始まりは絶望から
どうも初めまして、杉田古文です。今回より運命様にさようならを再投稿させていただきます。つい先日まで投稿していたものですが、3話ほどしかストックがないため投稿ペースは遅くなると思いますがよろしくお願いします。
「逃げろっ拓也ッ!!」
頭上から聞こえてきた声により拓也の意識は現実へと引き戻された。
我に返った拓也はすかさず頭上を確認する。しかしそこに声の主の姿はなく、代わりにあるのは紅い肉片と、神々しく輝く金色の鱗だった。
龍人
この世界で人類、龍とは別格の強さを誇る種族である。龍と人、両者の遺伝子を持っていることから調和の象徴として崇められてきた。5000年前までは......
5000年前、人の身勝手な開拓が原因で龍の逆鱗に触れ、世界中で領域戦争が勃発した。人は自分たちのテリトリーを広げるため、反対に龍はそれを守るための戦いであった。
そして戦争は泥沼化。300年にわたり多くの人、龍が戦場で散っていった。
しかし約4700年前、事態は急速に終戦へと向かう。
原因は龍人の参戦、それだけだった。この参戦に人類は勝利への希望を見いだしていた。龍人の容姿は人間、人類の亜種となる種族だった。そのため人類はこちら側の戦力となると勝手に思い込んだ。
しかし現実は悲惨だった。龍人は龍側に加勢し、人類側の戦力はそぎ落とされていった。
そして龍人の参戦からわずか1ヶ月後、領域戦争は終戦を迎えた。人類の敗北、そして龍との盟約という結果とともに。
以後龍人は調和の象徴から裏切り、悪者の象徴として終戦から4700年たった今でも差別を受け続けているのである......
午前4時樹海にて
「35度より飛龍種接近してます!」
拓也の後を追う直樹が叫んだ。現在拓也は樹海に取り残された防衛騎士団の救助依頼を遂行していた。 まぁ身分を隠して受注したのだが......
そして現在、拓也の背中には深手を負った騎士が担がれていた。
「もう追いつかれたか......」
「いや、先ほどの個体の特徴が無いので多分つがいのうちのもう1体だと思います」
さすがにこれ以上逃げ続けるのはきついな。そう考えた拓也は後ろにいるであろう直樹に大声で問いかける。
「直樹! 今から足止めするとして何秒耐えれる?」
「3分くらいでしょうか」
「そんだけあったら十分だ! すまんが足止めに回ってくれ」
「了解です」
そう言うと直樹は自らの武器、ハルバードを構え獣道を外れ森の中にはいっていく。拓也はそれを見届けることなく少し先にあるシェルターを目指す。
その直後、近くで何かが裂け溢れる音がした。おそらく、肉と血であろう。しかしそれを気にとめることもなく拓也は走り続けた。
何度も聞き、もう慣れてしまった音だ、気にとめるほどのことでもなかった。
5分後、拓也は地下シェルターの入り口付近に着いた。周りに龍がいないことを確認すると、地下シェルターに担いでいた騎士を下ろし、すぐに直樹の援護に向かう。
もう彼が提示した限界時間から2分も経っている。拓也は友人を失うことの恐ろしさをよく知っている。もう友人を失うことはしたくないのだ。こんなこと、普通、人には理解されないが......
数分後、直樹と別れた地点まで戻ってきたが、このあたりは血の海と化していた。あたりは静寂に包まれている。
突如何かが切り裂かれる音がした。
西か?
西は直樹の入った方向とは違う。
しかし状況の把握が出来ない今、音を頼りに進むのが一番善作といえるだろう。拓也は音だけを頼りに森に入っていった。
5分ほど経っただろうか。
突如頭上からけたたましい音が聞こえた。
「!!!」
拓也が上空を確認した瞬間黒い物体が落下してくるのが見えた。拓也はすぐさま回避行動をとる。
しかしその物体の後部にあたり体勢を崩してしまった。
「ごはっ!?」
直後、拓也の体は強く地にたたきつけられた。内臓をひっくり返されたような衝撃が襲う。
しかし、すぐに立ち上がると落下してきた物体に対し武器を構えた。追撃を心配した拓也だったが、その生物は全く動かない。
よく見るとそれは先ほど襲ってきた飛龍であった。
飛龍は4種ある龍の種類の中で飛行に特化した個体の総称として用いられる呼び名である。
「蛇翔龍か...... しかも亜種だな」
蛇翔龍は飛龍の中でも下位にあたる個体であり、亜種はその上位互換だ。
胴体は円柱状で足が退化しており地上では蛇行して前進し、基本的には地上にいることは少なくほとんどの時間飛行している。
個体としての強さは魔術を使ってこないということもあり雑魚同然の強さである。通常種に限った話だが......
