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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
19/36

裏道街道まっしぐら

アイナと別れ、莉伽はその日のうちに、一人遺跡を目指す。街道は魔物が出るかもしれないからと、アイナは普通の人々が使う道ではなく、


『裏道』を教えてくれた。







「馬車や牛車、人が大勢集まってる町とかには、基本的に魔物は近寄ってこないの。

人間を警戒しているのか、それとも大勢の人間と関わるのを、ただたんに避けているだけなのか、それは解らないけれど。

まぁ最近は、前にも言ったと思うけど、魔物の動きが活発になってきてて、町とかにも現れるようになってきたんだけどね」


アイナはそう言った。



「どっちにしろ一人で町の外を行くのは危険。私はおすすめしないけど、どうしても行くんなら裏道を教えてあげる」


裏道?


「盗賊仲間や闇商人なんかの、一般的には表に出てこれない人達が使ってる道なんだけど、

その道は比較的魔物にも会いにくいし、普通の人達も知らない道だから、そういう人達の通り道になってるの」



だから、その道を通って遺跡まで行くといいよー








「裏道……まぁ、いいんだけどさ」


いいのか?本当に。

裏ルートだぞ。






アイナは地図もくれた。この世界の地図。

簡略化してある地図だったが、ないよりは全然ましだ。





「地図?貰っていいの?」

「うん。私はもう一つ持ってるから。古い方あげる」


アイナは、細かく書かれているもう一つの方の地図を莉伽に見せてくれた。

できればそっちの方が欲しかったが、欲は言えない。


「ありがとう」

「いえいえ。せーふく、貰ったしね」


アイナの手には、布に包まれた莉伽の高校の制服がある。情報の報酬に莉伽がアイナにあげた物だ。

そして莉伽が今身に纏っているのは、アイナに買ってもらった服。

紺色のズボンに黒いTシャツ。その上からワンピース的な物を着て、さらに上にグローカスから貰った灰色のローブをはおっている。



「じゃ、裏道の入口まで案内するよ。一緒に行こ」

「うん」







そして今にいたる。




アイナから聞いて解った事は、やはりここは基本、ファンタジーな世界だということだ。



この世界には、

人間の種族と魔物の種族がいる。

そして、

人間が住んでいる領域と魔物が住んでいる領域がある。


この二つは相入れない物で、人間は人間の領域で、魔物は魔物の領域で暮らしている。


だが、やはり魔物は好戦的で恐ろしい生き物だ。

人間の領域を越えて、人を襲っていく事などがあった。






そして、

勇者と魔王。


勇者は実は大昔にも一度、この世界に現れた事があるらしい。

と言うことは、亮乃は2代目勇者ということになるのだろうか?


