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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第四章
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千年過去のそのまた過去

「ひさし、ぶりだ、な」

 と賢が言った。酷く疲れたような顔だが、大仕事を終えたという安堵感がある。

「うん、賢ちゃんの顔見たの二ヶ月ぶりくらい」

「おれ、なんか、三年ぶり、なんですけど」

「あ、そうか……賢ちゃん、平安時代で三年も一人だったの?」

「……ひじょうに、孤独でした」

「えー、可哀相に、ごめんね、賢ちゃん。寂しかったでしょう?」

「うん」

「私、賢ちゃんを巻き込むつもりなんてなかったのに。赤狼君だって」

「馬鹿、だ、な、俺が……和泉と離れて、生きていけるわけが、ないだろ」

「賢ちゃん」


 その横で赤狼がケッという顔をしている。 


「泰成様との闘い、大変だったんでしょ? 大丈夫?」

「もう、だめかも」

「そんな事言わないで、賢ちゃん」

 と和泉が賢の手をぎゅっと握った。

 ぽわんっと、緑色の光が二人の手の間で生まれ、その光は徐々に賢の腕から身体に上っていった。使い切って乾き、からっからだった賢の身体に気力が生まれる。

 

「いいよ、いずみ、お前も怪我してるのに、余計な力を使うな」 

 賢が和泉の手を離そうとしたが、

「駄目よ! 賢ちゃん、早く元気になってね」

 と和泉が言った。

「和泉」

(あ~、泰成に勝ってよかった……)

 と賢が儚い幸せに浸っていたその時。



「鬼! まだだ!」

 と紫の大蛇がどどどどどっと怒りの気をまき散らしながら這い寄ってきた。

 それに対して闘鬼以外の式神ははっと身構えたが、

「蘭丸! 控えろ!」

 と切り裂くような声が飛び、蘭丸の進撃が止まった。

「泰親様!」

 泰親が賢の前へ出てきた。子息達は後ろへ控えている。

「泰成が敗れた今、これ以上争うことは無意味」

「で、ですが、その鬼は泰親様が封印した悪鬼ですぞ! どうやって逃げ出したか知りませぬが、見過ごすわけにはまいりません!」

 蘭丸が叫んだ。 

 泰親はしげしげと闘鬼を見上げて、

「確かにわしが封印した鬼には違いないが、鬼よ、お前は何故、千年後の息子を助けるのじゃ?」

 と聞いた。

 闘鬼はふっと鼻で笑ったが、それには答えなかった。

 そして無言のまま庭の隅に視線を移した。

 庭に二メートル四方のしめ縄が張ってあり、邪を封じ込める呪言をしたためた札がついている。

 闘鬼はそちらへ歩いて行き、そのしめ縄の前に立つ。

「そうか……」

 と泰親がつぶやいた。

 賢も「なる、ほど」とかすれた声で言った。   

闘鬼は無造作にそのしめ縄を引きちぎる。その四角の中に入り、拳を握りしめる。

 そして力をこめた様子で、真っ黒い地面に拳をたたきつけた。

 

 どうんっと地鳴りがした。庭に立っている者は身体が揺れて、倒れたり転んだりした。

 和泉も慌てて賢の腕をつかんだ。

 どどどど、と地面が揺れて、亀裂が入った。

 闘鬼はその亀裂の中に右腕を差し入れた。

「闘鬼さんは何をしているの?」

 と和泉が賢へ聞いた。

「たぶん、救出だろう」

「救出?」  

 

 どどどどどとまた地鳴りがした。

 片足をついて右腕を亀裂へ差し込んでいた闘鬼の身体が動いて、がばっと何かを地下から引っ張り出した。その時に闘鬼の右腕がびよーんと何十メートルも伸びていたのが目に入って和泉は目を大きく見開いた。

 それは縦横二メートルほどの箱のような物だった。 

 闘鬼はそれを軽々と引っ張り上げて、地面に置いた。

「地下深く、何十人もの人足を雇い穴を掘って埋めたはずの封印箱を……」

 と泰親のすぐ側に立っていた長兄がつぶやいた。

 頑丈に作られた箱のようだった。

 箱全体に隙間なく強力な呪言が書かれている。

 鬼封じの呪言で護られている箱のはずだが、闘鬼はどうという事もなくその箱をひょいとまた持ち上げて地面にたたきつけた。

 その瞬間に中から素早い速さで、何者かが飛びだして来た。

「あ!」

 とその場にいる者、皆が同時に言った。

 中から飛び出して来た者は手始めに闘鬼に襲いかかった。

 だが、闘鬼の太い腕が素早くその者を殴り倒した。

 そして地面にどうっと倒れ込んだその何者かの背中を闘鬼の足が踏みつけた。

「ゲ!」

 とその者が言った。じたばたと闘鬼の足の下で暴れるが、どうしても逃げ出せない。

「あれって……」

 暴れるその者は酷く汚れた感じだった。

 身体中に苔や泥がまとわりついている。顔も汚れているし、元は何だったのか身体に巻き付けた着物のような布はすり切れて真っ黒だった。

 だが暴れる拍子に汚れた顔や頭髪から泥や苔が落ちる。

 その下に見える頭髪は明るい金のような色だった。

 よく見ると頭の上には二本の角が生えている。

「賢ちゃん、あれって……もしかして」

「ははは……」

 と賢がかすれ声で笑った。

「若いな。まだ子供の闘鬼か」

「若い時の闘鬼さんなの? 怪我してるわ」

 右目には元々黒いのか、それともただの汚れなのか分からない布が巻かれている。

 赤黒い膿のような粘着物がついている。 

 闘鬼が薄ら笑いのような笑みを浮かべて足下の若い鬼を見ている。

 ぱっと闘鬼が足を離した瞬間に素早く逃げ出そうとするが、またするすると闘鬼の腕が伸びた。あっという間に屋敷の塀を乗り越えて逃げようとした鬼の足を、長い長い闘鬼の腕が掴んで引き摺り下ろした。そのまま腕が縮み、若い鬼はずるずると地面をこすりながらまた闘鬼の元まで戻された。顔を上げて闘鬼を睨んでいる。

 闘鬼の腕が鬼の足を掴んだまま、上がった。

 そのまま地面にたたきつける。

 若い鬼は身体ごと地面にたたきつけられ、「ウゲェ」と悲鳴を上げた。

 何度かそれを繰り返される内に、若い鬼の怒りの気が上がってきた。

 身体が赤く光る。

 若い鬼は狂ったように暴れ、闘鬼の腕から逃れようとする。

 その放出される鬼の妖力は濃厚で強烈だった。

 安倍の子弟達は我知らず後ずさりし、式神達もそれぞれの主人の足下で蹲る。

「グルルルルッ」

 獣のような咆吼をしてから、若い鬼の身体が宙に舞った。

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