「にしても、何故[蛇]がついてるんだ? こっちに蛇はいないは......」
言いかけた瞬間、目の前の茂みから轟音があたりに響き渡った。
「もう片方のお出ましか!?」
自らの武器を構えたと同時に目の前に蛇翔龍が姿を現した。鱗が白色のため確実に亜種個体である。
普段であればあの龍は始め威嚇を行い、様子をうかがってくる。
しかし今回は手負いであったためか躊躇無くこちらに突進してきた。
拓也は武器を構え右手に回避、直後自らの武器である太刀を蛇翔龍の鱗に突き立てた。
太刀は容易に鱗を貫通し皮膚まで到達、そして奴の突進を利用し胴体を横に裂いた。
悲鳴を上げる蛇翔龍だが、まだこちらの攻撃の手はやまなかった。攻撃を浴び後退した瞬間、突如右翼が切断されたのだ。
体をうねらせ倒れる蛇翔龍。
土埃がまう中、突如人影が現れた。その影の正体は......
「すいません、仕留めきれませんでした」
「直樹か!? いや別に1人で仕留めようと思わなくても...... とりあえずこの状況をなんとかするぞ」
気づくと蛇翔龍は起き上がり、反撃を仕掛けてきた。
突如紫色の霧にあたり一帯が包まれる。
これが蛇翔龍亜種の魔法攻撃だ。通常種と違い魔法を使い、ましてや強力なため、依頼書の危険度は急激に上昇する。
しかし直樹にとってはそんなものお構いなしだった。
「うりゃ!!」
霧を突破し不意に現れた直樹に蛇翔龍は動揺。その一瞬のすきに直樹のハルバードが奴の頭めがけて振り下ろされる。
あたりに鈍い音と蛇翔龍の悲鳴、次にあたりの木々がなぎ倒されていく音が順に響き渡る。
「直樹、追わなくてもいいぞ。ギルドからの許可も下りてないし」
「わかってますよ。ですけどあの個体大丈夫なんでしょうか?」
「右翼を失った以上、すぐに死ぬだろうな......」
「......」
やはり同士である龍を殺したことは直樹にとっては重荷になりすぎたか。
「まぁ、回復魔法かけといたから大丈夫っしょ」
「だといいですけど」
この世界、龍の食物連鎖の輪の中に人類は含まれていない。そのため龍に負わせた傷は自分たちが治療し元に戻す。それは拓也が徹底していたことだ。
しかし直樹は龍を傷つけたこと自体が軽いトラウマになってしまったようだ。以後2日ほど直樹の態度はとても暗いものだった。
「報告はこんなもんですかね?」
「お前大事なこと忘れてねえか?」
「ん...... なにをですか?」
「騎士をどうしたんだよ!? ほって帰ったとかじゃねぇだろうな」
「ほって帰りかけましたよ」
「おい!?」
数日後、拓也は王都にある貧民街の一角、ギルド、パウペル支部にて結果報告のため情報屋店主リッキーと会っていた。
「あのな、蛇翔龍を撃退するのはいいが、ほって帰りましたじゃぁ俺もお前も依頼主に会う顔がねぇだろ。龍人の評判を落としかねんぞ!」
「シー! 大声で龍人なんて言わないで下さいよ! あと龍人に依頼書回してたあなたも同罪確定ですよ」
「今度から依頼書回さんからな!」
「すいません! 前言撤回します! こっちも生活きっつきつなんです。それだけは勘弁して下さい!」
まるで取り立てにあったかのように全力で謝る姿をみてリッキーはご満悦だ。こんな冗談を交えて話せる時間が拓也にとっては愉快適悦だった。
ここを出てしまえばすべてが現実に引き戻される。街を歩くだけでも人目を気にしなければならない。 それは何故か。それは......
