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十匹目 開戦

どうもお久しぶりです。握州です!すみませんちょっと獣を狩りに行ったら上位者になってたり普通に引越しで色々と忙しくて書けてませんでした。ちゃんと月二投稿目指して書きます…

はい、今回は戦闘パートです。語彙力は…啓蒙になりました。今後も生暖かい目で見てやってください!!

「……」


よく寝れた。少しだけ作業をと思ったが気づいたら寝てしまっていたが妙に楽だ。なにやら柔らかいものに包まれているような…


「ん…なんだお前か」


「じぇる!」


「腰が楽になった。ありがとう1号」


「じぇるるぅ」


 椅子と腰の間にスライムが入り込み楽な体勢にと体を伸ばしてくれていたらしい。なんとも半身思いなスライムだ。


「よし、幹部用も作り終わったからな。あとは、納品するだけだ」


 少し背伸びをして背骨を鳴らした後、本来自分が寝るはずだったベットを見るとスヤスヤと寝ている奴がいる。


「どうしてこいつはここで寝てるんだ?」


 ううむ…部屋から追い出したはずなのだが…


「じぇりる、じぇるぅる」


「んーと…ミアが寝てしまったからベッドで寝かせて俺も作り終わったからと俺の意識を奪い、そういえばベットがミアが使っているからと自分を使ったでいいのか?」


「じぇる!」


「そうか。しかしお前…そんなジェスチャー…いや、ジェスチャーか?まあ、いいや。わかりやすくて助かる」


「じぇりぃ!」


「ああ、ああ。そいつは起こさないでいい。うるさくてたまらん。朝ぐらい静かにさせてくれ」


 再びスライムに寄りかかると沈み込むように体が楽な姿勢になる。二度寝でもするかと瞼を閉じるがタイミングよく部屋に人が入ってくる。


「失礼しますよ。アベン、薬の方はどうですか?」 


 …部屋に入ってきたのはゼラニウム。何やら真剣そうな顔をしているが…まあ、いいか。


「ああ、完成した。持ってってくれ。えーと代金は金貨4枚と銀貨16枚だ」


「わかりました。流石ですね。ああ、お金は後で…」


「今渡さないなら薬も渡さない」


 当たり前のように持っていこうとしたゼラニウムの腕をつかむと話せと言わんばかりに笑顔を向けてくる。


「あまり金にがめついと嫌われますよ?」


「国に指名手配されてる人間が今更どうしろってんだ。御託はいいからさっさと渡せ」


「はぁ…約束の分です。あと、1時間ほどで戦闘が開始されますのでアベンも準備を」


「持ってるなら最初から渡せ。じゃあ、俺も人質取ってる部屋で待機させてもらう」


「何を言ってるのですか?貴方は最終防衛ラインですよ?」


「いやいや、無理だって。目を瞑ってでも俺は倒されるから」


「スライムを使ってください。あとこの奴隷は人質のところに投げておくので。戦闘終わりにパーっとヤりましょう」


 ゼラニウムはにこやかに笑いながら寝ていたカルミアの首を絞める。


「…がっ!はな…じ…てぇ…」


「死んじまうぞ」


「死んだところで貴方になにか問題でも?…ほら、さっさと起きなさい。それとも二度と目覚めたくないなら今ここで…」


「お、おきますからぁ!」


 涙目になりながらカルミアが起き出す。しかし、こいつはなんで奴隷に強く当たるんだ?ノルドなら魔法が使えなくてもかなり高い金で取り引きされるだろうし。たしかに死んだ後、臓器も髪も体液も魔法の触媒には使えるが…


「では、頼みました。さっさと歩け奴隷」


「あの!髪掴まないでください!痛い痛い!」


「あ、ゼラニウム。少しいいか」


「なんでしょうか?」


「いや、そいつに渡すもんがある。一応手伝ってくれた例に楽に逝ける薬をだな…」


 カルミアに小瓶を投げる。まあ、流石に死なれたら多少なりと寝覚めは悪い。


「死にたくなっなら飲んで死んでくれ。あ、連れてっていいぞ」


「人でなしー!」


「朝から本当に煩い奴だな。せっかくよく寝れたのに台無しだよ」




 ゼラニウムに怒鳴られながら部屋に無理やり押し込まれる。中にはおそらく仲間であろう盗賊が2人舐め回すように自分へと視線を投げかけてきて慣れているとは言え少し不快な感じだ。


