得体の知れない思惑
どうも杉田古文です。投稿が遅れてしまい申し訳ありませんでした。
ところでですが4話冒頭の腐龍の説明にて友人からゲシュタルト崩壊を起こしそうな文脈だな、という指摘を受けました。
多分病原菌の名前を書き連ねたことが原因と思いますが、どうしても世界観の設定上説明が必要になるため削除等はおこないません。
不快な思いをされた方がいらっしゃいましたらお詫び申し上げます。
それでは第5話お楽しみください。
若葉村
龍結帝国西部約40km地点にある宿場町に近い村。
近年できた村ということもあり、村人のほとんどを若者が占めており活気に溢れている。
また、商人や狩人たちの情報共有の場でもあり、村としては珍しくギルド 若葉支部 が置かれている。
これにより村の中でも若葉支部周辺の警備が他に比べて異常なまでに厚く固められており、安易に龍人が立ち入ることができなくなっている。
「なんか、みんな冷たい」
少女がそうつぶやく。
無事に本日の目的地である若葉村にたどり着いた拓也ら5人であったが、村に立ち入った瞬間から周囲の冷たい視線が気になり始めた。
「どうもこの村の民は僕たちを歓迎していないようだな」
「みた感じそうですね。どこに行ってもこんな不審者みたいな格好をしていればそうですけど」
「これじゃあ寝床や飯の確保は難しいな」
拓也の言葉に急に落ち込む少女。
こいつはどんだけ腹空かせてんだよ。
ツッコミたくなる気持ちを拓也はどうにか胸の中で押さえ込む。
「さてどうしたもんか...... ん?」
「孝太、どうかしたか?」
そう拓也が聞くと孝太は正面を指差す。
その方向を全員が向くと民家の間から老人が手招きをしていた。
年齢は80代前後、白髪の長い髪とひげでどこかで見たような瑠璃色の眼をしており、それには奥床しさがある。
「お!! なんか爺が手招きしてらぁ」
「ターナス、言い方には気をつけてください」
「うっせぇ! この穢れが!」
直樹が注意するも相変わらず失敗に終わったようだ。
「とりあえずあのご老人のほうへ行ってみるか」
そう拓也がいうと全員が老人のほうへ歩き始めた。
「あの、すいません」
「...... ついてくるのじゃ」
「...... はい?」
直樹が話しかけたものの老人はそれを無視。路地のさらに奥へと進んでいく。
「とりあえずついていくか」
拓也がそういうと老人に続いて5人が薄暗い路地の奥へと足を踏み入れていった。
「こんなのところに何があるってんだよ」
「声が大きいぞターナス」
「はいはい、わかりましたよ」
拓也の注意に対しては割りとあっさり受け入れるターナスに直樹はなにか物言いたげな表情だったが拓也が直樹を見つめそれを制止した。
「ここじゃ」
数分後老人の案内により廃屋のような建物の前へやってきた。
洋式で大きな建物だが草は荒れ放題で壁はツタだらけの状態だ。
「なぁ爺さん。ここに住んでいるのか?」
目の前の光景に思わず孝太が老人に問う。
「そうじゃな。ただここに来たのは数日前だったが」
「よく住むところが見つかったもんだな」
「なあに、この村に昔からの伝がおるんでな。まあとりあえず入ろうや」
そういうと老人はドアを開け早々と廃屋の中へ入っていく。
「なあ拓也、入っていいと思うか?」
「...... そうだな。一応武器は構えておけ」
警戒しながらも老人の後に続いて入っていく。
「これは...... すごいな」
入るや否や拓也から驚嘆の声が漏れる。それは拓也の視線の先にあった。
そこには巨大な龍の頭骨があったのだ。
「化石か...... 邪頭龍か?」
「おみごとじゃな。よくわかったものだ」
「化石になっていて角が歪に曲がっているのはこいつだけだよ」
「うむ...... もしやそなた、考古学者か?」
「ああそうだ。正確には絶滅した龍を対象として研究しているがな」
「珍しい者もいるものじゃな」
そう老人は面白げに笑う。
なにが面白いのか
拓也には理解できないのだが......
