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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第二章
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和泉VS加奈子2

「あら、御本家の奥様はまるで美登里さんみたい、って加奈子さんが言ったのよ? 今更、あたしに奥様押しつけられても。もう美登里さんが本妻さんでいいわよ」

 と和泉がふふっと笑ったので、燿子はむっとした顔で、

「和泉さんがいいならようございますよ。私どもは別に」

 と言った。

「そうでしょうね。別に何の役にもたってないのは、加奈子さんも同じですもんね。土御門の穀潰しって点ではあたしも加奈子さんも同じ穴の狢よね」

「一緒にしないでよ。あたしは座ってるだけの人形じゃないわ! あたしは優秀な能力者よ! 歩けもしない、役立たずのくせに!」

 と加奈子が叫んだ。

「霊能力ならあたしだって持ってるし。っていうか、土御門って半数以上は能力者じゃない? そういう自慢、格好悪いわよ? それに足の速さを競う家業ならともかく、霊能力なんだもん。歩けなくてもあんまり支障なくない? むしろ座ってるほうが精神を集中しやすいわよ? 今度やってみたら?」 

 凹まない和泉に加奈子がぐっと言葉に詰まる。

 足が不自由な事と、それによって本家の奥様業を担えていない、という事は和泉にとっては酷く悲しい事実ではあるが、今日の和泉はそこを叩かれても痛くも痒くもない様子だった。

「土御門において確かに能力者を生み育てていくのは大切な事だけど、能力者だけで土御門を作り上げたわけじゃないでしょ? 優秀な能力者だからっていばるのは間違いだと思うわ。将来、美優ちゃんからすごい能力者が生まれるかもしれないじゃない。霊能力が表に現れてる人が偉いってわけでもないと思うけど」

「美優なんかから能力者が生まれるわけないでしょ!」

「それは分からないわ。うちの両親だって表立って能力者でもないし。それに美優ちゃんが陸君と結婚して子供を産んだら、優れた能力者が生まれると思うわ。それに陸君と美優ちゃんなら仲のいい幸せな家庭を築ける。加奈子さん、あなたが美優ちゃんの身体を乗っ取って陸君と結婚しても幸せになれない。今のあなたでは皆を傷つけて、自分も不幸になるばかりよ。分かってるんでしょう?」

 加奈子はふんっと横を向いた。

「偉そうに言わないでよ。あたしがこんなになったのも、元はと言えばみんなあんたのせいじゃない! あんたと賢兄さんが加寿子大伯母様に逆らうからあたしは殺されたのよ!」

「そうやって人のせいにばかりしてるから、誰も愛してくれないのよ」

 和泉の言葉に加奈子の顔がひきつれている。

 自分でもどうしようもないほどの怒りで、顔中が痙攣している。

「あなたが可愛いのは自分だけ。自分だけしか大事じゃない人は誰も大事にしてくれないし、愛してもくれない。あなたのお母さんがそういう風にあなたを育てたという部分だけは同情するわ。そのお母さんを諫めもせずに嫌な事には目を背けてきたお父さんはこんな事態でもまだ黙っているしかしない。本当に加奈子さんは可哀相な子供だわ」

 和泉がちらっと正三郎を見た。正三郎は青ざめた顔で下を向いた。

「加奈子は神の娘とまで呼ばれて、信者は皆が加奈子に平伏していたのよ! 加奈子の顧客は政治、経済界にまでいるんだから! 皆が加奈子の進言を待ってる。加奈子が日本の政治を支えてきたと言ってもいいくらいよ! その加奈子に向かってよくもそんなことが言えるわね! あんた最近能力が開花したらしいけど、少しのぼせ上がってるんじゃないの?!!」

 逆上したのは燿子だった。

 和泉はふっと笑った。

「霊能力が開花したくらいでのぼせあがるなんて、どれだけ楽しみの少ない人生なの? 他に楽しみないの? それに加奈子さんの進言で政治が決まるなんて……どうりで最近、信頼出来ない政治だと思ったら」

 

 喧嘩上等の体勢に入った和泉に加奈子が適うはずもなかった。

 つまりそれは、しつけもされておらず常識も知らない加奈子がお嬢様育ちだったという事だ。友達もいない、きちんとしつけられる人間が側にいない、霊能力で卜いさえしていれば褒められ、欲しい物は何でも手に入る。我が儘言い放題で、言った事は全てその通りになる。気に入らない事にはヒステリーを起こせば大抵は母親が何とかしてくれる。

 だから友達と喧嘩をした事もなく、言い負かされた事もない。理論的に相手を言い負かす技が身についていない。ちょっとした悪巧みならば頭に浮かぶが、底が浅くてすぐに論破される。

 正しい愛情も躾も与えられずに、霊能力だけを搾取され続けた加奈子は被害者である。 正三郎・燿子夫妻のした事は、美優には放置する虐待であり、加奈子には優しい虐待であった事は間違いない。


「あ、あんたには加奈子に土下座して謝って欲しいくらいだわ! 加奈子は殺されたのよ! あんたのせいで加奈子は死んだのよ!」

 和泉は少し黙って、燿子を見た。

 言うべきか言わないべきか、悩む言葉がある。

 これを言ったら、自分も嫌な人間になってしまうような気がする。

 人の弱点を突いて相手をやっつけるのは気持ちのいい物ではない。

 だが、和泉は。

「土下座して謝れですって?」

 と言った。

「そうよ」

 ふんっと鼻を鳴らして燿子が答えた。

「へえ、そう。じゃ、お伺いしますけど、先年、加奈子さんが起こした交通事故で亡くなった方に土下座して謝罪したんですか?」

「……」

 途端に燿子の目がきょろっと宙をさまよい、加奈子も唇を噛んだ。

「億に近い賠償金も結局はお義父様が融通して先方とは話をつけてくださったんですよね。その間、あなた方、何をしてたんです? 逃げ回って、くだらない企みでお金の勘定ばかりしてたんでしょ? あげくの果てに妹を人質にとって、周りの優しい人達を困らせて、一体、何様のつもりです?」

「……」

 燿子は何か言い返そうと口を開きかけたが、うまい言葉が見つからなかったようでまた口を閉じた。加奈子は真っ青になっているがそれは自責の念というわけではなさそうだ。

 怒りのあまり言葉もない、という風に見えた。

「加寿子大伯母様の件は確かに私にも責任はあるわ。でもその事を引き合いに出してまで、美優ちゃんの身体を乗っ取る理由にはならないわ。あなた方は加寿子大伯母様と同じ事をしようとしている。加奈子さん、あなたは土御門を名乗る資格はもうない。あなたはすでに悪霊よ」

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