【BL】ぼんやりしたい
ぼんやりしたい。
もこもこのダウンジャケットを着た義和の隣で毛布にくるまりながら拓真は思った。
「拓真は絶対薄着でくると思ったんだ。毛布を持ってきてよかったよ」
義和が弾んだ声で言う。
拓真は星空から目を離さなかった。
田んぼの中にある公園の駐車場にレジャーシートを敷いて座椅子を置き、二人並んで星が流れるのを眺めていた。
「あっ、また」
星が夜空を横切るたび義和が嬉しそうに声を上げる。
その度に拓真は霞みかけていた焦点をはっきりさせるのだった。
冷え込んだ空気が頬に細い針を刺していた。
髪の毛も冷えていて、内側にこもった熱を冷ましている。
紺碧の空には小さな白い光が無数に瞬いて、青白い一等星がぽつりぽつりと突き立つように輝いていた。
すううっと緑の尾を引いて一際大きな星が流れた。
「うわあ」
義和が幼児のような歓声を上げる。
拓真はぽかんと口を開けて、空に残った長い尾がじんわりと消えていくのを見守った。
「今の綺麗だったね」
義和が拓真に顔を向けてくる。
多分満面の笑みを浮かべている。
拓真はその顔を見なかった。
見れば体温が上がる。
「ああ」
押し出した言葉に微笑む気配がした。
義和の顔が再び空に向けられる。
拓真は視線がこめかみに残っているようで落ち着かなかった。
残ったものを風がさらっていってはくれないかと願う。
叶えてくれるなら今流れた星でもよかった。
「拓真、僕さ」
跳ねるような口調で義和が空を見ながら話し出した。視線が流れてくる。
続きがなんであれ聞きたくないと強く願った。
「拓真のことが……」
語尾が空気に溶けていく。
頼むからそのまま形を持たないでくれ。
拓真は星に目を凝らした。
あの光に射抜かれる夜空の道を俺は歩きたくない。
「その……」
あんな中は歩いていけない。
視線が外れた。
「あっ二連」
拓真は思わず声を上げた。
「本当だ……」
義和が応じる。
言葉にすれば、あの星々のように二人で消えていくだけだ。
二つ連なって流れた星は跡を残さなかった。
「そろそろ帰ろう」
拓真は立ち上がった。
見上げてくる義和の気配を痛いほど感じる。
「コンビニ寄る?」
拓真が顔を向けて問うと、義和は苦しげに眉根を寄せて目を瞑った。
沈黙。
義和の目元から力が抜けていく。
瞼がゆっくりと開いたが、伏せられていた。
「うん……」
借りていた毛布を外すと温められていた体が冷気に熱を奪われていく。
端を揃えてシワがないように畳む。
座椅子も畳み、レジャーシートも畳んだ。
全部義和が支えるトートバッグに入れた。
触れるほどに近づいたが、ひどく冷えた空気のおかげで義和の熱は感じなかった。
義和が担いだ。
「来年もこよう」
拓真をまっすぐ見て義和は言った。
拓真は返事をしなかった。
ただ広がった空間に視線を運んだ。
「肉まん食べたい」
そう告げて歩き出す。
半歩遅れて義和が拓真についてくる。
「僕も」
並ばれないように足を早める。
辛い。
手離すのはもっと辛い。
友達が終わる。
細やかな星あかりに射抜かれた痛みは、消えることはないだろう。
コンビニは遠い。
そこは温かいだろうか。
冷えた空気が星あかりを冴えさせていた。




