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運命様にさようなら  作者: 杉田古文
龍人伝承「始」
3/5

城壁突破

どうも杉田古文です。今回は終始ぐだついた文章になってしまっています。申し訳ありません。

 龍人への天罰

 龍栄(りゅうえい)514年、王都郊外で龍による三日月邸襲撃事件が発生した。

 目撃情報から襲撃した龍は電気および風を操るとされ金色(こんじき)の鱗を持っており、その神々しい姿から伝説上の龍 降臨龍(こうりんりゅう) と呼ばれることもある。

 事件の全貌は王都郊外にあった龍人パーティーの拠点となる屋敷に龍が襲撃。

 さらに追い討ちを掛けるように屋敷から炎が発生し、生存者4人 死者57人 行方不明者13人という痛ましい事件であった。

 当時この事件は広く報道されたが、ギルド側は事件を徹底的に隠蔽工作をした。

 その理由としては確かではないが、龍人のギルド入館ができないこの国で、秘密裏に龍人だけのパー  ティーを宮廷直々の命令で組んでいたこと隠すためとされ現在も続いている。

 ちなみにこの事件の名前の由来だが、龍人のみ殺されたことと、この世界が持つ龍人への差別感から自然とこの名が定着していった。



 怒涛の話し合いの翌日。

 早朝から拓也たち一行は遠征の出発準備をしていた。なぜ朝早くから準備をしているのか? 理由は今回の目的地にあった。

 現在無名が居座っているのが王都から直線距離にして北西におよそ200km、道なりに進むとおよそ450kmほどある中央山岳地帯と呼ばれる地域で、このあたりは特殊異常を起こした龍、または強大な龍が多く生息する地域でもある。

 そのため早急に出発する必要があり現在その準備が夜を徹して行われていた。


「にしてもなんで今日なんだよ! あぁ!?」

「しょうがないですよタナース、今回の龍のテリトリーは広いみたいですし、いつ動かれるかわかりませんからね」

「そうだぞターナス! 愚痴をいう暇があったら手を動かせ!」

「なんなんだよ!? そもそも俺は行くとは一言もいってねえぞ!」


 盛大に愚痴こぼすターナス。これには孝太と直樹も呆れ顔だ。


「おい拓也! おまえもなんか言ってくれ!」

「いや、僕はそういうの得意じゃなくてな」

「逃げるなよ!」


 孝太の嘆きを背に拓也はある場所へ向かった。それは......


「本当に行かないのか旭?」

「私は仕事があるので」


 診療室に入った拓也を待っていたのはとても冷たい言動であった。

 それを発したのは旭で昨日の出来事によるものだった。


「............」


 診療室に静寂が流れこむ。それは数秒であったが拓也には永遠に感じた。


「なぁ、昨日のことなんだが......」

「もうその話はしないでくれますか?」


 昨日の話の和解に入ろうとした拓也だが即座に拒絶されてしまい肩を落とす。

 これで拓也が予想していたとおり、このパーティーと旭の間に完全な亀裂が生まれてしまった。

 それでも


「なぁ、本当に一緒にこないのか?」

「何度も言わせるな」


 突如、冷淡と閉じきっていた左の紅い眼を光らせ龍化した旭がこちらを睨み付ける。

 診療室の中は恐ろしいほどの威圧感と圧迫感が充満した。

 いつも以上に怒りに満ちたその眼にさすがの拓也もこの部屋を去る選択を選ばざるを得なかった。


「......わかった。体調には気をつけろよ」


 渋々部屋を後にする拓也。彼が出て行った後再び診療室にはなんともいえぬ空気に包まれる。


「............ 絶対に帰ってこいよ」


 そんな空気の中、掠れた小声で旭はそうつぶやいた。

 その後準備は着々と進みおよそ1時間後の午前5時、拓也たち一行は中部山岳地帯へ出発した。

 その見送りに来たのはリッキー、ニース、その他交友関係のあるものたち数人が集まったがそのなかに旭の姿は無かった。











 20分ほどたったころ、薄暗い路地を拓也たちは西に向かって歩いていた。

 今回の狩猟はどれだけ早く目的地へたどり着けるかが鍵になると拓也は見ていた。それはなにかしらの理由で活動休止状態である無名が、完全に回復する前に狩猟に望みたいということからだった。

