第23話:水圧が『物理的に重い』深海。――沈没都市のOSを修理せよ!
1. 潜水艦の中は「ジャージ禁止」?
「カイさん、この潜水艦……中が狭すぎませんか?」
サトシたちは、カイが用意した最新鋭の深海探査艇『アルティメット・ダイバー3.0』の中にいた。壁一面にホログラムが浮かび、ハイテクの極致のような内装だが、いかんせん大人三人が過ごすには密度が高い。
「ふん、これは効率を突き詰めた『最新の空間設計』だ。無駄なスペースなど一ナノメートルも存在しない。……おい、そこのでかい女神! 僕の演算ユニットの上にポテチの粉を落とすな!」
「やかましいぞ、カイ! この『せんすいかん』とやらは、Wi-Fiの入りが悪すぎるではないか。妾のログインボーナスが途切れたら、この鉄のクジラを修理(解体)してやるからな!」
リィエルは狭い座席で器用にジャージの膝を抱え、電波を探してスマホを振り回している。
2. 物理崩壊:水圧 P の暴走
潜航深度が1万メートルを超えた時、艦内に激しい警告音が鳴り響いた。
モニターに映し出された外の景色が、ぐにゃりと歪み始める。
「……おかしい。深度に対して、外壁にかかる圧力が指数関数的に増大している!? 計算が合わないぞ、これじゃダイヤモンドでも一瞬で粉砕される!」
Deep Sea Status Log:
Current Depth: 12,000m
Standard Pressure: P = \rho gh \approx 120MPa
Bug Effect Pressure: P \times 1,000 \rightarrow 120GPa
「バグメーカーの嫌がらせですね。深海の『重み』の概念を書き換えて、僕たちを物理的に押し潰そうとしてるんだ」
サトシは潜水艦のメインコンソールに手を置いた。艦体は凄まじい軋み音を上げ、今にも鉄屑に変わりそうだ。
「カイさん、艦の『形』を維持するアップデートをお願いします! その間に僕が、この海域の**『重力の定義』を修理**します!」
「了解だ! 【システム更新:構造補強プロトコル】! 艦体の分子結合度を最新素材(オリハルコン級)に置換する!」
3. 『概念修復』:静寂なる深海
「【概念修復】――対象:潜水艦周囲の空間。修復定義:『深海とは、静かで穏やかな揺り籠である』」
サトシが腕時計を光らせると、艦を襲っていた凄まじい圧力が、嘘のように消失した。
外壁の軋みは収まり、モニターにはバグのノイズが消えた「失われた沈没都市」の全貌が映し出される。
そこは、数万年前の高度な魔導文明がそのまま静止したような、美しくも不気味な青い廃墟だった。
「……ここが、『神の実験場』……」
リィエルが、珍しく真剣な表情でモニターを凝視している。その銀色の髪が、深海の微かな光に反応して、淡い燐光を放ち始めた。
「サトシ……。ここには、妾の『古い匂い』がする。懐かしくて、そして……猛烈に腹が減る匂いじゃ」
「……最後の一言さえなければ、シリアスだったんですけどね」
4. 遺跡の門番と「女神の権能」
海底に着底した潜水艦。その前に、バグによって巨大化した**『古代守護魚』**が立ち塞がった。
それは全身が硬質のプログラム・アーマーで覆われた、深海の要塞。
「カイさん、あれを……」
「わかってる、あんな古臭いセキュリティ、僕のパッチ(修正弾)で……――あ、おい!?」
カイが操作する前に、リィエルが潜水艦のハッチを(物理的に修理して)無理やり開き、生身で深海へと飛び出した。
「お主ら、待っておれ! あの魚の腹の下にある、光り輝く**『深海大真珠』**……あれは、どう見ても『高級な飴玉』の概念を秘めておる! 妾が直接、収穫しに行ってくれるわ!」
「リィエル様! 外はまだバグの残滓が――!」
サトシも慌てて外へ飛び出す。
水中でリィエルが指をパチンと鳴らすと、周囲の海水が瞬時に『呼吸可能な空気』へと書き換えられた。彼女の周囲だけ、水深1万メートルの底に「地上の庭園」が出現する。
「神罰・深海 Ver.!」
リィエルの放った衝撃が、巨大な守護魚をデバッグ(気絶)させ、その拍子に巨大な真珠がポロリと転がり落ちた。
5. 結末:真珠の味と、深まる謎
潜水艦に戻り、戦利品の『深海大真珠』を眺める三人。
リィエルがそれをガリリと噛み砕くと、中から溢れ出したのは、芳醇な海の旨味と魔力だった。
「ふむ……。やはり神の実験場で作られた飴(?)は格別じゃ。……だが、サトシ。この奥にある『心臓部』……そこには、もっと巨大なバグが眠っておるぞ」
リィエルが指差す先、都市の中央にある大聖堂。
そこには、サトシの腕時計が「解析不能」と表示するほどの、巨大な**『黒いリンゴ』**のようなオブジェクトが浮かんでいた。
『【速報】女神様、水深1万メートルを生身で散歩ww』
『サトシさんの「空気修理」が地味にチートすぎる』
『真珠を飴みたいに食べるなww1個で国が買える値段だぞ!』
ドローンのコメントも届かないほど深い、世界の底。
バグメーカーの嘲笑が、海底の振動となってサトシの鼓膜を震わせた。
「……ようこそ、サトシ君。リィエル君の『実家』へ。……君はそこで、何を修理することになるのかな?」
サトシは、震える左手の腕時計を握りしめ、静かに大聖堂へと歩を進めた。