「こいつも人質同様縛っておいてください。ああ、手は出さないでくださいね。計画が狂うので」


「わかってますって。しかし、いい女ですね。あのキチガイ野郎が羨ましいですぜ」


「本当だよなぁ。俺ならすぐに手出すぜ?というかもう抱かれてんじゃねえの?」


 男たちはゲラゲラと自分に近づきながらも笑みをこぼす。ここ1週間楽しく過ごしていたせいだろうか。忘れていた恐怖がこみあげてくる。


「ア、アベンさんはそんなことしません!あなた方と一緒にしないでください!」


「はっ!どうだがよ。俺らが知らねえだけで、もしかしたらヤッてたかもなぁ?なあ、奴隷だもんなぁ?団長からキチガイ野郎に鞍替えか?」


「かもしんねえな!見ろよ、奴隷のくせに服なんざ着てるぜ?引ん剝いちまうか」


「ち、近づかないでください!それ以上近付いたらゆ、許しません!」


「はぁ?許さないって?誰が?誰をだ?ジョークが上手…」


 最後まで言う前にゼラニウムがカルミアの首を絞め始める。先ほどよりも強く、殺意のこもった瞳は嘗て自分を殺すほどに暴力を振るってきたあの目と同じだ。


「ごちゃごちゃうるさいんだよ。てめえはアレを釣る為だけの餌だ。これ以上無駄口を叩くようなら喉笛を掻き切る。わかったな?」


「ぐぅ……は…いぃ……」


「おっかねー」


「団長〜マジで勘弁してくださいよぉ?鳴かねえ女なんて人形と同じですぜ?なんなら娼館行ってブス抱いた方がマシですよ」


「知りませんよ。ああ、そうだ面倒なので足の骨折っといてください」


「ごほっごほっ…はぁはぁ……え?」


「お前確か女殴る趣味あったよな?ご命令だぜ?やっちまえよ」


 ふざけたように笑いあって、それから倒れていた私の足に思いっきり振り下ろされた。体の内側に響く鈍い音、声を上げても続く痛み、恐怖。


「ぐっ!ぅぅぅぅ!!痛い痛い痛い!!やめ…やめてくださいぃぃ!」


 懇願したところで意味はない…いや、更にその男の欲情を掻き立てたのだろうか。愉悦に浸った目をして何度も何度も同じ場所を力任せに踏み付ける。痛みから逃れるようと体を捻ったと同時に相手も足を振り下ろす。背中を何度を踏まれ、蹴られ、何度も何度も叫んでも止まらない。