 しかしそのためには最も警備が固められている西門を突破する必要があり、これはこの王都からの一切の他出を認められない龍人にとっては至難の業でもあった。そのため警備の最も薄い早朝を狙う必要があったのだ。

 そんな中、拓也は先ほどあった旭との一連の会話を直樹に話していた。元はといえば直樹が拓也に言うように指示したことだったのだ。


「連れて来なくて本当によかったんですか?」

「いや、連れて来たかったんだが断固拒否されてしまった」

「やはりそうですか」

「てかなんで僕に頼んだんだ?」

「えっと...... とりあえず昨日の空気を解消してほしかったからですね」

「それが逆効果だったんだが」

「すいません」

「それでも僕も少しはそんな希望があったからな。まぁ全責任直樹ってわけじゃないぞ」

「でも、それでも...... また話しにくい環境を作ってしまったのは僕ですから」


 そもそもノームが死んでからというもの旭はこのパーティーの中では浮いてしまった存在となっていた。それは180度といってもいいほど彼の性格が変わってしまったからだ。変わったというよりは歪められてしまったといったほうが正しいだろうか。

 保守派思考だがそんな自分になりきれていない、過去の性格と今の性格が心の中でぶつかっているようだった。このようなことから、昨日の熱くなった旭を拓也は懐かしく感じた。しかしそれはすでに存在していた亀裂をさらに深めることに変わりはなかった。


「...... ところでだ。逆に聞くが、なんでまた今回は連れ出したかったんだ?」

 微妙な空気になったこの会話をなんとかしようと再び拓也が話しかける。


「それは、旭の心理状態が最近また危ういからですよ」

「またあいつの能力がなにか起こしているのか?」

「多分そうだと思います」



 旭の特殊能力

 正式名称 マナ敏感型能力。魔法の発生源となるマナをより強く感じ取り、発動しようとしている魔法を瞬時に解析、またはその場にあるマナの濃度やそのほかさらに細かい情報を感じ取ることができた。

 しかしこの能力にはデメリットも存在する。それは能力保持者に対するマナの干渉が強いことから魔法の効力を常人より強く受けること。

 さらにはあらゆる自然環境により複雑に変化するマナを強く感じることから、環境にもよるが普通に生活しているだけでも精神侵食を受けている場合があった。

 過去これにより旭の精神崩壊が幾度となく起きている。



「でもそれだけだと自分で押さえ込めるんじゃないのか?」

「実は最近、今回の龍落ちに関して旭がいろいろと嗅ぎまわっているらしく......」

「んなこと勝手にしてるのかよ......」

「はい、そうみたいです。それでリッキーさん宛に深層書庫入室許可書の発行を頼んだらしくて......」

「あんな所に行って本当に大丈夫なのかよ......」


 拓也が警戒しているのは侵入者を防ぐため深層書庫に張られている強力な結界魔法だ。

 通常生物がが結界魔法の近くに立っていてもなんら変わりは無い。

 しかし立った生物が旭のようなマナに敏感な能力を備え付けていれば事は大きく変わる。

 マナの法則として魔法発生箇所の近くに存在するマナは普段の比にならないくらいに複雑に歪んでいる。それを旭のようなマナ敏感型能力もちが干渉するとより早く精神を浸食する可能性があり、さらに結界魔法の場合は常に発動されている永続魔法のため、大きくマナが歪んでいる可能性があったのだ。


「確かですけどニースさんも同行させるように書いたとか言ってたんで大丈夫なんじゃないですか?」

「...... させるように書いた? ちょっとまてそれ誰の情報だ?」

「リッキーさん本人ですけど、なにか?」

「...... あの野郎は心が広すぎんだよなぁ。いいかげん自分の立場を理解しろっての」


 今の言葉に直樹は疑問を抱いたが、それ以上追及しないことにした。

 これ以上はリッキーの経歴に関する内容。そしてこれは拓也が絶対厳守している内容であり一度も話したことが無かった内容であった。


「............ にしてもこのスラム街は廃れてんな」


 唐突に話題を変える拓也。これはいつも都合の悪いことを聞かれそうになると拓也が行う自己防衛だ。


「ほんと、この国の税金はどこに消えているのやらですね」

「財政がおかしいのは目に見えてわかっていることだが問題は目に見えない暗黙の部分だ。あまり大声で話せる内容じゃないが、どうも現国王はスラム街に一切の税金を使わずに、大通り近辺の建築物の修繕に莫大な資金を投与しているらしい」

