第4話:神、降臨。――レジがパニックなんですけど
1. 歴史的な一歩、そして「空腹」
眩い光に包まれた転移門を抜けた先は、地上最大の探索者ギルド『本部』の中央広場だった。
そこには、完全武装した数千人の騎士団、各国の報道陣、そして固唾を呑んで見守る数万人の群衆が詰めかけていた。
「出たぞ……! 女神と、あの『修理屋』だ!」
地響きのような歓声と、無数のフラッシュが二人を襲う。
普通なら足がすくむような光景だが、隣を歩く銀髪の女神は、眉間にシワを寄せて不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「サトシよ。この無数の魔導器から放たれる光は何じゃ。妾を焼き殺すつもりか? 礼儀がなっておらんな」
「あ、いや、リィエル様。あれは歓迎の挨拶みたいなものです。……それより、約束のもの、行きましょうか」
「うむ! 儀式を執り行う! 案内せよ!」
ギルド長や国連の使者が「リィエル様! 我が国への亡命を――」と駆け寄ってくるが、リィエルは目もくれずに彼らを跳ね除ける。
彼女の視線の先にあるのは、広場の隅に建つ、青と白の看板。
人類の英知の結晶――**『コンビニエンスストア』**だった。
2. 聖地巡礼(買い出し)
自動ドアが「ピンポーン」と鳴って開く。
「なっ……! 妾が触れずとも門が開いた!? さすがは現代の神殿、高度な自動追尾結界が張られておるな……!」
リィエルは警戒しながら店内へ踏み入る。
サトシは手慣れた様子で買い物カゴを手に取った。
「さて、まずはリィエル様が欲しがっていた『揚げたての茶色の塊』ですね」
サトシがレジ横のホットスナックコーナーを指差すと、リィエルの瞳が黄金色に輝いた。
「おおお! ガラスの向こうで黄金に輝く肉の山! サトシ、あれを全部じゃ! 全部妾の胃袋へ転送せよ!」
「店員さん、Lチキ10個とファミチキ10個、あとからあげクン全種類ください」
震える手で商品を袋に詰める店員。その背後では、ギルドの幹部たちが「女神様がジャンクフードを!?」「あれが神の供物か……!」とメモを取っている。
リィエルは棚から次々と商品をカゴに放り込んでいく。
「サトシ! この『もちぷよ』という物体は何じゃ!? この弾力、スライムの核を加工したのか!? 美味そうではないか!」
「それはスイーツですね。……あ、リィエル様、その1,000円のアイスも入れますか?」
「当たり前じゃ! 妾の直感が、これは『至高の冷気』だと告げておる!」
3. 『概念修復』のデモンストレーション
レジでの会計時、トラブルが発生した。
店員が誤って、リィエルが気に入っていた限定版の「高級チョコレートケーキ」を床に落としてしまったのだ。
箱は潰れ、ケーキは無惨な形に。
「あああ……妾の、妾の限定報酬がぁ……!」
リィエルが絶望のあまり、神威を放ち始める。周囲の空気が一気に氷点下まで下がり、ギルドの護衛たちが「総員、防御姿勢!」と叫ぶ。
「リィエル様、大丈夫ですよ。……店員さん、そのまま持っていてください」
サトシが潰れた箱に手をかざす。
「【概念修復】」
金色の粒子が舞い、床に散ったクリームが重力を無視して箱の中へ戻っていく。
ただ戻るだけではない。
工場で製造された直後の「完璧な温度」と、パティシエが意図した「最高の盛り付け」が、サトシの手によって再定義された。
次の瞬間、箱の中には、落ちる前よりもさらに美しく輝くケーキが鎮座していた。
「……え?」
店員が呆然とする。
配信を見ていた世界中の専門家たちが、一斉にネットへ書き込んだ。
『待て、今、クリームの「分子構造」まで修復されてなかったか?』
『時間が巻き戻ったんじゃない……「理想の状態」に書き換えられたんだ』
『あのスキル、もしかして壊れた「経済」や「病気」すら直せるんじゃないか……!?』
4. 元パーティーの絶望
コンビニの外では、サトシを追放した元パーティー『疾風の剣』のゼノンが、群衆に揉まれながらその光景を眺めていた。
彼は、サトシに「お前はゴミ拾いがお似合いだ」と罵り、捨てたことを思い出して震えていた。
(嘘だ……。あんなの、俺が知ってる『修復』じゃない。あいつを……サトシを、今すぐ俺たちのパーティーに戻さないと……!)
ゼノンは欲に駆られ、人混みをかき分けてサトシに駆け寄ろうとした。
「おい、サトシ! 俺だ、ゼノンだ! 悪かった、お前を試してたんだよ! さあ、また一緒に――」
だが、その声がサトシに届く前に。
リィエルが、揚げたてのチキンの袋を抱えながら、冷たい視線でゼノンを射抜いた。
「……サトシ。この薄汚い雑音が、お主に何か用か?」
「いえ、知り合いでも何でもありません。リィエル様、行きましょう。アイスが溶けます」
「うむ! アイスを溶かすなど、世界の崩壊よりも重罪じゃ! 邪魔だ、消えよ」
リィエルが軽く指を弾くと、ゼノンは物理的な衝撃波ではなく、**「圧倒的な格差」**という名の威圧感に圧し潰され、その場に崩れ落ちた。
彼がどれだけ叫ぼうとも、今のサトシは「世界の修理屋」であり、女神の唯一のパートナー。
もはや住む世界が違っていた。
5. 引き:神の休息(配信は続く)
ギルドが用意した超高級ホテルのスイートルーム。
リィエルはふかふかのベッドにダイブし、コンビニ袋から戦利品を取り出す。
「サトシよ! この『コーラ』という液体、喉がバチバチするのに癖になる! もはや妾はこれ無しでは生きていけぬ体になってしまったぞ!」
「飲みすぎないでくださいよ。……さて、コメント欄も凄いことになってるな」
【投げ銭合計:2億5,000万円】
【同時接続数:2億人】
サトシは、ドローンのレンズを通して世界を見据える。
「……リィエル様。どうやら、俺たちの『お片付け』は、まだ始まったばかりみたいですね」
翌朝、サトシの元へ、各国首脳からの親書と、
**『世界各地で発生したダンジョン暴走の修理依頼』**が山のように届くことになるのだが――。
今の彼は、幸せそうにからあげを頬張る女神の笑顔を守ることで精一杯だった。




