第4章 僕たちのこれから
「さて!…行こうか涼太」
明日菜は膝に手を置いて立ち上がった。
するとその様子に不安になったのか、涼太の服の袖を握る銀。
気づいた涼太が微笑んで手を開いて銀の手を握った。
「あの…何処に…?」
ニヤリと明日菜は笑う。
「デパートだ」
***
「デパート…?何か買うんですか?」
不思議そうに聞いた涼太に明日菜はわからないのか?と怒った。
「銀の服やあれこれを買いにだ」
あっそうかという顔の涼太にやれやれと呟く。
「私が歌っていた駅前にデパートがある。そこに行くぞ」
自分を勇ましく先導して歩く女性を前に、男としてのプライドやなんやらがそっと「いいのか?」と囁いたが、涼太はあまり気にしなかった。
「着いた!」
飄々とそびえ立つ高い建物を見上げながら、銀同様に歓声をあげる涼太。
「僕…入ったことないです…」
ぽそりと呟いた涼太に明日菜が言う。
「そうなのか?とにかく入るぞ。…えーっと確か…子供服売り場は二階だったかな」
よし!と歩き出す明日菜に遅れないように入り口に入る涼太達。
ウィーンと行儀良く開く扉にビクッと震える銀に、「大丈夫だよ」と声をかけた。
銀は頷いてしっかりと手を握る。
エレベーターに入って二階を押すと扉が閉まって僕たちは運ばれる。
チーン。
「銀〜着いたぞ〜?可愛い服いっぱい買おうなぁ〜!」
買ってもらえる本人以上に嬉しそうな明日菜。
銀は見たことのないものに瞳をキラキラと輝かせている。
まずはエレベーター近くのピンクの壁紙の店。
ザ・女の子というファンシーなヒラヒラ服を着たマネキンがこちらを見ている。
銀は明日菜と手を繋いで試着室に連れて行かれた。
いつの間にかシュシュとハウチング帽が外されている。
「ちょっと待っててな」
そう言い残すと数分で戻ってきた。
手にはヒラヒラの服が沢山乗っていてただのヒラヒラの塊になっていた。
軽くうわぁという声をあげる涼太。
「まずはこれ」
取り出したのは王道ピンクの白レースが沢山ついたお姫様ワンピースだ。
下着の上からすぽんと着させる。
「?!」
涼太には一瞬のことでよくわからなかったが、早着替えのように袖を通され、華やかになった銀を見て何の魔術を使ったのだろうと一人思った。
「可愛い!!やっぱお姫様ワンピはピンクが王道でいいよなぁ」
銀はヒラヒラしたレースを摘んでは物珍しそうに笑っている。
「ちょっと回転してみ」
明日菜が何気なく言った瞬間だった。
ゆるく銀髪をなびかせ、ふわりと広がるレースのついたワンピースの裾が舞い上がり、あくまでも上品に舞ったのち、ふっくらとした透けるように白い肌の小さな手がスカートの端を摘んだかと思うと、重力に従って一度弾んで降りたスカートが、持ち上げられた部分だけをそのままに静止した。ぱらりとスローで降りてくる銀色の髪。
上には鮮やかな笑みを湛えた美少女が、眩しいくらい楽しそうに笑っていた。
思わず見とれるほど美しいその光景に、唖然とする二人。
「………はっ!こんなことで驚いてる場合じゃない!次だ次!」
明日菜は意気込んで次々と服を着させる。
「エメラルドグリーンのキャミソール風ワンピ!」
「丸襟白ブラウスにチェックのミニスカート!」
「白Tに青いキュロット!」
「ブラウスにネクタイ、サスペンダー!」
「かんっ…ぺきっ…!」
最終的には首元に狐のファーを巻き、黒コートとキュロットに網タイブーツになっていた。
明日菜は楽しそうだが、銀は服の動きづらさに少し疲れを見せていた。
ああ、いるよね。大人ばかり楽しんで着せ替え人形みたいになっちゃう子供。
レジへ行った明日菜の目を盗んで銀に言う。
「ね、銀。今度は僕と一緒に選ぼうか」
銀はぱあっと目を輝やかせると大きく頷いた。
レジの方で、「全部お買い上げで!」という威勢のいい声と、それに戸惑う定員の声が聞こえた。