旅は道連れ
こんにちは杉田古文です。
今回はついにヒロイン登場回?です。
お楽しみください。
腐龍
龍における特殊異常の一種で、龍の牙に劇症型溶血性レンサ球菌が付着し繁殖する。また凶暴化するなどの症状が見られる。
腐龍にかまれた際、そこから劇症型溶血性レンサ球菌が体内に侵入し数日のうちに劇症型溶血性レンサ球菌感染症を発症する。
現在龍結王国内では腐龍の感染源を根絶させようと動いているものの残念ながら感染源に関する手がかりは一向につかめていない。
また劇症型溶血性レンサ球菌以外にも、傷口から直接壊死が始まる菌を宿している腐龍の強力な異常固体もいる。
「もう追いつかれるぞ!」
「戦闘は避けれないか......」
1本道の街道で拓也と孝太が話している。その顔からは緊張感が溢れ出ていた。
先ほどの城壁突破に失敗した拓也ら4人は西へ向かう街道 ネーフェス街道 を走っていた。後方からは複数名の追っ手がこちらに魔法具を向け、接近しながらも絶えず精確に魔法を行使している。
「足が速い、さすがは王国随一の兵士だな」
「この状況で感心してる場合かよ!?」
こんなときでも相手の技術を評価する拓也にターナスはひどくご立腹の様子だ。
しかし拓也が感心するのも無理は無い。それは警備兵が身にまとっている装備の総重量が30kgをたやすく超えている中、スタミナが異常に多くすばやい龍人と絶えず同じ速度で走っているのだ。
しかしそんな中、彼らとの距離が詰まってきた拓也たちに戦闘の時が訪れようとしていた。
「もう追いつかれそうですので、戦闘体制に入りますよ」
そういうと直樹は的確に指示を出していく。彼こそが拓也のパーティー絶対不動の参謀であり、過去に影で龍結王国を救った張本人でもあった。
「拓也と孝太は周りの樹木を盾にしてひたすら回避行動を行ってください。ターナスは姿を消して奴らの裏に回りこんで合図があったらダウンさせてください!」
どうも今回は、このパーティーの中でも比較的すばやい拓也、孝太が警備兵のマナ切れを誘い、そのタイミングで通常より強力な大気振動魔法を展開、即座に身動きひとつ取れなくするのが作戦らしい。
いつもどおりにこの作戦に従い実行、と思われたが今回はそうとは行かなかった。
「俺に命令するな、この穢れが! んな回りくどいことするかよ!」
「ちょっ、ターナス!?」
ターナスが直樹に向かって暴言を浴びせると、彼は正面から勝負を仕掛けに行く。その目はまるで獲物を見つけた龍の様であり、警備兵たちを殺そうとしているのが目に見えてわかった。
「マジかよあいつ......」
「おい、なに突っ立ってるんだ孝太! 早く止めに入るぞ!」
そういって走っていく拓也の背を孝太があわてて追いかける。
現在警備兵は12人、直樹は彼らに逃げられぬよう結界を張っている。
そしてターナス、拓也、孝太の順で兵士に向かい走っておりこの状況を作り出したターナスは、一番右端にいる兵士に狙いを定めたようだ。
「邪魔なんだよ、おめえらぁ!」
そういうと荒々しい表情をむき出しにし、クレイモアを構えたターナスが突っ込んでいく。
あたり一帯に鉄と鉄とがぶつかり合う甲高い音が響き渡った。
この光景は傍から見れば無茶な状況にたった1人で突入する馬鹿な少年の生き様にしか見えないのだが、彼は人並みはずれた能力をもつ龍人である。たとえ1対12だろうが30だろうが関係なかった。
ターナスが攻撃していくにつれ防御戦に持ち込まれていく兵士たち。
そして
「うぉぁ!?」
ターナスの放った斬撃が狙いを定めた兵士の右足を直撃し切断。一面が赤色に染まる。
兵士がバランスを崩した瞬間、すかさずターナスは透明化。
そして間も無く兵士の背後に現れたターナスは冷淡とこう口にした。
「...... 死ね」
脰めがけ一直線に彼のクレイモアが振り落とされた。
次の瞬間、この場にいる全ての者が聞いたのは、クレイモアが肉でも鉄でもない何かによって弾かれた音だった。
「何......?」
場にいる全員が先ほどの音の出所の方を向く。
そこにいたのは、眉間にしわを寄せ恐ろしい目つきでターナスを睨み付ける拓也の姿があった。
その手には彼自身の鞘が握られていた。太刀が納刀されたままの状態で......
