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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
16/36

魔物と魔石と唱魔法

翌朝。



「よしっ、行くぞー」

「行くぞーって、どこ行くのかわかってんの?アイナ」


張り切って腕を振り上げるアイナに、莉伽は呆れる。

無駄に元気だ。


朝には起きたチリルは、いつの間にか莉伽と一緒にいたアイナにびびる事は無かったが、莉伽の後ろに隠れ、見ようとはしない。


びびってるのかな?

もしかして。



「アイナ、白いお城ってどこにあるか解る?」


朝の準備運動をしていたアイナに聞いてみる。

今の所、情報はそれしかない。


「白いお城?町の名前とか、解んないわけ?」

「解んない」

「なんで?」


なんでと言われましても。

いいよどむ莉伽の後ろから、チリルが服をぐいぐいと引っ張る。


「どうかした、チリルちゃん?」

「…………」


じっと莉伽を見て、何かを伝えようとしているらしいのだが。

チリルと以心伝心、は今の私には難しいらしい。


「えーと……」

「莉伽、これ」


アイナが木の棒を、莉伽に見せる。


「何?」

「喋れないんなら、地面に書いてもらえばいいじゃん」


その手があったか。


だが、それにも問題が。

莉伽はこちらの文字が読めないのだ。

書いてもらっても、読めなければどうしようもない。


そんな莉伽には構わず、アイナはチリルに木の棒を渡す。


「はい、どーぞ」


チリルは少し躊躇してからそれを受け取り、しゃがみこんで何かを書き始める。

そんなチリルを、アイナは興味深そうに見る。



ここで一つ疑問が。



「アイナ、私チリルちゃんが喋れないこと、言ってなかったよね?」

「聞いてないねー」

「なんで解ったの?」

「なんとなく?」


意外と観察力は凄いらしい。気を付けないと、私がこの世界の住人ではないことがバレてしまうかもしれない。


「アイナって、ちなみに何してる人なの?」

「盗賊」



………は!?



「盗賊!?」

「そう。盗賊」


物凄い子と関わっちゃったぞ。


「大丈夫。盗賊っていっても、私はレア専門だから」


だから、レアなお宝とかアイテムとかって騒いでたのか。

ちなみに、アイナは16歳。私と一つしか変わらないのに、旅を始めて、もう2年ぐらいになるらしい。


だからかもしれない。

観察眼が凄いのも、しっかりしているのも。





ぐいっと、チリルが服を引っ張る。

書けたらしいのだが。


…………。


うん。読めないよね。



「ニルバニア、かぁ。ここからわりと遠いね」


アイナが地面を見ながら難しい顔をする。


ニルバニア?


そう言えば、この世界に来た時に、サクがそんな単語言ってたな。



「歩いて行くのは時間がかかるから……」とぶつぶつ言いながら、うろうろしているアイナを見ながら、「やっぱり文字が読めないのは辛いなぁ」と思っていると、

チリルがまた服を引っ張り、地面の文字を指差す。


読め、ということなのだろうが。


「ごめんね。私、文字読めないの」

「…………」

「…うっ、そんな顔しないでー」


まさかの、哀れみの目を向けられるとは、思わなかった。

子供にこんな顔をされる、自分がとても情けない。

だが、仕方がない。


莉伽がこの世界に来てから、まだ数日しか経っていないのだから。

文字を覚えようにも、覚えられない。


「莉伽、文字読めないの?」


いつの間にかその様子を、しげしげと見ていたアイナが、不思議そうな顔を莉伽に向ける。


「う、うん」

「ふーん……」


ヤバイ。

文字が読めないのって、やっぱりおかしいよ、ね。

こんなに小さなチリルですら読み書きができるのだから、不自然に思われるのは当然か。



だが、アイナはそれ以上、突っ込んで聞いてくる事は無く、

チリルが書いた文字を見ながら、「一緒に帰るのかって書いてあるよー」と教えてくれた。



一緒に。


一緒には戻れない。

莉伽にはやる事ができたから。

精霊さん探しに、遺跡に行かないといけないし、お城に戻ったら莉伽がまだこの世界にいる事がバレてしまう。


『お前がまだいることは伏せておけ』


とりあえず、誰かさんの言う通りにしておいた方がいいだろう。



「チリルちゃん、ちょっと」


チリルを促し、アイナと距離をとる。

声が聞こえない所まで。


「あのね、私は一緒には戻れないの。やらないといけない事があるから」


チリルはじっと、莉伽を見る。


「私を元の世界に戻さないといけない事は解ってる。それがチリルちゃんの役目なんだよね?

