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■第2話「楽に稼ぐ方法は、だいたいロクなことにならない」


 楽に稼ぐ方法というのは、この世にいくつも存在する。


 ただし、そのほとんどが――ロクな結果にならない。


「なあリオ。楽して稼ぐ方法、知ってるか?」


 昼間のギルド酒場。

 今日も今日とて、ガルド・レインズは酒を飲んでいた。


「知りませんし、知りたくもないです」


 リオは即答した。


「夢がないなあ。若者はもっとこう……一攫千金を目指すべきだろ」


「堅実に稼ぐのが一番です」


「それができたら苦労してねえんだよ」


「してるのはあなたの生活態度の問題です」


 ぴしゃりと言い切られ、ガルドは「うっ」と詰まる。


 そのやり取りを、カウンターの向こうからミレナがじっと見ていた。


「……また変なこと考えてますよね?」


「失礼な。今日はちゃんと計画的だ」


「それ昨日も聞きました」


「今日は“具体的”だ」


「その具体性が不安なんです!」


 ミレナは帳簿を抱えたまま詰め寄る。


「いいですか、ガルドさん。今月の借金、もう限界ですからね? これ以上増えたら本当に――」


「だから増やさないって。むしろ減らす」


「どうやってですか」


 ガルドは、にやりと笑った。


「――“商売”だ」


 その瞬間、リオとミレナの顔が同時に曇った。


(嫌な予感しかしない)



