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蝿と私  作者: NaCL
1/1

動機

知らない街の知らない道をすこし速く歩く。足元にある雨でへばりついた落ち葉を踏んで顔を隠し手をポケットに入れて速く歩く。落ち葉を踏む度に頭が軋んで歩を進める。速く歩くのは逃げるためなのだろう。


6日前、私は夫を殺した。出逢った当初は優しく気が合う人だった。次第に打ち解けあい惹かれあい三年の付き合いを経て私たちは結婚に至った。その三年間に一切の不満は無く自分で言うのもあれだが幸せだったのだろう。


それが変わり出したのは結婚から半年ほどたってからだ。私が友人と夕食に行き帰りが遅くなる日があったのだが、夫はそれをよく思わなかったようだ。私を3時間ほどなじり続け暴力を振るってきたのだ。暴力のあと泣き叫ぶ私を抱きしめてすまないと言う。それからというもの次第に本性が現れだした。


ついには私を監禁し部屋に閉じ込めてしまった。一切、部屋を出ることはなくトイレも洗面器を用意されそこにしていた。食事は日に二回、コンビニ弁当を食べさせられる。それらの始末は週に一度か二度で部屋は腐臭と恐怖で満たされた。夜は彼の望んだように振る舞い身体中に痣ができた。それでも私は従順に振る舞った。夫の言う全てに従っていた。いつか逃げ出す機会を伺って。



監禁が始まって二ヶ月ほどたった日か、私の出した糞尿や与えられていた食事の残りなどから小蝿が湧いた。部屋の掃除をするためと夫は部屋の扉を開けた。二ヶ月間、この掃除はあったのだが私は一切逃げる素振りを見せず大人しくしていた。そのためか夫は私が逃げ出すということに無警戒であった。私は夫が洗面器や食事の後始末をしている隙を見て部屋を出た。部屋を出てゆっくりと台所へ向かった。リビングの電話に向かい助けを呼ぶのではなく台所に向かったのは殺す気だったからだ。台所の棚から包丁を取り出す。



包丁を見ると頭が固まりだした。この包丁を戻しまた夫の言う事を聞いていれば危害はなく丸く収まるのではないかと考えていた。ふと後ろを向くと夫が立っていた。包丁を手にした私を見て気が動転しているのだろうか。声を荒げる。夫は私を見て包丁を下ろせと言う。監禁したのは愛しているからだと言う。私が何処かへ行ってしまうのが怖いと言う。包丁を下ろしさえすれば監禁はしない。やり直すことができると言う。その顔はひどくやつれていてた。


夫の言う言葉は全て嘘だと自分に言い聞かせる。手に握った包丁と夫からの恐怖とで焦りが増す。もはや何も考えることのできる状況ではない。私は頭の中が真っ暗になり夫に向かって走り包丁を突き刺した。その場に倒れ込んだ夫にまたがり何度も何度も何度も突き刺した。周りに血が飛び散る度に目が絡む。血を避けるように小蝿が飛んでいた。


夫を殺した私は疲れ込んでしまいそのまま眠りについたらしい。ふと目がさめると夫の身体には大量の小蝿が付いていた。その光景はひどく気持ちの悪いものだったが何故か妙に受け入れることができた。殺した夫を私が監禁されていた部屋に運びそこの扉を閉めてリビングに行った。



これからどうしよう。逃げてみようか。それとも自首するべきなのか。人差し指に止まった小蝿に目をやった。小蝿はさっと飛び去り机の上にある腐りかけの林檎に付いた。蝿は貪欲だ。散々、夫に巣食ったろうにまだ林檎を求めるのか。


私もまた小蝿になってどこへでも行きたい。貪欲に生き望んだままに巣食いたいものだ。


私は夫を隠し逃げる事を決意した。


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