13
「うぅ……」
そんな静寂を、クルトワのうめき声が連れ戻した。
「クルトワ!」
ヴィンセントは叫び、クルトワに駆け寄った。
「傷は……?」
聖杯の結界が解かれたようである。
「シル……キーが消えてから……回復が……始まって……」
エルクが、クルトワの腕を回収した。
「私たちは、大抵のダメージや消耗は、一晩眠れば、ほとんど回復するけど、これほどのダメージは、どれくらいかかるかわからないわ」
「それにしても……」
アイルの言葉に、ほかの人形たちが、オレに視線を移した。
「どうやら、シルキーではなく、あの女の考えでこうなったようだけど……?」
ティルツがやれやれといった感じで、オレの目を見ている。
オレは、わかりうることを話した。レズギンカが友人で、なぜか昨日の朝から命を狙っていること……。
「それで、理由は?」
一度、ラスキーを見て、全員に言った。
「心当たりは、ない」
オレの一言に、アイルが呆れた表情をした。
「はぁ? そんなんで、よく戦ってたわね」
「だから、手加減してたよ」
理由もなく殺されるのはゴメンだし、友達相手にそんなことはできない。
あとは、レズギンカの言葉の意味さえ分かれば……。
「まあ、なんにせよ、時間ができたわけだし、身体を休めて……ん?」
ラスキーが何かを見つけたようである。
「紙、切れ?」
それは、シルキーたちが消えた辺りに落ちていた。
ラスキーが拾い上げ、こちらに持ってくる。
「これ……」
ヴィンセントに手渡す。
「日誌……」
ただ一言だけそう、書かれていた。
「日誌?」
「業務日誌、のことかしら?」
「おそらく」
「結局、当初の予定通り、村長さんの家の捜索となるのかしら?」
ティルツは、そうつぶやきながら、足を村長の家の方に向けた。
そのときだった。
「ゼ……ゼフィールド?」
突然、人形たちとは違う声に、思わず足を止める。
「これは、一体……?」
そこには、アイナが立っていた。
どうしよう……。
すべてではないにしろ、人形たちが動いている姿が見られてしまった。
「この状況で、隠す必要、あるかしら?」
ヴィンセントが、当然のように言った。
「はぁ~……」
オレは、頭を掻きながら一通り説明した。
「えっと、つまり、このお人形さんを持って帰って、お部屋を埋め尽くそうという計画ね」
「何の話?」
アイナは、そのまま瞳をキラキラさせ、ヴィンセントに抱き付いた。
「きゃっ! かわいい!」
「やめなさい! 暑苦しいわ!」
抵抗するヴィンセント。
「とんでもなく、面倒な人間ね」
ティルツが他人事のようにつぶやいた。
「えっ! ここにも、似たようなお人形さんが!」
アイナは、ティルツも捕獲し、抱きしめた。
「我慢してくれ。こういった類の人形が好きで、自分の部屋にも、かなりあるらしいんだ」
「まったく。こんなバカは、エルクだけにしてもらいたいわね」
「バカじゃないもん!」
その一言に、視線をエルクに移すアイナ。
エルクを抱きしめ、頬擦りする。
「で、女。話は、聞いていたの?」
同じように、ラスキーに抱き付こうとしたが、回避される。
「もちろん。要するに、七体の呪われた人形が、戦い、勝った者が、負けた者から、薔薇のかけらを奪い、七つ集める。そして、七つ集まった暁には、人間になれる、っていうお話でしょ?」
「違う」
「あら? 七つ集めると、龍が出てきて『願いを一つ叶えてやろう』だっけ?」
「それも違う」
「ゼフィールド。いつも、こんなのを相手してたの?」
「まあ。普段は、こんなんじゃ、ないんだけどね」
って、そうじゃなかった。
「で、アイナは、なんで、ここにいるの?」
アイナは、ハッとしたような表情を見せた。
「そうそう。それなんだけど……」
「部屋に、戻ってから話さない?」
ティルツが大きくため息をつきながら、言った。
全員が、村長の家に戻り、とりあえず、テーブルを囲む。
