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勇者の語り部 「勇者アレストの奮闘」

作者: きしと

 やってきました異世界!


 僕こと伊野雅義は晴れてこの異世界である、知識の都アルテにやってきていた。ここアルテは条件を満たした人がやってくることの認められる異世界、僕の世界である日本では噂話程度のものだが僕はそれを信じ続けそしてこうしてやってくることができた。

 どうして僕がこのアルテに来たかったかというとここにはとある図書館があるからだ、その名をセレスタ…この図書館には世界の…それもこの世界だけではなくありとあらゆる異世界も含めた全ての世界の本が貯蔵されている。それらは世界図書とも呼ばれ、中には人の人生そのものが本となり記憶されているという噂が立つほどの収集量を誇っている。…僕の目的はその世界図書をみることだ。

 異世界、冒険、別の可能性。人なら誰しも見たいと思うだろう僕もこれらに憧れていた。なまじそういった創作文化の深い日本にいるのだその気持ちも強い。だからこそ噂であったセレスタに憧れそうしてこうやってやってくることができた。

 だが、この世界アルテに来ることができた、セレスタに行けるようになった、それだけではまだ世界図書を読むことはできない。世界図書とは異世界の記憶、モノによっては現在のこの世界の文明を崩壊させるようなレベルの情報が書かれている可能性もある。ゆえに世界図書は年齢制限がされている。分別のつく成人になるまでは読むことはかなわないのだ。…だが自分で読むことが出来なくてもそれに触れることはできる。勇者の語り部…そう言われる者たちがいる。彼らはセレスタに所属し、成人になっていない子供たちに世界図書を語って聞かせ勉強させるために本を選定し、毎夜、会を開くのだ。そこに子供たちは集まり語り部が語る内容を聞く。本の種類の選定が完全に相手任せになってしまうが仕方ない、今年で12になる僕は成人ではないため読みたくても読むことができないのだ。


 そんなこんなで夜を楽しみにしながら僕は僕に与えられた家へと向かう。


☆☆☆


 僕の家はこの都の北にある住宅街の最奥にある、都の中心にある図書館からはかなり遠いが…まあ新参者なのだから仕方ないか。家の前に着き、扉を開けるために鍵を取り出す。その時、後ろから二人の人影に声をかけられた。

 僕が振り返るとそこには金髪に緑の目をした10歳くらいの小柄少女と12歳くらいの黒よりの蒼い髪に黄色い目をした少年がいた。


 「あの~今日引っ越してきた方ですよね~私、隣の家に住んでるミアと言います。よろしくです~」 「俺はアレス、こいつの反対側にある家が俺の家だよろしくな」

 「ミアにアレスか、よろしくね。僕は伊野雅義、マサヨシって呼んでくれ」


 彼らの近くによりお互いに握手をする。僕は気になったことを彼らに質問した。


 「ミアもアレスもこの世界に来た人だよね?もう語り部には参加したことあるの?」

 「うん、ありるよ~」

 「もう何回か参加してるな。なかなか面白いぞ今日もミアと一緒に行く予定だマサヨシも一緒に来るか?」

 「え、いいの?」

 「来たばかりで勝手もわからないだろう?色々と案内するよ。ただ一緒に行くとなると担当があのじっちゃんになるけどいいよな」

 「え?まあ、よくわからないけどそれでいいや」


 こうして約束を取り付けた僕はこのあとセレスタへと向かい語り部を聞くことになる。このとき僕は彼らと一緒に行くことをのちに後悔することになるとは考えもしていなかった…。


☆☆☆


 ガヤガヤ、ガヤガヤ


 ミアとアレスと共にやってきた会場にはすでに多くの子供たちがいた、勇者の語り部は一人を指す言葉ではなく組織名だ、つまり所属する人は複数人存在する。なのでそれぞれ担当の語り部を最初に決めその会場に行くことになる。…この担当は一年は変えることができない。語り部は世界図書を読ませる機会であるのと同時に教育の場でもあるためだ、それぞれの語り部の内容がかぶらないための措置と言える。

 これだけ人がいるなら人気の語り部だろう。初日のためそれぞれの語り部のことを詳しく調べずに来てしまった僕は少しだけ安堵していた。


 突然、騒ぎの音が小さくなった。扉を開けて白髪の老人が入ってくる。魔法使いのように顎鬚も白くローブを纏い手に一冊の本をもっている。


 「それでは皆始めるぞ、今日はこの本じゃ」


 老人が押し出した本の表紙には『勇者アレストの奮闘』という本の名が書かれていた。


☆☆☆


 老人はページをめくりすらすらと内容を読み上げる。


 --俺の名はアレスト、とある町に住んでいる男だ。ある日、自分は勇者であるということに気づき冒険の旅に出ることにした。--


 え?勇者であるということに気付く?ていうか勇者なのに冒険に出るノリ軽くない?


