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Kiss in the Doll  作者: 香音
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5

 噴水を通り越し、城の姿を捉える。

 もう一度、城の方で爆発が起こる――。

「目的、城か?」

「そうとも限らないわ」

「ちょっ……!」

そうだとしたら、このダッシュは何?

「もしもの話よ。この爆発の目的が、城の中と外を混乱させることだったとしたら……?」

 混乱させるのが目的、ってことか?

「わからないのなら、城に急いだ方がいいわね」

 ようやく城に到着した。

 しかし、その雰囲気は昼間と違い、一種の妖気のようなものが漂っていた。

「行くか……」

 背中のヴィンセントがうなずく。

 門番に剣の紋章を見せ、中に入る。

 そして、その中の雰囲気は、焦りのような、何か、張り詰めたような緊張感が漂っている。

 とにかく慌ただしい。走り回っている者、必死に外の様子を確認している者など……。

 「王位継承者」がいるのに、誰も気にする様子もない。出迎えろ、というわけではないが、せめて、こちらに気付いてほしいというか。情報の確認のため、父さんのところに向う――。

 階が変わるに従い、緊張感の度合いが変わる。下の方では、情報が伝わっていない者が多く、「何もできないもどかしさ」から来る緊張感、上の方では、徐々に情報が伝わって、「どうしたらいいかわからない」緊張感がある。

 父さんの部屋についた。

 中に入ると、父さんは、誰かと話している。

「ゼフィールドか。情報は伝わっている。あの場合は、ああいう指示が妥当だな。詳しくは、こちらも情報を精査している状況だ。すまないが、先に母さんのところに行ってくれ」

「わかった」

 一応、オレの出した指示は大丈夫のようだ。

 上の階を目指す。

 さらに、上の階に行くと、妖気が強くなっていくのを感じた――。

 そして、三階の、舞踏場のある階に辿り着いた。

「ここ……」

 ヴィンセントがつぶやき、背中から降りる。

 しかし、ここまで来る間、背中の人形に誰も触れてこなかった。

 ゆっくりと舞踏場の中央に行き、足を止める。

 妖気の正体は、おそらく、この階からであろう。

 なんというか、目の前に広がる風景を、何か、透明な膜のようなものを一枚通したような状態で見ているような、見え方に違和感を覚えるような、感覚がある。

 不思議なことに、この階には誰もいなかった。

 しかし、それを気にしているような状況でもない。

「上、行くよ」

 と、言った瞬間、いきなり周囲に四つの気配、いや、存在感が生まれる。

 周囲を取り囲むように生まれたそれは、金属がこすれるような音や重量を感じさせるような音を生みながら少しずつこちらに近づいてくる。

 舞踏場の四隅に飾られている、大きな甲冑のセットが近づいているのである――。

「これは……」

「見ての通り、甲冑よ」

「そうじゃない。なんで動いてるんだよ!」

「知らないわよ。どうせ誰かが動かしているのでしょう?」

 そんなことを言っている間に、甲冑は近づいてきている。

 中に人が入っているのか? なんでそんなものを。

 オレは剣を抜き、構える。

 背中合わせのような状態で、オレとヴィンセントが甲冑と対峙する。

「正直、今の私には、こいつらをなんとかできるほどの力はないわ。だから、牽制はするけれど、メインで戦うのは、任せたわ」

「了解。サポート、よろしく」

 甲冑も剣を抜き、構える。

 オレは、目の前の二体に向かって走り出した――。

 剣を下げ、一気に振り上げる。

 重い金属と金属とが噛み合う音が響く。

 右の甲冑が攻撃を受け止めた。

 左の甲冑が、すぐに攻撃に加わる。

 相手の剣を受け流し、左の攻撃をかわす――。

 甲冑の動きは、まるでぎこちない。不自然さを感じる。

 左の攻撃をかわした直後、ヴィンセントの魔力攻撃が甲冑の背中に直撃し、甲冑がバランスを崩す。そして、バランスが崩れた瞬間、オレは、甲冑の目の部分に剣を突き立てる。

 しかし、そこには、手応えがなく、そのまま反対側の兜に当たった。

 人が……入っていない!

「どうやら、無駄のようね。おそらく、肉体というものがないわ」

 なるほど……。

 しかし、どうすれば。

 幸い、相手の動きは極端に鈍い。スタミナさえ続けば、逃げ切れるだろうが、オレのスタミナは、無限ではない。

 どうすればいい。

 考えながら相手の攻撃をかわしたり、受け流したりした。

「ゼフィールド、体力に自信はある?」

 突然の声に、一瞬嫌な予感を感じつつ、答えた。

「ないわけではない」

「しばらくの間、この人形ども、お願いしてもよろしいかしら?」

 できれば、お願いされたくはない。

「理由にもよる」

「確証はないのだけれど、この人形どもを動かしている奴を、探し出してみせるわ」

 人形が甲冑を人形呼ばわりするのも、どうかと思うが……。

「なら、お願いする。ただし、巻き目で」

「感謝するわ」

 ここでヴィンセントの援護を失うのは痛いが、それにより、攻撃が止むのなら、それも仕方がないだろう。

 ヴィンセントは、後ろの甲冑の注目がオレに向かうように引きつけると、戦線を離れた。

 これで四対一。さらに気が抜けなくなった。

「いろいろ限界が来たら、呼ぶかも……」

「情けないことを言わないで頂戴!」

 クソっ!

