第一話 =由良雲くんとアルバイト=
日曜日の朝。
それは俺のような、日々睡魔との戦いを繰り広げている一般的高校生にとって、唯一の『二度寝』が得られる重要な時間だったりする。
毎日毎日、高等学校という名の監獄の一室に閉じ込められ、朝から夕方まで教員との激戦。憩いと言えば十分休みと昼休み、そして体育の時間くらいのものだろう。
そもそも俺はじっとしているのが、あまり得意では無い。
体を動かす事自体が好きという訳では無いが、黙って机に向かい、πだのタンジェントだの何の興味もない暗号の様な言葉を延々と聞かされるよりずっとマシだろう。
それと比べれば身体を動かす行為は健康にも良いし、何より楽しいものだ。
あれは三年前。俺がまだ中学二年生の頃の話だ。
始業式や新クラスでの役員決めが一段落すると、うちの中学では『スポーツテスト』たる行事が行われる。
これと言って特殊な事をする訳ではない。ハンドボール投げ、反復横跳び、五十メートル走……どれも皆さんにとって聞き慣れた単語である事だろう。
そんなスポーツテストとなると必ずいるのが「意味も無く本気を出す熱血体育会系少年」たる存在だ。
しかも性質の悪い事に、うちの中学では開始前に「面倒くせぇから今日本気出さないでやろーっと」とか何とか言いながら本番で本気を出す奴がほとんどだった。そんなに自分の運動能力を誇示して何になるのか、甚だ疑問だ。
俺はと言うと、コレのおかげで授業が潰れたという事もあり、無意識のうちに「とりあえず楽しくやろう」的なお気楽ムードを身体中から漂わせていたらしく(自分ではよく分からなかったが)、そういう連中に目をつけられてしまっていた。一つ一つの競技で何かと「次勝負しようぜ」的な安い挑発を掛けられてしまう。
最初こそ軽く受け流し、結果もそれなりのものを残していたが、段々と彼らの闘争心が面倒くさくなっていった。つうか正直ウザい。
そして、最後の五十メートル走の時だった。
さんざん挑発され続けた俺は、ついに堪忍袋の緒が切れてしまい、その勝負に乗ったのだ。
しかも俺は名前が「由良雲」だから、走るのは一番最後で都合も良い。
前に走った奴等のタイムは七秒後半から八秒前半。平均的な中二男子のタイムに比べれは、割と早い方だと言って良いだろう。あの時のアイツ等のドヤ顔は、今でも脳に焼きついている。
だがそんな余裕の微笑は、俺のタイムを聞いた事で凍り付いてしまった。
早くても七秒前半という中学二年生にも関わらず、俺は「五秒六」と言う衝撃的且つ非ィ現実的な数値を叩き出してしまったのである。これには正直、自分でも驚きだった。
それから何がウザかったかって、部活動の勧誘がしつこい事この上ない。学校生活の憩いの時間であった筈の休み時間が潰された俺にとって最悪の時間だった。しかもこれは三ヶ月も続いた。
それ以来、俺はスポーツテストでは常に五割ほどの力で挑む様になった。
おっと、話が逸れてしまった様だ。
まぁとにかく俺が言いたいのは、俺は勉強が嫌いで、運動は割りと好きだ、と言う事だ。
だが、今日の様な「休校日」となればまた別の話。
日頃早起きに追われる俺たちにとって、二度寝は夢であり、同時に最大の癒しと言っても過言ではない。
数字や記号に追われる事も、教員という怪物達の束縛も無いのだ。正に「夢の時間」ではないか。
こんな日は、心行くまで睡眠としゃれ込みたい物だ。
「ちょっと、早く起きなさいよ」
と、そんな俺の淡い希望を打ち砕くような女声が、六畳一間の洋室に澄み渡った。
俺は頑なに視界を遮り続ける瞼としばし戦い、やがてボンヤリとではあるが光を受け入れる。
そして徐々に鮮明さを取り戻す瞳には映った―――――整った少女の顔だった。しかも超至近距離で。
深い藍に染まった髪は腰まで伸びてピンクのリボンで縛っており、こめかみは割と豊満な胸にかかっていた。大きな可愛らしい瞳は黒く塗られている。
上半身は華奢で色白な肌が肩口辺りまで露出する黒いチョッキを、白いタンクトップの上から羽織っており、下半身はホットパンツと黒のニーソックスで覆われている。
はっきり言って、彼女もいない一人暮らし中の童貞にとっては少し刺激的な少女だ。
少女、といっても年は俺と同じ17歳の高校二年生である。何なら誕生日も一日しか違わない。
え? 何でそんな事が分かるかって?