「はぁ…やべえっすよ団長…勃ってきた。今ヤってもいいですか?いいっすよねぇ?我慢出来ねえっす…」


「理性ある獣ならもう片方の足の骨を砕いたら我慢して欲しいですね。それに貴方のその趣味なら奴隷のお気に入りの奴の目の前で犯せば更に興奮するのでは?」


「ああ、堪んねえっすわ…なあ、お前も好きだろそういうの?」


「当たり前だろうが、何回てめえと娼館の女廃品にしたんだよ」


「違いねえわ!ぎゃははは!!ほれ、もう片方も行くぞー」


 痛みで丸くなっていると顔面を蹴られる。仰け反ると再び足に衝撃が走る。折れてない足を執拗に何度も何度も…なにも考えられなくなる。痛みで頭の中な真っ白になって…




「ん?うわ、きったねえな。漏らしてやがるぜ?」


「はははは臭え!あ?気失ってんじゃねえのか?」


「ぶはっ!白目向いて自分の小便の中でおねんねかよ!たまんねえなぁ!」


 ぎゃはははと笑いながら背中をぐりぐりと踏み付ける。やがて反応がないのを見ると蹴飛ばしてつまらなそうにカルミアを眺める。


「汚いのでそれ片付けといてくださいね。そしたら監禁部屋にでも放り投げといてください」


「「了解でーす」」


「ちゃんと手出すのはお客さんが来てからで」


 二人はなぜ呼ばれたのかは昨晩ゼラニウムから聞かされた。あのスカしたアベンとか言う奴が気に入らないそうだ。確かに自分らも気にくわない。何よりも病魔を招く者という表でも裏でも有名な者の名を語っていることが。年中偽物が面付きに捕まっているそうだ。別に誰が語ろうがどうでもいいが長年裏で生きてきた者にとっては不愉快だ。ましてなあんなガキが名乗ると余計にだ。


「なあ…やっぱり俺ちょっとヤってもいいと思うか?」


「やめとけって、あの人キレたら怖いぜ?少しすりゃ出来るんだ。我慢我慢」


 カルミアを人質を監禁してる部屋に放り投げるとゼラニウムの元へ向かう。人質共がなんだか騒いでいたがどうせ出せとか縄を解けとか五月蝿いのだろう。無視だ無視。まあ、騎士団共はどうせ負ける。あの血濡れだろうと。


「あー!早くヤりてえなぁぁ!!」


「ちったぁ我慢しろよ!猿かよ!」




「ああ、面倒くさい」


「カルミア君、大分痛めつけられてるみたいだよ?助けなくていいのかい?」


「居てもうるさいし邪魔なだけだしな。かえって静かになっていい」


「ふーん…」


 4号は何やら言いたげだが相手するだけ時間の無駄なのは知っているから無視しておこう。


「それにしても…ゼラニウムの奴気付いてんのか知らねえが…まあ、いいや。久しぶりに気分がいいし仕事するか」


「その意気だよご主人!不詳、4号。全力でサポートするよ」


 ここをお願いしますと言われたのは長い廊下。母屋内一番奥の通路だ。何故かこの屋敷は後ろに伸びている。どう言った理由かはわからないがその廊下の当番である。外から攻められる?それは俺の責任じゃない。俺は廊下を任されたのだから。一番奥には人質が監禁してある部屋とゼラニウムが待機している部屋がある。団長様は後方で安全に投影水晶で見学だそうだ。


「しかし、やはりご主人の体はいいね。動きやすいし何よりも馴染む」


「おい、俺の顔でうっとりとした表情を浮かべながら自分の体を弄るな」


 現状を他者が見れば理解出来ないだろう。片や無表情で張りのない声。片や表情豊かに自分の体を触る。全く同じ体躯の少年が向かい合っているのである。


「どうしてこうなった…ああ、前衛は頼んだ4号。お前に期待してるよ。絶対にこっちに来させるなよ」


「期待…ああ、ああ!任せてくれたまえ!きっと…いや!必ずご主人の期待に応えてみせよう!ご主人は薬でも調合していてくれ!なんなら僕が騎士団を全滅させるとも!」


「一応俺の擬態なんだ。そこんとこはよろしくな」


 擬態した4号はグッと親指を立てる。まあ、言動がアレなだけでやる時にはやる奴だから信用して大丈夫だろう。


「そういえばご主人。先程カルミア君が…」


「アレがどうかしたか?」


「…なんでもないさ。いやね、ご主人が得なく人を助けるなんてさ。気になって」


「ああ…自称魔法に愛された一族様が魔法を使えないなんて面白いだろ?それに多数決だと助けるって決まったじゃないか」


「あはは、そうだったね。じゃあ、僕はこの辺で…」


 4号がひらひらと手を振りながら持ち場へ向かう。ふと窓の外へ目を向けると東の空が明るくなっている。日の出は近い。




「各隊、揃いました!」


 メリダの声とともに全員が整列する。全員軽鎧を纏い腰にブロードソード。右手に仮面を持っている。


「さて、皆さん。くだらないゲームの開始時間はもうすぐです。領主であるアーノルド男爵、娘のバーベラ嬢、魔導士のシャガ殿が捕まっています。まあ、まだ生きているでしょう」


