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Kiss in the Doll  作者: 香音
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「うぅ……」

 そんな静寂を、クルトワのうめき声が連れ戻した。

「クルトワ!」

 ヴィンセントは叫び、クルトワに駆け寄った。

「傷は……?」

 聖杯の結界が解かれたようである。

「シル……キーが消えてから……回復が……始まって……」

 エルクが、クルトワの腕を回収した。

「私たちは、大抵のダメージや消耗は、一晩眠れば、ほとんど回復するけど、これほどのダメージは、どれくらいかかるかわからないわ」

「それにしても……」

 アイルの言葉に、ほかの人形たちが、オレに視線を移した。

「どうやら、シルキーではなく、あの女の考えでこうなったようだけど……?」

 ティルツがやれやれといった感じで、オレの目を見ている。

 オレは、わかりうることを話した。レズギンカが友人で、なぜか昨日の朝から命を狙っていること……。

「それで、理由は?」

 一度、ラスキーを見て、全員に言った。

「心当たりは、ない」

 オレの一言に、アイルが呆れた表情をした。

「はぁ? そんなんで、よく戦ってたわね」

「だから、手加減してたよ」

 理由もなく殺されるのはゴメンだし、友達相手にそんなことはできない。

 あとは、レズギンカの言葉の意味さえ分かれば……。

「まあ、なんにせよ、時間ができたわけだし、身体を休めて……ん?」

 ラスキーが何かを見つけたようである。

「紙、切れ?」

 それは、シルキーたちが消えた辺りに落ちていた。

 ラスキーが拾い上げ、こちらに持ってくる。

「これ……」

 ヴィンセントに手渡す。

「日誌……」

 ただ一言だけそう、書かれていた。

「日誌?」

「業務日誌、のことかしら?」

「おそらく」

「結局、当初の予定通り、村長さんの家の捜索となるのかしら?」

 ティルツは、そうつぶやきながら、足を村長の家の方に向けた。

 そのときだった。

「ゼ……ゼフィールド?」

 突然、人形たちとは違う声に、思わず足を止める。

「これは、一体……?」

 そこには、アイナが立っていた。

 どうしよう……。

 すべてではないにしろ、人形たちが動いている姿が見られてしまった。

「この状況で、隠す必要、あるかしら?」

 ヴィンセントが、当然のように言った。

「はぁ~……」

 オレは、頭を掻きながら一通り説明した。

「えっと、つまり、このお人形さんを持って帰って、お部屋を埋め尽くそうという計画ね」

「何の話?」

 アイナは、そのまま瞳をキラキラさせ、ヴィンセントに抱き付いた。

「きゃっ! かわいい!」

「やめなさい! 暑苦しいわ!」

 抵抗するヴィンセント。

「とんでもなく、面倒な人間ね」

 ティルツが他人事のようにつぶやいた。

「えっ! ここにも、似たようなお人形さんが!」

 アイナは、ティルツも捕獲し、抱きしめた。

「我慢してくれ。こういった類の人形が好きで、自分の部屋にも、かなりあるらしいんだ」

「まったく。こんなバカは、エルクだけにしてもらいたいわね」

「バカじゃないもん!」

 その一言に、視線をエルクに移すアイナ。

 エルクを抱きしめ、頬擦りする。

「で、女。話は、聞いていたの?」

 同じように、ラスキーに抱き付こうとしたが、回避される。

「もちろん。要するに、七体の呪われた人形が、戦い、勝った者が、負けた者から、薔薇のかけらを奪い、七つ集める。そして、七つ集まった暁には、人間になれる、っていうお話でしょ?」