「あぁ...... だからあの地域の建物被害が多かったときに税金が異常に膨れ上がったんですね」

「それ以外にもいろいろな用途に使われているって言う噂なんだがな」

「まぁ今回の国王になってから龍人の保障制度も整いましたし、実際は感謝しっぱなしなんですがね......」

「でも噂が立ちだしたのも現国王就任直後からなんだが...... よし大通りは問題ないな」


 2人が話しに集中しているうちにスラム街から大通りにでた。

 ここから西に大通りを進んでいく。


「このあたりは本当にきれいな町並みだよな。スラム街とは大違いだ」

「中世的な建築ですよね」

「ちゅうせい? お前らさっきからなにわけのわかんねぇこと話しているんだぁ!?」


 この会話に突然割って入ってきたのは昨日から機嫌の悪いターナスであった。

 どうもその怒りはすべて直樹に向いているようで......


「中世は僕たちの元住んでいた場所での時代のことをいうんですよ。正確には平安時代の終わりから室町時代の」

「んなこまごまとわけわかんねぇことはきいてねぇよ! いちいち説明するな!」

「おい、まだ怒ってんのか? また俺がキレるハメになるんだが......」


 この会話の仲裁に孝太が入ってくる。


「そんなに怒るなって」

「俺はまだこいつを許してねえし、仲間とも思ってねえぞ。むしろ敵だ!」


 そういうとターナスは直樹を睨み付け先々に進んでいく。

 まだ話すのは早かったのか......?

 拓也にそんな思いが再び沸いた。












 さらに数分後、拓也たちは第1関門である西門に到着した、がここで想定していなかった事態が発生していた。

 現在早朝5時30分頃、この時間帯は警備兵が一番少ないことで知られる時間帯で多くの龍人がこの時間にこの王都から出て行く時間でもあった。そのため拓也はこの時間を選んだのだが......


「なんだこれは!?」

「おい! どうなってんだよ!?」

 孝太、ターナスがほぼ同時に叫ぶ。彼らの目の前にある光景、それは


「まさかこんなに警備兵がいるとは思わなかった......」

「ざっと50人くらいでしょうか。でもこんな量通常ありえないですよ」


 確かに直樹の言うとおり日中でもこんなに多くは無い。

 この門は日中多くても35から40人くらいが常時いるが、さすがにここまで大量の警備兵がいることは過去1度もなかった。

 ということは......

 拓也の脳内にとある推測がよぎる。


「なにか非常事態といったところか」


 これほどの人数の招集、それはこの国にとって重大な問題の発生、それ以外に考えられない。


「なんでしょうか?」

「たぶん警備兵がでているから治安にかかわる可能性が高いな」

「俺は突破するためにも様子を伺ったほうがいいと思うぜ」

「いいやだめだ。あの中を覗くのはいくらなんでも危険すぎる」

「じゃあ俺の特殊能力を使うかぁ?」


 突如介入してきたターナスの発言にその他一同驚愕する。


「単純に俺個人が気になってしかたねぇってこともあるしよぉ...... ん? なんだその目は?」


 ターナスに向けて疑問の目を送ったのは孝太だった。


「いや、お前の特殊能力俺ら知らないんだからしょうがねえだろ!」

「おい孝太、んな大声出したら見つかるぞ」


 今気づかれたらすべてがおじゃんになってしまう。そう思うと拓也はいつもより敏感になっていた。

 実際孝太は大声を出しておらず先ほどの会話より1割弱声が大きかったというだけだ。

 しかしそんなことは完全無視してターナスが再びしゃべり始める。


「俺の特殊能力は気配や姿を周囲に同化させることよぉ。原理はよくわからないんだけどな」

「おそらく周囲の気配に自分の体内のマナを合わせて歪ませているんだと思いま」

「だから説明しろなんて一言も発してねぇんだよ!」


 またターナスに説教を食らう直樹。しかし拓也が反応したのはそこではなく......


