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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第三章
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仁は母性本能くすぐるタイプかも。

「仁様」

 と美登里が声をかけた。

「賢様は必ずお戻りになりますわ」

 と美登里がもう一度言った。

「俺だって無事に戻る事を願ってるさ。だけど時間は動いている。少し前に賢兄が言ったんだ。美優ちゃんが加奈子が戻るのをずっと待っていた時に、あてのないものを待つのは精神が、心が疲労する。だから早く美優ちゃんに真実を教えてやるべきだ、とね」

「仁様……」

「賢兄がいつ戻るのか、それとももう戻らないのか俺も早く教えてもらいたいよ」

「仁様! 賢様は必ずお戻りになりますわ!」

 仁は美登里を見てふっと笑った。

「そうなんだ、きっとね。美登里ちゃんや陸が何の心配もしていない、それが正解なんだ。俺だけが不安でどきどきしてるんだ。いつもそうだ。賢兄はいつも緻密になんでも計算してそれがうまくいく。陸は何も考えなくても何となくうまくいく。美登里ちゃんも陸みたいなタイプだろう? うまくいくと信じてるだけでうまくいく。いつだって自信満々な感じだもんね。俺だけがめちゃくちゃ考え込んでそれでもうまくいかない。そういうタイプ。いつだって本番に失敗するやつさ」

 仁はそう言って自嘲気味に笑った。

「私だっていろいろ考えてますわ。いつでも自信満々じゃございません」

「ははは、そうだね……」

「そうですわ。私にも不安に思う事はありますのよ」

 と言う美登里に仁ははははっと笑った。

「そうなの? 美登里ちゃんにもそんな事があるの? 美登里ちゃんは何でも自信満々だし、全ての答えを知ってるような気さえするよ」

「まさか」

「美登里ちゃん、どうして賢兄は時巡りに飛び込んだんだろう?」

 美登里はええ? という顔になった。そんな事は分かりきっている事ではないか。

「それは……和泉さんが」

「そうだよな。それは……分かってる。でも、賢兄は……行くべきじゃなかった」


 何故、賢は和泉を追って行ってしまったのか。

 仁はその事ばかりを考えていた。

 自分なら行かない。

 もし自分が土御門を背負う立場なら、どんなに彼女を愛していても行かない。

 全てを放り出してまでは行かない。行けない。きっとあの場で躊躇するだろう。

 賢は行くべきではなかったと仁は思う。無責任だ。

 戻ってこれなかったら、どうする?

 賢は自分勝手すぎる。

 この事態をどうする? 生死も分からない。どこへ飛んだかも分からない。 

 両親も泣いているし、神道会の者は途方に暮れている。

 指導者がいなくなった後の組織の崩壊をどうするつもりだ。

 賢は女一人にかまけて土御門を捨てたのだ。

 それは裏切りだった。

 賢は自分達全てを捨てて行ったのだ、と仁は思った。 


「そうでしょうか」

「賢兄は土御門よりも和泉ちゃんを選んだんだ。何を犠牲にしても土御門を守ると言ったすぐその後で、和泉ちゃんを取った。賢兄は躊躇もしなかった。和泉ちゃんの為なら土御門を捨ててもいいんだ」

 美登里はしばらく仁の顔を見ていた。

 仁の顔は親に怒られて途方に暮れた子供のようだった。

 頼るべき人がいなくなった不安という物はこれほどに精神に影響するのだ。

 それは自分も同じだ。賢の不在がこんなに心細いなんて。


「賢様は土御門を捨てて行ったのではありませんわ」

「帰れる確証もないのに不安定な時巡りに飛び込んで、過去へ飛んだか未来へ飛んだか、生きてるのか死んでるのかも分からないんだぞ? 後の事も考えずに、巨大な組織だけ残して、残った人間に心配かけて!」

 仁がどんっと机をたたいた。

 だが美登里は優しく、そして自信満々に答えた。

「例え巨大な組織と不安に思う人々を残していったとしても、後の事を頼れる兄弟がいると分かっているから賢様は行ってしまわれたんですわ」

「……」

「賢様が土御門の事を無責任に捨てるなんてありえません。仁様と陸さんがいると咄嗟に判断したからこそ行ってしまわれたんですわ。私はそう思います。もし賢様にご兄弟がいなければきっと行かなかった、行けなかったと思います。そもそも仁様と陸さんがいらっしゃるから和泉さんの事を諦めなかったんですわ。頼りになる弟達がいるから我が儘を通させてもらった、といつかおっしゃってましたもの。そうでなければ加寿子大伯母様にあそこまで反抗できなかった。きっと途中で諦めてた、とおっしゃってましたわ」

「美登里ちゃん、賢兄がそんな事を?」

「ええ、仁様と陸さんは自慢の弟で頼りになると。そもそも仁様や陸さんがいらしたからこそ、次代として厳しい教育にも耐えてこられたのじゃないでしょうか。賢様の優れた素質もおありでしょうけど、幼なじみの和泉さんがいて、そして仁様と陸さんが側にいてこその今の賢様ですわ」

 仁はふっと笑って、

「そんなに言われるとこそばゆいね。俺も陸も賢兄の代わりなんかとても出来ない。賢兄がいなくなったらなんて恐ろしくて今まで考えた事もなかったよ。賢兄と同じ事をやれなんて言われても絶対無理だと昔から思ってた。賢兄一人に苦労させて俺と陸は楽をしてたんだよ」

 と言った。

「今だって自分が苦労して後の土御門を背負うのが嫌なだけさ。だから早く戻ってもらいたいんだよ。俺はそんなに頼れる人間じゃない」

「大丈夫ですわ、仁様。賢様は必ずお戻りになります」

 

 仁は心細いのだ。

 賢と比べて仁は神経質だった。賢がいる時は先に心配れる頼もしい相棒で、賢が思いもよらない事まで先回りして心配する時がある。賢はそれを酷く感心していたし、頭が回る仁を頼りにしていたのは事実だ。

 賢が戻るまでに精一杯、仁のサポートをせねば、と美登里は思った。

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