彼が、彼の仲間達が、忌まわしき種族、龍人であることに他ならないからだ。
現在この国は龍人の安全と引き替えに、ギルド本部への入館が不可となっている。拓也たちは生活資金のため脱法的に依頼書を受ける必要があり、拓也は情報屋リッキーをかいして依頼を受けている状況だった。
このような現状から常に顔を隠しているため、拓也はリッキーと面と向かって話した事が1度も無かった。
「話を戻すが、騎士は無事なんだろうな!?」
「1人は現地で死亡を確認、もう1人は重傷で現在治療中だそうです。ただ傷の具合からもう武器は持てないかと......」
「そうか......」
会話が止まり重苦しい静寂に包まれる。拓也はこういう雰囲気は恐ろしく苦手だった。
「さぁ! 下向いとらんと、報酬金の話でもしようや」
この場の雰囲気を和ますようにリッキーが切り出した。
「そうですね......」
しかし拓也の表情はまだ暗い。責任をすべて1人で抱え込んでしまう拓也の悪い癖のせいだ。
「んじゃ、今回の報酬金を発表だ!今回は3Tや!!」
「全部でそんだけですか!?」
「そやな。そっから俺と分けて3分の2の2Tがお前の分や」
「今回遠征だったのに安すぎじゃありませんか!?」
「んなもんしょうが無いだろ。国からの依頼書はいつもこんなもんやんか。財政も悪化してるし」
確かにそうだ。いつもこの国は報酬や国にあてる金が妙に少ない。少なすぎるといっても過言ではないくらいだ。実際のところ今回は7日間の遠征だったため、通常は7Tほどでるものだ。
どっちにしろ恐ろしく物価が高いこの国は、7Tあっても足りないのだが......
「蛇翔龍に追っかけまわされた分もいれてくれないかなぁ」
「なあ、遭遇したのって本当に蛇翔龍の亜種個体で間違いないんだよな?」
何か考え込む様にリッキーが聞いてきた
「間違い無いですけど...... どうかしたんですか?」
「いや、樹海一帯には蛇翔龍自体生息していないんだよ。ましてやそれの亜種個体なんて......」
「でるわけない、ですか。」
「まあ龍の生態のことだ。よくわからん所があるのもしょうが無い。ところで次の依頼の話なんだが......」
「もう次の話しますっ!?」
「いや、2Tじゃ少ないかなと思って持ってきとったんだが...... 嫌ならいいよ」
「是非受けさしてもらいますっ!」
「よし、それじゃあ内容なんだが...... 今回はとある龍の調査、並びに討伐を依頼したい。あっ、心配せんでももう討伐許可はおりとる。」
龍の盟約の5条により世界中で龍への無差別な虐殺が認められない現在、人類の害になっている龍のみに討伐許可がおり、この盟約は世界共通で絶対遵守されている。
「とある龍ですか......」
「そう。何でも金色の鱗をまとっているとかなんとか...... 拓也? なんか目がマジになってるけど!?」
暗い顔から血走った目が一瞬ちらつく。
「ん...... あっすまん。続けて」
「なんか腑に落ちんが...... 続けるぞ。それでだ、今回の竜なんだがおそらく近年よく目撃されていた降臨龍もどきだと思われるんだ。ほら、あの2年前の龍人への天罰を起こした龍だと......」
その瞬間拓也は鮮明に2年前のあの日の記憶を思い出した。
紅く燃えたぎる屋敷を呆然と見つめ泣き崩れたあの日を。大事な友人達があんなにあっさりと、ただの肉の塊へと変えられてしまったあの日を。
これだけのことがありながらギルドが事実をもみ消そうとしたあの、龍人への天罰を。
「おい! 顔青いぞ、別に無理して受けなくても......」
「いや、大丈夫だから。続けて」
先ほどから見えにくいはずの拓也の表情をことごとくリッキーがあててくる。
そのリッキーは拓也自身が龍人への天罰の当事者であることを知らない。知らなかったからこそ、この依頼を回してくれたのだから、それはそれでよかったと思っている。
復讐できる機会を与えてくれたのだから......
