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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第一章
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暴言

「な、何よ、美登里さん、本家の為って言ってその本家に姉さんは殺されたのよ! 靜香伯母様だって!」

 と美優は言ったが、美登里の静かな視線にすぐに目線をそらした。

「ふん、何よ。いい子ちゃんぶっちゃって、そういうとこ昔から嫌いよ」

 美優はぷいと美登里に顔を背けた。


「美登里さん、ありがとう」

 としばらくの沈黙の後で和泉が言った。

 美登里は和泉を見てから、

「和泉さん、あなたも泣いているだけでは何も解決しませんわ。あなたが大伯母様の事どうお考えなのか、加奈子さんの事や美優さんのこれからをきちんと話しあわなければなりませんわ」と言った。

 美登里の言葉に和泉は深くうなずいた。

「ええ、そうね」

 和泉が美優を見ると、美優はふふん、という顔で和泉を見た。

 和泉は立ち上がった。

「今日はもうこれで帰ります。美優さんも無理しないでゆっくり休んだ方がいいわ」

 賢が手を貸し、和泉はゆっくりと部屋を出て行った。

「大丈夫か、和泉」

 と和泉の手を引きながら賢が気がかりそうに彼女を見た。

 美優の罵倒は許せないものだが、賢には予測がついていた。仁や陸を失ったら、自分でも誰かにあたらずにいられなだろう。いつかは和解しても、すぐには無理な話だ。ましては二十歳やそこらの娘で、同時期に両親をも失ったのだ。自分だけ土御門に残れる、としてもとうてい平静ではいられないだろう。出来れば和泉と接触させたくはなかった。


 陸は美優の側についているのか出てこない。

 誰よりも悲しいのは陸だろうと和泉は思った。美優の言い分はもっともだが、陸はそれを美優から聞きたくなかった。賢に罪はないという、美登里の理屈が正解だとしても美優がそれを受け入れるかどうかは彼女の自由だ。

 美優はそんな娘ではない、というのは陸の幻想で、押しつけだ。

 だが和泉も美優はそんな娘ではないと思っている。

 それの正解を探さなければならないというのが今の最重要事項だ。 

「賢ちゃん、先に帰るわね」

「大丈夫か? なんなら今日はこっちに泊まっても……」

「ううん、平気、ちょっとゆっくり考えたい事があるから」

 心配そうな賢達をよそに和泉は本家を辞した。

 考える事があった。

 調べる事も。 

 気になる事は山ほどあった。


「ごめんなさい、陸先輩……」

 二人きりになった後、美優が小さい声でそう言った。

「あんな事、言うつもりじゃ……」

「美優」

 と陸は彼女の名前を呼んだが、気にするな、とは言えなかった。

 兄が美優を両親と切り離して助けるつもりなのは確かだ。だが美優はよりによって和泉を責め立ててしまった。和泉と敵対するならば美優は土御門にはいられないだろう。何より賢が許さない。加奈子の事を割り引いて美優を土御門で助けると判断をしたばかりなのに、美優は和泉の足の事まで持ち出して彼女を侮辱してしまった。

 どう謝っても賢の怒りはおらまらないだろう。もう遅いかもしれない。

 美優が土御門にいられないとなった時に自分はどうすればいい。

 美優を守る為には陸は土御門を捨てるという決断を迫られる。

 土御門を捨てる、という事は兄達との縁も切らなければならないという事だ。

 式神達も全て土御門へ返して、美優と二人でよその土地で生きていくという事だ。

 兄達は反対するだろう。だが、今、自分が美優を見捨てれば彼女はひとりぼっちになる。

 美優にはもう両親も姉もいないのだ。

 

「あたし、もうここにいられないよね」

「そんな事はないよ」

「でも、賢さん、すごい怒ってたし。追い出されるかな。そうしたら、陸先輩ともお別れだね。親もどこへ行ったか分からないし……あたし、ホームレスの運命かな」

「追い出したりはしないし、この先の事も心配するな」

「陸先輩……」

「お前もいろいろあって混乱してるんだ。少しの間は何も考えないで休め、いいな」

「うん、ありがとう……先輩」

 またベッドに横になる美優に布団を掛けてやってから、ため息とともに陸は部屋を出て行った。

 美優はごろんと寝返りを打って、ドアの方へ背を向けた。

 それからクスクスと笑った。



「陸」

 リビングのソファに埋もれるように座り込んで考えていた陸は名前を呼ばれて顔を上げた。

「話は聞いたぞ。美優ちゃんがやらかしたらしいな。和泉ちゃんに暴言吐いて、美登里ちゃんにこてんぱんだって?」

 と言って仁が笑った。

「う……ん、まあ、そんなとこ」

「気持ちは分からんでもないけどな、なんか、らしくないな。美優ちゃん」

「そうなんだ。美優は和泉ちゃんの事が好きみたいに言ってたからさ、例え、真実を知ったとしてもあそこまで和泉ちゃんを責めるとは思わなかった。加奈子が品行方正な姉だったというならともかく、自分も今まで随分と加奈子の犠牲になってたのに」

 仁は陸の向かいに腰を下ろした。

「賢兄はかんかんだぞ。和泉ちゃんの足を罰が当たったとか言ったらしいな」

「そうなんだ……」

 陸は頭を抱えた。

「賢兄も今までは少しは美優ちゃんにすまないと思うとこがあったみたいだけど、今回の暴言で親と一緒に放り出すべきだったと言ってたぞ」

「え~」

「賢兄にとって和泉ちゃんへの暴言は絶対タブーだろ」

「うん」

「俺も美登里ちゃんと話したんだけどさ、美登里ちゃんは靜香おばさんの死は和泉ちゃんと賢兄には関係ないときっぱり言いきった。美登里ちゃんは加寿子ばーさんの暴走だって事は理解してる。お前は美優ちゃんにもそういう判断を望んでいたんだろ?」

「うん、望んでいたっていうか、美優の性格だったら……と思ってたけど。人間、分からないもんだ。俺の勝手な思い込みだったんだね」

「この先、美優ちゃんが考えを改めないと、ややこしい事になる。もちろん、無理に考えを変える必要はないさ。美優ちゃんが賢兄と和泉ちゃんが憎いと思うなら、仇と思って生きていけばいい。だがそうなるとこの先、土御門に残るのは無理だ」

「うん……」

「和泉ちゃん、美優ちゃんの言葉を聞いて泣いて謝ってたらしいじゃないか。そりゃ、賢兄も怒るよ」

「……」

「だけどこんな事でお前が土御門を抜けるのは許さない。賢兄もきっとそう言う」

「仁兄」

「美優ちゃんに同情して、一緒に出て行こうなんて思うなよ」

「でも、美優はひとりぼっちだ。親も姉ももういない。親が破門されたんだ。この先、どこの親戚も美優に力を貸してはくれない。美優は天涯孤独の身になってしまったんだ」 

 仁は頭を抱える陸の肩をぽんと叩いて、

「だったら美優ちゃんを説得しろ。せめて賢兄には謝るように言うんだ」

 と言った。


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