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土御門ラヴァーズ2  作者: 猫又
第一章
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賢と陸

 土御門神道会本館、朝八時半、ぞろぞろと出勤する者達がやってくる。

 朝の挨拶を交わしながら、にこやかに仕事につく。

 特殊な職種でもあり、一族の者が大半をしめるので全体の雰囲気はおだやかである。

 個人的にはそれぞれに思う事もあるだろうが、特に問題を起こしたり、酷く仲間に嫌われて孤立している者はいない。あの加奈子でさえも集団の中では大人しく、近年では真面目に修行に励んでいた。

 朝はぎりぎりに駆け込んで来て席でネクタイを直すのは陸である。もちろん賢に見つかれば怒られる。代替わりする前ならともかく真面目な賢は身だしなみには非常に厳しい。 

 今日も陸が執務室へ入った時にはすでに賢が自分の席に座っていて、じろっと陸を見た。

「おはよーございます」

「おはよう」

 と返事をしてから賢は立ち上がると書類を手に執務室を出て行った。

 と同時に、ぴんぽんぱーんと館内放送が流れた。

「土御門陸様、至急、代表のお部屋までお急ぎ下さい」

 オペレーターの娘の声が流れる。

「ん?」

 と陸が顔を上げる。

「今、無言で横を通っていったじゃん、どうしてわざわざ館内放送で呼び出すかなぁ」

 ぶつぶつ言いながら立ち上がる。

 横にいた仁が、

「何かやらかしたのか?」

 と言った。

「え? 何も……やってないと思うけど」

「最近、遅刻すれすれが多いからじゃないのか」

「え、すれすれだけど遅刻はしてないよ」

「間に合えばいいという態度が賢兄の逆鱗に触れるって事を覚えとけ」

 再び、ぴんぽんぱーん

「土御門仁様もついでにお急ぎ下さい」


「なんだよ、ついでにって」

 と言いながら仁も立ち上がった。

 賢の部屋、歴代の当主が使用する部屋は最上階にあり、客を迎える事もあってすばらしく豪華な造りになっている。

 代替わりする度に新しい主に似合う部屋に改装される。先代の雄一の時は凝った和風な部屋だったが、賢に変わってからは近代的なオフィスのような仕様になっていた。

 陸が慌ててネクタイを直してから上着を着た。

 仁がこんこんとノックしてドアを開けた。

 賢は机に座って書類を見ていたが、二人が入ってきたので顔を上げた。

「お呼びですか」

 と仁が言った。さすがに仕事場では敬語に変わる。二人は賢の机の前に並んで立った。

 賢は仁を見て、

「仁に用はないんだがお前の意見も聞きたい。どうせ後から耳に入るだろうからな。話は陸にある」

 と言った。

 内心、げ、と思いながら、陸は「はい、何でしょう」と言った。

「お前、加奈子の妹とつきあってるらしいな」

「え」

 と陸が言い、

「え、まじで? いつの間に」

 と仁が言って陸を見た。

「つきあってるわけじゃないけど」

「いろいろと面倒見てるらしいじゃないか」

「うん、まあ、家がごたごたしてるから」

「どこまで面倒みるつもりか知らないが、加奈子を待っていても無駄だという事は教えてやれ」

「え! それは……」

 陸は弱気な顔をして賢を見た。

 仁が腕組みをしてから、

「加寿子おばあさんの事まで全部?」

 と賢に聞いた。先日、美登里に問いただされた事が頭をよぎった。 

「もちろんだ。妹には知る権利があるし、俺達には知らせる義務がある」

 仁は陸を見た。陸は唇を噛んで、不安げな顔で兄達の顔を見渡し、

「どうしても?」

 と言った。

「どうしてもだ。お前に特別な感情がないとしても、そうやって世話を焼いてるうちに、妹がお前に恋愛感情を持つかもしれない。その後で真実を知らせるのは酷だと思うぞ」

「……」

 陸は返事も出来ずにうつむいた。

 出来れば言いたくない。美優の悲しい顔は見たくなかった。自分の前で必死で涙をこらえるだろう姿は容易に想像できる。

「お前達にも少しは話してあったが、土御門正三郎、燿子夫妻は一族から破門する。加奈子を代表にしている神の会も解散、一族内で関わっていた者にも処罰を与える」

「破門って、まー兄! 処罰を与えるって話は聞いたけど、破門って……」

 陸が顔色を変える。

「俺はそんなに優しくない。先代の頃から考えてた。俺に代替わりしたら一番に叩きつぶしてやるってな。加奈子がきちんと修行をして、ここで陰陽師として働くなら考えてもよかったが、それももう無理な話だ」

 賢は酷く冷酷な顔でそう言い放った。

「賢兄、加奈子の両親は破門、じゃあ、妹は?」

 と仁が聞くと、

「まー兄、美優は関係ないんだ。実際、継母から加奈子の代わりをさせられそうになって家を出てるんだ。美優は加奈子の神の会には関係ない!」

 と陸が必死にそう言った。

「妹の進路はどうなんだ?」

 と賢が陸に聞いた。

「え?」

「大学生だと聞いた。卒業後、土御門で働くつもりなのか? 加奈子に全て配分されて霊能的な力は皆無らしいな。全然別の職種につくのなら、土御門の名前に固執する理由はないだろう?」

「あ、ああ、それはそうだけど……破門される者として名前が残るなんてあんまりだよ。まー兄、頼むから美優だけは勘弁してやって!」

 陸が賢の机にばんっと両手をついた。

 賢はしばらく考えていたが、

「陸が加奈子の事を話せば破門された方がましだと自分から言うかもな。お前が妹を大事に思っているのは分かるが、事実を告げれば俺達を恨むようになるかもしれない」

 と言ってから、

「俺達じゃなくて、俺を恨むか」

 と言い直した。

「今は何も知らないから、和泉の所へも出入りしているようだが。真実を知れば和泉の事も恨むかもしれない。傷が深くならないうちに言ってやれ。いいな」

 賢の言葉に陸はかすかにうなずいたが、深いため息をついた。


「基本的にどうなの? 美優ちゃんの扱いは?」

 と仁が口を挟んだ。

「陸との事や加奈子の事は置いといて、美優ちゃんは神の会にタッチしてないんだろう? 子供の頃から継母には放置されてたらしいからね。神の会の運営に参加してうまい汁を吸ってた奴らの処罰はもちろんだけど、美優ちゃんの立場で破門は厳しくない? 破門して一族から追い出したとしても、あの両親じゃこの先苦労すると思うよ。それはちょっと可哀相だと思う」

「土御門美優の今後の行動にもよる。両親は破門、自分は土御門に残る、となれば親との絶縁は必須。それが出来ないなら土御門に残る事は許さない」

 と賢は言った。

「親と絶縁かぁ、それは厳しいね。親の愛情に恵まれなかった子は逆になかなか親を捨てられないよ。親との生活が辛いと分かっていてもね」

「それは陸にアドバイスしてやってくれ」

 と賢が言い、仁と賢は同時に陸を見た。

「え……うん、絶対説得するよ」

「話はそれだけだ」

 と賢が言うと、陸は肩を落として部屋を出て行った。


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