ニルバニアへ
異世界に来ました。
そして今は、牢屋にいます。そう、牢屋です。
罪人が入れられる、あの牢屋です。
「どーいう事だろうね、亮乃君」
隣で呑気に、欠伸をしている男に莉伽は問いかける。
ちょっとはこの現状に慌てて欲しいものだ。
「さぁ?俺もわからないな」
「わからないって・・・」
当たり前か。
展開があまりにも急過ぎたのだ。
今から一時間前に遡る。
サクとチリルと言う、二匹のぬいぐるみに『仕事を見せてやる』、と言われ連れてこられた先は、
湖の中だった。
「・・・・がぼっ!?」
当然のことながら溺れそうになった莉伽は、必死で手足をバタつかせる。
が、どんなに頑張っても水、水、水、だ。
し、死ぬ・・・・。
そう覚悟して、力を抜こうとした莉伽の腰を、誰かの腕が掴んで引き上げる。
「大丈夫かっ!?」
ようやく吸い込めた空気に、ゲホゲホと咳き込んでいた莉伽の頭上から、切羽つまった様な声が聞こえる。
見ると、ずぶ濡れ状態の亮乃が心配そうに莉伽を見ていた。
「りょ・・・の?ゲホッ!ゲホッ!」
「大丈夫そうだな」
亮乃がほっと、ため息をつく。
「ごご、どご?・・・ゲホ!」
「わかんねー。とりあえず、もといた公園、じゃあないな」
周りを見渡してみる。先程までの景色とはがらりと変わっていた。
公園にあった滑り台やブランコ、砂場などもなく、あるのは莉伽や亮乃が溺れかけた湖と、緑、そして遠くに見えるでっかい白い建物だけだ。
「ゲホゲホ!はー・・・。あの二匹は?」
やっと呼吸も落ち着いてきた莉伽は、キョロキョロと二匹、サクとチリルを探す。
「・・・いないな。まだ湖の中なのか?」
「えっ!?」
莉伽は亮乃に助けてもらったが、あの二匹はもしかしてそのまま・・・。
慌てて湖の中を見てみるが、湖は静かなものだった。誰かが溺れているような気配はない。
「・・・先に上がって、何処かへいったのかな・・・?」
「そのまま沈んだのかも」
「縁起でもない事言わないでよ」
ギロリと亮乃を睨む。その亮乃の肩越しに、先程まではいなかった、二人の小さな子供の姿が目に入る。
「・・・・・?」
一人は茶髪の少年。
そして、もう一人は金髪の少女。
どちらも6、7歳ぐらいだろうか。どちらも人形の様に可愛らしい。
特に金髪の少女の方は、フランス人形の如く綺麗な青い瞳も持っているので、金髪の長い髪と合わさってまさに『絶世の美少女』だ。
ぼーっと見ていた莉伽に、茶髪の少年はニヤリと笑う。
「ニルバニアへ、ようこそ。リョーノ、リカ」
・・・・・・・ん?
何故私達の名前を知っているんだ・・・?
ジャキっと耳元で嫌な音が響く。
「動くな。無駄な抵抗もやめておいた方がいい」
音がした方をおそるおそる見る。
キラリと光は刃物の様なもの。
不思議の国のアリスに出てくる、トランプの兵隊さんが持っているような、槍形態の武器だ。
「りょ、亮乃・・・・」
両手を頭の上までゆっくり持ち上げながら、莉伽は亮乃の方を見る。
「残念な感じ、だな」
亮乃もホールドアップ状態、だった。




