魔王説or試されてる説
牢屋から出た莉伽と亮乃は、暗い廊下を並んで歩いていた。歩く先々にも、同じような牢屋があったが、中には誰もいなく、静かな廊下に二人が歩く、ポスポスと言う軽い音だけが響いている。
「静かだね」
「俺達以外は誰もいないみたいだな」
「見張りとか普通、いると思うんだけど」
「ワナかもな、やっぱ」
最初のうちは、辺りを気にしながら歩いていた二人だったが、進むうちに人の気配が全く感じられ無いことに気づき、今ではペタペタと普通に歩き始めている。
「思い出した」
「何?なんか良いことでも思い出したの?」
いきなりポンっと手を叩いて、そう言った亮乃に莉伽は、あまり期待はしないで聞いてみた。
「ファンタジー王道、魔王説」
「魔王説?」
牢屋での話しの続きだろうか。
「勇者でもなく、生け贄でもなく、『魔王』。最近は魔王主人公路線が多いからな」
「確かに」
『正義』の勇者、ではなく『悪』の魔王。魔王が主人公の話しは今や主流とも言えるほど、広がってきている。
内容は主に、魔王には魔王の『正義』がある、みたいな感じだ。
確かに、人が感じる正義にはバラつきがある。考え方や立場が違えば、良いと思う事が他人と違ってくるのは当たり前なのだが。
「魔王か・・・。どちらかと言えば、勇者よりそそられるよな」
「そう?どちらにしろめんどくさい」
「めんどくさいって。やる気ないな、莉伽」
「私は見てる方が好きなの。傍観者でいたいのよ。それに、魔王は勇者には勝てない、っていうお決まりがあるから、この世界にもし勇者がいたら倒されちゃうよ」
その時は勇者と友達にでもなろう、と呑気なことを言っている亮乃と莉伽の前に木製の扉が現れた。
少しだけ開けてみると、その扉の向こうは絨毯が引いてある廊下へと続いていた。多分この扉が建物内から牢屋へと繋がる扉なのだろう。
「・・・どーする、亮乃?ここから先は今までと違って、誰かに会う可能性は高くなると思うけど」
牢屋と違い、ここから先は普通に建物の中だ。兵士もいるだろうし、建物内の人間がその辺を歩いている可能性は十分ある。
莉伽達が湖近くで目にした白い建物。それがここだ。外見はまさにファンタジー世界に出てくるお城そのままだった。
入口には、丸太をいくつも繋ぎ合わせて出来た大きな橋があり、兵士が合図を送るとギギギという音をたてながら、降りてきた。
その橋を渡り、城の中の牢屋へと連れて行かれたのだが。城の中では目隠しをされていたため、内部を見ることは出来なかった。
「ここは行くべきだろう。ゲームでも何かしらの行動をしないと、話しが進んでいかないからな」
亮乃は扉を開き、意気揚々と歩いて行く。堂々とした態度はかっこいいのかもしれないが、今の亮乃の姿は忘れてはならない、『ウサギの着ぐるみ』、だ。
白黒パンダの莉伽と、ピンクのウサギの亮乃。
RPGで見たら、すごいまぬけなパーティーに見えるんだろうな、と思いつつ莉伽は亮乃の後ろをついて出た。
「あとさ、俺思ったんだけど」
「今度は何?」
「牢屋の鍵。兵士が故意に開けていったって言う、ワナ説と、かけ忘れたって言う、まぬけ説。あと一つ、あると思うんだ」
さすがに先程よりは慎重にゆっくり歩きながら、亮乃は言う。
「あと一つ?」
「そう。兵士が故意に開けたって所は同じだけど、ワナじゃなくて、試されているっていう説」
「試されてるって、どーいう事?」
「使えるか使えないかって事だ。もし仮にだが、勇者として俺達が呼ばれたとしよう」
勇者を牢屋に入れるとか、ファンタジー世界的に無しだけどね。
いや、ありなのか?
「呼んだ奴が全く使えない奴だったら、勇者として魔王退治に出しても殺られるのが落ちだろ?あと、途中で怖くなって逃げ出す奴とかもいるかもしれない」
「だから勇者として使えるかどうか、行動力や素質を試すって事?」
亮乃はこくりと頷く。
「だからな、莉伽」
そう言った亮乃の足元で、カチッという小さな音がした。
と同時に亮乃の目の前、すれすれを、ボーガンの矢の様なものが通り過ぎ、壁に突き刺さる。
「・・・この先、こういったトラップが仕掛けてあるかもしれないから、注意した方がいい」
「・・・・・・」
オッケイ。
牢屋に戻って大人しくしてようか。亮乃君。
死んでしまったら、洒落にならないのだから。




