で回復する化け物ってわけだ。な?ピエトロ=アウナレス?』

それが自分が覚醒者などと呼ばれるようになった原因であり初めてソレが人間になったのを見た瞬間だったことを覚えている。


………



「美味い美味い美味いうままままま…いひひひひひ!」


「あ…うわぁぁぁ!!!」

ブロードソードを強く握りしめヒイラギの頭部に突き刺す。国から支給されたブロードソードには『刺突』と呼ばれる魔法が付与されている。そのお陰か簡単にヒイラギの頭部を貫通する。そう言えば領主にも物に魔法を付与する固有技能だがなんだか持っていて団長様があのよくわからない武器に付与していたのをふと思い出した。痛みを感じないのか?或いはそんな事を気にしていないのか。ヒイラギは気にも止めずに騎士団の1人を貪り喰らっている。

「おい、てめえら無駄なことしてねえでさっさと逃げろよ。見りゃわかんだろ。クジラの頭に爪楊枝刺してるようなもんだ。痛みなんざ感じてねえだろうよ」


「黙れ!盗賊風情が!お前らのような奴等がいるから…くそっくそ!急所を狙え!生物ならいずれ弱点をつける!」


「王国の英才教育受けてる坊ちゃんどもにゃ難しい話なんかね。まあ、どうでもいいが」


「足りない足りないぃい!もっともっと!」


「おい、ヒイラギィ…クール気取ってたわりにゃあ…随分じゃねえかよ」


「次ははは…ロイスぅ!お前」


「っ⁉︎」

咄嗟に大剣でガードしたのは今までの経験からか…それとも本能的に命の危険を感じたのか。予備動作のない、本気の一撃は大剣を半ばほどで破壊し拳は勢いを落とさずに腹部へ突き刺さる。自分から見れば大木のようなその腕が薬のせいか、より肥大化していた。そして次の瞬間には壁に背中を強打していた。

「ごほぉっ…うぷっ…おぇぇぇ…」


「いい、とても素晴らしい…苦痛に歪む顔、苦悶の喘ぎ声。ああ、最高ううううだ!」


「ゴホッ…口の中酢っぺぇ…よく…考えてみりゃ…てめえも俺らと一緒の…底辺の屑野郎だったな…」


「否、否否否否!私はチガう!」


「ッ!!!!????」

地面に膝をついていたところを顔面に蹴りをくらい、更には自分の腕に拳をめり込ませてくる地面と挟まれているためか簡単に腕の骨は折れる。しかしそれだけではなく、ヒイラギの拳は床にどんどん沈み込む。その下には床だけではなく自分の腕がある。折れてもなお痛みが増していき、熱した金属の中に手を突っ込んでいるような気分にも思えてくる。

「私はいずれ、霊櫻の国にににににの王となる!貴様らのようなゴミと一緒にぃぃずるなあ!」


「…ひひ!涎と鼻水撒き散らす王とか…傑作だな?」


「ええ、まったくその通りですね」

声の主は聞き覚えがあった。いや、先程まで殺しあっていた。しかし死んだはずだった。顔だけそちらへ向けると胸の穴になにか細い糸のようなものが何本をありその穴を塞いでいる男がいた先ほどヒイラギが捕食した二人の騎士の血がピエトロの元へ集まっていた。

「なぜ生きてててる?」


「名の通り血を操る能力ですよ。心臓を潰されようが生き長らえてました。でも…自身の傷を癒すには仲間の血でしか治せない…ロプター…エメル…はぁ…本当に私は騎士団副団長失格ですね」


「どこもかしこも化け物だらけじゃあねえかぁよ。人間食う化け物の次はぁ?心臓潰されても生き返る奴ときた?」


「ええ、ええ。言いたいことはわかりますよ?ですが、あなた方がよくわかっているじゃないですか?血濡れのピエロは戦場で血を啜り蘇るって?」

口の端を吊り上げる。道化師の仮面。仲間と自分、そして敵の返り血。まさしくそこには血濡れのピエロが佇んでいた。やがて胸の穴が塞がると持っていたブロードソードに血が集まっていく。その血は意思があるかのように形作りやがて大きな鎌に変化する。その大鎌は…所々に人の手や顔のようなものが浮かび上がりピエトロの手にも何本かの手が絡み付いている。

