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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第六章
88/92

引き分け

「母は……母というか父もですがうちの者は何も視えないので」

「視えない?」

「そうです。でも私は視えます。霊という奴でしょうね。子供の頃から視えていて、でも両親は馬鹿な事を言うな、と。一切信じていないのです。オカルト的な事は。ですから、こちらの土御門家の事も古くから伝統のある名家としか思ってないのです。うちは代々政治家ですが、まだほんの四代くらいしか続いてません。土御門家のような名門の娘を妻に迎えれば箔がつく、親としてはそんな気持ちで望んだ見合いでした。ですがさすがに名門土御門家のお嬢様でした。式神をお連れになっていた。大きな真っ黒い狼でした。美登里さんはとても可愛がっていて眷属というよりも相棒だと。それがとても衝撃的でしたね。怖い物ばかりだと思っていたのに、怪異という存在と信頼関係になるのもあり得るなんて」


「なるほど、ご両親としては怪異を視る娘など嫁として迎えるわけにはいかない、と」

「……すみません。あなた方にしたら本当に失礼な話で」

 仁はふむ、と腕組みをした。

「事情は分かりました。あなたにご両親を説得する時間が必要ならそれもよいでしょう。あなたが美登里ちゃんと結婚して二人で幸せになるという覚悟がおありなら、我々は応援しますよ。何よりも美登里ちゃんの幸せを願ってますから。当主とその妻であり、我々や美登里ちゃんとも幼なじみの和泉さんもそう願っていると思いますから。今すぐ当主が動くのは無理ですが、家業の事をご両親へお話させていただく機会を設けてさせてもらって結構ですし」

「ありがとうございます!! 土御門さん」

 正隆は安堵したような表情で礼を言った。

 

 美登里を呼ぶように秘書へ伝えると、美登里はすぐさまやってきた。

「お呼びですか?」

 と入ってきて、正隆を見ると、

「正隆さん、どうなされましたの?」

 と酷く驚いたような顔をした。

「美登里ちゃんと正式におつきあいをしたいとわざわざいらしてくれたんだよ」

 と仁が言うと美登里は「あらあら」と言いながら頬を染めた。

 美登里の方もまんざらでないようだ。

「美登里ちゃん、如月さんに結婚の意思を持っていただいてるのであれば、賢兄の回復を待たなくてもいい。兄さんも和泉ちゃんも美登里ちゃんの幸せの方を優先する事を望むだろうしね」

「仁様……それは……」

「結婚の話が決まったとしてもそこからいろいろ準備もあって時間もかかるだろうし」

「はい……」

 素直に返事はしたものの、美登里は不服そうだった。

 賢と和泉が戻る前に自分の結婚など考えられない。

 恋愛問題など話せる友人もおらず、和泉がいれば相談できる事もあるのにと思う時もある。 

 正隆とのデートは心楽しい時間ではあるが、それは今まで知らなかった世界を知る楽しさであった。正隆は優しい男なので結婚すれば幸せかもしれない。

 だが土御門の生業を続けながら結婚生活を送るのは美登里には至難の業に思えた。

 政治家の家でいずれ正隆も政界に出るだろう。

 その時は正隆の妻として夫に尽くし盛り立てていかなければならない。

 正隆の為に自分の仕事を辞めなければならない日が来るだろう。

 だが土御門の仕事は美登里には天職だと思っている。

 その時素直に何の後悔もなく、土御門から離れられるだろうか?

 いっそ結婚などしなくても生涯独身でも土御門にこの身を捧げるという決意が出来たならばいいのに、美登里はそう考える時がある。

 だが近い将来、賢と和泉が戻り、陸と美優が結婚する。仁もいずれは結婚し、それぞれに子供が生まれ、次世代に続いていく。独身ではその次世代に何の貢献も出来ない。

 自分が生んだ子供がまた土御門の継承に尽力したならば、美登里は自分がとても幸せだろうと思うのだ。

 それに皆が仲が良く、楽しい家庭を築くだろう中で自分だけ一人というのもなんだか悲しいではないか。

 結婚する機会がないのならばそれでよかった。

 全くないなら諦められる。

 だが機会に恵まれてしまったのだ。

 だから美登里は悩んでいる。

 誰も反対はせず、皆が祝福してくれるだろう。

 正隆は自分にはもったいない青年だ。

 イチローの事も理解し、相棒を側に置くことも嫌な顔をしない。

 それでも。


 正隆が立ち上がったので、仁も腰をあげた。

 丁寧に挨拶をして出て行く正隆を「お送りしますわ」と言って美登里も一緒に部屋をでた。

 にこやかのに微笑みあいながら出て行く二人を見送ってから仁は、

「軍曹」

 と呼んだ。

「お呼びですか」

 とその場に姿を現したのは仁の八神の中でリーダー格の軍曹だった。

 最近はデジタルカモの衣装を身につけている。ヘルメットに銃、弾薬ベルトにブーツ。

 何が入っているのか、背中には巨大なアサルトバッグを背負っている。

「イチローを呼んできてくれないか。美登里ちゃんに気づかれないように、こそっとな」

「了解」

 軍曹は生真面目に敬礼をしてから、すぐにその場から姿を消した。。

 



 シュラとイチローはまだ結界の中で絡みつき合っていた。

 イチローはシュラの喉元に噛みついたまま、シュラは袋に閉じ込めたイチローをトゲトゲ金属に変化させた尾で殴り続ける。

 長い長い時間が経過したとその場に居合わせる妖達は思っていた。

 決着がつかなければ面白くない。絡み合っている二神を眺めているだけではつまらない。

 肉が裂け、血しぶきが上がり、悲鳴が、嗚咽が、上がるのを見物に来ているのだから。


「そこまでだ」

 と言う声がしたと同時にバララララッラと銃の音がした。

 妖達の作っている強固な結界の壁に大きな穴が空いたと思えば、その穴から軍服を着た者達がなだれ込んできた。 

 八神達はシュラとイチローを囲むように位置取り、銃を構えて周囲を威嚇した。

 軍曹はシュラの目の前に立ち、

「当主代理の仁様が一狼をお呼びである。修練は引き分けでおいておけ。一狼はすぐさま仁様の所へ行くように」

 と言った。

 シュラは助かった、と思ったがちっと舌打ちする振りをした。

 そしてトゲトゲの尾をすぐさま引っ込め編み目の袋から解放した。鋼鉄のようなワイヤーはふさふさとした尾に戻り、袋も消えた。

 イチロー本体はどさっと床にその身体を落としたが、分身黒狼はシュラの喉からその牙を離さなかった。

 シュラはちらっと軍曹へ視線を移した。

 バキッ!!と音がした。

 軍曹の持つやたらとでかいアサルトライフルが分身黒狼の頬からこめかみの当たりを殴りつけた音だった。

 分身黒狼は「ギャ」と叫んでシュラの身体から離れた。

「何度も言わせるな! 仁様がお呼びだ!!」

 軍曹は底の分厚いブーツで分身黒狼の横腹を蹴り飛ばし、黒狼は姿を消した。

「軍曹、気を失っておりますな」

 部下の一人が言い、軍曹が振り返って見たのは意識を失ったイチローの倒れた姿だった。

「運べ!」

 と軍曹が言い、七人の部下達が自分の背中に背負っていたバッグから取り出した道具で簡易担架を作り上げた。イチローの身体をその担架に乗せて部下達は空いた穴からまた出て行った。

「本日の修練はこれまで。結界は解散しろ!」

 じろりと結界を作っている妖達をにらみ付けてから軍曹もまた穴から出て行った。 


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