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メンタルシナリー  作者: 八坂 わう
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第2章 彼が見えるもの

美女の悲鳴に人がどよめき始めていた。

「あ…れ…?この子は…?!…マズイ人が多くなってきた!とりあえず場所移動するぞ!来い!」

美女はカバンからシュシュとハウチング帽を取り出し、素早く少女の長い髪をお団子にまとめハウチング帽を被せた。

「ええっちょっあのっ…」

自分よりはるかに行動力のある女性に推されながら、転びそうに走る。

少女は美女に抱えられ、青年はとにかくそれについて走った。


***

「ふぅ…とりあえずここでいいだろう。で?話を聞かせてもらおうか?」

近くのカフェに入り、一息つく。

青年の隣では、青年の持っていたコートを羽織り呑気に、そして無邪気にチョコレートパフェを食べる銀髪の少女が座っていた。

一方向かい合った青年は、どうしたものかという顔で眉を寄せている。

「…まぁいい。まずは自己紹介をしよう。私の名前は明日菜あすな れい本業は小説家だ」

遮られた部分を律儀に説明してくれた。

恐る恐る青年も口を開く。

「ぇ…っと…小谷野こやの 涼太りょうたと言います…美大生です…」

青年は証拠を示すようにスケッチブックをちらりと見た。

そこにはとなりの銀髪の少女が描かれていた。

「涼太くん」

「涼太でいいです」

明日菜は二十代前半くらいで涼太より年上だ。

「そうか…では涼太。その子は君の子供か?」

思わず口に含んだアイスティーを吹き出す。

「げっほえっほこほ…違います!この子は…」

貴方のメンタルシナリー《心象風景》の…

さすがに言えない…

「…えっと…どこかで、見たことありませんか?この子…」

メンタルシナリーはその人の考えや思いの塊だ。

見覚えのある形や普段見ているものの可能性が高い。

「…覚えも何もその子は…」

すこしだけ首を傾げて何か引っかかったように明日菜が呟いた。

やっぱり。

「彼女は…私の…」

仄暗く、瞳に影が射した。

「私の…好きだったお話の中のお姫様だ」

お話の中…というと童話だろうか…?

「そっくりだ!あまりにも似すぎている!…まるでっ…まるであそこから抜け出してきたような…」

驚きと興奮で机を叩く。

周囲の人の視線に気付きながらそれを無視した。

「………っ教えてくれっ…この子は…なんなんだ…」

掠れた声だった。

「………信じては貰えないでしょうが、話しましょう」

苦渋の表情で眉を寄せ、涼太はぽつりぽつりと話し始めた。

「…彼女は貴方の、Mental scenery《心象風景》から出てきた子です」

「メンタルシナリー…?」

「はい。心象風景の事です。僕は生まれつき、人の心象風景が見えるんです」

明日菜は信じられないという顔をした後、銀髪の少女を見て思い直した顔をした。

「そう…か」

「…でも、こんな事は初めてです…!手を振る事はあっても出てくる事は決してありませんでした!なのにこの子だけは…何故…?」

少し声を荒げて涼太が叫んだ。

「わからん…が。今後どうするか考えなければな」

沈黙の後涼太が口を開いた。

「すみません…僕があそこにいなければ面倒なことには…」

しかし予想外の言葉が涼太を貫いた。

「面倒?…それは違う。私は正直嬉しいんだ。この子にカタチとして会えて…」

愛おしそうに銀髪の少女を見る。

驚いたように目を見開く涼太に明日菜は言った。

「それはそれとして、もう一度そのスケッチブックを見せてくれないか?描いていたのはこの少女なんだろう?」

明日菜は笑顔を浮かべていた。

「それは…そう…ですけど…」

小さくなった涼太から強引にスケッチブックを奪う。

「恥ずかしがるな!…さてどんな…」

そこで彼女は言葉を失った。


それは美しいスケッチだった。

モノクロの絵にしては目の裏に鮮やかな色彩を想起させるような絵だ。

少し顔を横に傾けた顔で瞳は下を向き、流れる銀髪が踊り、さくらんぼのように膨らんだ口は開かれて、まるで夜の闇に酔ったように歌っている。

押し抱かれた小さな片方の手が胸のうちから溢れ出す思いをメロディーに乗せているように見える。透明な歌が聞こえてきそうなほど鮮明で美しい…スケッチ…


「これ…は…」

ありえないと言うように首を振る明日菜に涼太がビクリと震える。


「見つけた…」


こちらを向いた明日菜と目があった涼太が意味がわからないという顔で固まった。


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