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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第四章
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過去からの召還2

「え?」

「きゃっ」

 神道場の床が酷く揺れた。

 陸と美優は足を取られ床に転げてしまった。

「痛っ」

「大丈夫か、美優!」

「は、はい」

 十神達もきょろきょろと辺りを見渡したり、様子をうかがうように耳をすましたりした。

「あ。闘鬼のだんなぁ」

 と銀猫が言った。

 いつの間にか道場の真ん中に金色の鬼が立っている。

 まだ地鳴りは続いているにも関わらず、闘鬼は慌てる風でもなく揺れに足を取られるでもなかった。ただ一点を見据えて道場の真ん中に立っていた。

 闘鬼は朋輩を振り返って、にやっと笑った。

「心構えろ。来るぞ」 

「え??」


 ゆらっと空間が揺れた。

 ぐにゃりと透明な空間が揺れて、ぱくっと穴が開いた。

「……い……でよ!」

 と遠いような近いような声がその穴から聞こえてきた。

「行くぞ」

 と言って闘鬼がその穴に足を踏み入れた。

「行くぞって、どこへ? にゃーーーーーーー!!!!」

 身体が急に引っ張られて、銀猫は黄虎の頭に爪をたててその力に逆らった。

 頭に爪を立てられた黄虎は両前足で頭を押さえた。

「キエーーーーーーーーーーーー」

 白露と黒凱が吸い込まれていく。身体の軽い銀猫も、そしてそれを追うように黄虎。

 緑鼬に橙狐、茶蜘蛛、水蛇が続き、身体の重い紫亀と青竜は最後まで残っていたが、仲間が皆行ってしまったので、やれやれという風に顔を見合わせながら穴に飛び込んだ。

 十一神が穴に入ってしまうと、空間の穴はしゅっと閉じた。

 同時に地鳴りもぴたっと止んだ。  


「何だったの?」

 と美優が言いながら陸を見た。

 陸は呆然とした様子だったが、すぐにはっと我に返った。

「あれは……まー兄の声だった」

「え?」

「式達は召還されたんだ……まー兄が十二神を召還したんだ! やっぱり、まー兄はどこかで生きてる! 式神を召還したんだ、きっとどこかで闘ってる! 生きてるぞ! まー兄は生きてる! こい! 美優!」

 陸が起き上がって、美優の手を引っ張って走りだした。

「せ、先輩!」

 長い長い土御門の屋敷の廊下を陸は大急ぎで走った。


 土御門の廊下は走ってはいけない、それは加寿子が子供達にきつく言い渡した掟だった。

 物心がついてから子供達は屋敷内の廊下を走った事がなかった。

 それはもう長い間皆にすり込まれた絶対的な規則だったが、そんな事はすっかり陸の頭から抜けてしまっていた。


「大変だ! 仁兄! 仁兄! どこにいるんだ?」

「仁様はリビングでふてくされてるよ」

 と紅葉が耳元で囁いた。

「紅葉! 先代と母さんも呼んできてくれ!」

「はいよ」

 紅葉の気配がふっと消えた。

 陸は美優の手を握ったまま、リビングへ飛び込んだ。

「仁兄!」

「……廊下は走るな」

 ソファにだらしなく座って仁が陸を見た。 

「そんな事言ってる場合じゃないよ!」

「なんだ、また賢兄にでも会ったのかよ」

 陸はにやっと笑って、

「違う、でも、声がした」

 と嬉しそうに言った。

「はあ? また夢見てんのかよ」

「そうじゃない、そうじゃない、本物だよ。本当にまー兄の声だった。やっぱりまー兄は生きてるんだよ! 道場の空間が割れて十二神達がいっせいに飛び込んで行った!」

「え?」

 ソファに深くもたれていた仁は思わず身体を起こした。

「召還したんだ。まー兄が十二神を召還した! きっとどこかで闘ってるんだ!」

「本当か? 陸!」

 という震えた声は陸の背後から聞こえた。

 陸は振り返って、

「本当ですよ、お父さん。な、美優も見たな? 紅葉も赤蜘蛛もその場にいたな? まー兄の声を聞いたな?」

 と辺りを見渡しながら言った。

 美優も小さい声で「はい」と言い、紅葉も赤蜘蛛もうなずいた。

「確かにあれは御当主の声だったねえ、何せ、闘鬼のだんなが先頭切って行ってしまったからねぇ。間違いないだろうね」

 と紅葉が言ったので、皆が顔を見合わせた。

「生きてるんだわ。よかった」

 と朝子が涙声でつぶやいた。

「だけど……」

 と仁がつぶやいた。

 そこへ、

「何事ですの?!」

 と美登里がやってきた。そして道場の中を見渡して、

「あら、十二神が視えませんけど?」

 と言った。

「まー兄が召還した」

 と陸が言うと、手で口を覆った。

「本当ですの?」

 と仁の顔を見る。

「陸がそう言うんだ。紅葉や赤蜘蛛も見たらしいから、本当だろう。賢兄の呼ぶ声で空間を割って皆が行ってしまったらしい」

「まあ、それではやはり、賢様はご無事でいらっしゃるんですね!」

 美登里が嬉しそうにだが、涙声で叫んだ。

「和泉さんのご様子はどうでしたの?」

「そこまでは分からないよ。美登里ちゃん。一瞬、まー兄の声がしただけだ。それで十二神……赤狼以外の十一神か、が歪んだ空間に吸い込まれて行っただけだから。でも間違いなくまー兄の声だったし、きっと和泉ちゃんも一緒にいると思うけど」

「そうですわね。では近々お戻りになりますね!」

「そうだよ、きっと戻ってくる!」

 雄一も朝子も涙顔でお互いに顔を見合わせてうんうんとうなずき、美優も目を真っ赤にしている。陸と美登里もテンション高い。

 ただその中で仁だけが言葉少なかった。

(過去か未来か分からないが、次元の違う場所から十二神を召還するという事はよほどの敵と遭遇していると考えられる……賢兄は一体何と闘ってるんだ……)

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