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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
28/36

最終回は、もう間近

光の精霊と闇の精霊、

ライトとナイトにとって大事な人は、ミトス。勇者としてこの世界に召喚された戦いを好まない優しい人。


大事な人が殺されて怒らない人なんて、きっとどこにもいない。それは人でなくても一緒。感じる事は同じ。



人も精霊も魔物も。



一緒だから、同じだからこそつらくなる。

どうすればいいのか、解らなくなる。

誰かの恨みや妬みが消えて無くなることはないのだろうか。憎しみや怒りはどうしたら消すことができるのだろうか。



大事な人を無くすことは、なによりもつらく、苦しく、悲しい。










「魔王様、勇者のもとへ行きたいのですがこの場から動いてもよろしいでしょうか?」


莉伽は今だ、魔王様の部屋にいた。指輪の呪いを魔王に解いてもらっている最中なので、ここを離れるわけにはいかないだろうと思いじっと動かずにいたのだが、やはり一度亮乃に会いに行った方がいいだろうと考えたのだ。


そんな莉伽に魔王様は、優しく言葉をかけてくれた。


「大丈夫だ。今は呪いを解く術式を考えているだけだから、この場にその指輪がなくてもかまわない」


魔王のその言葉を聞き、ほっと一息。やっぱり魔王様はなんだかんだ言っても優しいな、と莉伽は思う。自分を倒しに来る勇者の所へ行くと言ったのに、何をしに行くのか問い詰める事をしない。

それは、私が異世界の人間で、何をしようとも興味がないから?


それとも……。




莉伽は魔王に一礼し、いつのまにか隣に来ていたブラックに視線を向ける。


「ブラック、もう一度サイシャまで連れて行ってくれる?」


莉伽のその言葉にブラックが何か言う前に、どこからかナイトの大きな叫ぶ声が聞こえてきた。


「あんたっ!!どこ行く気!?魔王が許しても私は許さないわよ。あんたが行っちゃったらライトまで行かないといけないんだからね!指輪の呪いが解けてから行きなさいよ!」



姿は見えないのだが、怒っているみたいです。



えー…と。

でも、出来ればすぐに行動したいんだよね。亮乃達がサイシャの町から移動しちゃったら見つけるのが大変だし。

突然消えた私に、那ーちゃんが心配してるかもしれないし……。




って事で……。




「ブラック!行って!!」


莉伽はそう叫びブラックを抱き上げる。

ブラックの対応は早かったらしく、一瞬のうちに魔王様の部屋から見覚えのあるサイシャの町の、人気のない場所に来ていた。

ここはライトに、初めてミトスの話を聞いた場所だ。


「…………」

「リカリカ、戻ったらナイトの激怒を覚悟しておいた方がいいよ」



うぅ………。

戻りたくなくなってきたな。呪いの指輪の件があるから戻らないわけにもいかないが。



「ライトは怒ってる?勝手に移動してごめんね?」


莉伽がそういうとライトは、別にいいよーと気楽な声を出す。


「ミトスの次に呼ばれた勇者っていうのも見てみたかったしねー」


怒ってはいないらしい。

一安心だ。



「ブラック、ありがと」


腕の中にいたブラックにお礼を言い、地面に下ろしてやるとブラックは、じっと莉伽を無言で見てくる。



………え…?

何?私、何かした?



「ブラック……?」


どうかした?

と莉伽が聞く前にブラックは、俺は消えると言って、また姿を消した。



「…………」



だから、君はなんなんだ。何がしたいのか、何が言いたいのかてんで解らない。


はぁー、とため息をついた莉伽にライトが話しかけてくる。


「照れたんじゃない?」


照れた?何に?

と聞くがライトの次の声は聞こえなかった。姿が見えないので解らないのだが、指輪の中に戻ったのだろうか?


莉伽はもう一度ため息をつき、歩き出す。



亮乃達はまだ、宿屋にいるだろうかと思いながら。










莉伽が宿屋につき、亮乃達がいるか確かめようと、中にいた店員らしき人に話しかけていると、後ろから声をかけられ軽く頭を叩かれた。


なんだ?と思い振り向くと、そこには当の探し人亮乃と妹の那子、そしてグローカスがいた。

やっぱり雇われたアンカーと言うのはグローカスの事だったらしい。


劇的な再開。

なんてものは、そうそうあるわけがない。

この時も莉伽は亮乃達と普通に再開した。


やぁ、久し振り。

元気だった?

