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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
9/36

落とし穴

牢屋へと戻ろうとした莉伽を、戻っても何もないだろと無理矢理引っ張って連れながら前を歩いていた亮乃は、これでもかと言うほどトラップに引っ掛かりまくっていた。


「亮乃、やっぱ戻ろうか」

「大丈夫だっ・・てぇ!?俺・・っのぉ!とと、運動神経の凄さをぉっ!信じろ・・ぉおっ!?」


先を歩き、トラップにわざとかかっていく亮乃のピンクの着ぐるみの後ろ姿を見ながら、あれでよく死なないな、と亮乃の凄さを再認識する。

莉伽がトラップにかからない様に、先にトラップを発動させ、自らが犠牲になりながら歩く亮乃は、亮乃自信が言っている様に、運動神経は抜群に良かった。


部活に入っていない莉伽と違い、亮乃は中学からサッカー部に所属している。部活で鍛えた脚力と、小さい頃から習っている合気道のおかげか、そんじょそこらの大人には負けないぐらいの根性と忍耐と精神力を持っている。


そして亮乃は、天性の才能も持っている。小さい頃から根っからの主人公体質な男だったので、昔からすごく頼りになった。


主人公は死なない。だからあまり心配はしていないのだが・・・。


「亮乃、楽しみ過ぎてはめはずさないでよね」

「へいへーい・・っとと」


運動神経や根性なんかよりも、こういう状況でも楽しめてしまう図太い神経が、一番凄いのかもしれない。



主人公体質の亮乃は、あたりまえだがとてもよくモテる。

莉伽のクラスの女子からも、『隣のクラスの亮乃君』が好き、かっこいい、惚れる、などいろいろ聞いた事がある。幼馴染みの莉伽は、昔から付き合いがあるので亮乃に関しての女の子からの嫉妬を買いまくって本当に、本当にめんどくさい事に巻き込まれた事は何度もあった。

亮乃に対してそんな気持ちもないし、亮乃の方も莉伽の事はただの幼馴染みとしてしか見てないだろう。

そう説明しても、女の子とは恐い生き物で信用してくれない人もしばしば。


一時期、亮乃がサッカー部のマネージャーと付き合っていると言う噂が流れたことがあった。なんだか大変な騒ぎになっていたので莉伽が亮乃に真相を聞いてみた所、その噂はデマだったらしい。


その件でも、莉伽はいろいろとめんどくさい事に巻き込まれたりして、多大な迷惑を被ったのだ。




前を歩く亮乃のピンクウサギ姿を見ながら、密かにため息をつく。

主人公格の人間と一緒にいるのは、精神的にも肉体的にも疲れる。


「それにしても、槍やらボーガンやら鉄球やらギロチンやら。どれだけ仕掛けてあるんだろ」

「ちょっとしたアトラクションだもんな。普通の人なら死んでんじゃないか?」

「自分は普通じゃないって言いたいわけね」


上から降ってきたナイフを避けながら亮乃は笑う。


「莉伽は俺の事、普通だって思ってたのか?」

「・・・思ってないよ」


主人公だと思ってますから。


「これってやっぱり、試されてるって事になるのかなぁ」

「んー・・・それはどうだろうな。体力を減らしておいて生け贄として捧げる時に、抵抗できないようにしてんのかも・・っおぉ!?」

「体力減ってるのは亮乃だけだけどね。大丈夫?」

「だ、大丈夫・・。それか、いい具合に運動させた方が美味しくなるとか」

「どっちにしろ食べられちゃうのね」


ドラゴンとかが出てきたら、すぐに亮乃の後ろに隠れよう。



「亮乃、ついでだから聞くけどさ」


莉伽はずっと気になっていた事を聞く。


「あのプイプイって結局何だったの?」


プイプイ。

莉伽と亮乃がこの世界にきた、多分元凶の物。


亮乃はいったん足を止め、こちらを振り向く。


「あぁ、あれはな。貰ったんだ。不思議体験が出来るかもって言われてさ」

「不思議体験?」

「そ。見事に今現実となって体験出来てる訳なんだが。那子には悪い事したな。俺達だけだなんて」


加藤兄妹は少し変わっている。他人から見れば、普通の主人公格の兄妹の様に見えるのだろうが、幼馴染みである莉伽からすれば主人公格の変人兄妹である。

ファンタジーが好きで、面白い事が好き。昔、この兄妹と一緒に河原に遊びに行った時、河童を見ただの河の妖精オッシーを見ただのと騒がれ、一日中、捕まえるのを付きあわされた記憶がある。

結局見つからず仕舞いだったのだが。


そーいえばその時に、他にも誰かいたような気がするのだが、誰だったかな・・・?


「で、誰から貰ったの?そんな怪しげなもの」


立ち止まったままの状態だった亮乃に聞いてみる。


「それはな・・・っと!?うわぁ!!」


亮乃が立っていた辺りの床が突然開き、亮乃が続きの言葉を発する前に、落とし穴のごとく床下へと落ちて行ってしまう。

だが、そこは亮乃。

無様な叫び声などは上げずに、無言のまま落ちていってしまった。


「亮乃!?」


莉伽があわててしゃがみこんで床に開いた穴から下を覗くが、そうとう深い落とし穴なのか、真っ暗で亮乃の姿を見る事は出来なかった。


「りょーのぉー!!」


・・・返事はない。


まさかとは思うが、串刺しとかにはなってないよね・・・?


主人公な亮乃がこんな所でフェードアウトする訳がない。莉伽とは違いそれなりのものを持っているのだから。


だから大丈夫だ。



そう言い聞かせ、もう一度だけ落とし穴の中へと声をかける。

自分の声が響いて、エコーのように広がる。


「・・・・・・」


やはり返事はない。

頭を振って、最悪の事態を想像するのをやめ、莉伽は立ち上がる。


どーするか。


このまま一人で進むのは危険だしあまりにも無謀だ。

亮乃が助けに来てくれるのを待つか?


落とし穴が開いたのは、亮乃が立ち止まって莉伽と話しをしている時だった。

とすると、何かのトラップにかかった訳ではなく、建物内にいる誰かが狙って亮乃を落とし穴へと落としたのだ。


「私と引き離すためかな」


もし仮に生け贄として先に亮乃が落とされたのだとしても、亮乃の事だから莉伽とは違いきっと簡単には食べられたりしない筈だ。


多分。


「信じて待つしかない、か」



そう覚悟を決めた莉伽の耳元に、ジャキっという聞き覚えのあるような音が聞こえる。最近体験した覚えのある展開に、莉伽は身動きが取れなくなってしまった。



・・・・まさか。




「大人しくついてきてもらおうか」



二度目の展開に、莉伽は先程とは違った覚悟を心に決め、両手をゆっくり頭の上にあげるのだった。






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