でも、それを承知でお願いがあるの」


チリルの、青い空色の瞳を見る。少しの時間しか、一緒にいなかったのに、莉伽はチリルにそれなりの好意を持っている。

そして、こんな事に巻き込んだ罪悪感も。



まぁ、最初に巻き込まれたのは私なのだが。



「ごめんね、巻き込んで。お城の人達に怒られたら、全部私のせいにしていいから。だから、一つだけ。一つだけお願いがある」


無理を承知で、お願いがある。


「私は元の世界に戻ったって、亮乃やお城の人には言って?まだこっちにいる事は、内緒にしておいて欲しいの」



『亮乃を死なせたくはないだろう?』


誰かさんの言葉が、

頭に響く。


亮乃には会えない。

これは私が一人で動かないといけないことだから。




チリルは、その空色の瞳で莉伽を暫く見て、コクりと首を縦に振る。

解った、という意味で捉えていいのだろうか。



「話し、終わったー?」


アイナが叫ぶ。

莉伽はチリルの頭を撫で、チリルと一緒にアイナに近付く。あとはチリルを信じて、黙っていてくれるのを願うしかないだろう。


「で、ニルバニアってどのあたりなの?」

「えーとね、これ見て」


アイナはポケットから、小さな地図らしき紙をとり出す。


「今いる所が、ここ。ダウローンの国のニトの町近く。ニルバニアはこの辺り。けっこう遠いんだよねー」


誰かさんは近くの町に飛ばす、と言っていたのだが。


ミスったか、あのやろう。



「お金があったら、馬車に乗ってすぐ、なんだけど。リカはお金持ってないし、私も余分なお金なんて持ってないし」

「歩いてはいけないの?」

「時間かかるから無理。それに、このメンツで歩いての行動は危険かも。最近は特に魔物の動きが活発化してきてるって話しだし」


やっぱり、魔物がでるんだ。野宿は危なかったんだね。

もうやらないようにしよう。



「……一つ方法があるんだけど」

「どんな?」

「アンカーに頼む」


アンカー?

って、確かグローカスがそれだって言ってたけど。


「アンカーっていったい何なの?」

「知らないの?アンカーってのは『アンダーテイカー』の事。

いわゆる、請負人みたいな」

「請負人」

「依頼したら、危険な仕事も楽な仕事も大変な仕事も、なーんでもしてくれる、んだけど」


いわゆる、何でも屋か。


「でも、お金いるんでしょ?アンカーに仕事を頼むの」

「お金、はいらないんだけど……」


アイナがいいよどむ。

お金より、大変な何かが必要って事か。


なんだろ?

命、とか言わないよね。




「『命』が必要なんだよ」



言っちゃった。




「命って言っても、魔物の命、なんだけどさ」

「えっ?魔物なの?」

「うん。当たり前でしょ」


良かった。魔物なのか。



でも、魔物の命って

どういうこと?



ぽけっとする莉伽に、アイナは説明をしてくれた。




魔物とは。



魔王が生み出した生物。人型、獣型、人獣型など、様々な形態がいるとされている。

主に、魔王の統治する大陸にいるとされているのだが、人間の大陸に入ってくることもしばしば。

魔法を使うので、危険。出会ったら即逃げる事をお勧めする。


魔物の命は、『魔石』でできている。魔物を殺すと魔石だけがそこに残され、他は塵となって消える。どういう仕組みになっているのかは不明。魔物を生み出している、魔王だけが知っているとされている。


「アンカーに仕事を頼むには、その魔石が必要ってこと?」

「そう。唱魔法にはかかせない物だから。アンカーは唱魔法を使う人が多いから」

「唱魔法?」



唱魔法とは。



文字通り、唱えて発動する魔法の事。

魔物は自由に魔法を使えるが、人間は魔法を使えない。

だが、魔石があれば人間にも魔法が使える。魔石は魔物の命。なので、その魔物が使う魔法の力が残されているのでは?とされている。


その魔石を使って発動させる魔法が、唱魔法。




「昔は精霊魔法ってのがあったんだけど、魔王に封印されてからは、使えなくなったんだよね」

「ふーん」


なるほど。

なんとなくだが、世界観が見えてきたかも。



うんうんと頷いていると、アイナがこちらを、じっと見ているのに気付く。


「…何?」

「うん。別に」


別にって。

変な顔して見てたじゃないか。


「まぁそんな訳だから。

アンカーも実はそんなにいないし。無理な方法なんだけどね」


アイナは、「はぁー」とため息をつく。


「アンカーなら、一人知ってるけど」

「えっ?」


「そこの町で偶然会った」と莉伽が言うとアイナは、またまたじぃっと莉伽を見てくる。


「……何…?」

「…うん。別に」


何か不味いこと言ったのかな?私。



「じゃ、とりあえずそのアンカーに会いに行ってみようか」


気をとり直してそう言うアイナに、莉伽は首を傾げる。


「魔石が無かったら駄目なんじゃないの?」

「アンカー全員が魔石を欲しがる、ってわけじゃないから。

行くだけいってみよ」



「よし、いこーう」とアイナは、さくさくとニトの町へと向かう。

その背中を見ながら、まだグローカス居てくれればいいけど、と思いつつ莉伽はチリルの手を掴み、アイナの後を追った。






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