「おい、だから大声出すなって」

「お前もそればかりかよ! もういい早く見てきて早く突破する!」


 そういうとターナスは大きく深呼吸をし、閉じていた右目を大きく開いた。すると最初のうちは黒く染まっていた彼の肉体が次第に薄くなり最終的には陰も形も消失してしまった。


「これはすごいな」


 孝太から感嘆の声が上がった。


「んじゃいっちょいってきまっせ」


 そういうと彼の声が当然消えて無くなった。





 数分後、なんの前触れもなく目の前でターナスが再び現れたとき、またもや一同驚愕してしまった。


「お前もっとましな出方ないのかよ!?」

「しょうがねえだろうが!」


 また孝太とターナスの口論が始まりそうになる。


「2人とも頼むからそのぐらいにしてくれ。んでなにかわかったかターナス?」

「見た感じはぁ警備兵に囲まれているのは商売人のじじい2人で死に掛けだったぞぉ。そういや傷口が結構腐ってたなぁ」


 腐っていた?

 拓也は最後の一節に疑問を持った。腐敗が進んでいればそれだけ傷を負ってから時間が経っているということになる。しかしそれではまだ生きていることがありえない。

 生きながらも腐敗が進んでいる、そんなことができるのはある特定状況の龍しかできなかった。


腐龍(ふりゅう)


 どうやら直樹も同じことを思ったらしく同時にその龍の名を口にした。


「直樹やっぱりそう思うか?」

「逆にそれしか考えられませんね。ただ怪我を負っても王都にこれたとなると相当近い位置にいると考えられますね」

「やっぱりそうか。なにか対策を......」

「あの、お2人さん?」


 先ほどまで静かに聞いていた孝太が2人の会話に介入してくる。


「対策もたてないとだけどとりあえずここをどう出るかを考えましょうや」


 拓也が周囲を見ると長い会話に待たされているターナスがいかにも怒りそうな状況にあった。


「...... そうだな。悪い、それじゃあ出る方法だけどたぶんあの警備兵が引くまで待ていると時間がない」

「それはわかってんだよ! 結局どうすんだよ!?」

「そんなにあせんなよターナス。多分だけど今城壁の上にいる警備兵は少ないと思う。そこを強行突破しようと思う」

「んじゃ足場魔法(アシントパブル)を使うんですね」



 足場魔法(アシントパブル)

 周囲にあるマナを物質化し足場にする魔法の総称。基本的に魔法学でも序盤に出てくる魔法であり、誰もが多用している。また足場にする物質は人それぞれ違うためすべてが同じ魔法式というわけではない。






「よし、それじゃあ始めるぞ。全員ローブは羽織ったか?」


 万が一見つかったときのために拓也は全員にローブを羽織らせた。


「いくぞ...... 今だ!」


 この合図と同時に4人が一斉に足場を駆使しすばやく壁を上っていく。

 よし、順調だ...... !?

 壁を登りきったとき拓也たちは最悪の事態に直面した。ちょうど上り始めた城壁の真上に警備兵がいたのだ。


「...... ん!? 至急通達する! 龍人と思わしき4名が脱走を図っている! 至急援護を求む!」


 そういうと警備兵は拓也たちに向かい大気振動魔法(エルシスパブル)を繰り出す。

 この状況にターナスは同化能力を使い、そして残りの3人はなんなくその攻撃をかわした。

 あの能力は触れている物質も同化されるのか!

 こんな状況でも足場さえも見えなくなるターナスの能力に再び感嘆する拓也。


「緊急! 脱走者4名を確認! 現在1名は視認不可! 至急長官に報告! 数名はあの不届き者を追え!」


 拓也の背後でそんな声が響き渡る。そして無事着地。


「とりあえずこの先2kmは走るぞ!」


 旅は序盤から怪しげな予兆が漂っていた。


 大気振動魔法(エルシスパブル)

 大気中にあるマナに直接干渉し揺らす魔法。基本的には上空の物体を撃墜するときや、足止めをするときに使われる。マナ変換具の魔法発生箇所から順に他のマナに干渉して広がっていくため遠距離を狙うのには時間が掛かりすぎ、あまり向いていない。

最後まで読んでいただきありがとうございました。感想、ブクマ等をしていただけると作者自身とても力になります。ぜひよろしくお願いします。

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