「あの......」
これまで2人の会話を旗から見ていた4人だったのだが、痺れを切らしたのか少女が拓也に話しかけてきた。
「さっきから言ってる じゃとうりゅう? っていったい?」
少女の質問に他3人もそうだといわんばかりの視線でこちらを見つめてくる。
しかし少女の拓也に向けた質問の回答は拓也からは出てこなかった。なぜなら
「邪頭龍というのはじゃな......」
そう。この老人が説明を始めたからだった。
これには一同黙り込む。
「かの龍は今から3万年ほど前まで、中部山岳地帯に生息していた全長8mほどの地龍じゃ。特徴は...... そうじゃの、おぬしがいっていたように角が歪な曲がり方をしていること。また地龍ながら巨大な翼が退化していなかったことじゃな」
「そうなのか!?」
「おっと...... さすがにおぬしでもこれは知らなかったか。まぁ知らないのも当たり前なんだがな」
突如出てきた未知の情報に驚きを隠せない拓也。
「もっと細部となると使用魔法は炎系統遠距離型じゃな」
「ご老人よ、その情報の出所はどこなんだ? 僕は聞いたこともなければ宮廷の龍生態資料にも一切の記述がなかったのだが......」
「そりゃそうじゃろ。君らの国はいつも都合の悪いことは隠したがるのじゃからな」
「......」
意気揚々と龍結帝国の黒い部分を躊躇なく暴露する老人。これには拓也も唸るだけで何もいえない。
しかしすぐに老人は、何かを思い出したかのように即座に話を変える。
「玄関で立ち話もなんじゃし中に入らんかのぉ」
そういうと老人は玄関向かって右にある長い廊下へと進み、その後を拓也たちも追う。
廊下には重苦しい空気が張り詰めとてもしゃべりづらい雰囲気だった。
しかしそんな空気も少女には全く関係がないようだった。
「そういえばあたしが質問したのは君なんだけど......」
老人に聞こえぬよう小声で拓也に呟く少女。
「そこのおなごよ。すまんかったの、いつもの癖なんじゃ」
しかし少女の工夫は全く持って意味を成すことはなかった。
「...... 地獄耳」
ボソッと少女が言い捨てる。しかしそれも老人ではなかったものの聴いている者がいた。
「いくらなんでも言いすぎじゃねぇかぁ譲ちゃん」
「お前が言える立場じゃないだろターナス」
「なにぃ!」
珍しく人に対し優しく注意するターナスであったが、普段とのギャップがひどかったのか孝太が腹を抱えて笑い出した。
そして再び喧嘩沙汰になりかける2人。
ちょうどそのとき老人に案内され一番奥の部屋へと到着ことにより自然と喧嘩が収まる。
案内された部屋の内装は狭い部屋1つ大きな窓。椅子、テーブルのみが配置され無駄なものが一切ない空間となっていた。
「さぁ、今日はここでゆっくりしていってくれ」
「ちょっと待ってください。なぜあなたはここまでに僕たちをもてなしてくださるのですか?」
「不審に思わなくても、わしは龍人に手を出したりはせんよ......」
老人が口にした言葉により周囲の空気は一気に冷たくなる。
拓也たちはこの村に入る前からローブに身を包んでいる。すなわち普通は不審に思われても、覗き込まれない限り龍人とまで気づかれることは少ないのだ。
「どっから気づいてたんだ?」
「最初に会ったときからじゃよ」
「なんで気づいた?」
「君らの周囲のマナがちとばかし歪んでおってな」
「なるほどね。つまりは拓也と同じってことか」
冷淡と老人に問いかけていく孝太。その威圧感はとてつもないものだが、それに屈せず聞かれたことに対してのみ表情一つ変えず答えていく老人のほうに拓也の関心は向いていた。
「孝太、交代だ」
「あいよ」
拓也はそういうと孝太よりも1歩前に出て質問を始めた。
「僕も聞きたいことがあるんだが...... いいか、ご老人?」
「なんなりと。君らがわしを疑うのは当然のことじゃ」
拓也の問いに笑みを浮かべ了承する老人。一瞬その笑みの奥から感じ取れる得体の知れない思惑に恐怖を覚えたが、なおも話し続ける。
「それじゃあ僕の質問は1つだけだ。ご老人、あなたが求めるこの行為に対する対価はなんだ?」
「...... 君らが1晩この家にいること、それだけじゃよ」
「それはおかしいんじゃねえか? その行為を行い利益があるのは僕たちなんだが」
「なあに、君のような龍人を間近で見れる機会はなかったものでね。 十分わしの利益も出るんじゃよ」
「............ つまりはご老人。あなたは1晩泊める代わりに僕たちを観察させろ、と言いたいのか?」
その拓也の一言にこの場全体が一気に凍りつく。
それはこの場の全員が刹那ではあったが、この老人の狂気じみた考えを感じたからであった。
「皆心配しておるようじゃが...... わしは君らに手を出したりはしないぞ。出したとして力負けするからな」
「...... 信用していいんだな」
「ああ、少しでも不一致なところがあれば即切り捨ててかまわん」
質問を重ねるごとに老人の目は益々真剣みを帯びてくる。
「...... わかった。信用しよう」
「交渉成立じゃな」