 早朝ではあるが集まった騎士たちは誰一人として眠そうな顔をしていなく今にも戦いたくてうずうずしている。いや…その中でも特にアーサーなどは恐ろしい殺気を放っている。


「アーサー君。今回は有無を言いません。貴方は貴方のやるべきことを頼みましたよ」


「は、はい!了解しました!」


「さて、皆さん。仮面を被りましょう。舞踏会とまではいきませんが、どうぞ華麗に舞ってください」


 朝日に照らされ鎧が輝く。数にして20程度。誰もかれもが仮面を付け、手に武器や杖を持つ。皆心は1つ。王国に仇なす敵を屠る。それだけだった。


「さあ、開戦です。我らが仮面に近い敵を撃ち滅ぼしましょう」




 昨日の昼間からの記憶がひどく曖昧だった。確か、バーベラ殿と薬師と魔物狩りに行き…途中で襲われた。不意打ちと言えど後手に回ったせいで自分は愚かバーベラ殿も守れなかった。眠らされ、そこからの記憶が確かではない。アーノルド殿とバーベラ殿は魔法で眠らされているのか未だに起きる気配はない。


「おら、人質ども。新しいお仲間だ。仲良くしてろよな?」


「ぎゃはははは」


 突然空いた扉から人が投げ込まれると再びドアが閉じられる。何か見覚えがあるような…


「お、お前!薬師の弟子か!どうしたんだ!?それに…」


 声をかけても反応しないところを見ると気絶しているようだ。しかし、それ以上に彼女の足だ。ねじ曲がっていた。おそらく膝の辺りからだろうか?とにかく一目で折れているのがわかった。


「先程の連中…確か屋敷の使用人だったよな…薬師の弟子をこんなに…いや、もしかしたら私がこのような場所に監禁されているのも…いや、どうなのだろうか…」


「ア……さ……助け……」


「ん?意識が戻ったのか!大丈夫か⁉︎」


「凄…く…痛いです…」


 …あまりにも酷い扱い。まるで奴隷のようだ。


「すまない…今は杖を取られてしまって…足を…」


「大丈夫です…アベンさんが…必ず…」


 やがてまた目を閉じる。呼吸を一定に取ってるところを見ると寝ているのだろうか。どちらにせよ、こんな状況なのに弟子を助けに来ない薬師に腹をたてながらどうにか抜け出す策を考えるとしよう。




 混戦。その一言だった。魔法による炎の弾や雷の雨、風の刃が飛び交い至る所で剣を打ち付け合う金属音がしていた。くだらないゲームが開始され既に1時間は経っているだろうか。倒れている者は確かに盗賊の方が多く戦場では仮面の騎士達が舞闘しているがそれでも優勢なのは盗賊側だった。


「こっちは数で勝ってんだ!囲んでぶっ殺せ!!」


「魔導士の方は下がって後方から援護!前衛の方は二人一組になり抑えてください!」


「「了解!」」


 殺しても殺しても出てくる。自分も指示を出しながらもころしているが…この程度は児戯に等しいが、それでも部下たちは確実に消耗はしている。


「死ねぇ!血濡れぇぇ!!」


 魔法によって強化されたのであろう刀身を淡く光らせながら盗賊は速さで剣を突き出す。軽く身をひねりそれを交わすと、刺突するはずだった剣は必殺の一撃のつもりだったのだろう盗賊はよろける。


「単純ですね」


 能力を使うまでもない。自分の後方へと向かった盗賊の心臓を一突き。盗賊が絶命したのを確認する暇もなく、これを狙っていたのか魔法攻撃が飛んでくる。第三門程度、直撃しようが大した傷にはならないと次の獲物を定める。


「『魔法盾(マジックシールド)』!」


 直撃しても問題ないと構えていたが瞬間に部下の一人が自分の目の前に魔法で創造された盾を展開させ、同時に回復魔法を唱える。炎も雷も威力が足りないのか盾に当たるとそのまま霧散してしまう。