「大丈夫かよ...... まぁいい。それじゃあわかってる範囲でとっとと説明するぞ」
「ああ、よろしくお願いします」
「まず今回の個体なんだが、実は発見されたのは3ヶ月ほど前だったらしい。どうもギルドが隠していたみたいだな。」
「何故隠したんだ?」
「多分だが、これが知られれば龍人への天罰があったことを認められざるを得なくなると判断したからじゃないか? 今でもギルドは事実を否定し続けているし」
「それでギルドは3ヶ月間ほったらかしていたのか?」
「いや、実際そうでもないらしい」
「というと?」
「発見から2週間後にどうやら調査隊が組まれたらしいんだ。新種かどうかの確認に行かせたらしい。だが出発から1週間後に突如消息を絶った」
「そうなったらギルドも討伐隊を組んだんじゃないのか?」
「さすが察しがいいね君は。その通りだよ、俺は知らなかったんだが消息を絶った3日後には討伐許可がおりていたらしいんだ」
「ギルドの討伐隊ってギルド内きっての先鋭部隊でしょう。負けるとは考えにくいのだが......」
「いや事実3名しか帰還していないんだよ。そしてその3名の証言からいろいろ奴の特徴がわかってきてる。まずは、こいつが飛龍と地龍の両態種であること。これは前々からわかっていたことだったんだけどな。それより2つめの方が重要。奴は魔法無効化の特殊能力持ちだってことだ」
そういった瞬間、拓也が突如青ざめた。
「リッキー! 今、魔法無効化能力っていったか!?」
「うん、そういったが...... どうかしたか?」
「------ってたってことか......」
「うん? なんか言ったか?」
「いや、何も言ってないよ」
「そうか...... じゃあ話を戻すぞ。さっきも言ったようにこの龍の魔法無効化能力持ちが発覚したことでギルドはこの龍を最高危険度に指定したらしい。そしてギルドだけでは手に負えなくなったから俺たちに回ってきた、てところかな」
「でも、そこまでわかってたら新種って判断してもいいんじゃないのか?」
「樹海に蛇翔龍が出たと同じように、龍の生態は複雑だ。中には黒牙龍のように亜種になると生態が大きく変化するものもある。だから細部まで調べないと新種とは断定しにくいんだよ。だから世間一般的には今回みたいな龍を無名って呼んでいるな」
「そうなのか。てっきりすぐにわかるものだと思っていたけど......」
「まあ、明らかに違う個体なら1発で判断する場合もあるぜ」
その後なんだかんだで3時間みっちりと話し込んでいた。気づけば周りの客もいなくなり、従業員が早く帰れと言わんばかりに睨み付けてくる。
そろそろ帰らないと身分がばれてしまいそうだ。
「んじゃリッキー、そろそろ帰るわ」
「うい。それじゃあ頑張れよ」
「それじゃあ... あっそうだった」
「ん? どうした?」
「いや、たいした事じゃないんだけど......」
「何でも言ってみろ」
「あの、蛇翔龍っているじゃないですか」
「うん」
「蛇翔龍の{蛇}ってどういう意味?」
「...... んなもん当たり前だろ、蛇龍からきてるんだよ」
「...... へぇー(やっぱよくわかんねえな)」
結局拓也の疑問は何も解かれ無いままだった。
拓也はゆっくりとドアをあける。途端に現実に向き合う時がやってくる。やはり、リッキーとの会話の後はいつも胸が痛くなる。
何故過去の見ず知らずの者のせいで、自分たちに差別があるのか。いつもそれを考えてしまう。
しかし今日はそれよりももっと重要なことを考えていた。拓也達の今後に亀裂が生じるかもしれぬ重要なことを。
「因縁の相手とは知らないうちに常につながってたてことか......」
リッキーから聞いた事実をどう直樹に伝えるか。それに頭を悩ませながら拓也は貧民街の路地を歩き始めた......
最後まで読んでいただきありがとうございました。今回は説明されなかった用語もありましたが、それは追々説明していきますので気長にお待ちいただければ幸いです。それではまた次回をお楽しみに。