「違う」

「あら? 七つ集めると、龍が出てきて『願いを一つ叶えてやろう』だっけ?」

「それも違う」

「ゼフィールド。いつも、こんなのを相手してたの?」

「まあ。普段は、こんなんじゃ、ないんだけどね」

 って、そうじゃなかった。

「で、アイナは、なんで、ここにいるの?」

 アイナは、ハッとしたような表情を見せた。

「そうそう。それなんだけど……」

「部屋に、戻ってから話さない?」

 ティルツが大きくため息をつきながら、言った。

 全員が、村長の家に戻り、とりあえず、テーブルを囲む。

 クルトワをベッドに寝かせる。すでに再生が始まっているのか、切られた部分から、白い糸のようなものが出て、腕と本体とをつなぎ始めている。

「それで、私が、ここに来た理由、だっけ?」

 アイナは、淡々と話し始めた。

「今日は、いつも通りの日、だったんだけど、昼前の休憩のとき、だったかな?」

 今は、夕方に差し掛かった時間だ。休憩がてらに、アイナの話を聞いてから、探し物をすることにした。

「確認のために聞くが、昼前の休憩だと、実際の出発は、昼過ぎにならないか?」

「そうね。お昼食べての準備だったから、確か、それくらい、だったかな?」

「どんな超人だよ」

「歩いてきたわけないでしょう!」

 オレとアイナの会話に、ヴィンセントが割って入る。

「当たり前ね。いくらなんでも、歩いてこんな短時間にこれるわけがない。だったら、移動手段は、馬か何か、と、考えるのが普通ね」

「さすが、お利口さん……」

「私の名前は、ヴィンセントよ。それ以上近づいたら、殺すわよ!」

「わ……わかった……」

 隣に座ったヴィンセントに、思わず抱きしめようとしたアイナを、ヴィンセントは、強烈な殺気と睨みで止めた。

「それにしても、そんな話をするために、わざわざこんなところまで、早馬を使って来たわけでも、ないんでしょ?」

 ティルツが話の本筋に戻す。

「そうだよ。いくら早馬でも、早すぎるだろ」

 一瞬、ティルツが変な表情をオレに向けた。

「うちの家系が騎馬隊の家系だ、っていうは、知っているわね?」

 それはそうだが、それにしても、早い。

「うちでは、代々技術としての騎馬法や、それに関する書物が受け継げられているのよ」

「へえ~……」

 それは知らなかった。

「その中に、海を渡った先の大陸のものとされる、遊牧騎馬民族の、一人で複数の馬を扱う操馬術を使って、ここまで来たわ」

 そんな技術が……。

「まあ、普通だな」

「違うって。一回止めて降りて乗り換えて、じゃなくて、走っている最中に乗り換えるのよ!」

「確かに、それは、すごいな。でも、この国では、そんなに役には立たない技術だよね」

 移動時間が短くなることだが、反面、技術の習得に時間がかかるだろうし、それに……。

「うっ……。そう言われると……。うちの国、戦争がないから、速攻の必要はないし、一人で複数の馬を飼育するのも、エサ代とかばかにならないし……」

「それに、一人だけ、その技術を身につけていても、奇襲にはならないから、結局、用途が限られてしまう」

 アイナの顔がどんどん沈んできた。

「ま……まあ、こういう、短時間での移動には、便利な技術だよね」

「ありがとう……」

「それで、結局、何しに来たの?」

 ティルツが若干怒りの声で、言った。

「そ……そうそう。それで、お昼前の休憩のときに、女王様が来て……」

 アイナはそう話し始めると、肩に袈裟懸けにしているバッグから、筒状のものを取り出した。

 アイナは、剣を二本持つ程度の軽装だった。

「これを、ゼフィールドに渡してくれ、って……」

 それを受け取り、確認する。

 王家の紋章と封印の印章。親書の類?

「これで、速攻で帰って、『我等勝てり』で、息絶えても、本望よ」

「その場合、息絶えるのは、馬だろうけど……」

 封印を解き、中の紙を取り出す……。

「でも、この距離を走ってきた馬が、休まないでまた同じ道を帰るとなると、さすがの馬も、体力の限界じゃない?」

 ラスキーが普通に言った。

「へ?」

 中の紙に書かれていた文字を読む……。

「そうよね。それに、今から戻っても、到着は、夜。最悪、夜中になるんじゃ?」

 ティルツのその一言に、表情が変わるアイナ。

「門……」

 そう。門は、夜になると閉じてしまう。

「だったら、明日の朝一、一緒にここを出よう」

 そう言いながら、オレは、中の紙を、テーブルの上に置いた。

 「明日の日没までに、戻ってきなさい」……。




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