 こうなったら、やるだけやる。

 四本の剣を受けて立つことになった。

 甲冑からの攻撃は、次から次へと来る。

 相手の動きは鈍いと言っても、ほとんど間髪入れずに攻撃が来ている。

 つまり、常に一本の剣がこちらに向かってくるのだ。

 この絶妙な剣の舞に、一種の焦りを覚えつつ、ヴィンセント見る。

 ヴィンセントは、虚空を詮索している。

 こうも常に連続で攻撃態勢が整っていると、剣を受け、タイミングを計る、ということもできない。

 オレは、魔力を高め、呪文を唱え始める――。

 使う魔法は、火炎球(ファイヤー・ボール)だ。最も有名なな炎の魔法で、魔力で作った炎の力を、着弾と同時に炸裂させる。魔力のコントロールの必要がないため、初心者でも使えるが、威力が強いため、扱いが難しい。

 この火炎球をゼロ距離で放つことができたら、甲冑の中で爆発が起こり、内側から溶かすことができるだろう。魔法が、手からほんの少し離れた位置で発動されるという特性を活かした攻撃だ。しかし、失敗すれば、間近なところで火球が爆発し、腕ごと炭になってしまう。

 相手の攻撃をかわしつつ、意識を集中させる。

 呪文詠唱を半分ほど終わらせた直後、突如ヴィンセントが声を上げた。

「いいかげん、姿を見せたらどうなの?」

 その叫びは、虚空に向かっている。

 しかし、その視線は一点を見つめている。

 見つけたのか?

 オレは、呪文の詠唱を中断する。

「ここまで言っても、まだ姿を見せないつもりね。……それだったら、こうするわ」

 ヴィンセントから魔力の高まりを感じる。右手が紅く輝く。手を上げ、虚空へ向ける――。

「ハァっ!」

 短く叫ぶと、光球が放たれた。

 光球は、天井付近の壁に向かい直進し、そこで停止した。

 同時に、この瞬間、甲冑の動きが止まった。

「さすがね。この私を見ること、感じることができるとは……」

 光球が停止した辺りから影が発生し、徐々にその姿を現した。

「やはりシルキー……。あなたぐらいね、こんな陰湿なことするの……」

 ヴィンセントと同じような、人形?

 この位置と部屋の暗さから、遠近感がよくわからない。本当に人形なのか判断に困るが、見た感じ、そして、ヴィンセントが知っているのなら、同じく、人形なのだろう。

 シルキーと呼ばれた人形は、微笑みを浮かべると、光球を握りつぶした。薔薇の花びらの形をした光が一瞬広がり、シルキーの髪飾りに反射した。

「ここにお前が来ることは想定外だが、私の役目は、ゼフィールドとかいう奴の足止めだ。それに、お前には用はない。力が目覚めていない奴を相手にするなんて、私にはできないわ。かわいそうよ。この甲冑の相手でもしておいてもらうわ」

 シルキーがそう言うと、オレを右手で指さした。

 すると、一度動きを止めていた甲冑が動き出した。しかも、それまでの鈍い動きではなく、まるで、中に人間が入っているかのような動きである。

 首の高さほどの水平の一撃をしゃがんでかわす――。

 向かって右側の甲冑が剣を振り上げる。

 避けきれないと判断し、剣で受け止める――。

 耐えられないほどの重さではないが、かなりの重量が感じられた。

 左側から突きが飛ぶ。

 ほぼ反射的に、また、出たとこ勝負で攻撃を受け流すような回避運動を取る――。

 こんなことを続けていたら、間違いなくやられる。

「私は、足止めをしろという指示は受けているけど、命を奪ってはいけないという指示は受けていないわ。まあ、せいぜい死なないようにがんばらるのよ」

 クソっ! これはマズいぞ!

