17.心破移
翌日、彼らは忙しかった。弁当を作ったり、洗濯などをしたからである。そのため、朝早く起きた。学校に着くと、姫睦が彼らを気遣ってくれた。だが、彼らは変わらずに接する。彼らはいずれこうなることを分かっていたのかも知れない。それよりも、彼らの心は今日の試合で一杯だった。彼らは普通通りに授業を受けることができた。
放課後、彼らは急いで中国に行った。会場は広い建物の中にあった。時間は余裕があったらしく、会場内を散歩していたいた。その時には他のメンバーは既にいた。桐人が雅樹達に話しかける。
「家族死んじゃったんだね。可哀想に。まあ、僕には関係ないけど。あっ、だけど、今日の試合に影響は出さないでね。」
「分かってる。本気で倒しに行く!」
「燃えてるね〜。」
雅樹の闘志は激しく燃えている。それは零樹も同じだ。そこに、中国代表の選手が入って来た。中央には貴族の服装をした男がいて、こちらに向かって来た。
「君が神崎 雅樹か。僕は劉恪。ご家族は簡単に死んだが、君はどこまで耐えれるかな?」
「ああ?テメエみたいなやつ、一瞬でブチのめしてやる!」
雅樹は家族の仇を討つために燃えている。両者が睨み合って戦いの火花が切れそうになった時、瞬が止めに入った。
「まあまあ、落ち着いて。もしここでやっちゃうと、失格だよ。」
そう言うと、彼らは睨み合いをやめチームの方に戻った。
試合の時間が来ると、会場に全員が集合した。審判がルールを読み上げる。ルールは、7人が勝負して、先に4人勝った方が勝ちとなる。また、オーダーは一応決めてあるが、相手によって変えることが可能である。そして、初戦は劉恪VS雅樹だ。雅樹はこの勝負は守があえて劉恪と勝負させるようにしたと思った。そして、試合場の中央に集まり、彼らは試合のルールとして握手した。
「僕の奴隷達をかってに持っていったのは許してやる。だけど、不良品には用は無い。僕が送り込んだ刺客によってあれらは今頃死んでいるよ。」
「テメエ...どこまで腐ってんだよ!」
雅樹は激怒した。だが、これも劉恪の罠だった。
試合が始まると雅樹は突っ込んで行った。それは、速かったが単調な攻撃であるため、すぐに避けられた。劉恪はそれを煽るようにして避ける。雅樹はその後連続して攻撃を仕掛けるも全て避けられた。(ふふ、そろそろ攻め時かな。)劉恪の手に何かエネルギーが宿った。それは、緑色に怪しく光っている。
「さあ、これで終わりだよ!」
劉恪はバディを解放した。それは、ほとんど実体が無い、幽霊だった。劉恪はそのまま仕掛ける。雅樹は避けようとしたが、後ろからバディが迫っていることに気付いた。そのため正面から劉恪とぶつかり合った。お互いの拳が衝突すると、吹き飛ばされたのは劉恪だったが、雅樹は何か異変を感じた。その後、何度もぶつかり合うが吹き飛ばされていたのは劉恪だった。だが、雅樹はそうしているうちに自分のことが分からなくなって来た。どうして怒りが湧いていたのか。どうして戦わなければいけないのか。つまり、虚無感が雅樹に出てきたのだ。その様子を見ていた剛志が心配する。
「まずいなぁ、アイツの攻撃は相手の心に直接攻撃している。つまり、雅樹は心に攻撃を受け壊れそうになっていることに俺は去年戦ってそれが分かりかなりやばかった。そのためには、奴の拳に触れなければいい。だがそれをどうするかだ。雅樹はだいぶやられている。」
剛志の言う通り、雅樹の心は破壊されていた。雅樹は防戦一方になっていた。何をすればいいか分からなかった。そんな時、守の携帯にある連絡が届いた。それは家が襲撃され、子供達は重傷を負い、姫睦もかなりの重傷だということだった。零樹は隣からこれを見ていた。何もできない自分が悔しい。そう思った零樹は雅樹を励ます。
「雅樹!今、姫睦さん達が襲われました。かなりの重傷のようです。彼女達の仇を討つために、君が頑張らないといけないのです。今、何かできるのは君だけです!だから、そいつをぶっ倒して下さい!」
零樹の心の叫びは雅樹に届いた。それによって雅樹は自分を取り戻した。劉恪が攻撃をしようとした時、雅樹は腕を掴んだ。
「俺は馬鹿だな。こんな奴の攻撃で心を壊されて。だが、もう負けねぇ!」
雅樹の拳が劉恪に直撃する。劉恪はこれまで以上に吹き飛んだ。すると、バディが襲いかかってきた。その手には剣を持っていた。その剣が振り下ろされた時、雅樹は拳で剣は叩き折った。劉恪もバディも唖然とする。雅樹はバディを劉恪の方に吹き飛ばす。幽体なので軽かった。雅樹は拳に力を込める。その拳は紫色に輝いている。守と戦った時の色と同じだ。雅樹が彼らに仕掛ける。彼らは怯んで動けない。そのため正面から向かい合った。
「平民が調子に乗るなぁ!」
「貴族だからって容赦はしねぇ!」
雅樹の攻撃は2人に攻撃を返し、彼らに直撃した。彼らはその攻撃の勢いでそのまま吹き飛ばされ、会場の外まで出て行った。どこまで行ったか分からないほど、飛ばされた。
「審判、終わりだ。」
審判はあっけにとられていたが、気を取り直して、
「勝負あり。勝者、神崎雅樹!」
雅樹は応援席に戻ると急いで守の所に駆けつけた。
「姫睦は大丈夫なのか!」
「大丈夫だよ。あれ、嘘の連絡だから。」
「えっ?」
雅樹と零樹が声を合わせる。
「劉恪は初見殺しだから苦戦するかな、と思ってそのような連絡を入れるように頼んでいたんだよ。
「でも、アイツが刺客は向かわせたって言ってたぞ。」
「ついでに撃退するようにも頼んでいたんだよ。実力は桐人と同じぐらいだが、性格にやや難があるため、この大会には出させていないんだよ。」
「よかったー。本当に驚きましたよ。」
「そんなこと言っている暇はないよ。次は君の番だよ。」
「はい!」
零樹は勢いよく飛び出して行った。零樹は次の試合を楽しんでいる。雅樹は自分が焦り過ぎていたのだと気が付いた。そして試合の合図が鳴り響く。