呪文を唱えたのは誰か
「莉伽」
授業が終わり、さぁ家に帰ろうかとしていた所で亮乃に声をかけられた。
「亮乃。どーしたの?」
「もう帰るんだろ?俺部活だからさ帰りついでに、あれに水あげといてくれないか」
「プイプイね。いいけど那ーちゃんは?」
「プイプイナンゴリッターな。那子は図書当番だって朝言ってただろ?時間かかるだろうし、あいつには俺から言っとく」
そういえば朝そんなこと那ーちゃん言ってたな。ついでに栽培方法も調べるとかなんとか。
「わかった。じゃ、部活頑張ってー」
「おー、そっちも頼むなー」
手を振って亮乃を見送る。スポーツマン男児、きっとこれから青春の汗をかくのだろう。若いってすばらしい・・・。
「さて、帰るか」
鞄を持って教室を出る。莉伽は部活に入ってないのでそのまま帰宅。靴を履き替え校舎の外へ、いつもの家路につく。
・・・結局、プイプイって何なんだろうか。食べ物なのか植物なのか・・・。聞いた事のない名前だから新種のやつとかかな。というか、何処で買った物なんだろ。きっとネット通販とか、あやしげな所で買ったのだろうが。
「わっ!?げっ・・・破れた・・・」
考え事をしながら歩いていると目の前で男の人が大変なことになっていた。買い物袋が破れたらしい。
「大丈夫ですか?なんかいろいろ落ちてますけど」
「あぁ・・・有難う、拾ってくれて。袋が急に破れちゃって」
「いえ、じゃあ」
落ちたものを拾ってあげて、莉伽はその場を離れる。
プイプイ、パソコンで調べてみても出てこなかったし絶対世に出回ってないものだよね。変なものじゃなければいいけど。家で育てるのは駄目だって言ってたしなぁ。というか、そんなもの買うなよ。
そんな事を考えながらプイプイを植えた所まで来た莉伽はそこに奇妙な物体を見つけた。
犬と鳥・・・の手のひらサイズのぬいぐるみ、かなぁ。動いてるけど。犬の方はメガネをかけている。ものすごくかわいいな、おい・・・。
「お前かぁ?・・・呪文を唱えたのは」
鳥のぬいぐるみがじっと見ていた莉伽に気づいて喋りかけてきた。なんだろ、おもちゃ?
「おいっこら、聞いてるのか!!そこの女!」
「・・・うるさいんだけど」
ダルそうに犬のぬいぐるみが喋る。メガネ犬が喋る・・・かわいいぞ。
「・・・はぁ?今の言葉俺に言ったわけ?」
「そうだよ。今喋ってんの君だけじゃないか」
「喋んねーと仕事できねーだろが」
はぁ・・・と犬のぬいぐるみはため息をついた。
「僕は喋るな、とは言ってない。声が大きくてうるさいって意味でうるさい、と言ったんだ」
「っ・・・!悪かったなうるさくて。じゃあお前が喋ればいいだろ!!」
「ほんと、うるさい」
莉伽はしばらく二匹のやり取りを見ていたが、私はプイプイに水あげに来ただけだし、
なんだかめんどくさそーな事に巻き込まれそうだから、さっさとここから離れた方がいいな。うん、そうしよう。そう一人で納得し隠してあるジョウロの方へと向かう。が、そのジョウロに乗っかるようにして猫・・・?のぬいぐるみが動いているのを見てかなり驚いた。
「び、びっくりした・・・ここにもいたのね」
「・・・・・・」
どんだけ出てくるんだろう。どのぬいぐるみも可愛いは可愛いんだけど大量に出てこられたら対処に困る・・・。やっぱ早いとこ離れたほうがいいかも。そう思っていると後ろから犬のぬいぐるみに、あんたが呪文唱えたの?と声をかけられた。
「・・・違うよ。私は呪文なんて唱えてない。水をあげにきただけだから」
「・・・・・・」
「そう。じゃあ何に水をあげにきたのかは知らないし知りたくもないけど、早く『水をあげて』さっさと消えてくれない?邪魔だし、紛らわしい」
犬のぬいぐるみは偉そうにそう言った。
「・・・はーい。で、あの、そこのジョウロから退いてくれるかな?」
まだジョウロの上に乗っかっている猫のぬいぐるみに言った。
「・・・・・・」
退いてくれる気はないようだ。
「ねぇ、早く退きなよ。邪魔になってるから」
見かねた犬のぬいぐるみが声をかけると、了解したのかジョウロから退いてくれた。
「あ、ありがと。・・・えーっと、じゃあ水汲んできまーす」
早く帰ろう、そう思い莉伽はジョウロを持ち水道の方へ走っていった。
「で、どーすんだ?呪文唱えた奴いねーし。このまま待ってんのか?」
「知らないよ。でも見つけないと帰れない」
「・・・・・・」
「さっきのあいつでいーんじゃね?」
「駄目だろうな。仕事に関係のない者を巻き込むなんて、バレたら面倒だ。それにどのみち三人は必要なんだから」
はぁ・・・とため息をつく。
「・・・ったく、誰だよ呪文唱えた奴は!しかも中途半端に!!」
「知らないよ。けど僕達は唱えた人が来るのを待ってるしかない」
「・・・・・・」
「っああー!!くそったれー!」
「うるさい」
そこに水を汲んできた莉伽が戻ってくる。
「っと・・・えーと、そこも退いてくれる?」
ちょうどプイプイを植えた所に立っていて邪魔だった三匹に莉伽はそう言った。
「わかりました」
「さっさとすませろ」
「・・・・・・」
莉伽は三者三様の態度で場所を移動した三匹を横目でみながらプイプイを植えたあたりに水をかける。
「お前、本当に呪文唱えてないのか?」
「唱えてないよ。私は関係なし」
「っち・・・・」
「この辺りで呪文唱えてた人、見ませんでしたか?」
莉伽はだんだん、これはイタズラかドッキリなのかなぁと思い始めていたがとりあえず呪文ってどんな?と聞いてみた。
「カタヤラプイプイナンゴナンサリックミターラ」
・・・ん?と引っ掛かりを覚える。
プイプイ?
「実際にはこれを短く省略した呪文を唱えていると思うんですが」
「そのせいで、俺たちがよこされたんだ。手ぇぬくなって話だよな」
「・・・・・・」
黙り込んでしまった莉伽に、どうかされましたか?と犬のぬいぐるみが声をかけてくる。
「・・・いや、何も。じゃあ水あげも終わったし私は行くね。頑張って」
「応援されてもな。どうしようもねーし」
「もう近寄らないで下さいね、邪魔なので」
「・・・・・・」
猫のぬいぐるみは結局一言も話さなかった。喋れないのだろうか。
莉伽はじゃあ、と言いその場を離れ家へ帰る道ではなく学校へ行く道を突き進む。まさか、と思いながら。
異世界到達まで、後1時間・・・