そりゃあ幼馴染ですから(笑)。
彼女の名前は、魅剣佐緒里。
俺と同じ高校に通うクラスメイトで、小学校からの腐れ縁だったりする。
「…………何の用だ」
「あら、つれないのね。せっかく幼馴染が起こしに来てあげたって言うのに」
「絶対嫌がらせだろ」
普段恵んでくれない様なエロゲイベントを、わざわざ休日実行している時点でバレバレだっての。
「とりあえずどけ。飯お前の分も作ってやるから。オムレツで良いだろ?」
佐緒里はわざとらしく驚いて、俺の上半身から体を起こした。
「私の分まで作ってくれるの? 優しいのね。そんなつもりで来たんじゃないのに」
「ウソつけ。明らかに飯目当てだろうが」
コイツがうちを訪ねて来る(もとい、押しかけて来る)理由なんざ、大抵それだからな。
しかしまぁ、コイツで良かった。
もしこれが見知らぬ美少女だったならば耐えられなかったかもしれない……性的な意味で。
佐緒里も美少女には違いないが、ここまで来ると免疫も付くというものだ。
思春期青年の溢れんばかりの性欲にすら打ち勝つ人の慣れというものに感心しつつ、俺はおもむろに
D・Kに立ち、冷蔵庫から卵を二つ取り出した。
■ □ ■ □ ■ □
「相変わらず、アナタって妙に多芸なのね」
目の前で俺御手製オムレツを頬張る佐緒里。昔から変な所で素直じゃないコイツにとって、これは最大級の褒め言葉と受け取って間違いはないのだろう。
俺は呆れついでにため息を漏らし、ゆっくりとオムレツを口に運んでいく。うん、美味い。
「それ喰ったら、すぐに帰れよ」
素っ気無く言い放つと、佐緒里は手を止めて俺を見つめてくる。
「今日はやけに冷たいのね……もしかして女?」
「ちげぇよ。バイトだよバイト」
さも面倒くさそうに(いや実際面倒くさいのだが)吐き捨てると、佐緒里は目を丸くした。
「アナタ、バイトなんてやってたの?」
「あぁ、つい二週間ほど前からな」
そう言えば、コイツにも言ってなかったっけ。
「意外ね。そんな眩しい頭しててクビにならないわけ?」
「うっせぇよ」
確かに俺の髪は、イギリス人だった母親の遺伝で、それはもう見事なまでの金髪だった。
そのせいで「不良」と勘違いされて妙な連中から喧嘩売られるのなんて、日常茶飯事だ。
その度に持ち前の身体能力で返り討ちにしてやったけどな――――こらそこ! 筋肉バカとか言わない! こう見えても定期テストは毎回学年十位以内キープしてんだぞ!