その1代目勇者と魔王との戦いがあったのは、アイナが産まれるずっーとずっーと前の事らしい。

1000年だか2000年だか、それぐらい前の事。


勇者は魔王に挑み、その結果、




勇者は死に、

魔王は生きた。


つまり、勇者は負けたのだ。




その戦いの後、魔物が大量に人間の領域に攻め入ってくる事は、


なかった。



勇者が現れる前と同じで、魔物は魔物の領域で暮らし、人間は人間の領域で暮らす。

そして、たまにやってくる魔物に襲われながら、今までと変わらない生活をしていた。




だが、最近

魔物が人間の領域に入ってくる事が多くなってきた、との事。


襲われる率も増え、町の外に出る時は、つねに団体での行動を心がけるようにしているらしい。






1代目勇者が魔王に敗れたから、亮乃に試練を受けさせたのだろうか。

今度は勝てるように。


亮乃の予想は少し当たっていた、という事か。




ちなみにアイナは2代目勇者、亮乃が現れた事は知らないらしかった。


当たり前だ。

亮乃や莉伽が来たのは数日前。


情報がそんなに早く廻るわけがない。







そして、

精霊と遺跡のこと。


この世界には、もともと精霊というものは居なかったらしい。


1代目勇者がもともと携えていたもので、勇者はそれを、精霊と呼んでいたのだという。

その精霊の力で魔物を倒し、魔王のもとへと勇者は辿り着いた。

だが、勇者が敗れてしまった事により、精霊は魔王に封印されてしまったと伝えられている。


その封印されている場所が、遺跡として今も残されている。




場所は二つ。


一つは、

ダウローンの国の、タズナと言う町の近く。


もう一つは、

アルローンの国の、サイシャと言う町の中。



ちなみに、亮乃と莉伽が最初に着いた場所、

チリル達がいる白いお城があるニルバニアは、アルローンの国にある。






「人間の領域は、大まかにはダウローンの国とアルローンの国とに別れてるって事だね」


裏道を歩きながら、貰った地図を見る。



ここはダウローンの国。

まずはダウローンの国、タズナの町近くの方の遺跡を目指した方がいいだろう。




「はぁ……、すぐには終わりそうにないかも」



地図を見ながらうんざりする。タズナの町はまだいい。ここからさほど遠くはないし、すぐに着くとアイナも言っていた。

だが、問題はサイシャの町の方だ。


今いる所と違う国、アルローンの国にあるのだから当たり前なのだが、


物っっ凄く遠い。


タズナの町からは、地図の端と端ぐらい離れている。



歩いていける距離では、

絶対にない。




「まぁとりあえず、それは後で考えよう」



莉伽は問題をそのままにして、裏道を歩き続ける。裏道と言っても、見た目はごくごく一般的な、人通りが少ない普通の砂利道だ。たまに、怪しげなおじさんなどが大きな荷物を抱えながら横を通りすぎるが。



何が裏道なんだろうか?

疑問だ。


魔物に会わないのは凄く助かるのだけれど、やはり一人は不安だ。


莉伽には身を守るすべがない。武器も何も持っていない。魔物に襲われたらいちころだ。


できるなら、目の前に現れるなら、話がちゃんとできる魔物がいい。

見逃してくれる余地が、あるかもしれないのだから。

多分。そうであって欲しい。



「話しができる魔物と言えば、あの黒猫、出てこないな」


チリルをニルバニアへ帰してくれて、莉伽に嫁になれと言ってきた黒猫。

アイナに言わせると、多分魔物。



「ちょっとした遊びだったのかもしれないな」


それならその方がいい。無理矢理嫁にされて、最後にはムシャムシャと食われてしまう、

とかはごめんこうむりたいから。


猫に食われてしまうのは想像できないのだが。



だが、

遊びだった場合、心配なのはチリルだ。チリルを遊びで無事に帰してくれるとは思えない。

大丈夫だろうか。

こんな事なら、精霊を解放して莉伽がやるべき事を終わらせるまで、一緒にいれば良かったかもしれない。

だが、チリルが戻らないとなればお城の人達が心配するだろうし。




「はぁ………」



もう何がなんだか解らなくなってきた。

莉伽は頭がいい方ではない。勇者やら魔王やら魔物やら精霊やら。

今だ正体不明の『誰かさん』やら。


もしかしたら『誰かさん』も魔物なのだろうか?

だが、精霊を解放しろと言っていたので、勇者側なのだろうか?

でも中立の立場でいろ、とかも言っていたので、『誰かさん』的にはどっちにもつく気はない、という事なのか。



そうだ。中立だ。


今の莉伽は考えてみると、思いっきり人間側よりになっていないか?

人間なのだから当たり前なのだが。


でも中立でいろと言われたし。



「……うぅ………」


頭の中がぐちゃぐちゃで、訳がわからなくなってくる。

限界だ。考えるのは限界だ。


とにかく、遺跡に行って精霊を解放する事。


まずは一つ一つ片付けて行こう。うん。



これからの方針を決め、莉伽は裏道をずんずんと歩く。



だが、莉伽はやはり軽く考えていたのだ。



ファンタジーの世界は、

漫画やゲームのように、それなりのイベントがあり、それなりの危険があるという事だ。




そのイベントが、これ。



バサバサと羽音が聞こえてきて、





「目の前に魔物が現れた」




アイナの嘘つき。


ものの数分で魔物と会っちゃったじゃん。






嫌な予感しか、しなかった。






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