魔王VS勇者
「こらっーー!!!亮乃っ!!!」
「莉伽さんっ、危ないですってば!亮兄なら心配しなくても大丈夫ですよー。というか、私もドラゴン近くで見たいですっ。行ってきていいですか?」
「おい、お前らちょっと落ち着け。ここから出たら確実に死ぬぞ」
「リカリカ、あの勇者は本当にミトスと正反対なんだねぇ。血の気が多いなぁ。ところでナイト、大丈夫?」
「大丈夫じゃなーーいっ!!!なっっんで私がこいつらを守らないといけないのよっ!!なんで魔王はあんなちんちくりんな勇者と戦わなくちゃいけないのよ!!!!
人間なんて、
私はやっぱり嫌いなんだからぁっーーー!!!!!」
そんな展開が繰り広げられる数分前……。
魔王様に会いに行こう、そう決めた日の翌朝。
莉伽、亮乃、那子、グローカスはブラックの力で魔王城に来ていた。
ブラックの力はさすがなもので、全員ひとっ飛びで魔王城の魔王様のお部屋まで来ることができた。
その後、突然の大勢での押しかけにびっくりしているナイト、じっと見てくる魔王様にご挨拶。
すみません。
大勢連れてきて。
ナイトにはおもいっきり睨まれました。先日、制止の言葉を聞かずにここから逃げるようにして離れたこと、そして今、人間(というか勇者一行)をここに連れてきたことを怒っているようです。
こ、怖い。
ちなみに何故かナイトの姿も見えるようになってました。まぁ、私(あとブラック、そして魔王様)以外は見えてないみたいだけど。
ナイトもライトと同じで虎のお姿。ライトは白色毛の虎だけど、ナイトは茶色毛の虎だ。
可愛いよー、ナイト。
いかしてるー。触りたーい。
なんてご機嫌を取ろうとして言ったら、こっちに飛びかかってきそうな感じになったので、とりあえず亮乃の後ろに隠れる。怖い。
じゃあ僕、魔王と話して来るよーと言って、指輪から出てきたライトが歩きだそうとしたその時。
「魔王っ!!お前に戦いを申し込む。受けてくれるな?」
そう言って、
ビシッと魔王様に指をさす一人の男。
何言ってんの!?
亮乃っーーー!!!
そんな感じで、
魔王VS勇者の戦いが始まったのである。
RPGで言う所のボス戦。
ラスボス戦が、今目の前で繰り広げられているのだった。いきなりね。
部屋は激しくひっちゃかめっちゃか。私達が巻き込まれないようにと、魔王様がナイトに言って周りにバリアを張ってくれているので、こっちは大丈夫なのだが。
亮乃………。
さすが主人公。さすが勇者様。魔王様と互角にやりあってます。いや、もしかしたら魔王様が手加減してくれているのかもしれない。
遠くに見える亮乃の手には、いかにもっ!な感じの剣が握られ、魔王様の攻撃を受けたり避けたり逃げたり、たまに魔王様に攻撃して弾かれたりしている。
どこから出したんだろう、あの剣。な疑問はとりあえずスルーしておく。
ファンタジーだから。
剣ぐらいどうとでもなるから。
というか魔王様、
お部屋が破壊されていってますが大丈夫なのですかーーーっ!!!
亮乃の攻撃方法は主に剣での攻撃なので、あまり部屋破壊には繋がっていないのだが、
魔王様の攻撃方法が厄介だった。魔王様の攻撃は、その巨体を活かした体当たり的なもの、そして長い尻尾を活かした鞭攻撃的なもの。
そして、
魔王様のお口から放たれる、なんとかブレス的なもの。
だって魔王様はドラゴン様だから。ドラゴンって言ったらそれでしょうよ。
そんな訳で、部屋はメチャクチャ。その騒ぎを聞きつけ、何事かっ!?とやってくる城内にいた魔物達。その魔物達に、ことの説明をできる者がいなかったため、敵襲と勘違いし、こっちに迫ってくる魔物達にバリアだけで精一杯なナイトに変わりライトが説明。
敵じゃないよー。
敵ではなかったら何なんだ!お前らは!
んー?何だろ?
そこにいるのは人間だな!?何故人間がここにいる!!
えーと、それはぁブラックが空間を移動してー。
魔王様に仇なす者、成敗いたすっ!!!
