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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
17/36

黒猫の押し売り

ニトの町に戻った莉伽とチリル、そしてアイナは

早速グローカスがいる宿屋へと向かった、のだが。



「いない?」

「ああ。その男なら朝早く出掛けたよ」

「どこに行ったかわかりませんか?」


宿屋のおじさんは首を傾げる。


「んー。宿代も払っていったから戻ってはこないと思うけど。

どこに行ったかまでは、解らないねぇ」



そうですか…。


出鼻から砕かれた三人は、しょんぼりしながら宿屋を出る。

その中でも、アイナの落ち込みようは尋常じゃなかった。


「アイナ、大丈夫?」

「……大丈夫」

「違う方法考えよ」

「……うん」



違う方法って言っても、莉伽にはさっぱり思いつかないのだが。



チリルがぐいっと服を引っ張る。


「何?どうかした?」


チリルは自分のお腹をぽんぽんと叩き、莉伽を見上げる。


「……?」

「…………」

「……あぁ、もしかしてお腹減ったの?」


チリルがこくりと頷く。

そういえばチリルはずっと寝ていたので、何も食べていないのだ。



「グローカスに貰ったパン…っぽいものがあるから、どこかで食べようか?」

「………!」


きらきらと目を輝かせ、満面の笑みを浮かべるチリルの頭を撫でて、

莉伽はアイナに声をかける。


「アイナ、どっか座れそうな所……って本当に大丈夫?」


アイナは壁の方を向いて、べったりとヤモリのごとく引っ付いて微動だにしなかった。



そんなにショックだったのか。

グローカスに会えなかった事が。









「はぁぁぁー……」

「まぁまぁ、そう気を落とさずに。食べる?」

「……食べる」

「チリルちゃんも、はい」

「…………」



座って落ち着ける場所を見付けた三人は、そこに座って食事を始める。


どこかの店の中、

ではなく外のベンチっぽい所だったが。



「これからどうしようか」


やっとちょっとだけ浮上してきたアイナに聞く。


「歩いても無理。アンカーも無理。となったら後は金がかかる事しか思いつかない」



お金、か。


「私の制服って珍しいんだよね?売ったら、けっこう貰えるんじゃない?」

「駄目だよ!!

それは私が貰う約束でしょっ!!」


ガツっとアイナに肩を掴まれる。


冗談だって。

いや、ほんとはかなりマジだったけど。



「ちょっと待って。今違う手、考えるから」


そう言って、ぶつぶつとアイナが呟き出したので、莉伽は待つことにした。




ニトの町は静かだ。

昨日の夜見た時より人通りが少ないように感じる。

まだ朝早くだからかもしれないな。今何時か解らないけれど。

この世界に時間の概念はあるのだろうか?

後でアイナに聞いてみよう。



隣に座っているチリルを見る。パンっぽいものを、がつがつと食べる姿は微笑ましい。

よほどお腹が空いていたのだろうか。



早くお城に戻してあげたいな。


そう思って、眺めていると、チリルの動きが、一点を凝視して急に止まる。


なんだろう?

と思いチリルの視線を追うと、そこには一匹の黒猫がちょこんと座っていた。


黒猫はこちらをじっーと見ながら、口を動かす。


「お困りか?」



……猫が喋った。


ファンタジーだからね。

そんなに驚かないんだけど。




いつの間にか、

ぶつぶつ呟いていたアイナは、その場から消えていなくなっていた。

アイナだけではなく、ニトの町を歩いていた他の人々も消えている。

今ここにいるのは、莉伽とチリル、そして喋る黒猫だけ。


急に消えた人々に、

皆どこに行ったんだろうと不信に思っていると、黒猫が莉伽に話しかけてくる。


「困っているんだろ?

助けてやろうか」

「…………」



このパターンは、

何だかとっても嫌な予感がするぞ……?




「あんたが他の人達をどこかにやったの?」

「まぁ、そうだな」

「どこに?」

「ここにちゃんと、いるはいるゾ?ちょっと時空をねじ曲げただけだ」


時空をねじ曲げる?





「そんな事より、困ってるだろ?困ってないのか?」

「困って…」



怪しすぎる。

ここは、やっぱり。





「ないです。全くこれっぽっちも困ってません」

きっぱりそう答える莉伽に、黒猫はニヤリと笑う。

猫に表情なんてあるのか?と疑問だが、

莉伽にはニヤリと笑ったように見えたのだ。





「よし、じゃ助けてやろう」

「あの、だから困ってないんだってば」

「女を助けるのは男の義務だ」

「いや、だから、あの」


というか、オスなのか。



「言わずとも解っている。そこの小娘だろ?もといた場所へ帰せばいいんだな?」

「いや、だから」

「ん。できたゾ」


言うやいなや、

隣にいたチリルが忽然と消える。



「……!」

「安心しろ。ちゃんと帰しておいたから。時空を歪めて」

「ちゃんとって。

場所は解って言ってんの?」


突然消えたチリルに驚きながらも、莉伽は黒猫を睨み付ける。


「ニルバニアだろ?」

「…………」

「ニルバニアの白いお城」



なんで、知ってんだ…?




黒猫はまた、ニヤリと笑った。




「さて、助けてやったお礼なんだが」

「………」


押し売り。

思いっきり押し売りだ。

これ。





「俺の嫁になってもらうゾ」





…………は?





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