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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第四章
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赤VS金

「へ?」

 と和泉がぽかんとした瞬間、暗闇の向こうから何者かが勢いよく飛び込んできた。

 一瞬、和泉は自分の前で燃えさかっている炎が闘鬼に飛び移ったのかと思った。

 それは赤い大きな炎でよくよく見れば洞窟の中一杯に広がる炎の赤狼だった。

 闘鬼はふんと鼻で笑い、大きな太い腕で赤狼の突撃を止めた。

 赤狼は身を翻し、和泉の前に立つ。 

 燃える真っ赤な毛皮は赤狼の怒りで、鼻先に皺を寄せ牙を剝いて闘鬼を睨む。

「赤狼君!」

 

 続いて飛び込んできたオレンジ色と深緑の毛皮が和泉を護るように両側に寄り添う。

「和泉さん、こちらへ、この隙に御当主の元へ戻りましょう」

「ケーン!」

「へ、で、でも」

 和泉は睨み合っている赤狼と闘鬼を見た。

「や、やめましょうよ。この二人の喧嘩じゃどちらかが死んでしまうわ!」

「しょうがないっすよ」

 と緑鼬が言った。

「和泉さんを攫うなんて。そんな奴は殺すしか赤狼さんの気はおさまらないでしょうね」

「そんな~でも相手は闘鬼さんよ? 強いんでしょ? 以前に赤狼君がトウキドノ、とか言ってるの聞いたもん。赤狼君より強いんじゃないの?」

「ケーーーーーーーーーーン!!!!」

 と橙狐が怒気を含んだように一声鳴いた。

「え、何?」

「……和泉さんはデリカシーがないと言ってるですよ!」

 と緑鼬が冷たく言った。

「な、何よ。デリカシーって」

「先程の闘いで大怪我をして今にも倒れそうな身体で、それでも一番にあなたを追ってきた者に「弱いんでしょ?」はないんじゃないんすか!」

「え、あ、ご、ごめん……」

 和泉は頭をぽりぽりとかいた。

「だ、だって、赤狼君が怪我したら嫌だし」

「ケーーーーーーーーーーン!!」

 和泉は涙目で橙狐を見て、そして緑鼬を見た。

「鬼の急所とも言える目を一撃に潰した蛇神の蘭丸と互角の赤狼さんっすよ。千年後の鬼は日本で最強の妖かもしれないが、今、この瞬間では赤狼さんなら倒せる」

「だ、だから闘鬼さんには千年後の土御門を護ってもらわなきゃなんだから、倒しちゃ駄目なのよ~~な、なんの為に苦労してここまで」

 という和泉に緑鼬はぎろっと冷たい視線を送る。

「赤狼君、喧嘩しちゃ駄目~~」

 和泉は赤狼の身体を包む炎の毛皮にそっと触れた。

 熱くはないが拒絶するようにピシッと和泉の指を弾いた。

「赤狼君~」

 それでも和泉は赤狼の毛皮に両腕を置いた。 

 指先から流れ出る緑色の優しい光が赤狼の身体を包んだ。

 和泉自身も疲れ果ててはいたが、赤狼を癒さなければと思った。

 闘鬼を先程全回復ほどに癒してしまったのだ。

 万が一闘いになれば赤狼の不利だろう、何度も何度も自分の為に傷つく赤狼を見るのは辛かった。

「無理するな、自分の回復もまだだろう」

 と赤狼が言った。

「大丈夫よ。あたしの能力は底なしだもの。知ってるでしょう?」

「フ」 

 と赤狼が笑った。



 未来は変わるのだろうか。

 赤狼が闘鬼を倒さなかったからこそ、和泉はここまでこれたのだろうか。

 だが今ここで赤狼が闘鬼を倒したら……そんな事態もあり得るのだろうか。

 赤狼が闘鬼を倒したら、どうなるのだろう。

 否、そんな事にはならない、きっと千年後の闘鬼が許さないはずだ。

 自らの存在に関わるのだから、きっと止めにくる。

 では赤狼が闘鬼に倒されたら?

 闘鬼は千年生き、土御門は護られる。

 だが赤狼はいなくなる。それは嫌だ。 

 そうだ、止めるべきは闘鬼の方だ。


「闘鬼さん! やめて! 闘うなんてやめて!」

 和泉は闘鬼の方へ大声で叫んだ。

「お前がここに残ると言えば狼とイタチと狐、三匹とも命だけは見逃してやるぞ」

 と闘鬼がけっけっけと笑いながら言った。

 どうん!と気配がした。

 軽く見られた緑鼬と橙狐の闘気が上がった。


「ちょ、ちょっとちょっと~~やめて~」

 グルルルルと牙を剝いた赤狼が唸った。

 怒りのあまりに顔が歪んでいる。

 それに同調した橙狐と緑鼬も獣ならではの咆吼を上げた。

 力では闘鬼と互角の赤狼に橙狐と緑鼬が手を貸せば分が悪いのだが、闘鬼は薄ら笑いをしている。身構えるでもなく、地面に座ったままだ。 


「ちょっと~~千年後の闘鬼さん、どこに行ったのよ! 無駄な争いは止めてよ!」

 と叫んでみるが、どこからも返事もなければ姿を現すでもない。


「闘鬼さん、人間を側においといてもすぐに年を取るわよ? 私は千年もあなたの側にいられない。せいぜい五十年、ううん、この生きにくい時代だもの、二十年くらいで死んでしまうわ。運良く長生きしても十年後にはおばさんだし、三十年後には間違いないくお婆さんよ? しわしわで白髪頭。エステもないから美容にも気を使えない時代、髪もお肌もぼろぼろよ? 寒い、ひもじいって文句ばっかり言うわ。あなただけいつまでも若くて美しいなんて不公平じゃない。あなたはきっと汚く年をとったあたしなんか食べる気にもならないわよ」

 うふふと和泉が笑った。

「それに私は賢ちゃんの奥さんだから、この時代で生きていくにしても賢ちゃんの側にいるわ。あたしが汚く年をとった頃には賢ちゃんも汚いお爺さんだもん。公平でしょ? それに、賢ちゃんは五十になっても、六十になってもあたしの事が好きよ……多分ね。だからここには残れない。ごめんなさい。でもあなたはもう孤独じゃないわ。あなたはもう安倍のそして土御門の十二神筆頭に数えられる存在なんだもの。妖の仲間がいる、あなたを頼りにする人間達も大勢いるわ。あなたはもう悪妖なんかじゃんなく、これからは日本を救う一番強い妖になるのよ」


 和泉の言葉を闘鬼はやはり薄ら笑いで聞いていたが、肯定も否定もしなかった。

 赤狼は牙を剝いたままだが、

「緑鼬、和泉を連れて行け」

 とつぶやいた。

「はい」

 緑鼬が和泉の腹に頭を寄せた。

 ひょいっと身体を背中に乗せられ、「あわわ」となっている間に緑鼬の身体が宙に浮いた。

「捕まってないと落ちますよ」

 とつぶやいてから、身体の方向を変えて宙を走り出した。

 あっという間に洞窟を飛び出し、切り裂くような冷たい空気の中を飛んだ。

「でででで」

 和泉は慌てて緑鼬の背中の毛皮にしがみつく。背後を振り返るとオレンジ色の物体が後を追ってくるので、橙狐も飛び出してきたのだろう。

「赤狼君、大丈夫かしら?」


 橙狐が追いついてきた所で速度を緩めた緑鼬が、

「……振られもん同士で案外馬が合うんじゃないっすか」

 とつぶやいた。

「何よ、それ」

 和泉は緑鼬の背中で肩をすくめた。


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