表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

「知らなかった」では済まされない事もあるのですよ。

作者: アーク
掲載日:2026/05/23

異文化を理解するのは難しいって言う話。

東方出身の令嬢が学園への進学を期に王都へと上京した。


王都では見慣れない、下ろせば3mにはなろうかと言う黒髪を器用に結い上げて、黒曜石の様な黒い瞳を持つ令嬢は学園中で注目の的となった。


身に付けている衣服も、この辺りとはまるで違う、淡い水色の地に大輪の赤い牡丹の咲く着物を纏っていた。


言語の壁と言う不自由こそあれど、令嬢は少しずつ学園生活に親しんでいった。


デビュタントを済ませたにも関わらず、恋愛結婚に強い憧れを持つが故に婚約者のいない第2王子は令嬢に強い興味を示し、事ある毎にアプローチを仕掛けた。


令嬢は戸惑いながら、やがて第2王子の想いを受け止めてふたりは婚約する事となった。


令嬢の家には跡継ぎとなり得る嫡子が不在の為第2王子は令嬢の家に婿入りする事となり、卒業パーティーを経て無事に婚姻を終わらせた後は極めて平凡な生活を送っていた。


令嬢の屋敷には庭の片隅にぽつねんと、小さな祠があった。


領地替えでこの土地に先々代が越して来た時から存在する祠らしいのだが、見たところ、手入れもされず長年放置されているようだ。


信心深い王子は、祠の主が住みやすい様に庭師に命じて祠周辺の雑草を手入れし、王子自身も祠を綺麗に磨きあげた。


令嬢は、下手に手を出す方が危険だ、と口酸っぱく言うので、義父母と令嬢が領内視察に向かっている間に全てを終わらせた。


領内視察から帰宅した義父母と令嬢は、祠の様子に腰を抜かした。


特に、義母の顔色は、白を通り越して土気色をしていた。


王子が祠の清掃をしてから直ぐに領内に新たな銀鉱脈が見付かったり、令嬢が趣味で手掛けている貴石の屑石(スクラップ)を使用した御守り(アミュレット)の売り上げが伸びたりと良い事が続いたので、王子は彼らはいったい何を恐れているのかと首を傾げた。


毎日、怯えた様子で祠を見る事が増えた。


それからも手を付けた事業はトントン拍子に進んだ。


私生活では2男3女の子宝に恵まれ、大勢の孫にも恵まれたし、曾孫の顔を拝む事も出来た。


自分の行いは正しかったのだと、祠に手を合わせて感謝した。


さて、問題が起こり始めたのは王子が亡くなり孫が事業を引き継いだ頃の事だった。


あれ程何をしても上手くいっていた事業が全て行き詰る様になったのだ。


鉱脈は既に銀を掘り尽くし、貴石の屑石(スクラップ)を使った御守り(アミュレット)も廃れた。


観光事業の共同経営を持ち掛けてきた遠方の伯爵は事業が軌道に乗りそうにもないと気付いた時には姿を消していた。


そして、あれだけいた子供達も次々と病気や事故で夭折する事が相次いだ。


侯爵は春に生まれたばかりの跡継ぎが祠の前で死んでいるのを見た時、藁にも縋る思いで占い師を呼んだが誰も解決策は教えてくれる事はなく、積み上げられた多額の金を持って消えた。


目減りしていく金、絶えない夫婦喧嘩。


使用人に支払うべき給料すら数年払われていない様な侯爵家に働くメイドが祠を見て言った。


触らぬ神に祟りなし、と言うものを、と。


放置され続けていた祠の主は気性が荒く、王子が婿入りした頃の侯爵家は無意識にその事実を察していたからこそ手を着けずにそのままにしておいた。


それを態々呼び起こした訳だが、信心深い王子は感謝を忘れる事なく祠に参っていたから問題は起きなかったのだが、王子が逝去してからは誰も祠に参る事は無くなった。


勝手に祀り上げ、勝手に棄てるのは許さぬと祠の主は怒り狂っているらしい。


ではどうすればいいのか、と恥を忍んで侯爵はメイドに聞いた。


祀りきらないのであれば、祠の主を元いた場所にお返しするべきだとメイドは言った。


東方では神の御霊をお分けして貰い、屋敷に祠を造って祀るのが主流なので、祀る事が出来ないのであればそうするべきだと言う。


本来ならば侯爵家の前の領主が行うべき事であるが、縁が結ばれた以上侯爵家が執り行うしかない、と。


しがないメイドが何故そんな事を知っているのかと問えば、東方では日常の一部として根付いている事だと返ってきた。


屋敷に僅かに残った東方出身の他の使用人達も口を揃えてそう言った。


侯爵はメイドのツテで神主と出会った。


東方における神父の様なものだとメイドは言った。


神主はメイドが言ったのと同じ様な事を言い、祠に収められていた札から元いた場所を割り出した。


そして供物として、米、麦、稗、粟、豆の五穀と海の幸と山の幸を用意する様に言った。


神に対して敬意を払い、お帰り願う為に必要だと神主は言った。


侯爵はこれで家族が助かるならと頷いたが、侯爵夫人は目に見えぬモノに大枚を払うのは愚かしいと用意する供物に手を抜いた。


結果、侯爵家は没落した。


供物に手を抜いた夫人は最期はパンの一欠片すら手に入らず野草を口にし泥水を啜って、惨めな想いをしながら簡単に死ぬ事はなかった。


侯爵は男爵にまで没落した家で、呪われた血筋と恐れられる自身の後添えとなった妻の産んだ子供達に


「知らなかった、では済まされない事もあるのだ」


と、毎日語り聞かせていると言う。

侯爵家の屋敷の庭の隅にあった祠は屋敷稲荷です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