「基礎がなってないな......」
拓也がそう述べた瞬間、突如あたりがゆれ始める。兵士が正面を確認すると知らぬ間に大気振動魔法が展開されていた。
次々と倒れていく兵士たち。そして無論この魔法の対象は兵士だけではなく......
「何をっ! ......」
何をする!
そう声を荒げようとした瞬間、魔法の発生源と自分との間に隔たりが無かったターナスは周りの兵士と同様無様な姿で地面に倒れ同時に気を失った。
あたりが少しずつ明るくなってきたころ、拓也たちは先ほどの戦闘の後始末をしていた。
後始末といっても血痕を消したり、切断された足を再び接合させたりする作業だが。
「まさか気絶するとは思ってませんでしたよ」
「俺もそこについては聞いていなかったが」
直樹と孝太が血痕を落とす作業をしながら質問する。
その内容は先ほど直樹から放たれ大気振動魔法らしからぬ効力を発揮した例の魔法についてだった。
「あの魔法は通常の4から5倍の振動を起こすように術式を改変している。そりゃ始めてのやつがまともに食らって意識を保てるレベルじゃないな」
「それじゃあお前は何の魔法で障害を作ったんだ? 効力範囲内には確実にいたように見えたが」
「あのときか? あのときはターナスを睨み付けてて全く気づかなかったなぁ」
「............ は?」
拓也が答えた瞬間、残り2人の目が点になる。
まぁ、そうなるのも無理は無いんだが......
「おいまさか生身であの振動を受けたのか!?」
「そうだよ孝太。一言一句間違いはない......」
そう述べたとたんに周囲が静まり返る。
どうも孝太は先ほどの拓也の返答に対し返す言葉が無いようだ。
「...... 拓也。これまで何発あの魔法を受けたことがある?」
「まともに食らったのは今日が初だな」
「............ 拓也、やっぱお前化けもんだわ」
「褒め言葉として受け取っておくよ、孝太」
確認のために行った直樹の質問が反って2人に衝撃を与えた。その答えに孝太は失笑し直樹にいたっては口をポカーとあけて完全にフリーズしてしまっている。
その後数分間、彼らは誰一人としてしゃべることなく黙々と作業に集中していた。
「よし終わりました」
5分後久しぶりに直樹が口をあけた。やっと脳内に先ほどの会話すべてが収まったらしい。
にしても時間が掛かりすぎているように思うのだが、それほど驚く事実だろうか......
「なぁ、そんなに僕の体は異常なのか?」
先ほどの表情があまりに気になる拓也は直樹に質問した。
「よくいいますよ! あんな大規模振動、普通龍人でも倒れてしまいます」
「そうだな、少し拓也は自分を基準に物事を考えてしまうようだな。この機会に見直せ」
「わかった。今度からは気をつける」
そうぼそっとつぶやくと、拓也は自分が行っている作業へと意識を戻した。拓也現在行っている作業それは先ほどの兵士の足を切断された部分の再接合だった。
そして拓也が現在使用している魔法、それは古代魔法というものである。
これこそが魔法医学の外道ともいえる魔法分野であり治癒魔法も使い方によれば即死魔法への改変ができるような強力かつ惨忍な魔法分野だった。
そして強大な力を持つ魔法が故その負担も大きく......
「拓也大丈夫ですか? なんかどんどん顔が青白くなっているんですけど......」
「心配しなくても大丈夫だ。いつも起きていることだし」
直樹が拓也の容態を心配してきたが、拓也はその心配を払いのけた。
古代魔法を使うことによるデメリット、それは使用者本人の命に関わるような負荷を常に身体に掛け続けなければならないことだった。
いくら大気振動魔法を耐え抜いた拓也でも、さすがに永続的に古代魔法を使用することはできなかった。
そしてその異常が目に見えてわかる状態にまでなっていたので直樹は声を掛けてきたのだ。
しかし幸いにもこの治療は比較的早く終わり容態にも変わった様子は見られなかった。
「さてこいつらどうするよ?」
すべての仕事を終えた孝太が首をかしげて聞いている。
「そこらの木にくくりつけて、商人にみえる位置に放りましょうか」
「んじゃ、それで行こう」
そういうとすぐさま孝太は行動に移す。それも恐ろしい速さで防具つきの兵士を軽々と持ち上げすばやくくくりつける。
さすが、大工は違うなぁ
そう感嘆の念を上げる2人。
「よし全部終わったぞ」
「んじゃターナスを担いでくれないか?」
「お安い御用で」
そういうと孝太は一切表情を変えずにターナスを担ぎ上げた。
「それじゃあ出発しましょうか」
「変なところで時間食ってしまったな」
「まぁ、しゃーないわ。ところでいつまで担いでたらいい?」
「とりあえず起きるまでかな」
「あいよ」
この会話の数分後ターナスの意識が無事に回復した。そのあと永遠と3人からの怒号を一斉に浴びていたが......
