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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
7/36

勇者召喚、希望

そんなこんなで、牢屋の中。びしょ濡れの制服のまま、ここに連れてこられた莉伽と亮乃は、今まさに窮地に立たされていた・・・


ことは特になく。


そこそこ快適な牢屋ライフを送っていた。




「・・・意外にあったかいよね?この牢屋」

「あそこに暖房器具っぽい物があるからだろ」


牢屋の外には、昔の石油ストーブ的な縦長の物が置かれていた。真ん中あたりがオレンジ色に染まっており、火がついているのだろうことがわかる。


私達のためかな・・・?

まさかね。


「ねぇ、亮乃。さっきの子供二人ってさ」

「多分サクとチリルだろうな。状況からして」


莉伽が最後まで言う前に、亮乃は察してくれ、莉伽の言葉を引き継いだ。



そうなのだ。

さっきの茶髪の少年と金髪の少女は、莉伽と亮乃をこちらの世界へと連れてきた、サクとチリル。確認してみたわけではないが、あの状況とあの声。


『ニルバニアへようこそ、リョーノ、リカ』


明らかに茶髪の方はサクだった。金髪の少女の方が喋る事はなかったが、それが逆にチリルだと言う証拠になる。

チリルは喋れない子、だったからだ。


「どうなるのかな、私達」

「さぁ?とりあえず、この濡れた服を着替えさせて欲しいんだけどな」

「いや、多分服より先に気にする所があると思うんだけど・・・・」


確かに、湖に落ちたせいで制服はびちょびちょの水浸しだ。体にまとわりついて気持ち悪いのだが、服よりも先に、気にする所が絶対にあるのではないだろうかと、莉伽は呆れつつも亮乃に話しかける。



「何のために連れてこられたのかな?」

「さぁ?」

「ファンタジーにありがちな勇者召喚、とかかな?」


勇者を牢屋に入れるとか、聞いた事ないけどね。


「勇者か・・・ありきたりだよなー」

「王道だよね」

「俺としては、なんかあっと驚くような展開がいいな」

「驚くような展開って?」

「なにかの生け贄とか」

「・・・なんの?」


あり得るけどさ。

ドラゴンの生け贄とか、人柱とか。

でもそれも、ありきたりな展開、なような気がする。


「・・・・はぁ」


勇者にしろ生け贄にしろ、ファンタジーは自分で体験するもんじゃない。本やテレビで見るからこそ、楽しいのだ。

これから起こるだろう展開を思い、ろくなことにならないんだろうなぁと、何度もため息をついてしまう莉伽であった。






莉伽と亮乃が『ファンタジー談義』に少しばかりの熱をあげていると、ふいにカツカツという足音が聞こえてきた。鉄格子近くを見てみると、先程の兵士らしき人物が、大きな袋を持って立っていた。


「お前ら、服濡れてたよな」



そういって手に持っていた袋を、牢屋の扉を開き、無造作に放る。


「これは?」


器用にそれをキャッチした亮乃が、兵士に聞く。


「変えの服だ。着替えておけ」


それだけ言って、兵士はまた廊下を歩いて行った。足音が聞こえなくなってから、亮乃が袋の中身を確認する。


「・・・・・これは」

「何?着替えじゃないの?」


亮乃が袋の中身を凝視したままなのを不信に思い、替えの服を持ってきてくれるとか、本当に待遇いいなぁと思いながら、莉伽も横から袋の中を覗きこむ。


「こ、これは・・・」


袋の中に入っていたのは、確かに『着替え』だった。



だが、これは果たして本当に、よろこんで良いものなのだろうか?







「ちゃらららーん。これはウサギです」

「・・・・パンダ、かな・・?」着替えが完了した二人の姿は、イベントなどで風船などを配ったりしている、『着ぐるみを被った人』そのものだった。

あれよりは体にジャストフィットしているので、服としても着れるのだが・・・・。

何故異世界にも、このような物があるのか。

そして、なぜ着替えとして渡されたのが、これなのか。疑問は尽きないが、とりあえずびしょ濡れ制服から着替える事ができたので、よしとする事にした。


「那子が見たら、被りたがるだろうな」


頭にもきちんとウサギの被り物をしている亮乃が、首を少し傾けて言う。


「那ーちゃん、好きそうだもんねぇ。こうゆうの」


莉伽の方は、体の部分だけ着ている。体にフィットしていて、ふかふかでもこもこ。着心地はいいが、頭の部分まで被る必要はないだろう。


「それにしても、いつまでここに入ってないといけないのかなぁ」

「勇者説と生け贄説、どっちがいい?」


亮乃が、頭の被り物を取りながら唐突に聞く。


「どっちって。どっちもどっちだけど、やっぱ生け贄よりは勇者のがいいんじゃない?」


莉伽がそう言うと、亮乃は牢屋の扉の方を指差す。


「多分、鍵かかってないぞ、あそこ。さっきの兵士がかけ忘れたっぽい」


まさかぁと思いつつ、莉伽が扉に手をかけると、扉はあっけなく外へと開かれた。


「・・・・・・・」

「な?開いただろ」

「・・・さっきの兵士がまぬけなの?それとも・・・」

「ワナか、だな」



どーする?と亮乃がニヤリと笑いながら、莉伽の方を見る。


どーするって。

その顔は、どーするか決まってるって顔じゃないですか。



莉伽はため息をついた。

やはり、ろくなことにならない気がする。





訳あって、この小説のあらすじを変更いたしました。

ストーリー的に路線変更しようかなー、と思ったのですが、今んとこ考えてた通りに、ちょっとずつ進んでます。


変わるか変わらないかは、この先の自分の状況次第、かなぁ・・・。


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