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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第一章
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和泉と美優と赤狼とジュウガ

「あら?」

 と和泉が言った。

「へ?」

 と美優が顔を上げた。

 和泉は美優の側に大きな犬がいる事に気がついた。黒い毛と白い毛がまだらになっていて、足先だけが何故か白いソックスをはいているように白い。

 犬はすんません、という風に頭を下げた。

「犬神さんね」

 と和泉が言ったが、美優は首をかしげた。

 美優には視えないのだ、という事を思い出して、和泉はその話題をやめる事にした。

陸が美優の護衛に式神をつけているのだろう。

「それで美優ちゃん、就職といっても何か活動してるの?」

「ええ、まあ、その」

 美優がきょろきょろしている。

「どうしたの?」

「和泉さん、視える人ですよね? あたしに何か憑いてませんか? この間からなんだか、近くに何かいるような……いないような……」

「あら、少しは感じるのね」

「え! じゃあ、何かいるんですか!?」

「大丈夫よ。あなたの味方が側にいてくれるだけ」

「味方?」

「ええ、陸君の式神の犬神さんが側にいてくれてるわ。あなたは何よりも安全よ」

「陸先輩の?」

 美優はきょとんとしている。

「そうよ。陸君、あなたが心配でしょうがないのね」

 と和泉が笑った。

「いや~陸先輩ってそうなんですよね。昔から」

「昔から?」

「ええ、先輩って、よく動物を拾ってませんでした?」

「拾ってたわ。あの家の動物はみんな陸君が拾ってきたのよね。いつか賢ちゃんが犬小屋作るのに忙しいって言ってたわ」

「それなんです。先輩、可哀相な動物を見たら放っておけないんですよね」

「ああ、そうね。最近はイグアナまで拾って来たって」

「イグアナ……あたしもイグアナも同じなんです」

「ええ?」

「きっとあたしの事が可哀相で見てられないんです。先輩は本家の坊ちゃんで責任感が強いし、きっとあたしの事が放っておけないんです。でも、そういうのって……」

 美優はしゅんと頭を抱えた。

「そういうのって? 迷惑?」

「いいえ! ありがたいんです……ありがたいんですけど……きっとあたしだけじゃないんです。また可哀相な女の子がいたら手をさしのべてあげるんですよね。先輩って」

「ああ、そういう事ね」

 和泉はうなずいてから紅茶を一口飲んだ。

「同族って言っても、あたしは霊能力ゼロだし、他の女の子と比べられても勝てる気しないし、っていうか、多分、陸先輩の中で女の子でもないし。犬や猫を可愛がるのと同じだなんです」

「そうかしら。大事な犬神さんを護りにつけてるくらいだから、とても大事に思ってると思うけど?」

「それは同じ土御門だし……先輩すごくもてるんですよ。いっぱい彼女いるみたいだし」

「あらあら」

 お似合いだと思うんだけど、とは思ったが和泉が無責任に煽るわけにもいかない。

 美優の気持ちに反応したのか、犬神がきゅうんと小さく鳴いて首をかしげた。

「あなた、お名前は?」

 と和泉が聞くと犬神が顔を上げて、

「ジュウガと申します」

 と答えた。

「ジュウガって言うんだって」

 と和泉が美優に言った。

「え?」

「美優ちゃんを護ってる犬神さんの名前」

「ジュウガって聞いた事あります。陸先輩が一番最初に拾った犬の名前じゃなかったかな」

 ジュウガは嬉しそうにうんうんとうなずいた。

「そうだって。ジュウガ君もケーキ食べる?」

 和泉は新しい皿にケーキを切り分けてジュウガの前に置いた。

「ケーキ食べるんですか? 式神って!」

「そうよ。みんな甘い物が大好きなの……あら? 食べないの? ケーキ嫌いなの?」

 ジュウガは床に伏せてケーキを目の前にして悩んでいる。

「ありがたいのですが……赤狼さんの縄張りで……失礼があっては」

 とジュウガが言った。

「あら、赤狼君はそんな事で怒ったりしないわよ。ねえ?」

 と和泉が言うとぐるるるるる、と背後で唸り声がした。

「もう~怒らないでよ。いいじゃない。後で赤狼君専用の『赤ロー・ルケーキ』焼いてあげるから」

「グルルルルッ」

「じゃ、ブラッシングしてあげるから」

 ブラッシングの魅力には負けたらしく、赤狼がぬっと姿を現した。

 ひょいとソファに飛び乗り、和泉の側に寝そべる。

 和泉の膝に頭を置いて満足そうに目を閉じた。

 和泉はテーブルの下のカゴから赤狼のブラシを取り出して、その真っ赤な毛をブラッシングし始めた。赤狼の毛皮はふかふかでさらさらでシルクのように滑らかだ。

 だが美優には赤狼は視えない。ただ和泉の手がブラシを持って動いているだけだ。

 赤狼が横目で美優とジュウガを見た。ジュウガはブラッシングしてもらっている赤狼に、

「いいですなー」とうらやましそうにつぶやいた。

「わ! 視えた!」

 美優の前にソファに寝そべる赤狼が姿を現した。

「視えた?」

「真っ赤な大きい狼が……」

「そう、赤狼っていうのよ」

「どうしてあたしに視えるんですか」

 美優の目は赤狼を凝視している。

 赤狼はくわ~~と大きなあくびをした。

「赤狼君がその気になれば能力関係なく姿を見せる事が出来るんじゃない? ジュウガ君だってそうでしょ? 美優ちゃんに姿を見せてあげれば?」

「しかし、陸様には気づかれずにお側にいろと言われてますので」

 とジュウガは頭を下げた。

「でも……もう知っちゃったわけだし、気配は感じるのに見えないなんて、女の子は嫌だと思うわよ? ねえ美優ちゃん」

 美優はうんうんうんとうなずいた。

「ジュウガ君、とっても格好いいわよ」

 と和泉が言うと赤狼がひょいと頭を上げて、ジュウガにむかってガーーーーーーーと威嚇した。

「す、すみません、赤狼さん」

 と言い、耳を伏せて目を細めた大きな犬が姿を現した。

「わ、でっかい」

 と美優がびっくり仰天した。  

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