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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第五章
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美登里の条件

「陸先輩、ちょっと冷たくないですか」

 美登里がキッチンから出て行った後、美優が言った。

 両手でティーカップをぎゅっとつかんでいる。

「え?」

「あたしなんか最近ここに来たし、いろいろ迷惑かけた上に本当に役に立ってもないですけど、美登里さんはすごいいつも土御門の事を考えてて、あの人いなくなったら本当に困ると思うんですよね。それなのに美登里さんと同じように出来ないならやらなくていいって」

「それは美登里ちゃんには感謝してるさ、まー兄と和泉ちゃんの事だって親身になってくれたし、今だって頑張ってくれてるのは知ってる。でも本人がここから離れたいと言うならしょうがないだろ? だからお前に頑張れって言ってんじゃん」

 美優をかばったつもりなのに、なぜだか責められて陸はむっとしている。

「美登里さんがいなくなっても、じゃなくて、美登里さんを引きとめるような意見は言えないんですかって話ですよ!」

 最近の美優は元気がいい。

 元々は活発な娘だったのが加奈子の事件から沈んでいた。責任を感じて自分を責めてばかりいたのだが、賢と和泉はきっと戻ってくるという希望から前を向き始めた。

 美登里を手本に自分がここで出来る事をしようと頑張っている最中だ。

「だって本人が本家からは離れたいという考えなんだろ? それなのに美登里ちゃんに責任を押しつけるのはどうかと思うぞ」

「それは! 仁さんの奥様になる人に遠慮して……」

「なんで仁兄の奥さんに遠慮するんだよ」

「だからぁ!」


「おいおい、お前達」

 にらみ合う二人に仁が仲裁に入る。

「喧嘩すんなよ。お前達、ただでさえ面倒くさいのに、二人がばらばらになると余計に面倒くさいんだから。美優ちゃん、どうして俺の結婚が問題なわけ? っていうか、相手も決まってないんだけど」

「違うんです」

 と美優が言った。

「違うって?」

「あたしが美登里さんが本家に顔を出さなくなるのが嫌だから、仁さんと結婚したらいいのにって言っちゃったんです。そしたら、ずっとこのままみんなで楽しいのにって思って。美登里さんはそんな都合だけで仁さんの結婚に口を出すのはやめなさいって。結婚は好きな人とするべきだって。ごめんなさい、余計な事を言いました」

「そういう事か」

 仁はふっと笑った。

「美登里さんもお見合いの話があるみたいだし、それで皆がばらばらになるの嫌だなって思って。賢さんと和泉さんが戻ってきた時に、美登里さんがいないとがっかりするだろうし」

「美登里ちゃん、お見合いするの?」

 と陸が聞いた。

「そんなお話がいくつかあるみたいです。一度お会いした方はイチロー君が視えてびっくりしたって笑ってました。美登里さんもそんな嫌がってる風でもないし」

「美登里ちゃんがその気になったらすぐまとまる話なんかいくらでもあるだろうな」

「その気にならなくてもまとめるお節介が一族に大勢いるし」

 ちらほらと釣書を持ち込む親族から逃げ回っている仁がため息をついた。

「まあ、美登里ちゃんだって結婚するだろうし、そうなると相手の考えでは土御門とはつきあわないという事もあるな。相手が家業をどこまで理解するか」

 という陸に、

「会館の方のお仕事はやめないと言ってましたけど、やっぱり結婚したらいろいろ変わりますよね。妊娠、出産もあるし。でもあたしはそんな時もずっと和泉さんや美登里さんと一緒に過ごせたらいいなぁって思って。あたしだって何人子供を産めるか分からないけど、陸先輩がお兄様達と過ごしたように、あたしの子供も和泉さんの子供も美登里さんの子供も一緒にここで過ごせたらいいなって」

 と美優がすねたように言った。

 一瞬、仁の脳裏にも陸の視界にも大勢の土御門の子供が転げ回って遊んでいる姿が浮かんだ。それはかつての自分達で、その子供らを見守る自分達もいる。

「でもそれはあたしのわがままですよね……ごめんなさい」

 少し涙目で美優が笑った。

「じゃあ、仁兄、美登里ちゃんと結婚したら? どうなの? まあ、本来はまー兄の婚約者だったんだから、まー兄との話が消えたら次男の仁兄に美登里ちゃんとの話が来てもおかしくはないよな」 

 と陸が言った。

「お前なぁ、美優ちゃん可愛さにそんな無茶な」

 仁はため息をついた。

「確かに美登里ちゃんとなら気心も知れて楽しいかもしれないけど、嫁さんが誰でもここで育てるのは俺の子供なんだからいいだろ。賢兄の子供も陸の子供も俺の子供もここで育てる、でいいじゃないか」