「ヴィンセント!」

 オレは、ヴィンセントに叫んだ。

 ヴィンセントは、シルキーを睨み付けている。

 確か、シルキーの合図で甲冑の動きは早くなった。操っているのは、シルキーか。

 だったら、その集中を一瞬でも逸らすことができれば――。

 オレは、再び魔力を高め、呪文を詠唱する。

「無駄よ。その力では、あの女にダメージを与えることはできないわ」

「でも、集中くらい乱せるだろう」

「そもそもダメージを受けることがない攻撃に、一々気を払う必要があると思う?」

「……」

 集中と魔力を開放する。

「じゃあ、どうすれば……?」

「ゼフィールド、こちらに来なさい!」

 この一言のヴィンセントの語調は、かなりきつく感じた。

 ヴィンセントの一言を聴くと、シルキーがある種の笑みを浮かべた。

 同時に、甲冑の動きが弱まった。

 この流れに疑問を持ちつつ、止まった甲冑の隙に、ヴィンセントに近づく。

「跪いて、これから私が言うことに、全て『はい』と答えなさい」

 一瞬、嫌な予感を覚えたが、ヴィンセントの語調から、絶対的なものを感じた。おそらく、この指示が敵を倒す方法なのだろう。

 オレは、ヴィンセントに跪いた。

 すると、ヴィンセントが、左手をこちらにさしだした。

 ヴィンセントの魔力が高まると、薬指を中心に赤く、淡い紅色の輝きが生まれた。

「なっ……!」

 光が収まると、そこに現れたのは、バラの花を模したような指環が出現したのである。

「今ここに汝に問う。我を主とし、そこに従属すると」

 主? 従属?

 ヴィンセントの顔を見る。

 無言だが、その表情は、明らかに「『はい』と言いなさい」と言っているようだった。

「……はい」

「ならば、その誓いを、この指環に示せ」

 ち……誓いを示せ、って……。どうやって?

 再び、ヴィンセントを見ると、顎を何度か上げる動作をした。

 口づけろ、ってことか?

 オレは、ヴィンセントの指環に口を付けた――。

 すると、指環から、先ほどと同じような輝きが生まれる――。しかも、その輝きは、先ほどよりも強く、明るく、そして、やさしい、大きな輝きだった。

 左手薬指に、誰かに掴まれているような、暖かさを感じる。

「くっ……」

 強烈な光に、思わず手で影を作るように避ける――。

 輝きが周囲を包み込み、やがて光が収まる。

「……何が、起こった?」

 徐々に目が慣れ、最初に飛び込んできたのは……。

「なんだ、これ?」

 ヴィンセントと同じ形をした指環がはめられている、左手の薬指だった。

「フフフ……。これで力を思う存分使うことができるわ」

 シルキーは、あごで指示を出した。

 甲冑が、ヴィンセントに向かって、動き出した。

「ハァっ!」

 ヴィンセントが一気に魔力を解放した。

 魔力の気流に薔薇の花びらが乗り、甲冑を吹き飛ばした。

 光の気流が収まると、今度は、シルキーを指差した。

「次はお前の番だ!」

「フっ……」

 シルキーは不敵な笑みを浮かべた。

 ヴィンセントが魔力を高める。

「せっかく力が使えるようになったのに、その程度では……」

 ヴィンセントは、小さく舌打ちをした。

「えっ……? そう……」

 すると、突然、シルキーは、何かに向かって話し始めた。

「ヴィンセント。命拾いをしたな。どうやら、準備が整ったようだ。だが、次に会うときは、力がどうであれ、覚悟しておくのだな!」

 シルキーが言い切った瞬間、ヴィンセントの魔力が高まり、放たれた。

 魔力球はシルキーに向かい直進する。しかし、シルキーに直撃することはなかった。

 シルキーは、そのまま後退し、背中の壁に吸い込まれるように消えた。

 同時にそれまで漂っていた、妖気や部屋の隅の異様な見え方も収まった。

「どうやら、終わったようだな」

「そうね……」

「はぁ~……。なんだったんだ」

「後で説明するわ」

 そうか……。

「っていうか、これはなんだ――?」

 オレは、手を開き、指先を伸ばした状態で、指環を見せながらヴィンセントに訊く。

結晶(マテリアル)よ。そして、七人の巫女のうち、『愛をもたらす者』に与えられし、『契約(エンゲージ)の(・)指環(リング)』よ。そんな見せ方、やめて頂戴、気持ち悪いわ」

「そうか……。それは悪かった……。じゃなくて、なんでこんなものが――!」

「それは、あなたが従属する者として、契約に合意したからよ」

「オレは心の底から従属したいなんて思ってないんだが?」

「それを決めるのは、主たる私よ」

 なんだよ、それ……。

 オレは無言で指環を外そうとした。

「無駄よ。それを外すことができるのは、私だけよ。下手に外そうとすると、指ごと切り落とすことになるわ……」

「なんだよ、それ――!」

「そんなことより、先を急いだ方がいいのでは?」

 そうだった。

「後で詳しく説明しろよ」

「そのつもりよ」

 オレは、再びヴィンセントを背負い、走り出した――。

 上階は、他の階と違い、静寂で包まれていた。

 すぐに母さんの部屋に向かう。



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