「いいかげんこの格好なんとかならんかぁ?」
「しょうがないですよ。着てないとばれかねませんし」
「こんな分厚いローブ、炎天下の中で着ていられるわけ無いだろ!?」
説教が収まり、次に始まったのはターナスの愚痴こぼしだった。
その内容はローブを脱いでもいいか、というものだったがターナス以外の3人は口をそろえてその意見を全批判している最中にある。
ターナスの意見のとおり、今年は異常気象ということもあり例年のこの時期に比べて5℃ほど温度が高いというのは確かだ。
しかしそのような安易な行動によって龍人だとばれてしまうのはいくらなんでも避けたかったが、拓也たちとはおそらく出が大きく違うターナスは龍人だと把握されるのがどれだけ恐ろしいのか知らないようだった。
「そもそもなんで脱いだらだめなんだよ! こんなもん着てたら暑いわ、前が見にくいわ、戦いにくいわで何も利点がないじゃないか!」
「だがな、顔がみえたら一発で終了の俺たちにとってそういうのは避けてほしいんだがな」
「そんなもん検問所付近になったらでいいだろ」
不思議そうにターナスが聞いてくる。
やっぱりターナスは情報報酬制度を知らないな。
拓也の中で仮定が確信に変わった。そうなれば一刻も早くこの制度について教えなければならない。
「ターナスは情報報酬制度を知っているか?」
「んなもん知らねぇよ!」
やっぱりそうだ。
先ほどの返答を聞いた拓也はゆっくり話し始めた。
「情報報酬制度ていうのは龍結帝国が独自に設けている制度なんだ。今現在龍結帝国では在国する全龍人についての情報を集めて管理しようとしている」
「んなおぞましいことしてんのかよ」
「ああ。だけどそんな大量の龍人の情報を国だけでは収集することが不可能だ。そのために導入されたのがこの情報報酬制度ってわけだ。具体的にこの制度は在国する龍人の情報提供者にその情報の価値に値する分だけの金を払うというもので、それだけで生計を立ててやっていく人もいる。そんな人の対策のために常にローブをかぶる必要があるんだよ」
「それでもだぁ、だいたいローブかぶっていたらばれるだろ? 最近の龍人は全員被っているし」
「そういう人ほど低ランクの報酬は狙わないんだよ。実際高ランクの報酬のためには龍人と判断できる箇所、特に閉じきった眼を瞬間保存魔法で収めなくちゃならないし、仮に低ランクの情報だった場合はギルドも一切動かない。だからローブを着てたほうが安全というわけだよ。おわかり?」
「..................」
先ほどの説明にターナスも反論できない。
その顔は実に悔しそうな表情をしていた。
しかしまた何かを言おうと口を再びあける、がその声は先ほどとは比べ物にならないくらいの小声だった。
「...... だったら戦闘のとき、どう立ち回ればいいんだよ」
「それじゃあさっきの拓也を手本にしろよ」
突如アドバイスに入る孝太にターナスが困惑の色を浮かべる。
「でもありゃ人の動きじゃなかったぞ」
「それは僕も思いました。一体あれは......」
この場の全員が首をかしげる。どうやら先ほどの拓也の立ち回り方が本人以外、誰一人としてわからずにいたようだ。
「あれはだな、ターナスが透明化を解除するときに彼のいる位置のマナが歪むんだよ。それも目に見える規模で。だから歪んだ位置を追って移動したわけ。だけど今回はターナスの日ごろの戦い方を参考に予測した面もあるから、この立ち回り自体あまり参考にはならないかもな」
彼の説明に一同驚愕し唖然としている。
「おまえ...... よく1回見ただけでターナスの能力の弱点を見つけたな......」
「そのへんは見た瞬間から仮定はしていた。能力であれ、あれも一種の魔法になんらかわりはない。となると魔法使用時に周囲のマナが歪むのはわかっているだろ。これも魔法の規模と比例するから今回のようなターナスの魔法によって生じるマナの歪みは大きいと思っていたがまさかあそこまで大きいとは思ってなかったよ」
「それを1発でわかっちまうお前の方がすげぇんだよ!あーあ、もうどうやって戦闘すればいいんだよ!?」
「こりゃ手本にはできそうも無いな。自分で言っといてなんだがすまん」
「あーもう!こんな装備してる奴どこにもいねぇ...... ?」
言いかけたターナスの言葉が突如途切れ、長い1本道の先を凝視していた。
「あれは......」
拓也たちもターナスと同じ方向を向く。そこを見るとローブを羽織り立ち竦んでいる人影が目に入った。
身の丈は150cmほどで性別は深くフードを被っておりその表情はおろか性別さえもわからなかった。
「いるじゃないですかターナス」
「...... タイミング悪すぎんだよ」
悔しそうな表情を浮かべるターナス。
「ちょっと倒れましたよ!」
