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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第六章
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式神達2

「グウ」とイチローが唸った。

 確かにたった今まで、美登里の式神を降りる話をしていたばかりである。

 そして黄金色の狐、シュラの言うことももっともな事であった。

 パッキーら犬神達はそれほど妖力も戦闘能力も強くない。

 陸のそばにいたいというだけで、天寿を全うした後にも土御門にとどまったのだ。

 土御門二十六神にはとても力が足りないのは周知の事実。陸の戦力にもそれほど力を発揮しない。悪霊退治の戦力は主に鬼女紅葉と赤蜘蛛だった。

 鬼女紅葉は歴史に名を残すほどの鬼族の妖だし、赤蜘蛛は夫である茶蜘蛛とともに攻撃力を備えた大妖だ。

 それでも陸が犬神達を側へ置いたのは、陸を癒やすその力だ。

 戦闘能力よりも妖力よりも陸が欲したのは、側にいてくれる優しい仲間、

 厳しい師匠、忙しい母、強力なライバルである兄が二人。

 寂しい心を癒やしてくれたのはいつだって犬達だった。

 強い式神を側に置けば主人も強くなる。

 それを分かっていながらも陸は犬神を選んだ。

 陸だけではない。

 賢の十二神もまだまだ強い妖が入れる隙間がある。

 銀猫より、黄虎より、橙狐より、水蛇よりも強い妖はいた。

 自分を慕う者達を側に置いておきたいのが人間の性だ。

 賢は自らが強い為、妖の力を頼らずともよかった。 

 そうなると後は気の合う妖を選ぶ権利がある。

 選ばれた妖は意気揚々と十二神を名乗り、素晴らしく濃厚で上質な土御門の霊能力を滋養に出来る。落選した妖は配下の者や修行中の陰陽師達の式神に配置される。

 強い主人に従えば必ずしも強く手強い悪霊と戦えるわけでもないが、お楽しみは一番多いだろう。数いる陰陽師の中で賢が一番条件が悪く強大な悪霊の祈祷場へ行かなければならないのはその強さ故だ。

 さらに近年発現した和泉の再生の霊能力。

 土御門の中では絶大な力を誇る三兄弟の霊能力を瞬時に回復し、さらに二十六神をも同時に回復させたという、その噂が妖達の中で駆け巡っている。

 せめて二十六神の中に入り込めればその上等の霊気をごちそうに預かることが出来るのだ。

「ジュウガ、お前らは犬だ。ただの飼い犬だ。三男の側にいたけりゃいたらいい。戦いは俺たちがやる。よえー奴はひっこんでろって話さ。飼い犬に上等の土御門の霊気なんぞいらねえだろ?」

 じろりっとシュラがジュウガとパッキーをにらみ付けた。

 とてもではないが相手にはなれない。

 パッキーなどはほんの一噛みで粉々にされてしまうだろう。

「楽しそうな話じゃん」

 気配を感じさせず、突然に現れた紅葉にイチローは心なしか安堵した。

「シュラ、うちの犬神ちゃん達をいじめるのは駄目よぉ」

 相変わらず艶やかな出で立ちの紅葉だった。

 ふんわりとした桃色の着物、一足先に春を取り入れたのか黒髪を派手に盛り上げて花の簪をさしている。

「いじめちゃいねえよ。飼い犬は飼い犬らしく縁側に寝そべってなという話さぁ。そうだろ? 紅葉姐さん」

 紅葉は腕組みをして、シュラを睨んだ。

 シュラは狐族の中でも乱暴で冷酷な質だった。

 弱い者はいじめるし、強い者にも刃向かう。

 前回の選抜時に十二神に自分が落ちて橙狐が選ばれた事を怨んでいた。

 燈狐と一対一ならばシュラの方が強いはずだからである。 

「あんたがなんて吠えようと、今の陸ちゃんの六神はあたし達さ。敬意をもって接してもらわないとね」

「くそ鬼が!」

「やるのかい?」

 紅葉の体にピシッと電気の帯が走った。

 紅葉の電撃は強力である。紅葉に喧嘩を売って焼け焦げにされた妖が何体もいる。

 本来は喧嘩好きな性分で、むしろ規律に厳しい土御門の式神でいる事は紅葉には退屈だった。

 睨み合うシュラと紅葉に、

「やめな、やめな、紅葉姐さん、式同士で喧嘩なんて」

 と言ったのはパッキーだった。

「御当主が不在のおりに式が諍いを起こしちゃ、陸様がその責を負わされる。主人に無駄な負担をかける式なんぞは土御門にいらねえ。そう思わねえか、シュラの兄貴」

 とパッキーは続けた。

 紅葉はふうと息をついて闘気を引っ込めたが、シュラはふんと鼻で笑った。

「飼い犬の言いそうなこった。こっちもお前らなんぞは数に入ってねえ。イチロー、紅葉、そン気になったら来いよ。御当主が不在でも修練は必要だろ? 飼い犬とひなたぼっこしてるよりは楽しいと思うがな」

 と言ってからシュラは太い尻尾をふりふり姿を消した。

 

「シュラノイウコトモイチリアル」

 と言ってから身体を起こしたのはイチローだった。

「いっちゃん、相手にすんな。あいつら暇だから喧嘩を売って遊んでるだけだぜ」

「ダガシュラハツヨイ。イッテネガウノモシュウレン」

 そう言ってイチローはシュラの気配を追って姿を消した。

「イチロー君、行っちゃいましたねー」

 とジュウガが言った。

「へん」

 パッキーはつまらなそうにまた前足に頭を置いた。

「俺達だってお役に立ってねえわけじゃねえ。美優ちゃんを助けに行った時だって、ちゃんとお役に立ったさ。そうだろ? ジュウガ」

「はいー。でもあの時は赤狼さんと紅葉さんも来てくれましたー」

「ふん! しょうがねえだろ。俺は戦いには向いてねえさ……でも陸様が側に置いてくださったんだ。それでいいじゃねえか。戦えねえけど……陸様の危機には俺っちの命をかける覚悟くらいある!」

 そう言ってパッキーは目を伏せた。

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