俺はちらりと部屋の時計に目を移す。そろそろ行かないとヤバイな。
「まぁそういう訳だから、俺はもう行くぞ」
食べ終わったオムレツの皿を取り合えず水に付け、俺は先ほどオムレツを作る前に着替えておいた服の上からジャケットを重ねた。
佐緒里は美人のくせに意識が足りないのか、男の裸を見ても全く何とも思わないようだ。
逸話としては中学時代、以前変質者に道でいきなり全裸になられた時、数秒それを凝視した後、
「あら、アナタのイチモツは随分と貧相なのね」
なんて事を言ってのけたらしく、その後変質者はショックのあまり自首。佐緒里は一躍時の人となった。美人だから、という理由で佐緒里に近付く男子もいなくなってしまったが。いずれにせよ、俺には関係ないけどな。
俺は机から携帯、財布、家の鍵と必要最低限のものだけ持ってポケットに入れ、欠伸もほどほどに玄関へと歩いていく。
「じゃあ、帰る時はちゃんと鍵掛けといてくれよ」
佐緒里は俺の部屋の合鍵を持ってるからな。
恋人でも無いのになんでそうなったかってのは……長くなるから省略しよう。
「分かったわ。アナタみたいな奇妙な男を雇ってくれる店なんてそうそう無いんだから、ちゃんと働きなさいよ」
「はいはい」
受け流し程度に答え、俺は扉を開けて外へと繰り出す。
ったく、世の中にはもっと奇妙な連中がいるってのによ……。
憎たらしいほどに晴れた空をしばし睨みつけ、俺は冷たいコンクリートの廊下を音を立てて歩いていった。
■ □ ■ □ ■ □
俺の住むアパートから徒歩十分。
そこに俺が今、バイトとして雇ってもらっているレンタルショップ『キング』がある。
オフィスビルやらが立ち並ぶ街からは少し外れており、見た目はお世辞にも綺麗とは言いがたい。つうかやたらと天井が高い、五メートルくらいある。
しかし、DVDやCDの品揃えは割と豊富で、メジャーなものからマイナーなものまで一通り揃えてある。
私営のレンタルショップにしては儲かっている方だろう。給料もそんなに悪くない。
ただ一つ、難点を挙げるとしたら、それは「店員」だろう。
言っておくが、別に新人イジメとか言う陰気な事が行われている訳ではない。
むしろ、まだ入って二週間の新人である俺にも、皆かなり気さくに接してくれている。
ならば、一体何が難点なのか。
それはもうじき分かる事だろうから、ここでは言わないでおこう。
店の裏口に周ると、ドアノブ式の扉が二つ用意されている。
ひとつは普通の二メートルない様な扉だが、もう一つは普通の二倍近く高く作られた扉だった。
勿論、俺は普通サイズの扉のドアノブを回し、中へと入っていく。
「ちーっす、由良雲です」
「あぁ、お早うございます。由良雲くん」
真っ先に俺に声を掛けてくれたのは、白いワンピースにカールが掛かった紫色の髪が特徴的な、何故か室内でも白い帽子を掛けたままの女性だった。
入り口間近にある事務室で、
見た目はかなり美人だし、佐緒里とは違う大人の魅了がある。それに優しいし、この店の事務を担当しているだけあってかなり几帳面だ。
もう何処にお嫁にいっても問題ないだろう。
ただし、でかい。座っていてもやたらでかい。
実は彼女、身長は二メートル四〇センチもある、超巨大美女なのである。
もうお分かりだろう。
この店は、幽霊とか都市伝説とかの類が集まって経営している、『ホラー系レンタルショップ』なのである。
彼女もまた、都市伝説として語り継がれるモノの一つ「八尺様」と呼ばれる存在だ。
八尺の由来は見てのとおり、身長が八尺(一尺三〇センチ×八=二四〇)である事。
ちなみに裏口にあったもう一つの扉は、彼女専用のものだったりする。この店の天井がやたらと高いのも、彼女のためだ。
言っておくが、彼女はまだまだ、この店の中ではマシな方だ。もっと訳の分からない連中が、この店では働いているのだから。
「こんにちは、八尺様……店長は?」
「多分、もうじき帰ってこられると思うのですが……」
どうやら店を放り出して、今は出かけているらしい。あの年齢&性別詐称自由人が……。
まぁ、別に今に始まったことではないけれど。
俺は八尺様を横目に更衣室へと歩いていき、店の制服に着替えていく。
着替える、と言っても、ジャケットを脱いで店のエプロンをするだけだけど。
更衣を済ませ、俺はさっそく店に出て働こうと更衣室の扉を開くと、
「うわっ!?」
思わず驚嘆の声を上げてしまった。
理由は俺のすぐ目の前、黒髪の小学生くらいの女の子が立っていたからだ。
ぶかぶかの白いワンピースに黒髪の隙間からは大きく丸い右目だけが、こちらをじっと見つめてくる。
左手には可愛らしいウサギのぬいぐるみだったはずのボロ雑巾を握っている。
ハッキリ言って、怖い。怖すぎる。
「………………どうも」
女の子とは思えないどすの利いた声で、都市伝説少女「ひきこさん」は呟いた。
「お、お疲れ様です」
見た目は小学生でも、俺よりずっと前からこの店で働いている先輩店員に対し敬語でそう告げると、ひきこさんは俺に軽く会釈をして、ボロ雑巾を引きずりながら事務室へと入っていった。
いつになっても、あの人だけは慣れないな……。
恐怖の更衣室を出て店内に向かうと、既に先輩店員がDVDを棚に戻したりしてした。
黒の長い髪を持ち、口にはマスクをしているその姿を見れば、誰でも容易に想像出来るだろう。
都市伝説の中でも抜群の知名度を誇る「あの人」だ。
「お早うございます、口裂けさん」
俺が声を掛けると、古参店員「口裂け女(通称『口裂けさん』)」は笑顔を向けてくれた。
「お早う、由良雲くん」
相変わらず可愛いなぁ口裂けさんは。キングのオアシスだよ全く――――マスクさえ取らなければ。
え? マスク取ったらどうなるかって?