拓也は了承したもののいまだ周囲の雰囲気は異様なまでの緊張感に包まれていた。
「皆、とりあえずは大丈夫そうだ」
その拓也の一言により一気に場の空気が緊迫感から開放されていく。
「ところで腹は減っとらんかな」
「減ったー!」
老人が質問を言い切る前に、少女から威勢のいい声が発される。
その光景に全員が微笑み、先ほどとはは考えられないくらい場が和み始める。
「じゃあ飯を作るから、少し待っておれ」
そういうと老人は早々とドアの方へ向かった。
「そういえばご老人よ。あなたの名前はなんと呼べばいい?」
その質問に老人の足が止まり、うつむいた状態で固まる。
その場に数秒間の静寂が生まれた。それは老人の様子を強調するかのように。
そしてその重苦しい口を開け老人が答えを述べた。
「トウセイと呼んでいただければ......」
そうとだけ言うとトウセイは足早に部屋を後にした。
そして残ったのは、拓也が抱いたトウセイという名に対する妙な違和感だけだった。
再びトウセイが姿を現したのはおよそ1時間後、あたりもすっかり暗闇に包まれたころだった。
そして現れたトウセイの手に握られていたもの、それは大きな鍋である。
「飯ができたぞ」
即座に少女が席に向かう。その瞬発力といったら恐ろしく早いものだった。
皆が座ったのを見計らいトウセイが皿を配って鍋蓋をあける。その中にあったのは野菜を適当に切り、出汁の出た水の中に無造作に放り込んで煮込んだ料理であった。
おそらく、野菜はありあわせのもので出汁は龍骨であろう。
そんな拓也の考えは的中しトウセイがありあわせのもので作ったと正直に謝罪した。しかし
「これおいしいですね」
「あぁ、確かにそうだなぁ」
少女よりも先に飯に手をつけた直樹、ターナスから絶賛の声が上がった。
それに続き他4人も食べ始める。そして最初の一言は誰しも賞賛の言葉であり、これにはトウセイもうれしそうな表情を綻ばせた。
食事終了後、拓也、トウセイを残し皆は2階にて寝てしまった。
気前良くトウセイが1人1部屋ずつ貸してくれたこともあり正直拓也は逆に不信感を覚えていた。
「まさかあそこまで良くしてくれるとは......」
そんなことを1人で呟きながら、拓也は食事をした部屋にて明日の旅程を組んでいる最中だ。するとそこへ
「まだ起きていたのかね?」
寝巻きに着替えたトウセイが部屋の中に入ってきた。無地の寝巻きに身を包んだ姿はどこか幼げがあった。
「ああ。明日は目的地が遠いしな。それにあなたとの約束がまだ残っているんでね」
「なるほど。わかっていたのか」
「あなたの僕たちをもてなす条件は1つ、龍人の観察ではなく僕の観察だろ?」
「そのとおり。観察対象に指定したのはおぬしだけじゃ。よく気づいたな」
「実際、龍人なんてそこらじゅうにいるし、見る機会がないわけがない。見たことないのは僕みたいに極度に周囲のマナが歪んでいる龍人だろ」
「自覚もあるのか。驚いたものだわい」
「僕の能力上、マナが良く見えるんでね」
「それじゃあ話が早いな。...... 率直に聞こう。おぬしの異常な形のマナはいったいなんなんじゃ?」
「拒否権は?」
「ここまでもてなしておいて拒否権があると思うかね?」
「なるほどねぇ」
話していくうちにトウセイの裏の部分、すなわち強烈なほどの興味だけで動いていることがわかってきた。それも前もってある程度仕組んでまで......
そして拓也は拒否権がないことにため息を漏らす。
「んじゃあ、あいつらが早く寝たのは睡眠剤でも食器につけていたか」
「本当に察しがいいんじゃな君は......」
「あそこまでもてなされると、さすがにこっちも怪しむよ。まさか部屋を分けて完璧に音をシャットアウトするとは予想外だったけど」
「全部バレておったか」
「そうだな。さすがに徹底しすぎだったな」
「......」
自分の裏目に出た行動にいまさら後悔するトウセイ。
しかしあの少女でない限り、黙って見守ることをしない拓也はさらに追い討ちをかける。
「今ので、あなたの接待が全てあなたによる徹底した工作だったことがわかったんだが...... それでもまだ拒否権はないなんて言いませんよね、ご老人」
「...... ああ」
拓也は目つきの悪いその眼でトウセイを睨み付けていたのだが、案外彼は怯えることがなかった。
むしろまたその得体の知れない笑みを浮かべ拓也を見つめるのだ。
「それじゃあさっきの質問は拒否する」
「そうじゃな...... ところで話は変わるがおぬしは伝承や神話は好きかね?」
突然に変わったその質問に拓也の胸の奥底から嫌な予感が瞬時にこみ上げてきた。
「ああ、好きだな。僕の故郷にも伝承や神話は数多くあるし」
「それはよかった。それじゃあこの神話は知っているかね?」
そういうとトウセイは真剣な眼で拓也を見つめなおし、ゆっくり話し始めた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
感想、評価等よろしくお願いします。
では次回、「伝承」 ご期待ください。