「さあ、行きますよ。同類?」


「笑止。一度負けた身でありながららら戦うか!弱き者は己が力量も知らないとみれる」


「はあ?不意打ちで勝ったんだろうが!邪魔だ肉塊!俺が殺るんだよ。てめえじゃあ役不足だロゥガァよ!!」


「ふん。愚鈍な者共が」

ヒイラギがその巨体に似つかない速度でピエトロに近づき拳を突き出す。巨木のようなその豪腕に当たれば確実にピエトロは死ぬだろう。ピエトロはそれを簡単に避けると一閃…

「…?痛みがない。なんだ…はは…ふははは!見掛け倒ししししか!」


「ッ‼︎そんな、効かないなんて⁉︎貴方、何者ですか‼︎」


「ふっ!はは、はははははは!ヒイラギ=ヤカタ。霊櫻の国の王となるるるる男だ!血濡れのピエロ!貴様の噂はどうやらァまやかしらしいなぁ?ここまで弱いとはな。笑止!笑止笑止笑止笑止ぃぃぃぃぃ」


「くっ!私の攻撃が通用しないなんて!一体どうすれば!」

そう言いながらも攻撃を避けつつ縦に横に斬りつけていく。しかし傷は一切付かなく、果たして攻撃と言えるのかとも思う。ヒイラギもだんだんイラついてきたらしく攻撃が単調になっていく。

「痛くもなけりゃ痒くもねえんだよ!おい!ざけてんじゃあねえぞ!」


「くっ!」

遂に一発。ピエトロはなんとかガードしたがその勢いのまま吹き飛ばされていく。


「副団長っ!!」


「おい!殺すなよ!俺がまだ殺りアってねえんだ!聞いてんのか肉塊!」


「囀るな。一層弱く見えるるるぞ?私の如く堂々たる態度で見ていろ。お前の偏見で語る東洋の戦い方というううやつを、な」


「あー、あー。回復魔法かけるほどでもないので大丈夫ですよ。それにもう終わりましたから」

吹き飛ばされてひっくり返っていた割には平気そうにピエトロがこちらへ戻ってくる。駆け寄ってきた騎士団の部下達に大丈夫ですよと手を振るほど余裕をかまし、ヒイラギの怒りに油を注いでいく。なぜ?こいつの攻撃は効かない。なのにこれほど余裕なのか。騎士団の面々も安堵したように残っていた盗賊達に攻撃を仕掛けていく。

「あ、昔話でもしましょうか?」


「血濡れぇ?お前吹っ飛ばされて頭でも打ったのかァ?」


「ご安心を。元より、このような考え方。行動しか出来ないので。あ、でも最近は嘘が上手くなりましてね?」


「この状況で呑気に話せるとは…ふははははは!私を舐めるのもいいかげんにしろ!どのような能力かと思えば…くだらんぞ!実にくだらん!南蛮の蛮族風情ががが!」


「はぁ…貴方まさか『私の攻撃が通用しないなんてッ⁉︎』って信じてたんですか?そんなの嘘に決まってるじゃないですか。仮にも王になる者ならもう少しあ、た、まを使ったらどうです?それともその無駄に肥大化した中身はお飾りかなにかで?」


「っ!!」


「さて、昔。私の部下にやれ、技名を付けようだ。必殺技を作ろうがと騒がしい方がいましてねぇ」


「話に付き合っている暇はないぃ!死ぬがいい!」

ピエトロがなんだか悲壮感のある感じに話し始めるのを無視してヒイラギが攻撃を仕掛ける。先程同様に簡単にその攻撃を避けつつも懐かしいですねぇなどと言っている。

「ああ、それで彼はまあ、やる事なす事技名叫んだりと…はあ、あの時…私がもっと上手く固有技能を扱えていれば…」


「オオォォォォ!避けるなななァァァァ!!」


「まあ、そんな彼の言葉の通りに…こうやって自分なりにかっこいいのかなと思うような行動しながら説明口調にやってるわけですよ。最後の言葉通りに…正直今年で28なんで恥ずかしいのですがね。部下の意見は尊重するものですよ」


