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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
25/36

勇者に関する謎

ライトはナイトを探したいと言った。ナイトが心配だから、と。


あんな話しを聞いた後のライトの願いを無下にもできず、了解した莉伽はナイトを探すためにとりあえず遺跡が消えた時の事について情報を集めるため、サイシャの町中へ戻ろうとしたのだが。



「魔王の所に行った方が早いと思うよー」


と、ライトが究極な提案をしてきた。



そりゃ、遺跡を作って精霊を封印したのは魔王なんだから、本人に聞いたら何かしらの情報は得られる。もしかしたら、魔王が遺跡を消した張本人かもしれないとグローカスも言っていた。



だがっ!



さすがに魔物の領域にいきなり足を踏み入れる勇気は、莉伽には無い。


頬を触ると魔物につけられた傷がある。


魔物は、人間を襲う。

魔王も、優しいというのは大昔の事で、今も変わらず優しいのかは微妙な所だろう。

というか、今の魔王はその当時の魔王なのか、はなはだ疑問だ。




もし仮に魔物に襲われた場合、ライトが守ってくれるのかといえば、それは無しだ。ずっと眠っていた上、莉伽の生命力じゃ十分な回復はできない。

今も、実は結構ギリギリな状態らしい。




のわりには、元気そうに感じるのだが……。





だから、魔王の所へ行くというのは却下。

魔王と関係ないかもだし。


それにブラックも今だ出てきてはくれない。ブラックなら、魔王の所までひとっ飛びでいけると思うのだが、出てきてくれないのではそれも無理だ。




ライトは不服そうに唸った。私の生命力、本意じゃないけどあげてるんだから、私に従ってもらいますよ。




ライトは指輪の中に戻るーと言い、莉伽はまた一人となった。ライトが消えた後も、ブラックが出てくる気配は相変わらずない。何が気に入らなくて出てこないのか、全然解らない。






黒猫が考えてる事が、

よめない。







「はぁー……」




とりあえず、

人のいる所へ戻ろうか。




そうして戻った莉伽が暫く町中を歩いていると、そこで信じられない人物と出会ってしまう。幻か?とも一瞬思ったが、向こうから話しかけてこられたので、これは現実だ。

現実に今、この子はここにいる。



どうして?




「なんでいるの?那ーちゃん」



亮乃の妹、加藤那子がこちらの世界の服に身を包み、にっこりと顔に笑顔を浮かべて堂々とそこに立っていた。










「お久し振りです、莉伽さーんっ」


那子は莉伽に抱きつく。

久々の再会に感極まって泣いちゃう、なんて事は莉伽にはない。

ただただ驚くだけだ。


「どうして那ーちゃんまでここにいるの!?」

「ナル君に連れて来てもらいました」



ナル君。


うろ覚えだが、確かプイプイ植えた所にいた三匹のうちの一匹。


眼鏡をかけた犬、だ。

まぁ、こちらの世界ではチリルやサクと同じく、人型になっているのだろうが。




そして那子の説明は続く。


「ナル君に連れてきてもらったまでは良かったんですけど。ナル君、場所を少し間違ったみたいで」


つまり、こうだ。


あの日、図書当番が終わり那子がプイプイを植えた公園に向かっていた所、偶然にも莉伽と亮乃が異世界トリップする所を見かけたらしい。

二人だけずるいっ!


ということで、

残されていたナルに自分も連れて行って欲しいと頼んだそうだ。

だが、ナルは少し場所を間違え、二人がニルバニアの白いお城に着くまでには時間がかかってしまった。


着いた時には亮乃はすでに勇者になっていて、莉伽は元の世界へ帰った後だった。

実際には帰っていなかったのだが。



「で、そのまま帰るのもつまらないし、面白くなかったので勇者、亮兄の手伝いでもしようかなって思いまして」


那子には亮乃ほどではないが、力があったらしい。なので、亮乃の手伝いは許可された。


「これから魔王退治に行くんですよー。

でも、その前にこの町で休憩中なのです」


ということは、亮乃もここにいるということか。



ちなみに、

莉伽がこの世界にまだいたことはバレていたらしい。バレた原因はチリル。無事、お城へと戻れていたようで安心した。だが、やはりというかなんというか………。莉伽の事は喋ってしまったらしい。



