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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第一章
25/92

開始

「やっぱり……そう思う? 美優ちゃんの人が違ったように感じるのもそれのせいじゃないかしら」

 と和泉が言った。

「まあ」

 と美登里が口を手で押さえた。

「そうか、それなら納得出来るな。俺も美優ちゃんらしくないなと思った」

 と仁も言った。

「ではあの美優さんは中身が別人だとおっしゃるんですの?」

「ええ、あたしはそう思うの。誰か別の霊魂が美優ちゃんの身体を使っているんじゃないかしら。どう?」

「なるほどそれは確かにあり得る話だ」

「その誰かの霊魂を追い出して美優ちゃんを助けられるの? 賀茂の陰陽師と戦って?」

 と和泉が賢に聞いた。

「難しいな。うちでも賀茂に伝わる呪法は大体の所は把握しているが、門外不出の物あるだろうし、一族の中でも各家にだけ伝わる一子相伝のような術もある。何の霊魂が美優の身体の中に入っているのかが分からないのも問題だ。仁の話ではそう力量のある陰陽師ではなさそうな感じだが、どんな術を身につけているかは分からない。そいつを捕まえてみないと始まらないな」

 と賢が言った。

「時系列で考えてみたの。あたしが大伯母様を最初に見た時、親族の中で何人かが入院して亡くなったりした。これはもちろん大伯母様に能力を乗っ取られたせい。北の別荘で大伯母様と賢ちゃんが対峙した時、大伯母様はすでに時逆の封印を完璧に解いていた。若く美しい娘の姿であたし達の前に現れた。つまり、この時点で加奈子さんは全ての能力を吸収されていた死亡していたと思われる。美優ちゃんが加奈子さんの日記を読んで事態を知ったとしても、加奈子さんの知っている事は自分が亡くなるまでだと思うの。靜香伯母様はまだ亡くなっていないのよ。なのにどうして美優ちゃんは靜香伯母様が亡くなった理由が加寿子伯母様に能力を乗っ取られたって事を知っているのかしら?」

 と皆に疑問を投げかけた。

「それは父親か母親が美優ちゃんに教えたんじゃない?」

 と仁が言った。

「そうかしら? 美登里さんでさえ最近まで知らなかった事実よ? お義父様やお義母様、それに賢ちゃんが一族内でも他言無用とした事の顛末を本家に顔も見せないあのご両親がどうして知っていると思う? 加奈子さんを使い捨てた加寿子伯母様があの両親と通じていたとも思えないわ。加寿子伯母様が加奈子さんに靜香伯母様の能力も全て奪い取って時逆を取り戻すと言っていたのかしら? それはないと思うの。そんなことをしたら、加奈子さんが警戒する。あの時点で加奈子さんが本気で加寿子伯母様に対抗したら、若さでも能力でも適わないでしょう? 加寿子伯母様は加奈子さんに気取られないように能力を盗まなければならなかった。加奈子さんが気がついた時にはもう遅かったんじゃないかと思うの。全てにおいて、加寿子伯母様は自分一人で全ての事を進めたと思うんだけど。どうかしら?」

 和泉が気になっている点を一気に話した。

「それで結論は?」

 と賢が言ったが、それはすでに答えに気がついてしまったというような顔だった。

 仁も美登里もじっと和泉の顔を見ている。

「美優ちゃんの言葉は全部がまるですぐ近くで見ていたように感じない? 加奈子さんの死、靜香伯母様の死、あたしが足を理由に美登里さんに本家の仕事を丸投げしているって事。美登里さんが本家の奥様のようだって、みんな言ってるって……美優ちゃんがどうしてそんな事を知っているの? 陸君が言ったのかしら。そうね。冗談だったら、そういう事も言ったかもしれない。でも、あたしが美登里さんに雑用させてるって、陸君が美優ちゃんにそんな風に言うかしら? まるで悪意があるように言うかしら?」

「では……」

 と美登里が言い、ゴクッと喉を鳴らした。

「加奈子さんは……加寿子伯母様に霊能力を乗っ取られた。身体も遺棄された。だから今度は加奈子さんが美優ちゃんの身体を乗っ取ったんじゃないかしら」

 和泉の言葉で一瞬だけその部屋の時間が止まった。

「では、では、あの美優さんは中身は加奈子さんだと?」

「ええ、そう思うの。ねえ、美登里さんは美優ちゃんと昔から面識はあった?」

 美登里はかすかに首を振った。

「加奈子さんは昔から問題児でしたから、よく知っておりましたけど、美優さんはあまりお会いする事もなかったですわ。美優さんは一族が会する新年にもおいでませんでしたから。霊能力が全然ないというお話ですし、修行も勉強会も来る事はなかったですわ。実を言うと、お顔もほぼ忘れておりましたのよ」

「だったらこの間、美優ちゃんが美登里さんに最後に言った言葉がおかしくない? いい子ちゃんぶっちゃって、そういうとこ昔から嫌いよって言ったのよ。あたし、加奈子さんが美登里さんの事を苦手って言ってたのは聞いた事があるわ」 

「まあ……では、加奈子さんは霊魂だけの存在ではあるけれど、生きていたという事ですわね」

 和泉は深いため息をついた。

「美優ちゃんが賀茂に何かされたのは間違いないと思うの。でもそこから加奈子さんが生きてるという憶測が正解かどうかは分からないわ。ただ、あたしがそう思っただけなの。それをどう思うかみんなに聞いてみようと思って……思い過ごしと言われた気が楽かも」

 和泉が悲しそうな顔で賢と仁を見た。

「和泉の予想が当たったとすると、加奈子はかすかな霊意識で生き延びていたんだろう。そして自分の霊能力を奪ったばあさんの近くに漂い、俺達の戦いの一部始終を見ていた。ばあさんが死んだ瞬間に自分の能力を取り戻した。そして俺達には気づかれないように用心して、計画を立てた。死人に取り憑き、母親と共謀して賀茂の末裔を雇い、妹を誘拐する。失った身体は妹の生きた身体で補える。血族の身体は他人よりもすぐに馴染むだろう」

「そんな恐ろしい事を企むなんて……」

 と美登里がつぶやいた。

「気になるのは美優ちゃんよ。加奈子さんに身体を乗っ取られてからどうなったの? 美優ちゃんの意識はどこにいったの? 追い出されたの? まさか……」

 賢はその和泉に問いに賢は首を振った。

「美優を殺しては何もならない。美優を人質にしてこそ有効な手だ。美優に成りすます気は最初からなさそうだしな。あれだけの暴言を吐くんだ、敵対する気は満々だろう。加奈子は美優を手中にしている。だからこそ俺達は手出しできない。加奈子は俺達に復讐を開始したんだ」

「復讐……」

 と仁が賢を見て、

「そうだ」

 と賢がうなずいた。

「土御門の乗っ取りだ」


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