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栽培兄妹と+α  作者: 葉月
タイトル
12/36

中立の立場とは

そこは暗闇の中だった。何も見えない、真っ暗な空間。最初は夢だろうかとも思ったが、夢ではないらしい。

頭ははっきりとしていたから。


「ここどこだろ」


もとの世界へ帰る途中の空間、かなにかだろうか。来る時はこんな場所、寄らなかったと思うのだが。


というか、先に亮乃の所へ連れていってもらうはずではなかったか?


「チリルちゃん?」


あの金髪美少女はどこへ行ったのだろうか。手探りで辺りを探すが、何ともぶつからない。近くにはいないのだろうか。

返事は期待せずにチリルの名を呼ぶ。喋れなくても莉伽に気付いたら、何かしらの反応はしてくれるだろう。


「戦争と言う言葉を、知っているか」


返事を期待していなかった莉伽の耳に、突然聞こえてきた幼い少女の声。

驚いて声のした方を振り向こうとした莉伽は、制服のスカートをぎゅっと掴む、小さな手によってそれを阻まれる。


「……チリルちゃん?」


目を凝らして見てみると、そこにはスカートの裾を掴み、青い瞳でこちらをじっと見ている金髪の少女がいた。


その少女の口が動く。


「戦争とは愚かなものだな。戦いの果てになにがあるのだ」



チリルちゃんじゃ、ない。


姿形はチリルだが、雰囲気の全然異なる少女に、莉伽は不気味さを感じて離れようとした。だが、スカートをぎゅっと掴まれていたため、動くことは出来なかった。

子供の姿をしているのに、子供らしさを全く感じられない。妙に大人びた雰囲気がある少女に莉伽は問いかける。


「あんた誰?」


チリルは喋れないはずだ。だが、今ここにいる少女はすらすらと言葉を発っしている。別の誰かなのか、それともこちらがチリルの本当の姿なのか。


少女がニヤリと、不敵に笑う。


「お前にはやってもらう事がある」

「……帰してもらえるはずじゃなかったっけ?」

「それはあちら側の都合だ。こちら側の都合とはまた別なのだよ」


あちらとか、こちらとか。私の都合は無視ですか。どいつもこいつも。


「お断りします」

「残念だが、お前に拒否権はない」

「…………」

「亮乃と言ったか、次の勇者は」


少女は莉伽の幼馴染みの名前を出す。


「亮乃を死なせたくはないだろう」


何だか物凄く嫌な予感がするのは私だけだろうか。


「君、いったい誰なの?チリルちゃんなの?」

「時間がないから詳細な説明をしている暇はない。ただこの空間を作ってお前と話しをするために、この少女の体を借りた者、とだけ言っておこうか」


つまりチリルの体を乗っ取って、チリルとは違う別の誰か、が今喋っていると言うことか。


「亮乃を死なせたくなかったら、私のいう通りに動いた方がいい」

「……それは脅しですか?」

「脅しではない。ただの事実だ。亮乃は今、死の道へと歩いて行こうとしている」


死の道……?


「今から言うことを守って行動しろ。そうしたら亮乃は助かる、かもしれない」


かもしれないって。

そんな曖昧な。


「私に何をしろと?」


亮乃に巻き込まれるのには慣れている。

だが、出来ればあまりめんどくさい事はしたくないんだけどな。


「とりあえず亮乃、勇者側に加担するな。魔王側にも加担するな。最後まで中立の立場で行動しろ」

「は?中立?」


中立ってどーいうこと?

疑問を投げつけようとした莉伽が、何かを言う前に、チリルの体を乗っ取った『誰か』は喋り続ける。


「あと、大精霊をどうにかして解放しろ。そうしたらまだなんとかなるかもしれない」

「あの、ちょっと」

「力の無いお前だからこそ出来る事だ。力有るものは皆、上を目指して争ってしまうからな。この世界の住人ではない、力の無い、役立たずなお前が、一番の適任だと言えるだろう」


なんだか、物凄く馬鹿にされてるような気がするのですが、気のせいでしょうか……?


莉伽の制服のスカートから、チリルの手が離れる。


「そろそろ時間だ。さっき言った事を守れ。あと、お前がこちらの世界にまだいる事は伏せておけ。お前が動いている事は誰にも悟られるな。もちろん亮乃にも、だ」


「ではな」と言い、フェードアウトしようとした『誰か』を、莉伽はあわててチリルの両肩を掴んで引き止める。


「ちょっと待ってよ。全然話が見えないんだけど。大精霊って何?中立ってどーいう事?この世界にはやっぱり魔王がいるの?結局私は何をすればいーの?というか、あんたはいったい全体どの立場から話しをしてるわけなのよ」


チリルの体を乗っ取っている『誰か』は、先程とはうって変わり、とても真剣な顔をして莉伽を見る。


「さっきも言ったが、今の私には細かな説明をしている時間はない。それにこの世界については、私が説明するよりも自分で調べて、知っていく方がいいだろう。その方が偏りなく、どちらの立場にでもいられるだろうからな」


急に真剣になった『誰か』に、莉伽は少し気圧される。


「今からお前を近くの町に飛ばす。とりあえずそこから大精霊が封印されている場所を調べて、精霊を解放させろ。話しは以上だ」


それだけ言うと、チリルの体は力を無くし、その場に崩れおちる。


「…………」


やっぱり説明が全然足りてないうえに、いまいち何もかもがぼやけていて意味不明な展開に莉伽は戸惑う。勇者、魔王、精霊、中立、『誰か』。


「つまりは……どーいう事だ?」


そう呟いた所で、莉伽の足場が消える。


「……え?」


叫び声をあげる暇もなく、莉伽とチリルはそのまま奈落の底へと、落ちていってしまった。






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