………ライトに説明は無理でした。ということで、ナイトさーんっ!!!バリアしながら説明よろしく。
「こっちより、あの魔王に手ぇ出してるちんちくりんをどうにかしなさいよっ!!!こっちは魔王に頼まれて守ってやってんのよ!!手出しは無用!!あっちいけーーっ!!!」
その言葉に魔物達はおろおろしながらも向きを変え、魔王VS勇者の戦場へと突き進む……が、ラスボス戦なだけにそんじょそこらの魔物では、その場にたどり着けない様子で。………というか、戦いの余波に負けたというかなんというか。
次々にリタイアが続出。
凄いね、
魔王VS勇者戦。
だが、そんな雑魚魔物だけでもなかったようで、亮乃に近付いていく魔物もいた。さすがに魔王、魔物ペアVS勇者お一人様では分が悪い。
「亮乃っ!!!」
叫ぶ莉伽の頭を、グローカスがぽんっと叩く。
「大丈夫だ、俺が行く」
そういってナイトのバリア内から抜け出し、戦場の方へ走り去るグローカス。
グローカス!!
なんて頼もしいアンカーなんだ!!
でも大丈夫だろうか?
今までバリアの中にいたから、そんなに戦えない人なのかと思ってたんだけど。
そんな心配をよそに、グローカスは華麗に魔法を使い、亮乃に手を出そうとする魔物達を蹴散らしていく。
そーいえばアンカーは唱魔法を使うってアイナが言ってたっけ。魔物の命である、魔石を使って発動させる魔法。その魔法を使って魔物を退けていく。
それってなんだか。
「つまらんな」
ふわっと頭に重みを感じた。ブラックだ。
「つまらんゾ。こんなもの見てて楽しいのか?お前は」
別に楽しんでるわけじゃないんだけど。
「止められるものなら止めたいわよ、私だって。だけどあんな戦場に、私が行けるわけないじゃない。リタイアした魔物達だっているんだし。
私なんかが行ったら一瞬でおじゃんよ、おじゃん」
そうそうに余波で吹き飛ばされてしまうわ!!
「止めたいのか?止めたいのに動かず何もせずじゃ、止められないに決まっているだろ」
うっ………。
君は本当にズバッと正論を突き付けてくるよね。
「リカリカ、僕が守ってあげるから一緒に止めにいく?」
ライトがそう言うが、
ライト……今の君にそこまでの力があるのかい?っていう疑問がね、ちょっとあるんだけど。
なにせ、今私達を守っているのはナイトだ。ライトは私達共々守られているのだから。
「うーん……多分大丈夫?かなぁー」
多分!?
多分であの戦場に突っ込んで行こうとするのはやめてっ!!!
あと、那ーちゃんっ!!
さっきから静かだなー、って思ってたらそんな所で魔物と仲良さ気にっ!!!
何やってんの!?
「リカ」
自分の名を呼ぶブラックの声に、莉伽はびっくりして思考が一瞬ストップする。
ブラックが初めて『りか』と名前を呼んだから。
「リカ、止めるのか?止めないのか?」
頭の上に乗っかっていたブラックは、止めるのか?と聞いた。
止めたいのか?
ではなく。
「………止め、る……」
そう莉伽が呟いた瞬間、激しい爆音がして部屋の壁が壊れ、魔王と亮乃は外へと飛び出して行ってしまう。
どうしよう?
外に出られたら、もう止めようがないのではないか?部屋とは違い、外は広いのだから捕まえようがない。
「止めるんだな。よし、行くぞ」
その頭上からのブラックの声を聞いた時、行くぞってどこへ?と莉伽が思う暇もなく、気が付けばそこは………
はるか上空。
空の上、でした。
「……え………」
で、まぁ羽が生えているわけでもなかった莉伽は、重力によってそのまま下へと落下していくのであった。
叫び声など、出るはずもない。ただただ落下。
「………っ………」
暴風が体に当たる痛みと、今まで感じた事のないスピード感に莉伽が気を失いそうになった時、
下から突き上げるような突風が吹き、自分の体が舞ったかと思うと、気付いたら誰かの腕の温かい温もりに触れていた。
「大丈夫か!?何で空から落ちてくるんだよ」
聞き覚えのあるその声は、幼馴染みの声で。
今、その幼馴染みと一緒にいる場所は空の中、魔王様の背中で。
きっと魔王様の背中に乗って亮乃が助けにきてくれたのだろう。
まぁ、取り合えず助かった。
んだけど。
「……うぅ……死んだ………」
いや、生きてるから
と言う亮乃の声を聞きながら莉伽は、ブラック!!荒療治すぎるよこの止め方、と自身の頭の上にしっかりとへばりついて離れなかった黒猫の軽い重みを感じながら、心の中で呟いた。