 --まずは仲間を作らないといけない。僕は町を目指し酒場へと向かった。むさくるしい臭いの中僕は人を探す。さて俺にふさわしい人物はいるだろうか?--


 「仲間探しは基本だよね!」

 「犬、猿、雉。いや豚、河童、猿か?」

 「いや、それはないよ!?酒場だよ!?人間でしょ!?」

 「む、それはそうか」

 「おいおい大丈夫かよ…」


 --目の前にいるのはおっさん、おっさん、おっさん、とんでおっさん。おっさんしかいなかった--


 「おっさんパーティーじゃ!」

 「突然何言ってんの?おじいさん?それより酒場におっさんしかいないってリアルと言うか夢がないというか…」


 --ふむ、この中から探さなければならないのか…俺はとりあえずマッチョなおっさんと僧侶風のおっさんと魔法使いっぽいおっさんを選ぶことにした。「俺の仲間になれ」だがマッチョなおっさんには殴られ、僧侶風のおっさんにはメイスで吹っ飛ばされ最後に杖で止めを刺された。なぜだ!!--


 あんたが傲慢な言い方で仲間に誘ったからだよ。いやそれでもいきなりボッコボコって荒れてるけどね!!


 --おっさんたちは俺の懐から財布を奪いそれで酒盛りを始めた。俺は泣きながら逃げ出した--


 カツアゲされてるー!!勇者、おい自称勇者それでいいのか?


 --俺は全財産を失い途方に暮れていた。すると騎士のおっさんが現れ俺の元に近寄ってきた。「どうした旅人大丈夫か?」俺はことの次第を全て話した泣きながら。騎士は色々なもので顔をぐしゃぐしゃにした俺にドン引きしたようだが、ここは俺に任せろっといって酒場へ向かっていってくれた。数分後、帰ってこない騎士を心配して見に行くと彼はおっさんに交じって酒盛りをしていた。くっそ~もうおっさんなんて信じね~俺は魔物がいる草原へと向かっていった。--


 「こうして騎士は仲間を手に入れたのだった」

 「つまりおっさんパーティーじゃ!」

 「え?また?というかそういう伏線だったの!?」


 --俺は草原についた。そこに見えるはスライム。よし狩ってやるぜ。俺はヒノキの棒を手に取りスライムへと猛然と襲い掛かる--


 「スライム…物語では最弱か最強か二者択一となる存在。通称粘液生命体。そのおそろしさは…」

 「アレスがなんか語りだしちゃったよ!それより注目すべきところあるでしょ!?ヒノキの棒?え?そんな装備で旅に出たの!?もはや初期装備でもない。いや初期装備以下だよ」

 「ヒノキの棒をなめんな~!」

 「いやミア、これはなめてもいい事態だからね。ただの棒だからね武器が!」


 --俺は気づいたら教会にいた。あたりを見回すとあの時のおっさんたちが。どうやら彼らに救われたらしい。俺がお礼を言おうとするとそれを察したのかそのことを言われる前におっさんたちは口を開いた「金を払え」と俺の目の前が真っ暗になった--


 「勝負に負けた、目の前が真っ暗になった、所持金を半分…」

 「それ以上は言わせないよ!?」

 「世の中、金じゃ金がすべてなんじゃ」

 「おじいさんなんて顔で言っているの?」

 「そうこの世はカネが全て、カネこそが万物を統べるこの世の支配者…」

 「アレスもなにいってるの!?」


 --俺はその後、馬車馬のように働いた。有り金全てが巻き上げらえている以上、回復魔法の費用を払うためには稼ぐしかないからだ。俺は必至で稼ぎやっとの思いで借金を返済した。もうこんなことはこりごりだどこか遠いところへ向かおう。気づけば俺は既に町を立っていた--


 「借金返済、銅像が立つね」

 「いや、立たないよ!?」

 「一人旅立つかワイルドだな」

 「ワイルドじゃないから!!」

 「ではマイルドかの~」

 「遠ざかった!!」


 --街道を歩いていくと道が二つに分かれていた。さてどちらに進もう。まあどちらでも関係ないか俺は右の街道を歩いて行った。すると巨大な山が見えてきた。おおでっかい山だなと思ったらそれはドラゴンだった。俺はそのドラゴンにバクリといかれた。俺の勇者の冒険はここで終わってしまった。--


 「おしまいおしまいじゃ」


 …

 ……

 ………


 ええええ~~!!!


 「ちょっとまってよおじいさん?今ので終わり冒険はここからの勇者の逆転は!?」

 「む、そんなのあるわけないじゃろう?だってこの本出版が魔王書房だからの」

 「なんですか魔王書房ってなんで魔王が勇者の物語出版しちゃってるんですか!」

 「魔王だって勇者の物語を読みたくなるもんじゃて」

 「いえ、そんな問題ではなくてですね。なんでこんな変な物語選んだんすか?」

 「変?どこがじゃ?現実の厳しさを学べるいい教材じゃと思うがの?」

 「お金の大切さもわかりましたね。」

 「危ないところに一人で行くのは危険だということもわかったな~」

 「「「はははは」」」


 僕はこの時気づいた。僕が選んでしまったこの語り部はどこかずれた感覚を持つ老人でそして僕の家の隣人だちはとんでもない天然、と中二バカだということに。そしてこの場でのツッコミが僕しかいないことに。


 これが一年も続くの~!!


 僕の心の叫びは皆が返るまで続いた。



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