「副団長!大丈夫ですか!」


「ええ、大丈夫ですよ。私のことは気になさらずに他の方の支援を」


「了解しました!」


 盗賊達は一向に減ることはない。先日討伐した者達とは別の者達が既に合流していたのだろう、奥からどんどん出てくる。


「しかし…どうしたものですかね…」


「副団長?どうかされましたか?」


 ひたすら剣を振り続け固定砲台の様に斬撃を飛ばしていたアーサーがこちらへと戻ってくる。


「病魔を招く者ですよ。それに雑魚ばかりで肝心の頭がどこにもいないので」


「奴がここにいるのですか⁉︎」


「このあいだの話は事実ですよ。まあ、信じるか信じないかは別としましてね?その事を少し考えてくださいね。アーサー君。メリダ君とウルイ君、それにヤルマ君を連れて奥へ向かってください。相手方が何を考えているかわかりません。人質の確保を優先してください」


「了解しました!」


 魔法を放ってきた盗賊と距離を詰め顎を蹴り上げると三人に声をかけ奥へと向かわせる。これは危険な賭けでもある。おそらく幹部の様な連中もいるだろう。それは別に問題はないだろう。だが、アベンに…病魔を招く者に会ったらどうなるか…


「副団長!連中が!」


 考えに耽っていると部下の声が聞こえる。一変した戦場に目が奪われた。新たに二人。アーサーと同じような長大な剣を持った少年と東洋の装束に身を包む青年。彼らが一人また一人と部下は屠り、あるいは戦闘不能にしていく。それを見た盗賊達も息を吹き返したかのように勢いが増していく。

「ギャハハハハ!!!」

更に混沌としてきた戦場で異彩を放つ者が数名。薬包紙に包まれた薬を飲むと魔力が何倍にも含まれる。魔力と身体能力は比例される。それはつまり…

「っ‼︎」

ギィン!と目の前で剣と剣が交差する。薬を飲んだであろう盗賊は瞬きの間に距離を詰め剣を振り下ろしてきた。

「しょうがないですね」


「あ、あばそゆねしくそさ…ぴぎっ!」

ぶるぶると体を震わせると即座に身体中から血液を垂れ流しながら盗賊は命を散らす。考えてみればわざわざ相手のルールに従う必要などなかったのだ。

「いいねぇ!!道化師さんよぉお!!俺と殺らねえかぁぁ??」


「お断りさせてもらいますよ」

長大な剣を持った少年が軽々しくその剣を振り下ろす。決して軽いわけではないのは剣で受け止めた自分の腕が物語っている。

「ほんじゃあ、第2ラウンドと洒落込もうぜ!」




「ウルイ大丈夫か?無理はするなよ?」


「は、はいぃ。大丈夫です!」

ピエトロの命令に従い奥へと進む。道中何度か盗賊達と会ったがこの人数の相手ではない。しかしウルイは固有技能を使いここ数日は盗賊団と過ごしていた。疲労は目に見えてわかる。