お察しください。
店内は外見に比べて割と綺麗で、入口の目の前にレジが置かれ、左側はDVD・Blu-rayコーナー、右側はビデオ・CDコーナーとなっている。
レジは私営らしく一つしか無く、その左右に裏への入り口が付けられ、のれんが掛かっている状態だ。
俺はレジに置かれている返却されたばかりのDVDの処理をしようとカウンターに立つと、違和感に眉をひそめた。
「あの……『あの人』は?」
俺が問うと、口裂けさんは苦笑を浮かべ、俺のすぐ後ろを指差した。
CDやらDVDやらが大量に置かれた台の上に置かれているのは、今は懐かしいアナログ型テレビ。
あぁ、またか。俺はため息を吐いた。
今日の店番担当は俺と口裂けさんと、そしてもう一人。このテレビに住んでいる、ある女性だ。
俺は右手で軽く拳を作ると、ガンガン! と乱暴に叩いてやった。
「ちょっと、起きて下さい貞代さん!」
怒鳴りながら何度か殴っていると、やがてテレビが一人でに電源を付け、ジャミング映像が流れた。
そして、次の瞬間!(TV番組風)
「うるさいなぁ……何回も叩くな、頭ガンガンするじゃないか」
お分かり頂けただろうか?(某ナレーター風)
かったるそうな声と共に、黒髪と紅い瞳を持った美少女が、テレビの中から顔を出したのだ。
これは、このテレビに住まう悪霊とでも、いうのだろうか……
「おい、さっきから何を言ってるんだ由良雲」
おっと、貞代さんが怒りそうなので、この辺にしとこうか。でもまぁ、さっきの紹介もあながち間違いではない。
彼女は確かに、このテレビに住んでいる少女の霊だ。名前は『山原貞代』
黒髪のストレートヘアに白いワンピースを着て、しかも『呪いのビデオ』たるものを所持するその姿は、某ホラー映画の某キャラクターにそっくりな気もするのだが……そこは触れない下さい。って言うか、この店黒髪白ワンピ率高くないか?
「今日、貞代さんも店番でしょう? ダメじゃないですか、アナログTVにいたら。店長に怒られますよ?」
「むぅ……仕方ない、出るか。よいしょ――――――?」
面倒くさそうにテレビから這い出ようとした貞代さんだったが、いきなりその動きを止めてしまった。
「? どうしました、貞代さん」
貞代さんは俺を見つめると、焦った様な表情を浮かべ、現在の状況を端的に告げた。
「―――――詰まった」
「は?」
今、何て言った?
「だから! 体が詰まってしまって出られないと言ってるんだ!」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす貞代さん。
うーむこれは……もしかして……
「もしかして貞代さん、太りまし――――あぐっ?」
「黙れ! それ以上言ったら呪い殺すぞ!」
いきなりCD投げつけて来ましたよこの女……。
てか呪い殺すぞって言われても、俺の家にはビデオ再生する機械なんてもう置いてないぞ?
「あの、どうしました?」
DVDの整理が終わった口裂けさんが、心配そうに問うて来る。
「それが貞代さん、テレビに体が詰まって出られないみたいで」
「それは大変ですね……どうしましょう」
どこぞのお嬢様風に右手を頬に添えて考え込む口裂けさん。
俺はちらりと店の時計に目をやる。
時間はちょうど九時五十五分……ゲッ!
