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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第二章
31/92

要求

「美優」

 と声をかけると美優は振り返った。

 にこっと笑う笑顔も「陸先輩」という声も美優のものだ。

 陸は美優がいる客間に入って行った。

 もうすぐ兄達が来る時間だ。それまでに自分が先に確かめておきたい。

「本当は加奈子なのか?」

 窓際に立っていた美優の振り返った顔から笑みが消えた。

「陸先輩、どうしてそんな事言うの? 姉さんは殺されたんでしょ? 賢さんに」

 陸は首を振った。

「加奈子を殺したのはおばあさんだ。まー兄じゃない」

「そうかしら」

「ああ、でも、加奈子は死んじゃいない、そうだろう? おばあさんに身体を乗っ取られた加奈子が今度は美優の身体を乗っ取ったんだ。身体はおばあさんに殺されたが、霊魂だけは無事だったんだろう? お前には気の毒だが、加奈子、美優を返してくれ」

「あらぁ、もうばれちゃってたんだ」

 美優の顔で加奈子はけらけらけらと笑った。

「加奈子、何を考えて美優を!」

「だってぇ、身体がないんだもの。美優の身体でも使わなくちゃしょうがないじゃない」

「美優は?」

「さあ……」

 加奈子は肩をすくめて見せた。

「加奈子! 美優はお前の妹だぞ?」

「そんな事、知ってるわ。土御門に生まれながら霊能力のかけらもない無様な妹」

「加奈子!」

 ドアがノックされてから開いた。

 賢と仁、美登里が入ってきた。

「ご機嫌はいかがですの? 加奈子さん」

 と美登里が言った。

「は、そういう事。皆であたしをよってたかっていじめに来たってわけ」

 加奈子は腕組みをして、どさっとソファに座った。

「あたしだって被害者だわ。そうでしょ? 加寿子大伯母様に殺されたのよ!」

「確かに、だが、美優ちゃんを犠牲にするのは間違っている」 

 と仁が言った。

「加奈子さん、美優さんはどうしてますの?」

 と美登里が聞き、加奈子はくすくすと笑った。

「身体のずっと奧の方で縮こまって寝てるんじゃない。身動き一つできないみたいよ。あたしには昔から逆らわない子だったしね」

「何て酷い……」

 と美登里が眉をひそめた。

「目的はなんだ? 望みは?」

 賢が言い、加奈子の前に座った。

「そうねえ、賢兄さんのお嫁さんなんてどう?」

「残念だったな。俺はもう結婚してる」

「離婚すればいいじゃない。足が動かないなんて、何の役に立つっていうの」

「和泉はいるだけでいいんだ。座ってるだけで可愛いから」

 と賢が言ったので仁と美登里が少しだけ笑ったが、陸は賢の軽口にも突っ込む余裕がないようだった。

「言ってくれるじゃない。とりあえず、両親の破門は解いてもらうわ。呼び寄せてここで一緒に暮らす。いいでしょ? 部屋なんか一杯余ってるんだもの。それに賢兄さんが駄目なら仁君でも陸君でもいいわ。あたしと結婚するっていうのはどう? あたしだったら美優なんかよりずっと霊能力の高い子供を産めるわ」

 そう言って加奈子は笑った。

 見かけは美優そのものだが、中身が違う。

 美優の笑顔にどす黒い気が見え隠れする。

「断ったら?」

 と言う賢に、

「本家は美優が可愛くないのね? あたし同様、美優も見捨てるの? まあ、霊能力もない娘なんて土御門じゃいらないわよね」

 と加奈子が答えた。

「破門を解いて両親とここで暮らせば満足なのか?」

「さあ、それはどうかしら」

 加奈子は挑戦的な瞳で賢を見た。

「それはそうと、和泉ちゃんは?」

「役目以外でお前に会いたがる人間はここにはいない」

 と賢は冷たく言ってから立ち上がった。

「破門の解除とここで暮らすというのは受け入れるが、それ以上は無理だ。美優を解放して、おまえは来世に備えろ。霊魂のままいつまでも現世でうろうろしていたら、碌な事にならないのは承知してるだろう」

 加奈子はふんと横を向いた。

「力づくで追い出す羽目になるぞ」

「美優を見殺しに出来るの?」

 賢は加奈子を見下ろしていたが、

「俺はそんなに優しくない。特に和泉に余計な負担をかける人間にはな。加寿子ばあさんの時にそれは証明したはず」

 と冷たく言った。

「美優を殺すわよ! 身動き出来ない美優の魂を潰してやるくらい簡単よ!」

「お前が殺すか、俺が殺すかの違いだったら、姉に殺されたほうがましかもな。俺もその方が楽だ」

 賢の巨体は加奈子を見下ろした。その冷たい表情に加奈子は唇を噛んだ。


「まー兄!」

 たまりかねた陸が二人の間に割って入った。

「まー兄、加奈子を刺激するのはやめてくれ。加奈子は本当に美優を殺してしまう!」

「だったらお前が説得しろよ」

 賢はそう言い捨ててから部屋を出て行った。


「加奈子さん、どうするおつもりですの?」

 美登里が言った。

「別にどうもしないわ。このまま美優の身体を借りて生きていく」

「美優さんは? 妹の人生を犠牲にしてまでですか?」

「そうよ。あたしだってまだ二十三才だったのよ? まだまだやりたい事だってたくさんあったわ。加寿子大伯母様にいいように使われて、殺された。身体も能力も奪われた。あたしの時は誰も助けてくれなかったのに、どうして美優の時には皆が血相変えて慌ててるの? 美優なんて霊能力もないじゃない。あの子の取り柄なんて性格が明るいってだけじゃない。何言ってもへらへら笑ってるだけで。美優とあたしだったら、あたしの方が優秀よ。美優よりもあたしの方が土御門の役にたつわ!」

 加奈子の叫びは悲鳴のように聞こえた。

 それは酷く悲しい声だった。

「加奈子……どっちが役に立つとかじゃないだろ? 姉妹なんだぞ? 妹を犠牲にしてまで手に入れた人生で本当にお前が幸せになれると思ってるのか?」

 と仁が言った。

「なれるわ。今度こそ、うまくやるわ!」

 うふふふふと加奈子が笑った。


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