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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
18/36

結婚

黒猫さんに嫁になれと言われました。


私は人間です。


黒猫さんは猫です。


猫と人間は結婚できません。


でもそれは、私の世界の常識なのです。


こちらの世界の常識では、『あり』なのでしょうか?


私には判別できません。




どうしたらいいのでしょう……?







黒猫は、にこにこしながら莉伽を見る。


うん。


こちらの世界に来た莉伽には、動物の表情を読み取る、という特殊スキルがついたのかもしれない。


使えなさそうなスキルだけど。




「あの…」

「俺の嫁になれ」

「えー……と」

「不満か?」

「不満というか」


猫だし。

動物だし。

一般的には、ペットだし。


というか、


「なんで嫁なの?」


いきなり嫁になれって。

常識的に考えて、まず間違いなくおかしい。何か裏があるとしか思えない。


黒猫はきょとんとしながら、莉伽を見て、


「嫁にしたいからだ」


と、言った。




違う。

期待してた答え方と違う。



莉伽は顔をひきつらせながら、もう一度質問する。


「だから、なんで嫁にしたいのかって聞いてんの」


また、とんちんかんな答えが返ってきたら、今度は怒鳴り付けてしまいそうだ。


だが、黒猫は今度はちゃんとした答えを返してきた。


「惚れたからだ」



…………は?



本日2回目ともなる、目が点となるような発言に、莉伽は何も言えなくなる。


「嫁にしたいって事は、惚れたって事だろ?好きだと言うことだ。

そんな当たり前の事を聞くのか、お前は」


黒猫は眉間にしわを寄せる。


いや、まぁ確かにそうなんだけど。


「好きって?」

「ああ」

「私を?」

「ああ」

「好き」

「そうだ。何回言わせるんだ」

「……なんで?」



好かれる要素、というかタイミングすらなかったはずなんだけど。

今初めて会ったし、もちろん話したのも今が最初だ。

そもそも人間と猫だし。


これのどこらへんに好かれポイントがあったと。



「お前は、誰かを好きになるのに、いちいち理由をつけてから好きにならないといけない、とそう言いたいのか?」

「えっ?いや、別にそー言うわけじゃないんだけど」

「理由なぞ、くだらん。

好きだから好き。嫁にしたいから嫁にする。

それでいいではないか」


黒猫は莉伽をじっと見て、それでは駄目なのか?と聞いてくる。



直球…?

というのかな、これは。


つまり、

理由はない。だが、好きになったと。



だから嫁にしたい、と。


そういうことなのだろうか。



黒猫さんが私に。


猫が人間に?





「あの、ごめんなさい」

「何がだ?」

「いや、だから。嫁にはなれません」

「何故だ?」

「は?」

「なぜだ?」


何故って。



「当たり前の事です。私が嫁になるなんてできません」

「当たり前って、何がだ?」

「何がって」

「男として魅力にかけると、そう言うことか?」

「いや、だからそうじゃなくて」

「じゃあ何故だ?」




なんか、疲れるな……。

めんどくさくなってきた。



めんどくさがり屋の莉伽は投げ出すようにして、こう言った。


「好きじゃないから、ですよ。助けてもらったのには感謝してますが、それとこれとは関係ありませんし」

「何故好きじゃない?」



「イラっ」と。


きっと漫画とかなら、莉伽の頭の上らへんに書いてあったに違いない。



「それこそ理由なんてないですよ。好きじゃないから好きじゃないんです。

あんたさっき理由なんてあったってくだらんって言ってたでしょ」


もう忘れたのか、この猫野郎。


「好きなのに理由は必要ないが、好きじゃないのには理由が必要だろ」

「は?」

「俺がお前を好きなのに理由は必要ないが、お前が俺を好きじゃないのには理由が必要だろ?」



悪気なさげに言う黒猫に、莉伽はついに、


キレた。




「ジャイアンか」

「なんだ?」

「あんたはジャイアンかぁぁーー!!」

「じゃいあん?」


黒猫はきょとんと首を傾げる。


「俺の物は俺のもの。お前の物も俺のものっ!俺の言うことはあっている。お前の言うことは間違っているっ!とでも言いたいわけか!」

「なんの話しだ?」


莉伽も、何を言いたいのか解っていない。

ただただ、イライラする。そして叫ぶ。


「あぁーっ、もう、めんどくさい!めんどくさいめんどくさいめんどくさいめんどくさいぃぃー!!

もういい、もうやだ、帰るっ!帰せ!!

亮乃なんて知らない!

だいたい、どーして私があいつの尻拭い的な事しないといけないのよっ!

毎回毎回!!

もともと最初っから、何から何まであいつが悪いんだし、私には関係ないっ!自業自得だぁぁー!

