勇者召喚、希望
そんなこんなで、牢屋の中。びしょ濡れの制服のまま、ここに連れてこられた莉伽と亮乃は、今まさに窮地に立たされていた・・・
ことは特になく。
そこそこ快適な牢屋ライフを送っていた。
「・・・意外にあったかいよね?この牢屋」
「あそこに暖房器具っぽい物があるからだろ」
牢屋の外には、昔の石油ストーブ的な縦長の物が置かれていた。真ん中あたりがオレンジ色に染まっており、火がついているのだろうことがわかる。
私達のためかな・・・?
まさかね。
「ねぇ、亮乃。さっきの子供二人ってさ」
「多分サクとチリルだろうな。状況からして」
莉伽が最後まで言う前に、亮乃は察してくれ、莉伽の言葉を引き継いだ。
そうなのだ。
さっきの茶髪の少年と金髪の少女は、莉伽と亮乃をこちらの世界へと連れてきた、サクとチリル。確認してみたわけではないが、あの状況とあの声。
『ニルバニアへようこそ、リョーノ、リカ』
明らかに茶髪の方はサクだった。金髪の少女の方が喋る事はなかったが、それが逆にチリルだと言う証拠になる。
チリルは喋れない子、だったからだ。
「どうなるのかな、私達」
「さぁ?とりあえず、この濡れた服を着替えさせて欲しいんだけどな」
「いや、多分服より先に気にする所があると思うんだけど・・・・」
確かに、湖に落ちたせいで制服はびちょびちょの水浸しだ。体にまとわりついて気持ち悪いのだが、服よりも先に、気にする所が絶対にあるのではないだろうかと、莉伽は呆れつつも亮乃に話しかける。
「何のために連れてこられたのかな?」
「さぁ?」
「ファンタジーにありがちな勇者召喚、とかかな?」
勇者を牢屋に入れるとか、聞いた事ないけどね。
「勇者か・・・ありきたりだよなー」
「王道だよね」
「俺としては、なんかあっと驚くような展開がいいな」
「驚くような展開って?」
「なにかの生け贄とか」
「・・・なんの?」
あり得るけどさ。
ドラゴンの生け贄とか、人柱とか。
でもそれも、ありきたりな展開、なような気がする。
「・・・・はぁ」
勇者にしろ生け贄にしろ、ファンタジーは自分で体験するもんじゃない。本やテレビで見るからこそ、楽しいのだ。
これから起こるだろう展開を思い、ろくなことにならないんだろうなぁと、何度もため息をついてしまう莉伽であった。
莉伽と亮乃が『ファンタジー談義』に少しばかりの熱をあげていると、ふいにカツカツという足音が聞こえてきた。鉄格子近くを見てみると、先程の兵士らしき人物が、大きな袋を持って立っていた。
「お前ら、服濡れてたよな」
そういって手に持っていた袋を、牢屋の扉を開き、無造作に放る。
「これは?」
器用にそれをキャッチした亮乃が、兵士に聞く。
「変えの服だ。着替えておけ」
それだけ言って、兵士はまた廊下を歩いて行った。足音が聞こえなくなってから、亮乃が袋の中身を確認する。
「・・・・・これは」
「何?着替えじゃないの?」
亮乃が袋の中身を凝視したままなのを不信に思い、替えの服を持ってきてくれるとか、本当に待遇いいなぁと思いながら、莉伽も横から袋の中を覗きこむ。
「こ、これは・・・」
袋の中に入っていたのは、確かに『着替え』だった。
だが、これは果たして本当に、よろこんで良いものなのだろうか?
「ちゃらららーん。これはウサギです」
「・・・・パンダ、かな・・?」着替えが完了した二人の姿は、イベントなどで風船などを配ったりしている、『着ぐるみを被った人』そのものだった。
あれよりは体にジャストフィットしているので、服としても着れるのだが・・・・。
何故異世界にも、このような物があるのか。
そして、なぜ着替えとして渡されたのが、これなのか。疑問は尽きないが、とりあえずびしょ濡れ制服から着替える事ができたので、よしとする事にした。
「那子が見たら、被りたがるだろうな」
頭にもきちんとウサギの被り物をしている亮乃が、首を少し傾けて言う。
「那ーちゃん、好きそうだもんねぇ。こうゆうの」
莉伽の方は、体の部分だけ着ている。体にフィットしていて、ふかふかでもこもこ。着心地はいいが、頭の部分まで被る必要はないだろう。
「それにしても、いつまでここに入ってないといけないのかなぁ」
「勇者説と生け贄説、どっちがいい?」
亮乃が、頭の被り物を取りながら唐突に聞く。
「どっちって。どっちもどっちだけど、やっぱ生け贄よりは勇者のがいいんじゃない?」
莉伽がそう言うと、亮乃は牢屋の扉の方を指差す。
「多分、鍵かかってないぞ、あそこ。さっきの兵士がかけ忘れたっぽい」
まさかぁと思いつつ、莉伽が扉に手をかけると、扉はあっけなく外へと開かれた。
「・・・・・・・」
「な?開いただろ」
「・・・さっきの兵士がまぬけなの?それとも・・・」
「ワナか、だな」
どーする?と亮乃がニヤリと笑いながら、莉伽の方を見る。
どーするって。
その顔は、どーするか決まってるって顔じゃないですか。
莉伽はため息をついた。
やはり、ろくなことにならない気がする。
訳あって、この小説のあらすじを変更いたしました。
ストーリー的に路線変更しようかなー、と思ったのですが、今んとこ考えてた通りに、ちょっとずつ進んでます。
変わるか変わらないかは、この先の自分の状況次第、かなぁ・・・。




