第6章 どうやら逃げられないらしい
電車で一本、駅から徒歩数分でつくところに明日菜の住むマンションはあった。
もちろんオートロックマンションだ。
すっかり真っ暗になった外の世界とは裏腹に、マンションは所々ライトアップされて淡くオレンジ色に輝いていた。
「わ…高…これ何階建てです?」
「8階建てだ。さて、私の部屋は7階だぞ!さっそく行こう!」
マンションの高さにめまいを起こして立ち尽くしている涼太を置いて、銀の手を取り歩き出す明日菜。
「ま、待ってください!そもそもなんで明日菜さんちなんですか?」
追いかけてきて動き出すエレベーターの中で涼太は明日菜に言った。
「なんでって…そりゃ銀がいるからな。住むところが必要だろ?」
「それはそうですけどなんで僕まで…」
走ってきたから少し息がきれる。
「私の専属絵師だからな」
ドヤッ、と自信げに言われる。
「決定なんですね…そこ…」
肩を落とすと「しょうがないしょうがない」と肩を叩かれる。
貴方のせいですけどね。
そうこうしているうちにチーン!と音が響く。
『7階です』
とアナウンス。
「ななかいです」
と銀が繰り返している。
どうやらアナウンスのシステムが気に入ったらしい。
ふかふかの絨毯の上を歩いて明日菜が止まったのは231号室。
「さ、着いたぞ〜」とご機嫌な明日菜。
扉を開けると、広々としたクリーム色のフローリングが、点けた電気の光にてらてら光った。
「わ!ひろ、い!」
銀が真っ先に飛び出して行って玄関に入る。
「靴脱いでな、銀」
「はあい」
散々着替えさせられたからか、慣れた手つきで靴を脱ぐ。
「涼太も入れ」
「りょーたも!」
明日菜が立ち止まった涼太を見て言った。
銀も、りょーたも!と繰り返している。
なんだかもう、逃げられないらしい。
涼太はふとそう思って、「でも悪くない」と心の中で呟いた後、パタリと閉まる白いドアの向こうに消えた。