 その日の午後。


 ギルドの裏手にある広場。


「……で、何をするんですか」


 リオは腕を組んで立っていた。


 目の前では、ガルドが地面に何やら布を広げている。


「見りゃわかるだろ。露店だ」


「何を売るんですか」


「夢」


「やめてください」


「冗談だ。ちゃんとした商品だ」


 そう言って、ガルドは袋を開ける。


 中から出てきたのは――小さな瓶がいくつも。


 中には淡い光を放つ液体が入っている。


「……それ、何ですか」


「回復薬だ」


「普通ですね」


「普通じゃねえ。特製だ」


 ガルドは一本を持ち上げる。


「元聖女仕込みの“ちょっといいやつ”」


「ちょっといいって、どのくらいですか」


「たぶん普通のより効く」


「“たぶん”!?」


 そこへ、声がした。


「ガルドさん、何してるんですか?」


 振り向くと、そこにいたのはセリア・ルミナだった。


 淡い金色の髪に、柔らかな笑み。

 かつて聖女として名を知られた少女――今はギルドの治療担当だ。


「おうセリア。いいとこに来た」


「いいとこ……?」


「これ、お前が作ったやつだよな?」


 ガルドが瓶を見せる。


 セリアは首を傾げた。


「えっと……あ、はい。練習用に作った回復薬です」


「練習用」


 リオが嫌な言葉を拾う。


「ちょっと効果が安定してないんですけど……」


「ほら見ろリオ、面白いだろ?」


「全然面白くないです!」


「大丈夫だって。死ぬことはない」


「“ない”って言い切れない時点でアウトです!」


 セリアはおろおろしていた。


「えっと……売るんですか?」


「売る」


「だ、大丈夫ですか……?」


「大丈夫大丈夫。俺が保証する」


「その保証が一番不安なんですが!」



 露店は、意外にも繁盛した。


「お、安いぞー! 特製回復薬!」


 ガルドが声を張る。


 値段は相場の半分以下。


 冒険者たちが興味を示さないはずがなかった。


「ほんとに効くのか?」


「効く効く。たぶんな」


「たぶんってなんだよ」


「飲めばわかる」


 適当なやり取りだが、値段に釣られて次々と売れていく。


「……売れてますね」


 リオが呟く。


「だろ? 商才あるだろ?」


「不安しかないですけどね」


 セリアは心配そうに見守っていた。


「大丈夫でしょうか……」


「まあ、様子見だな」


 ガルドは金を数えながら笑う。



 問題が起きたのは、そこから一時間後だった。


「おい! なんだこれ!」


 一人の冒険者が叫んだ。


「どうした?」


「回復薬飲んだら……なんか体が熱いんだが!」


「効いてる証拠だ」


「熱すぎるんだよ!」


 別の冒険者も騒ぎ始める。


「こっちは逆に寒いぞ!?」


「俺はなんか力がめちゃくちゃ出る!」


「俺は眠くなってきた……」


 広場がざわつく。


 リオが顔を引きつらせた。


「……全部違う症状出てません?」


「個性豊かだな」


「そういう問題じゃないです!」


 セリアは真っ青になっていた。


「や、やっぱりまだ安定してなくて……!」


「いやあ、面白いな」


「面白くないですって!」


 さらに――


 ドンッ、と大きな音が響いた。


 振り向くと、一人の冒険者が地面を踏み砕いていた。


「うおおおお!? なんか力が……止まらねえ!」


「暴走してますよ!?」


 ガルドは腕を組んで眺める。


「ほう、これは当たりだな」


「当たりじゃないです!」


 次の瞬間、その冒険者が突進してきた。


「危ない!」


 リオが剣を抜く。


 だが――


「まあ待て」


 ガルドが前に出る。


 軽く一歩。


 それだけで、間合いを支配する。


 冒険者の動きが見えている。


「ほら、落ち着け」


 肩に手を置く。


 それだけで、力が抜けた。


「……あれ?」


「効きすぎただけだ。しばらくすりゃ戻る」


「ほ、本当か……?」


「たぶんな」


「また“たぶん”!?」


 周囲の混乱は続く。


 熱い、寒い、眠い、元気すぎる。


 完全にカオスだった。


 そして――


「ガルドさーん!!」


 怒声が響いた。


 ミレナだった。


「何やってるんですかああああ!!」


「商売だ」


「大惨事じゃないですか!!」



 結局、その日の騒動は――


 ギルド総出での対応となった。


 セリアが必死に治療し、

 リオが暴走した冒険者を抑え、

 ミレナが頭を抱え、

 ガルドはというと――


「いやあ、いいデータが取れたな」


「反省してください!!」



 夜。


 酒場の席。


「……で、結局儲かったんですか」


 リオが呆れた声で聞く。


「一応な」


 ガルドは袋を振る。


 中にはそこそこの金が入っていた。


「でもほとんど賠償に消えましたよね?」


「まあな」


「意味ないじゃないですか」


「経験はプライスレスだ」


「その言葉便利ですね」


 セリアはしょんぼりしていた。


「ごめんなさい……私のせいで……」


「気にすんな」


 ガルドが軽く言う。


「面白かったし」


「だから面白くないですって!」


 ミレナが机を叩く。


「次やったら出禁にしますからね!」


「それは困るな」


「困ってください!」


 騒がしい夜。


 だが――


 リオはふと思う。


(……でも、悪くない)


 めちゃくちゃだ。


 無茶苦茶で、危険で、常識外れ。


 でも――


「なあリオ」


「なんですか」


「次はもうちょい改良するぞ」


「やめてください」


「今度は爆発しないやつ」


「爆発する可能性あったんですか!?」


 笑い声が響く。


 くだらない、どうしようもない日常。


 けれどその中に――


 確かに“強さ”と“何か”がある。


 それをまだ、リオは言葉にできない。



 楽に稼ぐ方法というのは、この世にいくつも存在する。


 だが――


 本当に価値があるのは、たぶんそういうものじゃない。


 ……たぶん。


 少なくとも、この男のやり方ではない。



 そして翌日。


「ガルドさん、借金増えてますからね」


「なんでだよ」


「片付け費用です!」


「理不尽だ!」


「理不尽なのはあなたです!」


 平和で、騒がしくて、どうしようもない日常は――


 今日も続いていく。

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