クルトワをベッドに寝かせる。すでに再生が始まっているのか、切られた部分から、白い糸のようなものが出て、腕と本体とをつなぎ始めている。
「それで、私が、ここに来た理由、だっけ?」
アイナは、淡々と話し始めた。
「今日は、いつも通りの日、だったんだけど、昼前の休憩のとき、だったかな?」
今は、夕方に差し掛かった時間だ。休憩がてらに、アイナの話を聞いてから、探し物をすることにした。
「確認のために聞くが、昼前の休憩だと、実際の出発は、昼過ぎにならないか?」
「そうね。お昼食べての準備だったから、確か、それくらい、だったかな?」
「どんな超人だよ」
「歩いてきたわけないでしょう!」
オレとアイナの会話に、ヴィンセントが割って入る。
「当たり前ね。いくらなんでも、歩いてこんな短時間にこれるわけがない。だったら、移動手段は、馬か何か、と、考えるのが普通ね」
「さすが、お利口さん……」
「私の名前は、ヴィンセントよ。それ以上近づいたら、殺すわよ!」
「わ……わかった……」
隣に座ったヴィンセントに、思わず抱きしめようとしたアイナを、ヴィンセントは、強烈な殺気と睨みで止めた。
「それにしても、そんな話をするために、わざわざこんなところまで、早馬を使って来たわけでも、ないんでしょ?」
ティルツが話の本筋に戻す。
「そうだよ。いくら早馬でも、早すぎるだろ」
一瞬、ティルツが変な表情をオレに向けた。
「うちの家系が騎馬隊の家系だ、っていうは、知っているわね?」
それはそうだが、それにしても、早い。
「うちでは、代々技術としての騎馬法や、それに関する書物が受け継げられているのよ」
「へえ~……」
それは知らなかった。
「その中に、海を渡った先の大陸のものとされる、遊牧騎馬民族の、一人で複数の馬を扱う操馬術を使って、ここまで来たわ」
そんな技術が……。
「まあ、普通だな」
「違うって。一回止めて降りて乗り換えて、じゃなくて、走っている最中に乗り換えるのよ!」
「確かに、それは、すごいな。でも、この国では、そんなに役には立たない技術だよね」
移動時間が短くなることだが、反面、技術の習得に時間がかかるだろうし、それに……。
「うっ……。そう言われると……。うちの国、戦争がないから、速攻の必要はないし、一人で複数の馬を飼育するのも、エサ代とかばかにならないし……」
「それに、一人だけ、その技術を身につけていても、奇襲にはならないから、結局、用途が限られてしまう」
アイナの顔がどんどん沈んできた。
「ま……まあ、こういう、短時間での移動には、便利な技術だよね」
「ありがとう……」
「それで、結局、何しに来たの?」
ティルツが若干怒りの声で、言った。
「そ……そうそう。それで、お昼前の休憩のときに、女王様が来て……」
アイナはそう話し始めると、肩に袈裟懸けにしているバッグから、筒状のものを取り出した。
アイナは、剣を二本持つ程度の軽装だった。
「これを、ゼフィールドに渡してくれ、って……」
それを受け取り、確認する。
王家の紋章と封印の印章。親書の類?
「これで、速攻で帰って、『我等勝てり』で、息絶えても、本望よ」
「その場合、息絶えるのは、馬だろうけど……」
封印を解き、中の紙を取り出す……。
「でも、この距離を走ってきた馬が、休まないでまた同じ道を帰るとなると、さすがの馬も、体力の限界じゃない?」
ラスキーが普通に言った。
「へ?」
中の紙に書かれていた文字を読む……。
「そうよね。それに、今から戻っても、到着は、夜。最悪、夜中になるんじゃ?」
ティルツのその一言に、表情が変わるアイナ。
「門……」
そう。門は、夜になると閉じてしまう。
「だったら、明日の朝一、一緒にここを出よう」
そう言いながら、オレは、中の紙を、テーブルの上に置いた。
「明日の日没までに、戻ってきなさい」……。