みたいな。





「まさか、本当にまだこっちの世界にいるとはな。びっくりした」


莉伽を見ながら亮乃はにやりと笑う。


「まぁ色々あってね。とりあえず最初っから全部話すよ。私の役目も一応終わったし」


精霊はライトとナイト、二人とも解放された。莉伽がやらないといけない事はやり終えたのだ。多分。もう喋ってもいいだろうと思う。


それに、ここから先は喋らないとどうにもならないような気がするし。




とりあえずグローカスには先に謝っておく。嘘ついてごめんなさい。


グローカスは、特に気にしていないようだった。初めて会った時から少し変だなと感じていたみたいだ。

まぁ、大体が挙動不審っぽかったと思うしね、私。





「じゃあ、亮乃と別れた所から話すね」


莉伽はそう切り出して話し出す。




ニルバニアのお城で閉じ込められ、亮乃を待っている間、閉じ込められていた部屋を物色した。

そして今指にはまっている指輪を見つけ、興味本意で指にはめてしまったがために、指輪の呪いにかかってしまう。

ちなみにこの時は解らなかったのだが、この呪いは『はめたら抜けなくなる』という呪いだそうです。




「あほだな」


亮乃に呆れたような顔でそう言われた。


悪かったな。

自分でもあの後、後悔したんだから。




そして亮乃が私を助けに来てくれた後、チリルちゃんと元の世界へ帰ろうとしたんだけど……。



「気を失って、気がついたら変な空間にいた」


変な空間?と莉伽以外の三人が首を傾げる。



真っ暗な空間。

あの時は周りが何も見えなかったので、ただ暗いとしか言いようがない。

その空間で、『誰か』に会った。


「その『誰か』はチリルちゃんの体を借りて私に話しかけてきたんだけど、正体は不明。時間がないからーってあんまりちゃんとした説明をしてくれなかったの。


ただ、勇者になった亮乃を死なせたくなかったら言う通りに行動しろって言われた。だから私は、『誰か』が私に言った、精霊の解放をするためにこの世界に残ったってわけ」



だから精霊の事を聞いてきたのか、とグローカスが呟く。


「そう。そして、その『誰か』に私とチリルちゃんが次に飛ばされた場所が、グローカスが泊まっていた部屋だった。

グローカスには、食べ物もらったりローブ貰ったりして、あの時は本当に助かったよ。ありがと」


怖いなー、なんて思っててごめんね。今は大丈夫なんだけど。


グローカスは照れたのか、顔を背けた。

おっと、意外に照れ屋さん。


亮乃と那子はそんなグローカスをちらと見て、にやりと笑う。

きっと、この二人に苦労させられるよ、グローカス。ご愁傷さまです。


莉伽はグローカスを哀れみの目で見てから、続きを話始める。


「で、グローカスと別れて町の外に出て、アイナに会った。アイナは盗賊の子なんだけど、色々助けてくれたの。そして……」



黒猫、ブラックに会った。



ブラックに会って、ブラックがチリルをニルバニアまで送ってくれた。

不思議な猫。

不思議な力を持つ猫。

空間を操る猫。

そんな猫に、嫁になれと言われた事は、やっぱり伏せておく。笑われそうだから。



今、本人に出てきてもらえれば説明もしやすくなるのだが、出てきてくれはしないだろうなと、莉伽はため息をつく。



「で、まぁブラックと一緒に精霊の解放に向かって、そこで光の精霊ライトを解放したんだけど……」


何故だか、ライトに生命力をあげないといけないことになったのだ。


亮乃はあきれ顔で、お前は本当にめんどくさい事によく巻き込まれるよな、と言った。



いやいや、

大半が君のせいなんだけど。



「まぁ、それはとりあえず置いといて。次にここ、サイシャの町にもう一人の精霊を解放しに来た」


そこで、グローカスに会って消えた遺跡の事を聞いて、那子に会って、最終的には魔王に会った。


「もう一人の精霊、ナイトは魔王様の所にいた。この指輪の呪いも魔王様が解いてくれるって言ってくれたの」


今までの顛末は、こんな所だ。なんか、数日の間に色々あったんだなと、莉伽はしみじみ思う。

それも、もう終わる。





この世界とも、

おさらばだ。




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