第5話 渦の先は……
黒い渦を抜けるとそこは島国だった。
自分でも何を言っているか分からない。
側にはラジエルが浮いている。
「凄い眺めだなぁ」
「にゃん」
俺達が渦から出た場所は島の景色を一望出来る丘の上だった。
足元は丈の短い草や花で覆われた草原で、少し離れた所に椰子の木が何本か生えている。
遠くに森や湖が見えたり、海岸線には砂浜や入り江があったり。
とにかく島の中心地に出てきたのは間違いない。
ふっと穏やかな風が俺達を撫でていった。
「ここが異界かぁ。海の向こうはあるのかな?」
水平線までずっと海で他の島影は見えない。
仮に見える範囲だけの世界でも相当広い。
「クラスⅤって実は凄いのかも」
錆びて使えない剣がクラスⅠで、鑑定玉や星界の鍵はクラスⅤだった。
クラスが高い程レア度も高いのなら、クラスⅤはかなりレアなのかもしれない。
「にゃーん」
考え事をしていると、ラジエルの声が少し離れた場所から聞こえてきた。
視線を向けると近くの椰子の木から実を落とそうとしているようだ。
テシテシッ、ポトッ
猫パンチが上手く決まったようで、俺が到着する頃には緑色の椰子の実が地面に落ちていた。
「あ、食料だ」
色んな事が起こりすぎて忘れてたが、まだ食糧問題も解決していない。
口にしたのは川の水だけだから、生きていくためにも何か食べられる物を見つけないと。
「にゃ」
ラジエルは落ちた椰子の実を前足でコロコロと転がしてくる。
俺はラジエルの側にしゃがむと手を脇の下に差し入れそのまま抱き上げた。
「ありがとなラジエル」
「にゃん」
ラジエルはそれほどでもないと言うように一鳴きして瞼を閉じる。
「そういえばラジエルとは意思の疎通が取れてる気がするんだよな……」
それは自分のスキルだからか、それともラジエルの頭がいいからか。
「もしくはどっちもだな」
正直、お互いの気持ちが分かるのは助かる。
「さて、どうしよう」
既に入り口の渦は消えている。
外に出るならまた鍵を使わないといけない。
でもしばらくここから動きたくない。
草原に腰を下ろしラジエルを撫でつつ、とりあえず側にある椰子の実をどう食べるか考える事にした。
♢
この世界にも昼夜の概念があるらしい。
遠く水平線に太陽が沈みかけている。
「ふぅ、色々あったな」
「にゃん」
丘の上のからその様子を眺めていた俺達は視線を葉っぱの上へ向ける。
そこには色とりどりの実が載っていた。
まだ一部しか探索していないのに食べられそうな物がすでに見つかっている。
ちなみに椰子の実は割る方法がないからどうしようもない。
一応、葉っぱの横には置かれている。
「さ、鑑定鑑定っと」
俺は鞄から鑑定玉を取り出すと収穫物を見ていく。
《異界の赤林檎》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る赤色の林檎。甘くて美味しい。
これを森の中で見つけた瞬間、俺達はとても喜んだ。
今日の食事は川の水だけだったんだ。
同じ状況なら誰だってそうなるはずだ。
急いで収穫すると一緒に分け合って食べた。
鑑定通り甘くて美味しかった。
「次」
《異界の白葡萄》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る白色の葡萄。甘くて美味しい。
これは皮が上手く剥けずにそのまま食べた。
皮の食感も込みで美味しかった。
種がなくて食べやすいのもいい。
「次」
《異界の黄梨》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る黄色の梨。甘くて美味しい。
これはリンゴとは違った独特の食感があった。
サクサクしていて歯切れがいい感じだ。
溢れる果汁はさらっとしていて、すぐにもう一口食べたくなる美味さがある。
「最後は」
《異界の椰子の実》クラス:Ⅰ 品質:優
・異界で採取出来る椰子の実。中には液体と白い固形部分があり、液体は仄かな甘味がある。
採りながら食べていた他の果物とは違い、これについては割ったり皮をむいたりが難しくて手は出せてない。
それぞれの実は俺が知っている地球の物と見た目はあまり変わらない。
ただ、俺が食べた事のあるそれよりも美味しいと思った。
空腹だからというよりは品質がいいのもあると思う。
鑑定した全てが優だったからな。
「食料があるならどうにかなる」
まだ果物に関しては森の中にはたくさん実っていたし、他の場所にも別の何かがある気がする。
それに襲ってくるような動物や飛んで来る虫がいないのもいい。
今の所この異界での生活は外よりも安全だ。
「調理した物も食べたいけども……」
道具も火もない現状ではどうしようもない。
食べられる物があるだけマシだと思おう。
「にゃにゃ」
「ん?」
いつの間にか側から離れていたラジエルがコロコロと目の前に何かを転がしてきた。
「何それ」
そんなもの見つけた記憶ないんですが……。
転がってきた金色の丸い何かは夕陽を浴びて一際輝いている。
「鑑定」
《異界の金林檎》クラス:Ⅲ 品質:優
・異界で稀に採取出来る金色の林檎。味は特にない。食べる事でクラスⅢ相当のスキルを得られる。
「……」
「にゃん」
「……そうだね、ありがとうだね」
どうにか自力で宇宙猫状態を解除すると、ラジエルを胡座の中に招き入れた。
そして鑑定玉を握っていない方の手でそっと撫でる。
己の仕事を全うしたラジエルは丸くなって寝始めた。
手から伝わる体温と周囲に漂う爽やかな香りを感じながら。
「……」
俺は金色のそれから全力で目をそらすのだった――。