「ヤバイ! あと五分で開店ですよ!」
「えぇ!?」
「何ぃっ!?」
口裂けさんと貞代さんの驚嘆が店に響いた。
お客さんは普通の人間だってのに、こんな所見られたら……考えただけで背筋が凍りそうだ。
「と、とりあえずテレビから出さないと……」
オロオロし始める口裂けさんの肩に手を置き、俺はこの状況打破の最善策を言い渡した。
「引っこ抜きましょう」
「はぁ!?」
叫んだのは貞代さんだった。
「ふざけるな! そんな事……」
「わかりました! やりましょう!」
「おいこら口裂け!!」
口裂けさんの目が据わった。よし! 乗り気だ!
俺たちはギャーギャー言っている貞代さんの両腕をそれぞれ掴み、
「せーの!」
思い切り引っ張った!
「いたたたたたたたたたたたたたたたたた!」
北○の拳みたいな台詞を吐き出す貞代さん。かなりキツイようだ。
だが、ここで手を緩めるわけにはいかない!
ちらりと時計を見る。後三分に迫っていた。
「口裂けさん! もっと力込めていきますよ!」
「は、はい!!!」
更に引力を込める俺達。
「あああああああ馬鹿馬鹿馬鹿!! ちぎれるちぎれる腕ちぎれる!」
涙目になって叫ぶ貞代さん。ヤバイ。さすがに限界みたいだ。
開店まで後二分! くそぅ! ダメなのか!
その時、
「何やってんだ? お前ら」
空気を裂くような女声が、俺達の鼓膜を揺らした。
力を込めた手を止め、そちらを見ると、十代半ば程の少女らしき人物が、こちらを呆れ気味に見つめている。
「て、店長……」
そう、この人こそレンタル・ショップ「キング」店長を務める年齢&性別詐称人物(45歳)だ。
栗色の髪をショートカットにした美少女にしか見えない。
おそらく生物学上、♂にも♀にも分類できない存在だろう。
あえて記号であらわすとしたら
←○+(縦読みでごらん下さい)
これに尽きるな。
店長はこの状況を見て全てを悟ったらしく、
「ったく……相変わらず騒がしいな、お前等は、っと!」
呆れ気味にそう言うと、なんと貞代さんの脇の下をこしょばし始めた。
「っ!? ……あ……ぅ……」
頬を赤らめ、涙目になる貞代さん。
先ほど引っ張っていた事もありワンピースが伸びて白い肌が露になり、背が低い割に大きめな胸の谷間が見えてしまっている。
こんな状況でこんな事いうのは何だが、エロい。
「ぅあ……だ……もう……」
どうやら、もう限界のようだ。次の瞬間、
「あっはははははははははは!!」
笑いの大噴火を起こした貞代さんは、そのままテレビの中から出てきてしまった。
どうやら笑った時に起きた体の揺れで、出る事が出来たらしい。
「ひぃ……おい店長! 何てことしてくれたんだ!」
笑い死ぬ所だったぞ! と怒鳴りちらす貞代さん。てかアンタもう死んでんだろうが。
店長はため息を吐き、両手を腰に付けた。
「出られたんだから良いだろう?」
「そういう問題じゃない! 大体お前らもお前らだ由良雲! 口裂け!
腕がちぎれるかと思ったじゃないか!」
「す、すみません……」
「ごめんなさい」
てか幽霊も腕がちぎれるのか?
「ほら、もう開店時間だぞ? とっとと持ち場に付け」
店長の一言で、口裂けさんと俺はDVDの棚戻し、そして貞代さんは(まだ不貞腐れながら)カウンターへと付いた。
午前十時。今日もレンタル・ショップ「キング」は、奇妙で可笑しな店員達によって営業開始をした。
これは俺、祖父譲りで霊感が強い普通(?)の男子高校生「由良雲」と、そのバイト先であるレンタルショップ「キング」の奇妙な店員達による、平凡だけどちょっと不思議な、そんなグダグダな日常の風景だ。