「へっ!ウルイちゃんは後ろで支援魔法でもしてたらいいんじゃないかなー?」

チャラついた印象の見えるヤルマはそう言いながらニヤニヤとウルイを弄る。緊張感のない奴だ。

「だだだ、大丈夫です!た、たたかええます!」


「あれれぇ?声が震えてるよー?」


「イチャつくのは後にしてください」

メリダがいつにもなく真面目な顔で叱咤する。相手に幻覚系の魔法か固有技能かあるいはどちらもか永遠とも思える廊下を盗賊を倒しながら進む。

「…全員戦闘隊形へ」


「どうしたメリダ?」


「敵がいます。数は…一人ですね」


「一人?この人数相手に?補佐とメリダ先輩にウルイちゃんに俺。敵さんもついに諦めムードかなあ?」


「そうだといいが…」

廊下の先に一人。見覚えのある人物がいた。深緑色の髪。怠惰の目。白衣。敵意は一切感じないが何故か悪寒を感じる

「えーと…俺は薬師のア…」


「敵に呑気に挨拶なんざしてたら死んじまうぜ?」

杖からは第五門の雷が轟音を轟かせながらその少年へと直撃する。確実に骨も残らないだろう。

「ヤルマ!独断で行動するな!」


「補佐さんよ〜まあ、急いでんだ。それに気を抜いてた相手が悪いんだ」


「自分で言っといて自分が気ぃ抜いてどうすんだよ」


「な⁉︎」

頬に衝撃をくらい視界が回転する。何が起こったかはわからないが敵の魔法だろう。気を抜いたと体に力を込めようとするがどうにも力が入らない。その間もクルクルと視界が回転する。最後に見たのは倒れる自分の体とこちらを見る仲間達の顔だった。