「はぁっ…はぁっ…」


「『死歿の大鎌』だそうですよ。まあ、俗に言う。貴方はもう死んでいると言うやつですね」


「捕まえたぁ!ちょこまかととと動き回るな、死ねェェ!」

ガシリと腕を掴まれる。二度と離すまいと腕が折れそうなほど強く握りながら拳を後ろへ。そして思い切り顔面に向かい殴りかかる。心臓を潰して死なないなら脳を。そう考えての行動なのだろう

「血濡れェ!」


「死者は生者に触れて初めて自身の死を理解するのですよ」

パズルのピースが抜け落ちるかのように…ヒイラギの体は崩れていく。いや、斬り崩されていくというのが正解か。ピエトロの大鎌の辿った軌跡をなぞるように段々と体の造形が崩れていく。

「っ!!…!」

助けを乞おうとしたのか、はたまた呪詛の言葉でも投げ掛けようとしたのか。頭部も切られていたらしくその口が再び言葉を紡ぐことなく肉塊の山が出来上がった。

「ヒュウ…やべえ!やばすぎんダロォ!なんだそりゃあ!半端なさすぎんだろ!一発食らえば死ぬの確定とか…ゾクゾクするじゃねえか!」

剣を折れていない方の手に持ち思い切り地面を蹴り斬りかかろうとした。ヒイラギが死んだら次は自分が…それよりも早く風切り音がした。同時に痛みはなくとも異物が首を通り抜けたような感覚がする。

「…先ほどのやり取りを見ていたならわかっていますよね?」


「…おいおいおいオイィィィ!ツゥまんねえだろうが!てめえが触れりゃ終わりじゃねえかよ!俺がやりてえのはクソゲーじゃねえ!サシのぶっ殺しあいなんダヨ!!」


「ええ、知ってますよ。さて、これで貴方は死にました。さあ、騎士団に入ってもらいましょうか?」


「…はぁ?てめえ、マジであんなこと言ってたのかよ…頭沸いてんじゃねえのか?」


「副団長!すみません。こちらはあまり長く持ちそうにありません」


「わかりました。すぐに行きますから、もう少しだけ持ちこたえてください。さあ、なるべく早くお答えしていただけると有り難いのですが?」


「あぁぁぁぁ…萎えた。てめえが殺せなくなるのは嫌だがこんなとこで死にたかねえ」


「では、契約成立ですね」

斬られた辺りから極細の赤い糸の様な物が出てきてロイスの首を縫い付ける。命令聞かなきゃ解いて死ぬってことか。

持っていた大剣を今、まさに殺されそうになっていた部下の前に投げる。磔になった盗賊が薬の効果なのかもがいている。

「さっさと殺す。部下に死なれたくねぇんだろ?」


「物分りが良くて助かります。ああ、演習などでは私や他の者がお相手できるの…」


「よしきた、ここから先は誰も殺さずに助けてやるゼェ」

その口上とともに磔になった大剣を引き抜きながら一人、また一人と盗賊を屠る。片腕が折れていようとものともせずにどんどん盗賊たちの数が減っていく。

「…はぁ。これで多少は戦力が上がりますかね。彼らを守る為です。手段など選んでられません…」


「死ね!血濡…ぐあッ!」


「皆さんもより強くなろうと…してくれますかね。まあ、これで『騎士団はピエトロ=アウナレスの補血要員』なんて言われなくなるといいのですが…さて、アーサー君になんと言いましょうかね」