もう、どうなろうと知らないっ!やめる!!!」


帰るーっ!!!


と叫び続ける莉伽に、黒猫は静かに喋りかける。


「そんなに俺が嫌なのか?」

「嫌とかそう言う問題じゃないってば!だってあんた猫じゃん。私人間だもん!猫と人間はそーいうの無しなのっ。ありえないの!無いの!」

「ねこ?ねこが何かは知らないが、種族が違うから駄目だと、そう言うことか」


黒猫は寂しげな顔を莉伽に向ける。


「種族など、産まれた所が違うだけではないか。姿形が違うだけではないか。

こうやって一緒に話したりできるのに、何故種族が違うからと言うだけで駄目なんだ?」

「何故って…」


黒猫の言葉に、莉伽は言葉を詰まらせる。


「好きになる、という感情に、種族も何もないだろう?何も違わないだろう?どうしてそれにこだわる」

「…………」




正論。


物凄く正論に聞こえる。


私の言っている事は差別、と一緒の事なのだろうか。


黒人と白人。上流貴族と下級の平民。金持ちと貧乏。できる者とできない者。いじめっ子といじめられっ子。男と女。

殺る者と殺られる者。


一昔前は、沢山世界に溢れていたもの。


今でも世界に溢れているもの。




「……………」

「どうした?大丈夫か」


黒猫が心配そうに見上げてくる。


「ごめん、酷いこと言ったかも」


莉伽は黒猫を、

黒猫の顔を見られなかった。


「気にするな」


黒猫が笑ったような気配がした。



「とりあえず一旦時空を元に戻す。一緒にいた女に、あの子供の説明をしてやれ」

「……チリルちゃんは、本当に無事に戻れたんだよね?」

「ああ、信じられないか?」


信じていない、

ということになるのだろうか。


黒猫は薄く笑う。


「じゃ、戻すゾ」




ゆらっという、景色が揺れるような感じがした後、莉伽の目にニトの町を行き交う人々の姿が写り出す。


ぶつぶつと、まだ考えこんでいるアイナも、ちゃんとそこにいた。


だが、黒猫はそこにいなかった。

姿は見えず、声もしない。



「………」

「んー…やっぱ金をどうにかして集めようか。

リカ、おーい、リーカー?」

「……何?」

「どうかしたの?」

「えーとね……」





とりあえず、


なんて説明すればいいんだろうか……?










「そう。じゃその『くろなこ』さんが、タダでチリルちゃんをニルバニアへと帰してくれたって事ね」

「なこじゃなくて、『ねこ』。くろねこ」



アイナに、かいつまんで黒猫との事を話す。


黒猫が突然莉伽の前に現れて、助けてやると言った事。


時空がどーので、チリルをニルバニアへ帰してくれた事。


そのままどこかへ消えて、いなくなってしまった事。



嫁やら好きやら惚れたやら、

その辺りの事は黙っている事にした。



「ふーん。変な動物だねくろにこって」

「……くろねこ」「そんな動物、いたかなぁ?」


アイナは首を傾げながら唸る。


「いないの?」

「喋る動物なんて、世界中旅してる私でも、まだお目にかかったことないよ」

「そうなの?」


ファンタジー的に『あり』、だと思っていたのだが、まさかの『無し』だったとは。


「ましてや、時空を操るなんて」


うーーん、と

アイナは難しい顔をして莉伽を見る。


「もしかしてさ、

それって魔物、だったんじゃないの?」



えっ、魔物!?

猫だったけど。思いっきり。



「獣型の魔物なら喋れる奴がいるし、魔物は魔法も使えるから、時空を操る奴がいたって不思議じゃないよ」



魔物。

あの黒猫が。



「リカ、本当に大丈夫?なんかされてない?」


何かをされてはいない。

嫁になれとは言われたが。


だが、魔物って事は、やっぱり好きだ惚れたは嘘なのだろうか?

食べるために懐柔しようとしてたとか、私で遊ぶために好きだとかって言ったとか、

こき使うために、嫁になれって言ったとか。


猫だからと、甘くみたのは駄目だったのか?




「…………」

「リカー?」


アイナが顔を覗きこんでくる。

頭を振り、考えるのをやめる。


チリルちゃんと別れた今、莉伽には次にやるべき事がある。




「アイナ、チリルちゃんが無事戻った今、この制服はあげられないんだけど」

「うっ、やっぱり……?」

「でも、情報をくれたら制服、あげる。情報と交換でどう?」


アイナは目を輝かせ、

「ありがとー!」と言って莉伽に抱き付いてくる。


アイナにはいろいろと世話になったから。

これぐらいはしないと、申し訳ない。




だから、私にあとちょっとだけ情報をちょうだい?








「精霊が封印されてる遺跡って、どこにあるの?」








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