「きゃぁぁぁぁ!!!ヤルマ!ヤルマぁ!」


「よせ!回復魔法なんてかけても、もう治らない!それよりも目の前の敵に集中しろ!」


「お前らよ、曲がりなりにも騎士団名乗ってんだったら人が自己紹介してるときに魔法撃つなよ。お陰で加減し忘れちまったじゃねえか。あーあ、可哀想」

アーサーは歯噛みする。もっと先にヤルマ…いや、他の騎士団の団員に言っておけばよかったと…後悔だけがどんどん積もっていく

「…奴が…おそらく病魔を招く者だ」


「⁉︎アーサー、それは一体」


「悪かった!俺のせいでヤルマが!だが、確信が持てなかったんだ!」


「…いい、アーサー。気を抜いたヤルマが…いや、なんでもない。ウルイ戦えるか?弔いだ」


「はい…!」


「おーい、大丈夫?殺しあってるのに呑気に交流なんて深めてて。それ、マッチポンプじゃないの?そいつが言わなかったせいだし」

こちらが話してる間も興味深げに見ているだけだった。病魔を招く者…が挑発するかの様にこちらへと笑いかけてくる。

しかし何か違和感を感じる。

「黙れ!お前が…お前がヤルマを!よくも!!」

挑発に耐えきれなかったのかウルイが魔法を放つ。アベンは軽やかに魔法をかわすとまた楽しげににやけている。

「アーサー、このゲームの勝利条件は俺らが人質を確保するか全滅するかどちらかだ。先に行け。」


「何言ってるんだ!俺だってあいつを!」


「気持ちはわかるがどうか頼む…」


「ッ!…わかった。気を抜くなよ。何をしてくるかさっぱりだからな」


「わかってるさ。せいぜい俺の部下になったことでも考えてな」


「はん!言っとけ」

アーサーが剣を振り下ろすと斬撃が飛んでいくアベンがそれをギリギリで避けるとその斬撃の後ろをアーサーが追従していく

「行かせねえよ。お前ら全員殺しはしない。だから安心して身を委ねてくれ」

先程の様に瞬間移動の様な速さで距離を詰められる

「残念だがお前の相手をしてる暇はない!」


「ああ、そういうことだ」

いつのまに距離を詰められたのかメリダが剣を振り下ろす。

「そんな鈍臭い攻撃じゃ野豚の一頭も仕留められねえぞ?」


「『速鎖(クイックチェーン)』!!」


「行け!アーサー!!」

現れた鎖はアベンの足を絡め取る。咄嗟の攻撃に反応が追いつかなかったのだろう。そのまま体勢を崩してしまう。

「ッ!待て!」


「待てと言われて待つ馬鹿はどこにもいねえんだよ!」


「オオォォォ!!!」

メリダが剣を振り下ろす。身動きは取れない。足が鎖で繋がれている。剣は驚くほど簡単にアベンに右腕を肩の辺りから斬り飛ばす。

「クソどもが!!!」


「ヤルマの仇!」

さらに追い討ちとばかりに氷の槍が飛んでくる。先程までいた自分の腕を斬り飛ばした人物は気付くと魔法を放った少女の隣にいる。

「加速系の固有技能か…厄介な相手だ」

腹部へと氷の槍が刺さる。貫通はしない刺さった直後から内臓が皮膚が筋肉が凍りついていく。

「申し訳ない…ご主人…」

遂には体全体を凍らせて王国史上最悪の犯罪者は動かなくなった。





「はぁはぁ…」

どれくらい走ったのかわからない。王国から騎士団に入団時に渡されるそれぞれの仮面と軽鎧。およそ重さなどは感じないが魔法によりかなり強化されている。それでもこの無限に続くとも思える廊下はガシャガシャと鬱陶しいほど音がする鎧を付けているだけで精神的にも疲れてくる。

「戦闘音が止んだ…」

先程まで後方から聞こえてきた戦闘音はすぐに聞こえなくなった。大罪人と言えどその力量は大したことは無かったのだろう。更に走っていくと辺りに嗅ぎ覚えのある臭いが充満してくる。

「これは…血の匂いか…まさか、ヤケになった盗賊どもが人質を!」

しかしその考えは即座に棄てた。目の前にその匂いの根元があった。両断された足からは多量に出血している。これが原因だろう。それだけでなく全身のいたるところが変色し、穴という穴から体液を垂れ流す。かろうじて生きているのがわかるほどだった。

「酷い…これが、人間のすることか…?」


「お前らだって家畜吊るして腹かっさばいてるだろうよ。それが人間に変わっただけだろ?」


「⁉︎な、なんでお前がここに!」


「んー?ああ、俺に会って来たのか。まあ、ここにいるってことは仲間を見捨ててきたんだろ?案外酷いやつだな。お前」

その人間には見覚えがあった…いや、先刻確かに見た全く一緒。深緑色の髪。怠惰の目。白衣。

「アベン…いや、病魔を招く者か…」


「ちがうよーぼくはぜんりょうなやくしだよー」


「ふざけるな!!人の命をどうとも思わないだけでなく…クソが!王国に沸く蛆虫風情が!」


「酷いな。ちょっと冗談言っただけじゃないか」


「もういい!ここで貴様に引導を渡す!」


「やれるもんならやってみろ殺人鬼が」


「貴様のことだろうが!」

激昂したアーサーが担いでいた長大な剣を思い切り振り下ろす。ただ距離があるせいかこちらから見れば阿呆らしい。

「じぇり!」


「うお、斬撃飛ばすのか。危ないな。危うく真っ二つじゃねえか」


「なんだそれは…?」

薄く広がった黄色い壁はアベンの前を覆い尽くす。飛ばされた斬撃はアベンに届くことなくその壁に吸収される

「スライムだよ。まあ、信じなくてもいいがな。ほら、次の手を打て殺人鬼。生きるか死ぬかの戦いだ」


「初めてあった時からそうだが本当に癪に触る奴だな」


「お褒めに預かり光栄です」


「これならどうだ!」

今度は二度。斬撃を飛ばしてくる。ただそれも二号の前ではなんの意味もない、ただの餌だ。ほんの少し魔力も混ざっているのはおそらくあの剣に付与された能力だろう。どちらにせよ自動で二号の朝ごはんを作ってくれる便利な奴だ。

「なんなんだその壁は!!」


「だからスライムだって」


「…もう我慢の限界だ。悪いが本当に死んでもらう」


「おいおいおいおい。なんだ?本気出してなかったってのか?言い訳か?俺は嫌いだぜ、そうやって本当の実力隠してる奴は」

挑発してみるが返ってはこない。相手の周りに壁のようなものが目に見えてくる。

「あー…じゃあ、死ぬ前に改めて自己紹介を」

一切表情を変えずにその少年はアーサーに名乗る。言葉にはなんの意味もなく。アーサーからして見れば雑音のようなものだった。

「薬師兼犯罪者。初めまして。病魔を招く者だ。短い間だがよろしく頼むよ。殺人鬼」

アーサーは再び剣を強く握りしめる。この巨悪を今すぐ殺さねばならないと。

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