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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第六章
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式神達

「で? 美登里ちゃんはそのマサタカ氏と結婚すんのかい? いっちゃんよ」

 とパッキーが言った。

 土御門本家の広大な庭の芝生の一画でひなたぼっこ中である。

 小さい口でうおおおおと大あくびである。

 その横であくびが移ったジュウガもふああああとやっているが、その大口に小さいパッキーはひょいと食べられてしまいそうだ。

 「シラナイ」

 イチローはふんと自分も前足に顔を乗せた。

 春も近くぽかぽかとした日だまりが出来る庭で揃って日光浴である。

「美登里さんがー結婚てのをしたらどうなるんですー?」

 イチロ-はのんきなジュウガを見てからふうとため息をついた。

「オレハモットタタカイタイ。ツチミカドデタタカイタイ。ジュウニシンニハイレルクライニツヨクイリタイ。ダカラミドリサンガツチミカドデナクナルナラバ、ミドリサンノシキヲオリル」

「え! そうなんですかー」

 とジュウガが言って、それから首をかしげた。

「美登里ちゃんの式を降りて誰の式になるつもりでい?」

 パッキーがやれやれという風に首を振った。

「デキルナラジュウニシンニハイリタイ」

「ああ、赤狼のだんなが降りて今は空いてるもんな」

「ソウダ」

「それはどうかなぁ。いっちゃんが赤狼のだんなの子神なのは知ってるが、まだ時期尚早じゃねえか? 簡単には入れないぞ。十二神は。狙ってる式はたくさんいるぜ。俺っちやジュウガは陸様の式で満足だ。紅葉の姐さんや赤蜘蛛も陸様の事は気に入ってるが、あいつらは乱暴だからな、上を狙う気持ちはありそうだ。万が一現当主が戻らなかった場合、仁様が次期当主になるだろう。そこで新たに十二神選抜が行われる。それには賢様、仁様、陸様の土御門二十六神選抜の時に落ちた奴らも参戦してくる。今の主人が誰かなんて関係ねえ。強大な力、狡猾さ、守備力、冷酷さ、残酷さ、何でもいいから圧倒的な力をアピールしたもん勝ちだ。厳しい戦いになるぞ。それに今の十二神が戻ったとしても、たった一つ空いた場所を競ってそれこそ熾烈な争いになる。血で血を洗うような結果になりかねねえ」 

 人間が好きで一生涯、陸だけが主人と決めているパッキーとジュウガはそんな恐ろしい争奪戦はごめんこうむる気持ちである。

 強さだけに価値を求める主人の側では到底やっていけない。

 陸だからこそ側にいるのだ。

 だが逆に強さこそ価値であると断言する妖が陸の側につけば陸はもっと強くなるだろう。

「だがまあ、現当首の賢様の生死がはっきりするまでは動かないだろうよ。いっちゃん。仁様も陸様も待ってなさるさ」

「ソウダナ」 


「のんきなこった」

 と呟く声がした。

 イチローがさっと顔を上げ、空を睨んだ。 

 ジュウガとパッキーはその気配に身を固くし、耳を伏せた。

「御当主が戻ったら争奪戦? けっけっけ甘いねえ」

 空間がゆらっと揺れて、真っ黒な空間が開いた。

 その奥から光る瞳。

「ナンノヨウダ。シュラ」

 とイチローが言った。

「あまーい菓子を食い過ぎたのか? 若奥様は料理上手らしいな。あの赤狼が骨抜きで、十二神の位を捨てて野良神になっちまったからなぁ」

「ノラデハナイ。イズミサンノシキガミニナッタダケダ」

 赤狼を野良と言われて気を悪くしたイチローが牙を剝いた。

 立ち上がり、攻撃態勢を取る。

「けけけ」

 と笑った相手が空間のひずみから顔を出した。

 空間からわき出る威圧感、すさまじい濃度の妖力。

 ふぁさっと黄金色に輝く素晴らしく豊かな毛皮。

 ぴんと立った耳の先は白く長い毛がなびいている。

 一足、空間から出てきて大地を踏みしめる。

 それだけでジュウガは「あわわわ」と地面にひれ伏してしまった。

 パッキーも鼻に皺を寄せて、「ケ」と言った。

「お前らマジ、めでたいな」

「ドウイウイミダ、シュラ」

 シュラと呼ばれたその妖はにへらと笑い、やがて全身がその場へ出てきて、

「ケーン!」

 と深く鋭く鳴いた。

 ふさふさとした素晴らしく太い尾は五つに別れ、自信満々でその大地をどーんどーんと打った。

「御当主が戻ったら争奪戦じゃねえ。もう始まってる。土御門総式神百神の戦争だぁ」

「ナ!」

「のんきにひなたぼっこしてる年寄りはお前らだけだぞ」

 けっけけと黄金色の狐が笑った。

「御当主がいねえのに、そんな勝手な振る舞い、許されるわけがねえぞ!」

 とパッキーが言った。

「そうか? 勝ったもんが十二神入りは古からの決まり。それなら早めに決めておいてもいいだろが、ああん? 御当主が戻ったらこれこういう経緯で勝ち残った者が十二神に入りますと言えばすむ話だ。弱い奴は消える。こいつは妖の理だ。御当主がどうとか人間がどうとか関係ねえな。今の十二神に不満を持ってるやつは大勢いるぞ。それは選ばれた理由が強さじゃねえからだ。自分はあいつより強いのに、と思う奴が十二神にいる。十二神だけじゃねえ。八神も六神もだ。そう思うだろ? 犬神とか呼ばれてるが所詮は元飼い犬。何の役にもたってねぇイヌコロに我は六神だと偉ぶられる筋合いはねえな!!!」

 シュラが牙を剝いてジュウガとパッキーを威嚇した。

「ツヨサモヒツヨウダガ、アイショウガアル。シンライカンケイモアル。リクサマガエランダノダカラショウガナイ。ヤツアタリハヤメロ」  

「だったらオメーも未来永劫、今の主人の式神でいるんだな? 十二神に入ろうなんて思っちゃいねえよなあぁ?」

「……」  

「強くなりてえんだろ? ここで大人しく順番を待ってても強くなれねえぞ? 式神は戦って相手の強さをぶんどってなんぼの商売だ!」


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