4人が見ているさなか突如その人影はふらつき始め前に倒れ始める。
それを見た直樹が叫んだと同時に彼の足元から術式が展開。
人影が倒れたと同時に地面が水面のようにうなり受け止めた。
「おい!? 大丈夫か?」
拓也が呼ぶも返答は無い。
孝太がいち早く駆け寄った。
「...... ただ気絶してるみたいだけだな」
「ふぅ」
孝太の確認に全員から安堵の息が漏れる。
「さてどうしますか、拓也?」
「このまま日陰に放りっぱなしってのもなんだし起きるまで一緒にいるか。僕らの休憩も含めて」
この提案が全員一致で採用され拓也ら一行は休憩をとることにした。
どうも朝から歩き続けで疲れがたまっていたのか、休むや否や拓也を残す全員が眠りへと落ちてしまった。
数分後、寝静まっている樹下でついに拓也もうとうとし始めた。
しかしそのとき
「...... んー」
「!?」
突如拓也の前で倒れていた人影がむくっと起き上がった。
「ここは......?」
「目が覚めたか?」
「ひゃ!!」
「そんなに怖がらなくてもなにもしないよ」
「本当?」
「ああ本当だ。ところで君は......?」
拓也が恐る恐るフードの中を覗きこむとそこには可愛らしい少女の顔があった。
ショートカットで髪は白色、そして黄色の瞳、左側の前髪が他よりも長く伸びて左目を隠しており、その姿は盛って表現しなくともまるで天使のようだった。
「ちょっと! 急にあ、相手のか、顔をじろじろ見るなんてし、失礼にもほどがありますよ!」
少女が慌てた様子で言うもなぜかその顔は赤い。
「ごめんごめん。...... 女性で間違いないよな?」
「あれだけじろじろ見といて...... あたしは女よ!」
「そんなに怒らなくても......」
突如怒り出した少女に拓也は少し呆れ顔になる。
女性との経験が少ないがゆえ、拓也には急に怒り出した理由がさっぱりわからなかったようだ。
ひとしきり少女の怒りが収まったところで拓也は再び話しかけた。
「ところで君はどこから来たんだ?」
「...... 北のほう」
「北のほう?」
「うん、それ以外は......」
なにかいえない理由でもあるのか。
そう思った拓也はあまり深くは聴こうとしない。
「それでどこに向かおうとしていたんだ?」
「...... 若葉村に」
「若葉村か...... そんなところにどうして?」
「...... ----ったから」
「へ?」
「お腹が減ったから......」
「...... それだけ?」
「? それだけですけど」
「それだけだったら龍結帝国に行ったほうが早いんじゃ......」
「りゅうけつていこく? あーあ! りゅうけつていこくだな! 行きたかったんだけどこの辺の地理よくわからないから!」
少女本人は普通に言っているようだが声も大きくなり早口になっている。そして何より龍結帝国のイントネーションが明らかにおかしい。
あーこりゃ龍結帝国のこと知らないな。
拓也は現在でも世界屈指の大国となった龍結王国のことを知らない人間がいることに驚愕した。
しかしそれと同時になぜ知らないことを隠す必要があるのかということに疑問をいだいた。
「あの...... 嘘見え見えだけど......」
「...... ごめんなさい、りゅうけつていこくなんて知らないの。ただこの辺のこと全く知らずに来た馬鹿だと思われたくなくて......」
いや、その考え自体が馬鹿だと思うんだが......
率直にそう思った拓也だったが、目の前で自分がついた嘘に涙を流して反省している少女を見ると、さすがに口に出していえることでもなかった。
「もうわかったから! そんなに泣くなよ」
そういって拓也はハンカチを差し出す。
「ひぐっ...... ありがとう」
そういうと少女はハンカチを受け取り涙をふきとった。
「ところであたしはどういう状況で......?」
「えっと...... 気絶の理由はわからなかったんだけど脱水をおこしてた」
「脱水? そこらの実を食べて補給したばかりだったんだよ」
「...... !? ちょとまて。君はどんな実を食べたんだ!?」
「えっ? なんか黄色くて長細くてオレンジの斑点のあるやつだったと思うけど」
「それオーリルの実じゃねえかよ!」
「オーリルの実?」
「そうだ。食べると一時的に意識を失い、大量に摂取すると命に関わるんだぞ!」
「...... 知らなかった」
「マジかよ...... つい1ヵ月前にも旅の商人がオーリルの実を食べて死人が出る事件があったばっかなんだが」
「全く知らない......」
この事実に少女は大きく驚愕しまたもや自分がした安易な行為を反省しているようだった。
これ以上泣かれちゃ困るな。
そう思った拓也は少女に向かってある提案をした。それは......