 まさしく正論であるので、陸と美優はぐっと黙ってしまった。

「中学生じゃあるまいし、グループ交際が楽しいからってその気のない二人をくっつけようなんてやめなさい」

「美登里ちゃんの事、嫌いなの?」

 仁ははあっと息をついて、弟を見た。

「あのなぁ、美登里ちゃんの事は嫌いじゃないさ。むしろ好きだ。頭もいいし、仕事も出来る。気配りも、礼儀作法も、土御門の家の妻としては完璧だろう。でも恋愛対象じゃない。そんなつもりで彼女を見たこともないしなぁ」

「美登里さんも結婚は好きな人としなくちゃって言ってました」

「美登里ちゃんの言うとおりさ」

「すみません」

 と美優が頭を下げた。

「美登里ちゃんのお見合い相手ってどんな人だろうな」

 陸が笑いながら言った。

「え? 土御門の人ではないって言ってました」

「で、イチローが視えるんじゃたいしたものじゃん?」

「ええ、そうですね。前から美登里さんは結婚相手はイチロー君の事を知って欲しいって言ってましたもんね」

「そうなの?」

 と仁が美優のケーキをぱくりと大口で食べた。

「ええ、出来たら視える人がいいらしいです。イチロー君は相棒っていうか、家族だから、一緒に生活出来る人がいいって」

「へえ、だったら一族の男から選ばなきゃだね」

「でも、それだったら優劣がつくでしょう?」

「優劣?」

「イチロー君は赤狼さんの子神だからきっと強くなるし、そのために美登里さんも自分の霊力をもっと上げる修行に精進する。でもそれでイチロー君が夫となる人の式神を超えたら、それは許されない。御当主の妻となるべき教育受けてきた美登里さんはすごく真面目なんです。夫となる人を超えるような霊力、式神は持つべきではないとずっとお祖母様に教えられてきたそうです。でも縁があって結婚するならばイチロー君を家族としてくれる人がいいんですって。イチロー君が夫となる人の式神を超えたら、きっとうまくいかないって。でもだからってイチロー君を制限したくないし」

「へえ、美登里ちゃん、そんな風に思ってるんだ。真面目だなぁ。奥さんの方が強い式神持ってる人いるよね? っていうか、まー兄にしても式神は土御門最強だけど、夫婦関係じゃ和泉ちゃんの方が圧倒的に強い」

 と陸が仁を見たので仁がぷっと笑った。

「確かに……そういえば加寿子ばーさんがの式はじいさんより強かったな。他にもいるけど、美登里ちゃん自身がそういう考えならしょうがないな」

「ええ、イチロー君はもっともっと強くなるからって嬉しそうに言ってました」

「赤狼の子神だからな。鍛えれば強くなるだろうな」

「一族の中で美登里ちゃんよりも霊力が高く、イチローよりも強い式神持ち、かぁ」

「霊力はともかく、イチローよりもってのが難問だな」

「年齢なんかも考えて、適齢期で霊力が高く、イチロー君よりも強い式神を持ち、イチロー君を家族のように見てくれて、土御門の仕事に理解のある、そして美登里さんよりも背の高い優しいイケメン、知りませんか?」

 と美優が陸に言った。

「え、美登里ちゃんよりも背の高い?」

「はい、それは絶対です。式神にしてもだんなさんよりも上は駄目なのに、美登里さんよりも背の低い人は駄目でしょう」

 陸は腕組みをして、「うーーーーーーーーーーーーーーーん、難しいなぁ」と言った。

「美登里ちゃん、実は結婚する気ないよね? そんな条件」

 美優はあははと笑って、

「ええ、実は無理にはしたいとも思わないんですって。ただ縁があるなら、そういう男性がいいって話です。美登里さん、実はそういうガールズトークあんまりしてくれないんですけど、聞いた話を集めて整理するとそういう結果なんです」

 と言った。

「だいたい、美登里ちゃんよりも背が高い年頃の男が一族にそんなにいないぞ」

「だな。賢兄の嫁さんになる為に教育されてきたんだもんな。賢兄しか思いつかない」

「うーーーーーーーーん」

「でも、今回のお見合いみたいに一族外でもイチロー君が視える人と出会ったりしたみたいだし、縁があればきっといい出会いがありますよね!」

 話は終わった、という風に美優は立ち上がった。

 空になったカップや皿を集めて、流しの方へ持っていく。

 カチャカチャと洗い物をする美優の後ろ姿を陸はしばらく眺めていた。


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