「悪いなァ!てめえらよりあっちの方が俺にとっていい条件なんダワァ。悪く思わないでくれよな?」


「この、裏切りも…グァァァ!!」


「あぁー。毎日死ぬ寸前まで殺りあえるんだ。金で雇われたといえどクッソつまんねえ話を聞かされるより最高にいいじゃあネェか!」


「彼に続け!うぉぉぉぉ!!!」

騎士団の士気も上がっている。それに気圧されて盗賊達も逃げ出したり、剣を落としている。

ここでの戦闘の勝ちは確定だろう。だが、一つだけ疑問点がある…

「ロイス…でしたっけ?何故こんな、大ごとになるようにしたのですか?奇襲なりなんなりとあったでしょうに」


「んん?ああ、ダンチョーサマの個人的な復讐だとよ。集まってきた他の連中を騎士団と当たられせて自分は嫁さん殺した野郎と対峙するらしい。馬鹿だよなぁ。俺はァ、楽しめたからいいけど」


「ああ、3年前の復讐ですかね…」


「みたいだゼェ?私は紳士みたいなガワ被って中身はどうやって病魔を招く者を殺すかしか考えてねえ。まあ、あのジジイも逃げたかなんだか知らねえが酔狂なもんだよな」


「どちらにせよ、アレにちょっかいをかけた時点でどうなるかは大体わかっているのでアーサー君たちが無事に戻ってくることを祈ってましょう」


「なあ。あのイケすかねぇ野郎が本物なのか?全く強さだとか感じなかったぞ?むしろ弱そうだった」


「弱いですよ。強いのはあれが連れているスライム達です。本人は固有技能も魔法も使えない、正真正銘の弱者ですよ」


「じゃあよぉ。なんであんなことできたんだ?まさか一人一人殺して回ったのか?」

ロイスが話ながら最後の一人であろう男の首を勢いよくへし折る。そこで戦闘音は止まった。鬨の声が上がる。こちらにも何人か犠牲者は出たものの中々の勝利と言えるだろう。

「元盗賊さん、お疲れ様。いやー、あんた強いね!今度稽古付けてくれよ」


「ん?お、おう」


「動ける者は盗賊達を捕縛後屋敷の外へ、私とロイス君は奥へ向かいます」


「了解しました!」


「順応高くねぇか?お前の部下」


「現にメリダ君も元スラム街のゴロツキですからね。説得が大変でしたよ」


「へぇ…それで、だぁ?どうやったのか教えてくれよ。一個の街を壊滅させた方法ってのを」


「それが分かれば楽なのですがね…まあ、病魔なんて付いてるから細菌かウィルスを魔改造でもした生物兵器かなにかだとは思うのですが…こちらとしても情報が少ないのですよ」


「薬ってのはどうだ?野郎が俺らんとこぉ来た時は薬師としてだ。ヒイラギがああなったのもこれのせいだと思うしなぁ」

ズボンのポケットから無造作に薬包紙に包まれた薬を取り出す。中には薄紫色の奇妙な粉薬であろうものが入っていた。

「なんと言って渡されましたか?」


「4倍の魔力強化剤だ。副作用はなしだとか言ってたが…アレのどこに副作用なんてぇ、ねえなんて言えんだろうな」

奥へ進むドア越しにチラリと後ろに視線を送る。肉片で出来た山は時折動いてるようにも見えるが気のせいだろう。

「アベン君は薬に関しては良い意味でも悪い意味でも天才的ですからね…混ぜたり、すり鉢で潰すだけで子供の遊びなんて言われてますが、正直そんな単純じゃないんですよ」


「俺から見てもゴルドフのジジイが薬調合してるの見りゃガキの遊びにしか見えねえよ。言ったら凄い喚き散らしてたけどなぁ」


「実際、調合した薬の数々が昔の薬学が最先端の時にあれば金貨50枚、60枚で平気に売れましたよ」


「こんだけでか?生まれる時代間違ってんだろ」


「ええ…本当に。生まれてくる場所を間違えましたよね」

ぽつりと悲しげにピエトロが呟いたのをなんダァ?とロイスを聞いていた。










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