「わかった。本当に若葉村までだよな」
「...... ええ」
「そこまで僕たち一緒に来い」
「............ ええ!?」
「僕たちも今日は若葉村を目指しているし、君の状況聞くと、この先すごく心配だからな」
「...... 男性よね?」
「!? 決して母性本能なんてもんじゃないからね!!」
ネーフェス街道のど真ん中で拓也の盛大なツッコミが響き渡る。
結局少女は少し渋ったものの若葉村までの道のりを共にすることとなった。
「俺らが寝ている間にどういう状況になってんだ!?」
孝太ら居眠り組みが目を覚ますと進みすぎている状況に頭が追いついていっていないようだ。
拓也は彼らが寝ているうちにあったことを全て話した。
「そういうことか...... にしても拓也、よくやったな!」
「はあ? どういうことだ孝太?」
「だから旅に女はつきもんだろ! だからよくナン痛っ!」
「お前は馬鹿か!?」
「冗談だっての! それぐらいわかれよ!」
「わかりにくいわ!」
孝太の頭に拳骨が降り、孝太は弁明に入る。
しかし冗談という部分が本当に言っているように聞こえないのはなぜだろう。
「さっきみたいなことじゃなくて、まあ、あれだ。仲間が多いほうが盛り上がるじゃないか」
「ちょっと待って! あたしは仲間なんかじゃ......」
「いやもう一緒にくるんだし仲間でいいじゃないですか」
「そうだなぁ。多いほうが心強いのもあるしなぁ」
「おっ! 珍しくターナスがいいこといった!」
「そんなに珍しいことかよ!?」
孝太の一言により再び機嫌が悪くなるターナス。
こいつら相変わらずだな......
そう思った拓也はつい呆れ顔になる。
「あの...... 二人はいつもあんな感じなの?」
「そうだな、いっつもあんな感じだな」
「仲がいいのかも」
「それは...... そうかもな」
確かにそうかもしれない。
言われてみて初めて気づいたことだった。
「よし、そろそろ時間か」
「なんのじかっ」
「おーいそろそろ行くぞ」
少女が聞くより前に拓也から質問の回答がでたようだ。
呼びかけた後すぐに周囲から他のメンバーが集まってくる。
「早く行かないと今日中に間に合わないぞ」
「わかってますよ」
そういうと拓也は荷物を担ぎ歩き始めた。
休憩から数時間、拓也たちの会話は全くなかった。
その理由は炎天下だったことで彼らの体力が異常に削られたことだ。
次に拓也が口を開いたのは村を目前としたころだった。
「そろそろ村だな」
「そういえば村に着いたら何をするんですか」
「そうだな、まずは」
「まずはご飯!!!」
予定を言いかけた拓也を出し抜いて大声で少女が叫んだ。
「...... まあそれでいいか」
「やった!」
「はぁー。そういえば君はお金はもっているのかい?」
「一応はもってるよ」
「どのくらい?」
「あと4食分ぐらい」
「少なっ!」
少女の返答にツッコミを入れたのは拓也ではなく孝太だった。
「その金でこれからどうするんだよ!?」
「...... 全然考えてなかった」
少女の言葉にこの場の全員が頭を抱えた。
「この中にこの状況をなんとかできる行動を起こせるやつー?」
「俺は無理だぞ! そんなめんどくさいことに巻き込まれるのはごめんだ!」
「お前には期待してねーよ!」
「なにぃ!?」
またもや2人の口論が勃発しそうな状況に陥った。
今日何回目だよ......
そう思った拓也はすでに呆れ顔だ。
「拓也、なんとかできないですかね?」
「...... 若葉村で村長に掛け合ってみるよ」
「ありがとう!!」
そう少女がお礼を言ったとき若葉村の入り口が見えてきた。
「見えてきたな」
そして村へと足を踏み入れる5人。
また、彼らを茂みから見つめる2つの瑠璃色の眼が奥床しく輝いた。
いかがだったでしょうか。
前書きでヒロイン登場とか言ってましたが、なんだあの無知で馬鹿な少女は!?と疑問に思った方もいらっしゃるはずです。
そのあたりも今後しっかりと回収していきますのでお楽しみに。