ミトスがやりたかった事
時間をくれ、
と魔王様がおっしゃったので、指輪の呪いが解けるまで莉伽はまだ暫くはライトに生命力をあげ続けなければいけない事となった。
私は別に生命力に関しては諦めていたので、もう暫くなら全然いいのだが、ナイトやブラックは違った。
「暫くってどれぐらいだ?」「ライトが馬鹿な事するからっ!」「だって、状況がぁー」「状況もくそもないわぁー!!」「いつ嫁になる?」「この、アホ!馬鹿!」「うわ、かっちーん。そこまで言う?もとはといえばブラックが悪いんだよー。僕は悪くない」「俺は何もしていない」「あんたがいらんことしたわけね」「俺は知らんゾ」
などなど。
ぎゃーぎゃーとうるさくて堪らない。
魔王様は周りを気にせず、呪いの解除方法を考え込んでいる。
大物だな。
さすが魔王様。さすがドラゴン様。
よし、
私もこれからの事を考えなくては。
とりあえず頭の中を整理してみよう。
聞かないといけないことや、やらないといけないことがまだあったかもしれないし。
まず、
ライトの願い、ナイトを探す事は解決した。
ナイトは魔王様の元にいたのだから。
ちなみにここは魔王城。
莉伽がいる部屋は魔王様が使っている一室。
………凄い所に連れてきてくれたもんだ、ブラック。
そして、
何故ナイトがここにいたのか?
魔王様に聞いてみると、ライトの封印が解けたのが原因らしい。
魔王か、それに値する力を持った者しか解けない封印にしてあったため、不信に思った魔王は封印の解かれていないナイトの方を、遺跡ごと魔物の領域へ移した。
封印を解除して、ライトの事をナイトに話し、どういう事か探っていた所に莉伽達が突然現れた。
頭の回転の早い魔王様は莉伽達を見て、事の真相に気付いた。
ブラックが封印を解いたのだろうと。
そして、
指輪の呪い問題。
こちらも解決済みと言っていいだろう。秀才な魔王様が解除方法を考えてくれているのだから。
これとともに、生命力問題も解決。指輪が外れればお役ごめんだからだ。
ちなみに、今ナイトに生命力をあげているのは魔王様。
も一つちなみに、生命力はあげ続けても死なないらしい。生き物の生命力は無限に回復する。あげたらあげた分だけ、また湧き出てくるので心配しなくてもいいそうだ。
まぁ、ちょっとした体調不良がのちのち襲ってくるので、覚悟しておいた方がいいとは言われたが。
覚悟しておきます。
で、黒猫ブラック問題。
は、置いておこう。
なにもかもが意味不明だから。
次は………
亮乃と那子。
亮乃に莉伽がこの世界にいる事がバレてしまっているのなら、しょうがない。先程那子には誤魔化してしまったが、精霊がすでに二人とも解放されている今の現状なら、莉伽がなんのために残ったのかを話しても支障はでないだろう。
莉伽の役目は終わったのだから。
今まであった事全て話そう。話して、あとは亮乃や那子に託して早く帰ろう。元の世界へ。平凡な普通の日常へ。
…………ん?
亮乃のこの世界での目的は魔王を倒すこと、なんだよね?
那ーちゃんも確か魔王を退治しに行くんですとかさっき言っていたし。
魔王を倒さないといけないのは、魔物が人間を襲うからであって、
魔物が人間を襲わなければ、亮乃が魔王を退治することなど必要ないわけで。
ということは、
莉伽が魔王に頼めば、解決じゃないか?
大昔の勇者、ミトスのように。
善は急げ、だ。
「魔王様、お願いがあるのですが」
「なんだ?」
「もうすぐここに勇者が来ます。多分魔王様を倒しに。でも、その勇者は話したらわかってくれる勇者なんです。実はその勇者は私の友達なんですけど、同じ異世界から来てて、ファンタジーが好きで私達の世界では魔王っていうと悪の親玉みたいなもので、あっ!いや別に魔王様が悪だって言ってるわけじゃなくて」
しまった。
急ぎすぎて頭の中をちゃんと整理しないまま話したら、わけわからんくなったぞ。
「えーと、つまりですね。魔物が人間を襲うのを魔王様の力でやめさせて欲しいんです」
大昔にミトスがしようとした事。したかった事。
多分、皆仲良しになってもらいたかったんだと思う。人も魔物も。
お願いします、と言うと先程まで騒いでいたライトナイト精霊ズが話しに割って入ってきた。
「無駄よ。この世界の人間は、結局平和なんて望んでないのよ。だから、ミトスを殺した。魔王を倒さなかった、ミトスを殺した」
「僕も無駄だと思うよ。この世界の人間は腐ってる」
でも、それは大昔の話しでしょ?ミトスが殺されたのは1000年も2000年も前の事。それに殺したくて殺したんじゃなくて、なにかの事故かもしれないし。
那子の仮定の話。
勇者と知らずして殺してしまったという話。
もしかしたら本当に事故で、殺すつもりもなかったかもしれない。
その話を見えない精霊ズに言ったが、精霊ズがその話で納得などするはずもなかった。
「リカリカ、僕らはもうこの世界の人間は信用しない。どちらにしろミトスを殺した事は事実。絶対に許さない。
でも精霊は自分の手で、誰かに危害を加える事ができないから、だからミトスの、ミトスが死んだ場所の近くにいてあげる事しかあの時はできなかった」
ライトとナイトが、どれほどミトスの事を好きだったのかが、よくわかる。精霊、という立場でなければ、きっとこの世界の人間を、ミトスを殺した人間を殺していたかもしれない。
それでも、やっぱり私は。
「異世界の人間」
重低音ボイスの魔王様の声が、静まりかえった広間に響きわたる。
「……はい」
魔王様からもやっぱ駄目だって、無理な願いだって言われちゃうのかな。
「お前はこの世界の人間ではないのだから、この世界の事情に口を挟むべきではない」
口を挟むって。
もともとそういう状況に追い込んだのは、こっちの世界の人じゃないか。
私だってすぐに帰りたいっての。
「勇者として呼ばれた亮乃は、魔王様を退治しに来ます。そうなった場合、魔王様はどうなされるおつもりですか?」
答えは一つ、なのだろうけど。
「挑まれたら戦うまで」
それは、殺すという事ですか?
魔王樣は、答えてはくれなかった。