まぁ、子供に秘密を守れと言っても限界がある。チリルはそういうの苦手そうだったし。

必死に隠そうとはしてくれたのだろうが。




「結局莉伽さんはここに残って何をしていたんですか?チリルちゃんはそこまで詳しくは知らなかったし」



うっ……。

精霊の解放、だなんて言って大丈夫だろうか。

駄目だよね。

駄目な気がする。



莉伽はどうしたものかと悩んだ結果、話を誤魔化す事にした。


「そんな事より、聞きたい事があるんだけど」


那子は首を傾げ、なんですか?と目で問いかけてくる。莉伽は那子に、ライトに先程聞いた魔王と勇者の話しをしてみる事にした。



うまく話しは誤魔化せたようだ。









「前勇者、ミトスさんを殺したのは魔王じゃなくて人間……」



莉伽は精霊ライトの事は伏せ、こっちの世界でできた知り合いから聞いた話しなんだけどと切り出して、那子に話した。

那子は話しを聞き終わると、自分の手をマッサージしながら考え込みだしてしまった。


これは那子の「くせ」というやつだ。自分の手をツボを押すかのようにぐりぐりとマッサージする。いつからこんなくせが付いたのかは知らないが、気付いたらやっていたらしい。


結構気持ちいいからね。

ツボ押し。



「莉伽さん、その話しは本当なんですか?」

「私も信じられないけど、多分事実だと思う。

でもやっぱりおかしいよね?ミトスを呼び出した人間側がミトスを殺すだなんて」



殺す理由など、何もないのだから。


だが、那子は「それはそんなにおかしくはありませんよ?」と莉伽を見る。


「もしかしたら通り魔とか、盗賊とか山賊とか、そういった類いの人が勇者と知らずに襲って、誤って殺してしまったのかもしれません」


勇者の顔なんて、皆が皆知っていたとは限りませんからね、と那子が手のマッサージを続けながら言う。




それもそうだ。


ライトは人間に殺された、とだけ言っていた。どの類いの人間かは、一言も言っていない。

もしその人間がミトスを勇者と知らず、ただの一般人だと思っていたら?






「じゃあ、事故……というかミトスの運が悪かっただけって事?ミトスが勇者と知っての誰かの作為的なものじゃなくて」

「どちらかは判断がつきかねますけどね。私としては、やっぱりミトスさんが勇者と知っていての犯行、という方が何かピンとくるものがありますけど」

「それは勘、というやつなの?」

「はい」



何だか探偵っぽい雰囲気を醸し出してくる那子は神妙に頷く。



ふむ。

ファンタジーだけじゃなく、ミステリーも好きなのだね。



「とりあえず亮兄にも話してみましょうか。今の話」

「そだね。亮乃はどこにいるの?」

「宿屋です。ここまでは亮兄と二人で来たんですけど、この町で待ち合わせしてる人がいまして」



待ち合わせって誰と?



「アンカーの人です。お城の方が雇ってくれたみたいです。魔王の事や魔物の領域の事も自分たちよりもアンカーの人の方が詳しいから、と言ってました」


アンカー………。

もしかして、グローカスの事かな?




じゃ行きましょうか、

と言う那子と一緒に莉伽は亮乃のいる宿屋へと向かった。




……のだが。



頭にふわりと何かが乗る気配を感じて莉伽は立ち止まる。

視線を上げてみると、黒い猫の手が見える。

ブラックだ。


「ブラック」

「いたぞ」

「は?」



何がいたんだ?と思いつつも、莉伽がブラックからふと視線を外すと、周りの景色が一変していた。


先程まであったサイシャの町並みや、那子もいなくなっている。そして今、目の前に見えるのは、





キラキラと豪奢な巨大台座(寝台?)に、これまたとっても、大っっきな体を鎮座させた、






超巨大ドラゴン。



「…………」



君は一体何をしてくれたんだい。ブラック。






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